アトラスお姉ちゃんの日々   作:メリルメリルメリル

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デュエチューブ

 

「こんにちは〜」

「こんにちは〜。ツトムなら自分の部屋にいるから上がりな」

「はい。お邪魔しま~す」

 

 あれから一月程が経過した。

 この一月でツトムとはかなり仲良くなって勉強を教わる関係性を構築していて「何で一回教えただけで応用まで完璧にできるんだよ」とか「天才過ぎて怖い」という評価をもらった私の能力はサテライトだけじゃなくてシティでも上澄みみたいだ。

 

 ただ残念な事に?

 ……いや、良いことなんだけどさ。残念ながら私より遊星の方が天才なんだよね。

 ある程度教わったら纏めて遊星に教えるんだけど何で私が使った時間の半分以下で吸収しちゃうのかな!?

 お姉ちゃん自信なくなっちゃう!!!

 

 ちなみにジャックとクロウも最初は一緒にお勉強をしてくれてたんだけど単純に興味が無くてすぐに止めちゃった。

 正直あのタイミングで止めてくれたから遊星の吸収速度の異常さを理解せずに済んだからある意味良かったよ。

 

「コンコンコーン」

 

 ノックと一緒に擬音を口にする。

 

「…………」

 

 しかし返事がない。

 

 私が勉強教わったりゲームして遊んでるのは大竹のおばちゃんもちゃんと了承しているからスムーズにツトムの部屋をノックしている訳だし下の階で間違い無くツトムはいるって言っていたのを耳にしている。

 この勉強会はツトムのメンタルケアって一面もあってむしろ大竹のおばあちゃんが押してる感じだし居ないということは考えられない。

 

「(……誘拐?いや、流石にシティで誘拐なんてある?

 ………くうぅ~、廊下が綺麗なのは良い事だけど痕跡を探すのが難しくなってるせいで判断に困るよ~。

 窓の鍵は……うん、かかってる。ガラスも切られてないし少なくとも廊下の窓から裏口方面に出た可能性は無い。

 部屋から人の足音は聞こえなかったけれどもう少ししっかりと聞いてから……)」

 

 扉に耳を当てて集中する。

 

「(………何も聞こえない?いや、かすかにだけれど何か音がする?

 まさか縛られて身動きが取れないとか?

 鍵は……かかっていない)」

 

 音に注意しつつ目視でき素早く扉を盾にできる程度に開く。

 

 そこで見たのは、部屋の隅の大きく高級感のある椅子に座り、ワイヤレスイヤホンを付けてモニターを見ているツトムの姿だった。

 

 サテライトの日常が抜けきれていないと自覚し、けれど何よりも安堵の溜息を漏らして室内へ入る。

 

「…………」

 

 無音で侵入してきたとはいえこの至近距離で背後を取れば弟達なら誰でも気付くし裏拳くらいしてくるだろうにスッゴイ度胸。

 まあ単純に気付いてないんだろうけど。

 

「お邪魔しま~す」

 

 一度部屋を出てノックをし直し一声かけてから部屋に入りツトムの左後ろからパソコンの画面を覗く。

 なんか知らない人がコントローラーを触る姿と、たぶんプレイしているゲームの画像なんだと思う。

 なんかよくわからない光の長方形が中々の速さで上から下にいっぱい落ちてきて、下の線のところに触れると消える感じの……格ゲーってヤツは指の動きの正確性が求められるけどそれ以上が世の中にあるとは思わなかった。

 

「うおっ!?」

「な〜に見てるの〜?」

 

 ツトムの右耳からイヤホンを奪う。

 

「おい……勝手に入って………」

「ノックはしたしお邪魔しますって声かけたよ?

 それより良かった。返事が無いからツトムが誘拐されたんじゃって心配したよ」

「は?誘拐?」

「ここはサテライトじゃないってのはわかってるんだけどさ、失う経験ばっかりで大切な人が危険にあってそうな状況になると反射的に警戒しちゃうものだよ?

 ツトムはたぶん、私にとって初めてできた友達だし尚更ね」

 

 サテライトじゃ身内は歳下と歳の離れた従姉妹っぽい歳上しかいないし残りはビジネスによる一時的な繋がり、あとは敵とその他の4種類しかいなくて友達はやっぱりいないって。

 その点ツトムはほぼ同年代だし私がリトルゲヘナなんて異名付けられるくらい強い事も知っていて、サテライトの住人だとも知っていて私を私として見てくれている。

 私の事情をここまで知られてると隠す事が無くて良いしお互いの性格の相性も良くて絡みやすい。

 

 友達止まりなのは私個人というよりツトム側に問題があるというか、ツトムは敵になりそうな人、他人が怖いんだと思う。

 ツトムがこのままならそれまでだし、ある程度回復したら私から離れるつもりでいるから恋愛的な関係にはならないと思う。

 

 確かに私は結果的にシティの為、治安維持局の為に働いたりしたけれどサテライトの人間だ。

 まだサテライトとシティを繋ぐ橋も完成していないし、完成してからこそお互いの関係性は慎重にしなければいけない。

 いくらツトムが回復しようと脆い状態でサテライトの住人とそういう関係になること自体が敵を作るリスクにしかならないし最悪社会復帰が絶望的な状況になりかねない。

 

 それはそうと今の関係は私にとってかなり有益だし何よりも楽しいから回復具合にもよるけどしばらくは続けるつもりでいる。

 

「いや……流石に友達の1人くらいいるだろ?サテライトにいた頃からあんなに社交的だった訳だし」

「ビジネスの関係を友人って呼べるんだったら友達100人以上いることになるね~」

「そうか……わるい」

「謝まんないでよ。そっちこそ私といるか仕事してるかしか見ないけど友達は?」

「それは……セキュリティ辞めた時に連絡手段全部消したんだよ」

「あ〜………その、ゴメンね。それよりさ、何見てるの?」

 

