アトラスお姉ちゃんの日々   作:メリルメリルメリル

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お下品ですわよ

 

 遊星がサテライトへ戻った。

 

「セイラさんは本当に遊星と一緒に行かなくて良かったの?」

「あの子は強いから。遊星に話した通り龍可ちゃんと龍亜君が心配だからさ。

 大丈夫。私が2人を守る。2人とも、手出して。指切りしよ?」

 

 そう約束した。

 

 遊星が珍しく私にも報告してくれた内容。

 ダークシグナーと呼ばれる存在との戦い、そのデュエルでのダメージは現実の物となる。

 黒薔薇の魔女と同じようだけれど、その衝撃は魔女ちゃんのよりも強いらしい。

 その驚異からこの子達を守ると約束し共に過ごすことになった。

 

 けれど、ただの人間である私は無力で……

 

「う、うぅ……」

「龍可!そのアザ!?」

「龍可ちゃん!」

 

 咄嗟に龍可ちゃんのアザに触れた。

 その瞬間。私の腰、3つあるデッキケース。

 本人は見つからず、唯一見つけてあげられて取り返す事のできた鬼柳のデッキから背筋が凍るような恐ろしい気配を感じた。

 

 そしてその光景を見ることになる。

 

『なに……これ………?』

 

 紫色の炎の壁で作られた巨大な地上絵。

 

『遊星!……鬼柳?』

 

 私の体が半透明で透け、とても高い空中からその光景を見届けた。

 あまりにも巨大な巨人を神と呼ぶ鬼柳。そして遊星は……

 

「…イラさん!セイラさん!」

「セイラねーちゃん!」

「っ!?………龍可ちゃん?龍亜君?」

 

 龍可ちゃんのアザに触れた途端糸が切れたかのように崩れて動かなくなったんだと2人が心配してくれる。

 

「ゴメンね。心配かけて。大丈夫、私が絶対に2人を守り通してみせるから」

 

 あの光景を見て感じた確かな恐怖を誤魔化すように2人を痛く感じない程度に強く抱きしめた。

 

 


 

 

 約束したんだ。誓ったんだ。

 

『お母様!お父様!』

 

 今度こそ守り通す。今度こそ失わない。

 

 あの日、亡き両親と、満月の夜空に走った1筋の流れ星に誓った。

 

 けれどそれは守れなかった。

 

 だから、今度こそ守る。

 

『鬼柳は!?』

『……ゴメンね、コレしか見つけられなかった』

 

 いったい私は何度失ってきた?

 

『お父様、お母様……ジャックにはもう、セイラは必要無いようです………』

 

 私はその痛みを十分すぎるほど知っているでしょう?

 

「馬鹿な!催眠ガスを吸っている筈なのに何故動け……ッ!?」

 

 あの死んでしまいたいと思うほどの痛みに比べれば、こんな痛みは痛みに入らない。

 

「じ、自分の左手を潰すだと!?」

 

 ディヴァイン。 確かそんな名前だった。

 

 その男がカードを前に突き出すと炎の球体が出現する。

 

「どうだ!コレこそがゴフッ」

 

 直撃は回避した。

 

 それでも私の肌が焼ける。

 

 煙で視界が悪いが関係無い。声で身動きしていない事が丸わかりな間抜けの腹へとデュエルディスクを使用した重い一撃を叩き込み、そのまま吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばすのではなく引き倒すべきだった。

 

「おえ、おげえぇ!……チィ!」

 

 懐にしまっていたリモコンを取り出し押すと扉が閉まる。

 吹き飛ばした方向が扉の外だったために閉じ込められた。

 

「はっ、はっ、クソ!野蛮人め!今度こそガスで完全に眠るまで……!?」

 

 殴る。デュエルディスクを打ち付けるようにして殴り続ける。

 

 1回、5回……

 

「は、はははは!無駄だ!この扉は特殊合金でできている!

 とんでもない怪力だったがいくらお前でも……」

 

 10回目、目に見えて扉がヘコんでいる。

 殴り続ければ確実に開く。

 

「ば……バケモノめ!!!」

「ディヴァイン様!」

「お前達はここで扉を見張っておけ!出てきたら足止めをしろ!」

 

 扉を壊し、廊下にいた奴らをぶちのめし、携帯電話を確認する。

 

 電、波が…………………………………

 

 骨が折れる音が廊下に響く。

 

 指を本来曲がらない方向へねじり意識を失うのを阻止し電話をかける。

 

『はいよ、こちら牛尾です』

「牛尾さん……おねがい、します………助けて、この子達、だけでも………」

『お、おい!どうしたいきなり!?』

「場所は………」

 

