アトラスお姉ちゃんの日々   作:メリルメリルメリル

22 / 33
愛情

 

 ダークシグナーとの闘いは苛烈を極めた。

 

 初手の罠によりマーサやラリーといった多くの仲間達が消えてしまった。

 

 そのショックが余りにも大きく、地縛神さえ倒せば消えた人達は戻って来るなどというあまりにも希望的すぎる事実を遊星が言い出した。

 私もその発言に同意した。そもそも私が先に伝えようとした内容を言い出した事に驚いたよ。

 その発言が、夢の中ではなく現実で鬼柳と出会い私の中にあった地縛神との繋がりが強くなる事でうっすらと聞き取れていた地縛神の声がハッキリと聞き取れるようになり、地縛神が私に語りかけてきた内容と同じなのだから尚更だ。

 

 私は全てのダークシグナーの戦いを見た。

 

 見た。というよりも巨人の地縛神の謎の力で無理矢理見せられていたと言う方が正しいか。

 

 そして、遊星のお父さん。不動博士の死に様を見た。

 

 私はてっきり、遊星のお父さんはギリギリになって研究の危険性を理解したが欲に目がくらんだ奴らに破棄を阻止され強行した結果がモーメントの暴走なのだと思っていた。

 スターダストやレッドデーモンズはせいぜい起動キー程度の立ち位置だったのだと勝手に解釈していた。

 

(封印?……資料の破棄は?)

 

 たぶん、科学者の性だったのだろう。

 資料の破棄や部品を取り外す事により機会そのものを使用不可にする等、まともな教育機関に通っていない馬鹿な私にも浮かぶ発想そのものが価値の高さを正確に理解できてしまうからこそ抜け落ちてしまっていたのだろう。

 

「俺はどうしたらいい!?

 あいつらに!どうやって償えばいいんだ!?」

 

 不動博士とそっくりな顔をした男が何かを叫んでいる。

 

 私よりもずっと頭が良いのに、自分のことすらまともにしようとしない不動遊星が。

 

(あぁ……散々しつけようとしたのに全く直そうとすらしないんだもん。

 子供がこうなら、親だってそうだったんだろうな…………)

 

 愛情が裏返った

 

 殺してしまいたいほどに

 

 


 

 

 ジャックとクロウが決戦で負傷した事からすぐに医者も手配できるマーサハウスを中間地点とするため戻ってきた。

 

「勝った……俺達は勝てたんだな………」

 

 元に戻ったマーサ達の出迎えを受けて遊星が呟く。

 

 しかし………

 

「まだだよ」

 

 突如、邪悪なる暴風が吹き荒れ遊星達を襲う。

 

「何だ!?」

「まだ闘いは終わっていない」

「くう……なぜ、セイラ!何故お前が!?」

 

 暴風の発生源はセイラ・アトラスの突き出す手。

 彼女が全身から発する邪悪なるオーラが集約し暴風という破壊力へと変換されシグナー達へ襲いかかる。

 

「何故?見てわからない?

 この私、セイラ・アトラスこそが正真正銘最後のダークシグナーだからよ」

「なっ………何ぃ!?嘘だろ!?じゃあずっと俺達を騙してたってのか!?」

「その通り!全ては不確定要素であったシグナーの実力を知るためでありそれも全て見切った!

 シグナー陣営最強格であり脅威なのはジャック!クロウ!

 そして遊星!

 この3人で依然変わり無く、私はその全てを知り尽くしている!

 知り尽くした上でシグナーを蹂躙し尽くす!」

 

 龍可、龍亜、アキの表情が抜け落ちていき絶望のモノへとゆっくりと変わっていく。

 

 しかしセイラの弟達は違う。

 シグナーの証が輝き赤き龍の力によりバリアが張られ暴風を防ぎ新たなダークシグナーへ立ち向かう。

 

「何を言う!知っているのは俺達も同じだ!

 貴様のことなど知り尽くしているぞ!セイラ!」

「……ふふ、アッハハハハハハハハハ!!!」

 

 笑い声が止まるのと同時に暴風が止む。

 セイラが己の腕に装着したデュエルディスクからデッキを抜き取り見せ付ける。

 

「何がおかしい!?」

「まさか……こんな残りカスみたいなデッキを使うとでも本気で思っているの?」

「どういう意味だ!?」

「鬼柳が使っていたインフェルニティデッキ。

 鬼柳は己の命よりも大切なデッキを奪われ何も無い状態からどうやってあのデッキを?