 奪ってから手の中で転がしていたイヤホンを付け、膝を付けるようにしてしゃがみパソコンの画面をガッツリと見る。

 なんか聞いたことない感じの曲調で音楽がやたらと強く主張してる動画だなと思った。

 

「✝ダークネス・ロード✝さんの生放送」

「えっ?なにその異名?魔王?黒薔薇の魔女ちゃんみたいな事ができる人?」

「黒薔薇の魔女って……あんなのできないって。

 音楽系のデュエチューバーの人で俺も学生の時この人の影響でギター買ったんだけど向いてなくってな……」

「ふ〜ん。ところでデュエチューバーって?」

「あっ…………まずデュエチューブの存在についてはご存知でしょうか?」

「初耳だね〜」

 

 なんかいきなり先生モード入ったけど知らないものは知らないし首を横に振る。

 

 


 

 

「……という感じに配信をする事で副業的な役割になったりして、この✝ダークネス・ロード✝さんなんかも副業で音ゲーしてるんであって本業はデュエルミュージシャンだな」

「ほぇ〜……うん、なるほど。これ使えるかも」

「使える?」

「うん。私はサテライトの住人だからさ、サテライトがどんなところかって配信すれば無法者ばかりって勘違いを払拭できるかも」

「…………その、こういう言い方は悪いと思うけど違うのか?」

「全然違うよ。ツトムはさ、飢えをしのぐ為にネズミを焼いて食べた事ある?私はあるよ」

「………………………は?え?マジで?」

「マジもマジ、大マジよ」

 

 ネズミを食べるなんて想像できないんだろうね。

 弟達にご飯を譲り過ぎて自分が本格的にマズイ状況になって仕方なくネズミを食べたんだよ。

 ちゃんと血抜きもしたし内臓もひん剥いて洗ったし表面を真っ黒な炭にし、コゲを取り除き焼き直して食べたんだよ懐かしい。

 

「そこまでしっかり処理するならネズミ肉でもギリなんとか……」

「止めた方が良いよ。全然お腹壊しちゃうから」

「全然お腹壊しちゃうのか……」

「そういった経験談も踏まえてサテライト住人の誤解をとこうかなって。

 犯罪をするのだってしないと死んじゃうし苦しい思いをするからやむを得ずって人がかなり多いよ。

 私も盗みはしたけど私の場合は報復の為にしていたもので自分から理由も無くした事って無いんだよね。

 そうあれたのは腕っぷしが強かったのと、最悪の中でも運が良い方だったってだけだから。

 才能の塊な私ですらこうだったんだから普通の人じゃ尚更だよ」

「自分で言うって凄い自信だな」

「事実だもん。なんせ自己判断誤れば物理的に死ぬか女性の……まああまり楽しい話しじゃないし無しにしよう」

「あぁ、そうだな。ゴメン」

「謝らないで。ツトムは何も悪くないよ」

 

 本当に運が良かった。

 正直シグナーとかに関しては思うところ滅茶苦茶あるけどやっぱり運が良くなければ弟達を守りながら生きるなんて到底叶わかったよ。

 サテライトに落ちるという地獄のような運の無さの中でも生きられるだけの運が無ければどんな天才でも個人じゃ飢えて死ぬしかないからね。

 

「…………」

「ん?どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「そう?思う事があったら言ってよ?

 それで動画配信は今度するとして今見てた人ってデュエルミュージシャン?なんだよね?どんな人なの?」

「ああ!最っ高にクールだぜ!」

「え?なにそのノリ?」

 

 こうして私はロックンロールを知った。

 

 


 

 

「その……大丈夫か?」

「なんか色々な事が全部ふっ飛ばされた気分……」

 

 なんだろ……こう、脳内に電流が走ったかのような衝撃で思考すごい事になってる。

 環境故に音楽に触れられる機会が殆ど無くて年齢一桁の頃に聴いた子供向けの曲しか知らない私には劇物過ぎて、なんかこう、運命を感じた気がする。

 

「いや〜本当に凄いものに巡り合わせてくれたねぇ〜。

 歌ってあんなに大声を出しても良いものなのか〜……うん、凄く楽しそう。歌いたい」

「画面に齧り付く勢いだったしな」

「うっさい」

 

 ペチン!いい音だ!

 

 ただ今だけはちょ〜っと物足りないかなぁ〜……Yeaaaaah!!!

 

「物凄く大声出したい気分だけど近所迷惑も良いとこじゃんよ〜生殺しだよ〜」

「今からカラオケ行くか?」

「んんん〜〜〜〜〜〜……………い〜〜〜〜……や!

 行きたい!行きたいけど帰る! 

 ちょっと遅くなっちゃったけど行動するなら早い方が良いからね!」

「それって、サテライトに帰るってことか?」

「そうだけど?」

「そっか………セイラさん。

 俺とお付き合いしてもらえないでしょうか?」

「えっ?」

 

 ……そうなる可能性も当然考慮していたけどちょ〜っと踏み込んでくるのが早すぎないかなぁ?

 この辺って男女の意識の差ってヤツ?

 油断してたのは否定しないけどさ、ツトムのメンタルは色々とボロボロで調子悪い時には死人みたいな顔してるし駄菓子屋の仕事をしてる時は調子の良い時だけって大竹のおばちゃんも言ってたんだけど今のコレは凄い度胸だよ。

 どっからどう見ても真剣そのものだし、これはちょっと予想外過ぎたなぁ〜。

 どうしよう………

 

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