 場所を伝え、電話を切らず龍可ちゃんは背中に、龍亜君は右手で脇に抱える形にして階段で降りていく。

 

 途中、たぶん私は、初めて人を殺したのかも知れない。

 

 手加減をできる余裕なんて何処にも無い。

 

 生きているかの確認をする暇も。

 

 階段で取り押さえようとしたヤツを回し蹴りで顎を蹴り抜き、階段を転げ落ちたのを覚えているがどうなったかは知らない。

 

「ははは!良くぞここまでと褒めてあげたいところだが、それもここまでだ!」

 

 ある程度階段を降りたところでディヴァインが何十人も連れて道を塞ぐ。

 

「ここから先は……なにっ!?」

 

 けど、最初から1階の出入り口に向かってたんじゃ無い。

 

 

 高度を低くする事が目的。

 

 

「馬鹿な!?ここは7階だぞ!?」

 

 

 ガラスを突き破り飛び降りた。

 

 

 そして、目的の場所。

 

 

 そこに確かに、助けを求めた人が居た。

 

「お願い……」

 

 言葉を言い切る前に落ち、沈んでいく。

 

 飛び降りた先は公園の池。

 常日頃建物に入る前にはその周囲がどうなっているか確認する癖が付いていたおかげで助かった。

 サテライトのデッドだろうが1人で生き抜くことができるまで培った経験が生きた。

 

「おい!大丈夫か!?」

「カハッ、ケホ……おねがい……私は置いて良い。この子、達を、どうか………」

 

 池に飛び込み私ごと2人を引き上げてくれた。

 

 でも、もう良い。

 

 このままでは奴らが来る。

 

 だから彼が乗ってきたであろうD-ホイールを指さし、逃げるよう伝える。

 

 正直、もう意識が朦朧としていて牛尾さんが何を言っているかわからない。

 それでも私を置いていくか悩んでいるようだったので逃げるように伝えた。

 

 信頼できるセキュリティの格好いいヒーローが2人を乗せて走り出す様子を見て、心の底から安堵し意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

【見事…】

 

 

 

 

 

 

 

 声がした。 どこか遠くから。

 

 

 周囲が騒がしい、しかし

 

 

「なんだ、コイツは……本当にバケモノなのか?」

 

 

 ディヴァインの恐怖に震えるその声だけはハッキリと聞き取ることができた。

 ざまーみろ。

 

 

 


 

 

 

 私の体が半透明に透けている。

 

 

 真っ黒で何も無い空間を漂っている。

 

 

「あ?テメーは……」

 

 

 そこに、鬼柳がいた。

 

 あの頃と大分変わってしまっていたが間違いなく鬼柳だ。

 

「………!」

 

 鬼柳と彼の名を叫んだ。 けれど声が出なかった。

 

「なんでテメーが……」

 

 声が出せないのなら、したいことだけする。

 

 ここがどこか、何で鬼柳がいるかなんてどうでも良い。

 

 腰のデッキケースの1つを外し鬼柳に押しつける。

 

「デッキ?……なっ!?俺のデッキだと!?

 なんでテメーが俺の……デッキを……………」

 

 頭を下げる。ずっと謝りたかった。

 

 力があるのに、鬼柳という恩人に何もしてあげられなかった。

 見つけてあげられなかったことを。

 

「俺は……遊星をぶっ潰すぞ?」

「構わない」

 

 どういう訳か、声が出た。

 謝罪の言葉は出そうとしても一向に出せなかったのに。

 

 けれど関係無い。

 

「あの日何があったか遊星達は教えてくれないけれど、関係無い。

 方向性に違いはあろうと私達はデュエリスト。

 なら、デュエルの中で答えを出すしか無い。

 そのデッキ、確かに返したよ。だからその中の使える物全部使って全力で遊星と戦いなさい」

 

 フォーチュンカップでのジャックと遊星と同じ。

 デュエルで全てを出し切って初めて解決へ向かう事もあるから。

 

「……さっき、構わないって言ったけど言葉が正しくなかったわね。

 できるものならしてみなさい。遊星は強いわよ?」

 

 

 


 

 

 目が覚める。

 

「……手が」

 

 どういう訳かわからないが修復不可能と思えるくらいグチャグチャにしたはずの左手が綺麗な状態に治っていた。

 

 真っ先に気が付いたのは一番重症だった左手だったけれど、それだけじゃなかった。

 全身に負ったはずの火傷が無い。

 頭の中が疑問で埋め尽くされて数秒間何も考えられずにいた。

 

「…………何でデュエルディスクを取り上げてないんだろ?」

 

 今いる部屋は牢屋としか言いようがない。

 その部屋で壁に取り付けられた手錠を付けられていて、丁度私の頭上で両手首が合わさるように固定されている状況。

 いや、確かに牢屋かもしれないけどいつの時代の造りなのよ?