 答えは簡単、それも地縛神の力の一部だったという事よ!」

「なっ!?」

 

 デッキを捨てた。

 

 真上へと放り投げられたカードはまるで桜の花弁のように舞い散り、輝き出す。

 

「何だ……何が起きている」

「ダークシグナーの放つ光りと違う?」

「ね、ねえこれ。まるでモーメントの光みたいじゃん」

 

 不気味な紫色の輝きを放ち舞うカードだったが、やがて七色に輝き高速で飛び交い光の線がまるで繭のようにセイラの姿を覆い隠す。

 

「ありがとう、《地縛神CcapacApu》……」

 

 やがて全てのカードがセイラの手へと収まる。

 

 そのセイラの瞳は正しくダークシグナー特有のものへと変わり、漆黒のドレスを身に纏っていた。

 

「これこそが私の最強デッキ。

 知り尽くしている……だっけ?

 いったい、私の何を知っているというのかしら?」

「ぐぅ……」

「ねえあれって……色は違うけど写真に写ってたセイラさんのお母さんが着てたドレスと同じじゃ…………」

「よく覚えていたわね」

 

 その事に気付いた龍可が震える声で指摘し、その指摘が嬉しかったのかセイラはダークシグナーとは思えないほど柔らかな笑みで応える。

 

 くるり、くるりと自分のドレスを見せ付ける姿はとても幸せそうで、この緊迫した状況に対しての浮つき過ぎた態度は不気味さすら感じられた。

 

「ふふ、どう?似合っているでしょう?

 ………え、龍可ちゃん?」

「ひ……ひっく………やだ、やだよぉ………セイラさん、嘘だぁ………」

「………な、な〜んちゃって☆」

 

 戯けた口調で、自分の頬に指を当てる仕草をとる。

 自分には似合わないと思いながらもその方が良い印象を与えられるからと日常的に取り入れている仕草。

 

 その仕草をしたセイラの姿が掻き消え、次の瞬間には龍可の目の前に現れる。

 

「ひく……セイラさん?」

「うん。セイラさんだよ。……うん、ゴメンね。ちょっと必死になり過ぎていてお姉ちゃん、龍可ちゃん達にまで配慮ができてなかったよ」

 

 その場にしゃがみ、龍可を怖がらせないよう見上げるようにして語りかけ、流れる涙をハンカチで取る姿は優しさで溢れている。

 

 龍可にとってのセイラは姉のような存在であり、何よりも頼りになる大人だ。

 このダークシグナーとの戦いでセイラは何度も龍可と龍亜の2人を守ってみせ、自分とそれほど変わらない小さな背丈だというのにとても大きく見えた。

 その信頼は何か事態の変化が起こる度に真っ先にセイラの側に寄る程だ。

 

 そんな龍可の目に映るのは、困ったような優しい笑顔で自分を気遣う、自分が大好きになったセイラと何も変わらない。

 

 その目が、ダークシグナーなのだと証明している事を除いては……

 

「まったく。あんたら普段からもっと姉の事を良く見てやりなよ」

「マーサ!?」

「どういう事だ!?」

「どうも何も、思ってもない事を言う時に出る癖が出ていたからね」

「え?初耳なんだけど?」

 

 ダークシグナーである筈なのにそのやり取りは完全にいつも通りであり、マーサはその態度に呆れたと大きな溜め息をついた。

 

「アンタ。他人の事を見抜くの得意だけど、日常生活での自分の癖は見落としがちだからね」

「セイラの癖って?」

「この子、嘘を付く時に自分の髪を触る癖があるんだよ」

「あっ……」

「その様子じゃ気付いてなかったようだねぇ……」

 

 指摘されて初めて気づき、思わずといった様子で自分の髪先を摘む。

 そして、この人に隠し事が通じない訳だと思わず苦笑してしまう。

 

 苦笑して、次に決意を込めた瞳でマーサを捕らえる。

 

「マーサ。悪いけど私は遊星と本気で喧嘩をする。迷惑かけるけど、邪魔をしないで」

「本気になったアンタを止められる奴がいると思ってんのかい?」

「ならいい。とにかく派手に暴れる。全てをぶつける」

「ま、待ってくれ!どうして俺とセイラが戦うことになっている!?」

「そうだよセイラねーちゃん!」

「それは遊星が不動遊星だからよ」

「俺が、不動遊星だから………?」

 

