日中のパトロール。
普段からしている事ではあるけど、今日は道で出会った顔見知りに何か変わったことが無いかと強めに聞いて回る日だ。
当然世間話のついでって感じにしてね。
なんか最近私が不審者みたいだってクロウに言われたんだけどあの子は本当に何を言ってるんだろう???
近所の子供達は私をセキュリティのお姉ちゃんと呼ぶんだから!(ガチ)
そう呼ばれるようになっちゃったし折角だから有効活用しているけど、それが皆の平和に繋がるなら良いでしょ?
何故呼ばれるようになったかと言えば、近所のおばちゃんが詐欺に合いそうになってたのを助け、ついでに詐欺グループのアジトにカチコミかけて牛尾さんに引き渡した次の日からセキュリティの人と呼ばれるようになって徐々に呼ばれるエリアが広がっていってたんだよね。
念の為に「元だよ〜」「臨時スタッフだよ〜」って感じにセキュリティと呼ばれる度に否定はしてはいるよ。
それでも積み上げた信頼と実績で評判良いし相談をしに来てくれる人も増えてきている。
「セイラねーちゃん!」
「セイラさんこんにちは〜」
パトロールをしていると登下校中の龍亜君と龍可ちゃんが私に気付いてくれて、龍亜君は元気に両手を振って挨拶し駆け寄ってきて、龍可ちゃんは控えめだけど嬉しそうに側に来てくれる。
「2人ともこんにちは〜。後ろの子達はお友達かな?」
2人の後ろには3人の子供がいて天兵君の姿もある。
「ヤッホ。天兵君も久しぶり〜。お姉ちゃんの事覚えてるかな?」
「もちろん!忍術使うお姉さん!」
「どうも〜。初めましてセイラ・アトラスでござるよ〜」
もうけっこう前の話になるのだけど、シティに来て遊星にフォーチュンカップに参加するよう説得した頃に色々あって龍可君と天兵君と出会って黒薔薇の魔女討伐をする事になってね。
見事黒薔薇の魔女を撃破すると、黒薔薇の魔女は自身の魂を生贄にかつて世界を掌握した災厄の魔女をこの世に蘇らせてしまった。
元々黒薔薇の魔女はアキ姫様の魂を生贄に呼び出そうとしていたが私たちが倒してしまったせいで世界が闇で覆われてしまった!
しかし黒薔薇の魔女は確かに打ち倒され封印されていた囚われの光のお姫様たるアキ姫様を救出し、職業勇者の龍亜君天兵君、職業忍者セイラ、職業光のお姫様アキ姫の4人パーティーの力によって星を覆う邪悪なる闇を払い世界に平和が訪れたりしたんだよね(大嘘)
「ジャックも久しぶり」
「ニャック!この子はニャックだよ!」
「え?ニャック?」
「そうニャックなの!……お姉ちゃんさ、弟に物凄い怒られちゃったんだよね…………」
「「あぁ〜……」」
「お姉ちゃんほっぽって家出したからジャックって付けたのに、あんなに怒んなくたって良いと思わない?」
「う〜ん……でも俺も龍可が猫に龍亜って名前付けてたら怒るかも」
そっかぁ、普通はそうなんだ……
ちょっとショック受けつつ認識をアップデートしながら何処か行くのか聞いてみると駄菓子屋さんに行く途中なんだって。
以前魔女騒動の時に食べたお菓子が気に入ったらしくて専門店がないか検索して向かう途中だったんだってさ。
あんなお菓子今まで食べたこと無かったって大金持ちのお坊ちゃまお嬢様は凄いなぁ……
私も駄菓子屋である大竹屋、その店主の大竹のおばちゃんには聞きたい事があったし多少パトロールのルートが変わるけれど一緒に向かう事になった。
さっきチョロッと出た詐欺業者云々の被害者になりそうだったのが大竹おばちゃんでお礼にレジ袋いっぱいのお菓子貰って遊星達と分け合ったりした。
龍亜君達と一緒に移動し店内に入ると大竹おばちゃんの姿が無く、代わりに遊星達より年上、私と同い年か下くらいの青年のお兄さんが店番をしていた。
「あれ?………お兄さんどっかであった事無い?」
「ん?えっと、ナンパ?お姉さん子供が「いや全然違うけど?」来るところで…………そっか」
「ゴメンね。私の勘違いなら良い…………待って、お兄さん絶対どっかであった事ある。それもサテライトで。
今記憶の片隅に引っかかってて気持ち悪い事になってるちょっと待って~」
「サテライトで?………………ッ!?リトッ!?ばあちゃんセキュリティ呼んで早く!!!」
「お、お兄さん落ち着いて。……あっ!雑誌くれるセキュリティのお兄さんでしょ!?」
「ヒィッ!」
ちょっとお!?ヒィ!って何よヒィ!って!?