 

 まさかディヴァインの趣味?

 

 ………なんか、あの感じじゃDV感強そうだしそれっぽい気がしてきた。

 

 しかし本当に何で手錠を付けた時にデュエルディスクを取り上げなかったのだろう?

 確かにこの拘束のされ方じゃデッキからカードを抜く事が出来ないけれど……

 

「まあ、無くても脱出はできたけど」

 

 たぶんディヴァインが付けたであろう手錠の鎖をカードで切り裂き拘束を解く。

 現状私はサテライトのキャバクラモドキの店内警備のバイト時に着用していたドレスを着ている訳で、この衣装の一部として手袋がある。

 

 その手袋を破り中に仕込んだ《折れ竹光》のカードで切り裂いた。

 

「ふぅー……ん?」

 

 違和感を感じ3つ目のデッキケースに手を伸ばし、触れた時点で違和感が確信に変わる。

 

 というかデッキも没収してないじゃん。何考えてるの?

 

「…………夢じゃ無かった?」

 

 夢の中でデッキケースごと渡した筈なのに鬼柳のデッキだけが無くなっていて、何故か空のデッキケースだけがそこにあった。

 

「お腹すいた……」

 

 誰も居ない部屋だけれどお腹が鳴ればそれなりに恥ずかしいモノで羞恥心を誤魔化すようにそう呟いた。

 

 ただ、この感じ的にたぶん丸一日飲まず食わずで寝ていたのかもしれない。

 なら先ずは水分補給からだね。いきなり重いモノ食べるとゲロゲロ吐いちゃうかもしれない。

 

「よし……ハァーッ!!!

 

 大声を上げて貯まりに貯まったイロイロを撒き散らすように扉を粉砕する。

 

 デュエリストの魂が宿るデュエルディスクに砕けぬ物などほとんど無い!

 

「すぅ~……………あんのヤロォー!絶っっっっ対にぶっ殺してやるッッ!!!

 

 龍可ちゃんも龍亜君も弟達も居ないんだから良いお姉ちゃんであり大人のお手本として振る舞う理由なんて何処にも1ミリも1欠片もゴミ山も中にだってアリはしないじゃんねぇ!?

 

 

 じゃあぶっ殺す!アイツ絶対ぶっ殺す!

 

 

 ふざけんなよ!戦争だ!許せるわけないじゃんよ!

 アイツの自室にRPGぶち込んでやらあ!!!

 

 

「じょ、嬢ちゃん。ここ、開けてくれ」

「すまん、頼むセイラ」

「アレ?氷室さんと矢薙のお爺ちゃん?」

 

 行動に移してすぐ声をかけられ振り向けば人数の関係で見捨てた2人の姿があった。

 

 そりゃ普通に考えたらいるよね。

 やば……私もしかしなくても冷静じゃなかった。

 まあ冷静でいる必要が欠片もなかったからなんだけど、そんな事より………

 

「……今の聞いてた?」

「ま、まあアレだけ大きな声で叫べばな」

「監視がビビって逃げてったのじゃが……お嬢ちゃん、随分と暴れたようじゃの〜………」

「まだ!まだこれから!これから暴れるからまだそんなに暴れてないから!

 龍可ちゃん龍亜君逃がすのに何人かぶっ殺しただけだもん!!!」

「なにィッ!?逃がせたのか!?あの状況からぁ!?」

「当〜然!なんせ私はお姉ちゃんなんだから!!!」

「………滅茶苦茶頼もしい姉だな。そりゃ遊星が信頼して見捨てる訳だわ」

「あぁ、うん。あの子それよくやるけど地味に傷つくのよね……いや嬉しいんだよ?信頼してくれてさ………」

 

 そんな軽口を叩きながら2人を救出し、最低限のモラルは守る必要が出たのでぶっ殺すのは止めといてあげる。

 

 命拾いしたなクソが。

 

 


 

 

 2人を回収したので窃盗から放火まで、どうやって報復してやろうか考えていた内容の9割方封殺されてしまった。

 おのれディヴァイン。これも奴の策略か。私を縛るつもりだな?