 困惑する遊星。その困惑などお構い無しに遊星へ近付いていくセイラ。

 

「待ちやがれ!遊星に近づくんじゃ………」

 

 クロウが負傷の痛みに耐えながら間に入り立ち塞がる。

 

 そんなクロウの顔を両手で優しく掴み、包み込むように耳元の方へと口を近付け……

 

 キスをした。

 

「は、ハァッ!?ななな!なにしやがるんだ!?!?」

 

 キスをされた頬を押さえて大きく後退りをする。

 

 遊星も何が起きたか処理しきれず唖然とクロウの姿を目で追い、そんな隙だらけの頬へ同じようにキスをされる。

 

「セイラさん!?」

「うわぁ……セイラ姉さん大胆」

 

 野次馬が好き勝手に口にする。

 しかしセイラは遊星しか眼中に無いといった様子で呆然とする遊星を抱き締める。

 

「好きだよ遊星。大好き。心から愛してる。

 貴方達の為ならお姉ちゃんは何だってしてあげられる」

 

 遊星とセイラ、お互いのアザが強く輝く。

 長きに渡る赤き龍と地縛神との戦いにおいてこの2つの模様がこんなにも近くで輝き合う事は例が無いだろう。

 

「………もちろん。家族として、弟としてって意味ね」

 

 遊星の体を突き飛ばし照れ笑い、離れた事で互いのアザの輝きも収まる。

 

「けど、あの時確かにこの愛が裏返っちゃったんだ」

「………裏返った?」

「そう。私は地縛神の力によりモーメントの暴走の経緯を実際にこの目で見ることになった。

 ねえ遊星。あの時遊星はどうやって償えばいいんだって言ってたよね?」

「なっ!?それは掘り返すなよ!」

「……クロウも大好きだよ?でもゴメンね。今は大事な話をしてるのよ」

「もがっ」

「クロウ!」

 

 手を持ち上げ指を動かす。

 するとセイラの影が伸び、クロウの背後、伸びた影から紫色の腕が伸びクロウの口を塞ぐ。

 その手は巨人の地縛神の手に非常に酷似している。

 

「それに関して私からの答えはクロウと同じだけど……

 ふふ、時間は余裕あるしここはもっと強く伝えてあげる。

 そうでもしないと遊星は言葉通り素直に受け取らないだろうし」

「………」

「遊星、貴方は何も悪くない。そんな事で責任を感じないで。

 貴方が大好きだから、大好きな分だけ貴方が辛そうだと辛くなる。貴方はこんなにも愛されているのだから、幸せの中で生きて良いの。

 ……貴方ももう18歳で、もう少しで完全に大人になる。

 その僅かな時間だけでも、貴方が幸せに生きられるようお姉ちゃんに守らせて欲しい。

 貴方が自分で道を選んで旅立とうとするのなら。

 ジャックと同じ様に貴方が行く末に幸あれと送り出すから」

 

 ダークシグナーの目でありながら、優しさに溢れた目をしていて、どごまでも真っ直ぐ遊星の目を見て語る。

 その視線に遊星が顔を背ける。

 

「あ、照れてる。可愛い〜」

「それなら、それなら何でアンタがダークシグナーになっているんだ!?

 今まで散々地縛神が世界を滅ぼすためダークシグナー達を利用して何をしてきたか見てきただろ!」

「目的が一致していたからよ」

「目的が一致していた?」

「そう。遊星。残念ながら今までの私じゃ力不足。

 デュエルで遊星の全力を出し尽くさせるなんて事はできやしない。

 けれどそれはデッキパワーが不足しているだけの話。

 だからデッキを生まれ変えさせる必要があった」

「たったそれだけの事でダークシグナーになったというのか!?」

「ふふ、心配してくれてありがとう。でもさっき言ったように利害が一致してるの」

 

 クルクルと、役者にでもなったかのようにセイラは踊り出す。

 

「長い長い地縛神と赤き龍の戦い。

 その戦いの中で地縛神の目標は世界を滅ぼす事、それに間違いはない。

 けれどその戦いは長過ぎた。

 神様の感覚ですら長く感じるその戦いは、神という存在ですら目移りするのに十分過ぎる時間であり、過程が目的となった神がここに一柱」

 

 遊星達に背を向けたセイラが両手を高く上げると同時に世界に光が差し込む。

 

 日の出、太陽が昇った。

 

 それはまるで、セイラが両手で太陽を押し上げたようにも見える光景だった。

 

「遊星。貴方は鬼柳とのデュエルでD-ホイールが故障し中断という形で一度見逃されているわよね?