私とお兄さん普通に雑談するしなんなら雑誌の感想言い合う程度には友達未満だけど普通に仲良かったじゃん!?その反応普通に傷つくってば!?
それにしても、まさかこんな所で再会するとは世間は狭いなぁ……
大竹のおばちゃんが来てお兄さんを落ち着かせてくれてなんとかなった。
おばちゃんは私の事をセキュリティの人と言い出して誤解が加速した場面もあるけど、セキュリティと治安維持局の違いは一般人には分かりにくいから等の補足をし、最終的にイェーガー様もテレビ電話で巻き込んでようやく事態が収拾した。
本当にお忙しい中申し訳有りませんイェーガー様。
もしイェーガー様が独身ならお付き合いしたいくらい素晴らしい上司で涙が出てきそうだよ。
………奥さんいなかったらなぁ〜。
そりゃ〜イェーガー様なんて良い人ほっとく節穴な女だけしかいないなんて都合の良い事まずないよねぇ〜……しかもお子さんそこそこ大きいし。
私も弟自慢して弟バカ要素全開だったのにイェーガー様の息子バカっぷりは私に勝るとも劣らない……
イェーガー様が大物過ぎて男性に求めるハードルが上がっちゃうのをどうにかしないとね~。
「………お茶です、どうぞ」
「ありがとうございます。頂きます」
龍可ちゃん達には長くなるから済んだら気にせず置いてってと伝えてから居間に通され緑茶を出される。
緑茶って子供の頃に飲んで以来苦手だったけど大人になってから飲むと美味しいかも。
「………」
う〜ん……事態は収拾したけど話し合いが必要だと2人っきりにされてしまって気まずいよ〜。助けてジャック〜。
こういう時あの子の空気は読めるけど読んだ上で踏み潰していくスタンスは尊敬できるよね〜。
「お兄さん少し髪伸ばしたんだね。セキュリティの制服じゃなかったのもあって誰だかわからなかったよ。
お兄さん優しそうな雰囲気だしエプロンが似合ってるね」
このお兄さんはサテライトで遊星がシティに飛び出す数ヶ月前くらいから仲良くなった間柄でそれ以前は犯罪者を捕まえる賞金稼ぎと受け取り側っていうビジネス?的なだけの関係だった。
この私、リトルゲヘナちゃんが「この雑誌ちょ~だい♡」と猫なで声で誘惑すれば一撃よ(大嘘)
そっから仲良くなったんたよね。
「そういうリトルゲヘナ「セイラ」は……」
「セイラ・アトラス。セイラって呼んで。よろしくね、優しいお兄さん」
「……大竹ツトムだ」
私が笑顔で手を差し出せば名前を教えてくれながら応じてくれる。
「俺もセイラさんがいつものつなぎ服じゃなくて誰だかわからなかったよ。その……ワンピース?」
「ワンピース……まあ吊りスカートだし確かに似てるか」
私がスカートなのは慣れる為というのと、それだけシティが平和だからだね。
回し蹴りはもちろん踵落としやサマーソルトなんかの技を使うような事態にはならないし、なったとしても使うまでもない事が多くてダークシグナー事件の後始末以降で投げ技意外に使ったものってなると……昇竜拳が最後だね。
「すまない、女性物には疎くて……似合っていますね」
「似合わないって笑ってくれても良いんだよ?」
「いや、それは……」
「ふふ、冗談だってば。ふ、ふふふふ」
私の猫なで声を笑ってくれたの忘れてないぞと釘刺しつつも別に嫌な思い出とは思ってないし、悪ふざけって感じにあの時とは逆に焦るお兄さんを私が笑ってやった。
いやだってさ、半年ちょっと顔合わせてなかっただけでここまでしどろもどろになられちゃうと可愛くてつい笑っちゃうじゃない?私は笑えるよ。
流石にずっとこのままだったら傷つくけど。
「ところで大竹って事はお兄さんはここが実家で休暇中だったりするの?」
「………いや、セキュリティは辞めて駄菓子屋引き継ぐ事にした」
「え?……どうして?セキュリティって安定した職ってイメージだったけれど実は違うとか?」
「…………………笑わないでくれる?」
「内容によるとしか……でも、なるべく努力する」