 恐ろしい程に効果覿面だねクソがよぉ……

 

 仕方ないので視界に入った相手は片っ端からぶっ潰す事にし闇雲に上の階へと進んでいる時だった。

 

 魔女ちゃんがデュエルをしていた。

 

「えっ!?あの人は!!!」

 

 デュエルの相手はなんと雑誌で何度も見た事のある私にとって完全に天の上の人であるミスティ・ローラだった。

 

 私が過剰に反応した結果魔女ちゃんがチラリとコチラを見て、興味を失ったかのようにデュエルに戻った。

 その瞬間、物凄い勢いで私の顔に振り向き直して顔色を悪くした。

 

 なんでよ。私魔女ちゃんには何もヒドイ事してないじゃんか。

 

 


 

 

 ディヴァインの事は後回しにして魔女ちゃんと、まさかミスティ・ローラが噂のダークシグナーだったらしくて、とりあえずデュエルの様子次第で助けるなりしようと見に回っていたら異変が起きた。

 

「………なっ!?飛んだ!?」

 

 すぐ近くに気絶させた警備員がいたのだけれど、その警備員が紫色に発光したと思ったら光の玉になって上へ飛んでいった。

 

「何だコレは!?」

「か、体が」

 

 続いて氷室さんと矢薙のお爺ちゃんが、そして私の体が光り出す。

 

 その瞬間。私の背後、私の付けているデッキケースから黒いオーラが吹き、空中に魔法陣を形成していく。

 

「伏せて!」

 

 その魔法陣から巨大な黒い腕が出現し、手が開かれ私達を鷲掴みしようとのびてくる。

 

「このッ!うひゃあっ!?」

 

 当然抗おうと指を狙いデュエルディスクを叩き込んだ。

 だがあまりにも手応えが異質で、ブヨブヨとしてるようでありながらどんな岩石よりも硬いと思わせるソレに弾かれ、勢いで尻餅をつきそうになったところを氷室さんに支えられる始末だ。

 

「ごめん、重要な時に役に立てなくて」

「いや、セイラは出来る事全てやっていた。むしろ俺達が……うん?」

 

 私達を覆うように包み込んだ手が魔法陣へと戻っていき消える。

 

「何だったんだ?」

「あれ?光が収まった?」

 

 そこでようやく気が付く。自分の体が発していた謎の光が消滅していることに。

 その事に安堵するも事態はめまぐるしく動く。

 

「おいおい、こりゃ本気で崩れるんじゃ!?」

「うわあああああああああ!!!」

「ディヴァイン!?」

 

 おっと、ディヴァインが落下していく姿に思わず笑顔で中指立ててしまった。

 正直スカッとしたけど人として完全にアウトだよ。

 

 しかも魔女ちゃんの様子を見るに何か強い関係があるっぽいし、お下品極まりなく悪い大人過ぎて悪影響だからちゃんとお姉ちゃんに戻らないと。

 

 …って!?魔女ちゃんこのままじゃ本当に不味くない!?

 

「2人は逃げて!私は魔女ちゃんを助ける!」

「おい!そんな状況じゃ無いだろ!?」

「私なら大丈夫だから!必ず追い掛ける!先に行って!」

 

 


 

 

 D-ホイールの音がする。

 

コッチだよ!人が倒れてる!手伝って!

 

 何処の誰かは知らないけれどD-ホイールで階段を上がるなんて無茶をしてまで助けに来ようとしている人が2人もいるのだと察して大声で場所を知らせて簡潔に状況を伝える。

 

 本当は1人で魔女ちゃん抱えて脱出する気満々だったのだけれど、魔女ちゃん身長大きすぎるのと、その、胸がね、魔女ちゃん胸が大きすぎておんぶが上手くできなくて手こずっていたところで本当に助かった。

 弟達だったら身長差あっても慣れてるからスムーズにおんぶできたけど女の子は違うね。

 私も女だけどどうして魔女ちゃんとこんなに差があるんだろ?

 遺伝と成長期に十分な栄養が取れなかった現実はやっぱり大きいね。

 

「セイラ!そこに居るのか!」

「大丈夫か!助けに来たぞ!」

「えっ!?ジャック!?牛尾さんも!?」

 

 救出に来てくれたのはまさかのジャックと牛尾さんだった。

 ジャックは入り口付近にいた牛尾さん龍可ちゃん龍亜君、そして先に脱出した氷室さんと矢薙のお爺ちゃんの5人の集まりに事情を聞き、セキュリティへ応援を手配し終えた牛尾さんと一緒に突入してきたようだ。

 

 そして……

 

「カーリー!いるのか、カーリィー!!」

 

 どうやら私の知らないところで弟に彼女ができていたみたい。

 あきらかに女性の名前、顔見知りや知り合い程度じゃ説明できない必死の形相。彼女ができたんだね。

 なんて流石にもう限界も限界という感じの崩れ方してきたビル内で馬鹿みたいにのんきな事を一瞬思ってしまった思考を振り払う。

 

 ジャックもこれ以上は無理だと判断したのか「クソ!」と悪態をつきD-ホイールの方へ戻り、私は牛尾さんの後ろに乗せてもらい外傷は無いけれど何故か目覚めない魔女ちゃんを大事に抱えて脱出した。

 

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