 一体何故、《地縛神CcapacApu》は鬼柳を洗脳、あるいは乗っ取って遊星を殺そうとしなかったのかしら?」

「っ!?」

「理解できたかしら?世界を滅ぼす事は《地縛神CcapacApu》にとってオマケなの。

 《地縛神CcapacApu》が望む物。それこそが血沸き肉躍る闘争!

 《地縛神CcapacApu》は正統なる決闘を乗っ取り汚すなどという行動をする他の地縛神に酷く落胆していたわよ?」

「…………」

「私が遊星と戦う理由だけど……アナタが不動博士の息子、不動遊星だから。

 地縛神が見せてくれたあの光景、そこにいた不動博士は本当にアナタにそっくりだった。

 顔だけじゃない、良い部分も悪い部分も本当にそっくり。

 不動博士はモーメントの暴走の対策としてスターダストを作成するなんかはしていたけれど、研究者の性でしょうね。設計資料を破棄する。部品を取り外し物理的にすぐには起動できなくするという対策を怠った。

 まともな教育機関に通っていない私ですら思い付く事をしなかった。

 そんな事で、アレだけの大事件が起きてしまった。

 殺したい。何度でも、何度でもぶち殺してやりたい……」

 

 確かな殺意の篭った言葉でありダークシグナーとしての力もあって強いプレッシャーを発している。

 

 だというのにその声色は変わらず柔らかなもので淡々と語り続け、放たれていたプレッシャーがふと消え、震えるような弱々しい声に変わる。

 

「そう思ってしまったところで過去の光景が消えて、遊星、どう償えばいいのかというアナタの叫びが耳に入ったの。

 あの時、あの瞬間だけはね。遊星、アナタのことを殺したいほど憎んでしまったの。大好きな分だけ、全部が一瞬で憎しみに変わって、心がどうにかなっちゃうかと思った。

 けど憎悪は一瞬、今は元の愛情に戻ってクロウと同意見。

 だけどね、私とアナタ達で決定的に違うところがあるの」

「違わない!俺達に違いなんてない!家族だろ!?」

「ありがとう、うれしいな。

 ………けど、私は知っている。もうおぼろげだけど、確かに知っているのよ。

 お父様とお母様の声を、頼もしさを、優しさを、厳しさを、愛を知っているの」

「ッ!?」

「私はね、私がお父様とお母様に愛して貰ったから、愛がどれだけ大切なモノか知っていた。

 けれど弟はそれを知ることができない。

 なら、お父様とお母様が私にくれたモノを弟に、弟達にあげようと決めたの。

 もちろんその中には遊星も入っている」

 

「でも」

 

「それでも」

 

「大切な遊星を殺したいなんて本気で思ってしまったの………そう思ってしまった自分が許せない。

 こんな私が遊星の姉を名乗り今まで通りに戻るなんてできるはずがない」

「戻れる!戻れるはずだ!セイラはここまで一緒に戦ってくれただろ!話し合えば解決できる筈だ!」

 

「……ふ、ふふふ。それ、報告も連絡も相談もしないで何かやっちゃう筆頭の遊星が言っちゃうって何かのギャグ?」

「あ、いや、それは……」

「心当たり有るなら普段から報連相しっかりしなさい。

 ………それで、話し合い? 

 残念ながら理性的な話しは望んでないの。

 感情の話しをしてるのよ、私は」

「感情の……どういう事だ?」

「わからない?いや、私の口から聞きたいだけか」

「………」

 

「遊星。派手にデュエルしましょう。

 地縛神の力も赤き龍の力もその全てを使って派手に殴り合って喧嘩しよう。それで仲直りしよう。

 今ここでそれくらいしなきゃ、私はお姉ちゃんには戻れそうにないんだよ」

 

「………喧嘩か、なら止める理由は無いな」

「だな。やばくなったら止めりゃ良いし」

「ジャック!?クロウ!?」

 

「わかった。そのデュエル、受けて立つ!」

「あは!嬉しいな!姉弟喧嘩なんて10年ぶりじゃん!さあ派手にやろう!」

 

「「デュエル!!!」」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。