「そっか………怖いんだ。
何でかわからないけれど、急に怖くてたまらなくなって、デュエルするなんてなったら逃げたくなるんだよ…………それが、本当に何でかわからなくてさ……ただただ怖い………」
「………」
ポツポツと語る内容。
それは要領を追えなくて、幻影か何かを見て錯乱していると言った方がまだ理解できるものだった。
ただ、それが丁度ダークシグナー事件と重なっている事から記憶が消えてしまったからこうなってしまったのだと理解するのは簡単で、とても深く胸に突き刺さる思いだった。
例え記憶が無くなろうとも心の奥底に植え付けられた恐怖は消えないのだと、あの事件が残した爪跡の大きさを改めて理解させられたよ。
「………正直、かなり馬鹿みたいな事を言ってるだろうに笑わないんだな」
「全然笑えないわよ。見えないけど確実に存在する何かに駆り立てられる恐怖を私はよく知っているから。
たぶん、サテライトの住人に笑う奴なんて殆どいないよ。
だってそれはサテライトの住人が常に感じている恐怖に近いもん」
「そうか……強いんだな、サテライトの人達って。こんなに怖いのにあんなに働いて………」
「そうでないと飢えて死ぬしかないから。
そうだと知っていても恐怖で動けなくて飢えて死ぬ人を何人も見たことがあるから、恐怖に負けて動けなくなるのも普通の事なんだと思う。
誰もが生きたいからって犯罪に手を染めてでも……自分のできる全てができる訳じゃないんだよ」
忘れた記憶の中で何があったのかは知らない。
私は間違い無くダークシグナーとの戦いに貢献したから責任を感じる必要は無いけれど、責任とは別に他人事とは全く思えなくて余計なお世話をしないなんてできなくなっていた。
「シティではさ、サテライトと違って逃げ道というか、他の生き方が沢山あって今は駄菓子屋さんをしているんでしょ?
ならそれで良いじゃん。
凄いよお兄さんは。怖くてもここでこうやって働く事ができるなんて尊敬する。
私も一度……たぶん、絶望したんだと思う。
もうさ、何もする気が起こらなくて生きる為の行動もできなくなった時があった」
「あ………そういえば鬱病になったって話。あれは本当だったのか?」
「本当も本当よ。軽度だったからなんとかなったけど自分じゃ用意された水すら飲めないくらいになっちゃってさ〜」
「それは余裕で重度の鬱病なんじゃ???」
あの時はラリー達がいてくれたからギリギリ生きることができたけど、もしも私を見つけてくれるのが2〜3日遅れていたら死んでいたと思う。
「そうなの?でも、私より教養のあるお兄さんが言うのならそうかもね。
そうだ猫。あの子の力もあって鬱病克服したんだ。
お猫様セラピーの効果は本当に凄いよ?
ほらニャック、コッチおいで」
……………………来ないから抱えて持ってきて腹をワチャワチャするもシャーッてしてこない。
まるで借りてきた猫のようだね!
「お兄さんも触ってみる?」
「……では、遠慮無く」
控えめに顎下あたりを触って「おぉ……」と少し表情が明るくなった。
やっぱり凄いねお猫様セラピー。
「……それで、そんな経験をしてきた私だからこそハッキリ言うよ。
生きる為に逃げて足掻こうとする。それだけでも本当に凄い事だよ。
ましてやお兄さんは沢山悩んでさ、その上で選んで決めた事なんでしょ?」
「……そうかな?」
「そうだよ」
「そっか………セイラさん、話を聞いてくれてありがとうございます。
少しだけ、救われた気がします」
「ううん、気にしないで。こういう時はお互い様だよ。
さて、誤解も溶けたしそろそろ帰ろう……の前に、ねえお兄さん。この本お兄さんの?」
「ん?あぁ。その辺の教材は全部学生の頃使ってた物だよ」
「そっか。じゃあこれ借りてくね。絶対に返しに来るから」
性別の差があると気軽に合う事は難しいからね。
当然読むつもりではいるけど言い訳として丁度良さそうだし借りていくことにした。