ここ数日、遊星を中心にしたイツメンが何か盛り上がってるな~って思いながら日々を過ごしていたんだ。
そしたらさ、当日になって遊星がジャックしばきにシティへ向かうという事をいきなり聞かされてビビった。
「えぇ?ちょ、ちょっと待ってよ、皆知ってた感じじゃん。なんで私ハブられてんの?
もしかしてお姉ちゃんなんか悪いこと言っちゃった?」
「ち、違うよ!ハブってない!そうかもしれないけどわざとじゃないから!事故だから!
遊星が俺達に説明した時セイラ姉さんは仕事だったからてっきり後で話すのかと思ってたの!」
「俺はラリーが拾った雑誌をセイラに渡すんだと言っていたからその時に話したのかと……」
「あぁ、俺もそう思ってたぜ」
「確かファション雑誌で姉さんもかなり好きなジャンルだっつってラリーの事抱きしめたんだってな?
ラリーが恥ずかしそうに自慢してきてたぜ」
「自慢してない!どうして姉さん俺だけ男に見ないんだよ!」
「あ~……あの時かぁ~。いやだってラリーだし。
う~ん、あんまり褒め倒しちゃったせいでうやむやになっちゃったのか……そっか、照れちゃったんだね。そっかそっか、お姉ちゃん許しちゃう」
「わ!撫でないで!照れてないって!」
そんなやり取りをした夜。
遊星が無事に抜けたのを確認して夜空の下、ラジオを流してお星様とシティの明かりを肴にバイト先の店長に選んでもらった飲みやすいカクテル缶とチューハイ缶で乾杯する。
ラリーは祝いの席だしということで練習もかねて一口飲んで口に合わなかったらしくジュースになった。他2人も1本飲んだらジュースになったところはまだまだ子供で可愛いね。
それから4つ目を開けだいぶ酔ってきた頃にシティの方でサテライトからでも見える大きな赤い龍が夜空に咲き誇った。
「ヒュ〜♪でっかぁ~い。シティのソリットビジョンは随分進歩してるね~……ふわぁ〜ねむ………」
「……おい、なんか変じゃね?」
「そうか?スッゲーとしか思わないけど、システムトラブル?」
「あっはは〜。あれがシステムトラブルならさ、もしかしたらネオドミノシティがネオネオドミノシティになっちゃったりしてね〜。いや、NEWネオドミノシティかも?」
「ブラックジョークが過ぎるぜ……」
「遊星に何かあったんじゃ!」
「ねえよ!いくらなんでも行って1・2時間ちょっとでコレはねえって!」
「ん〜……そんな事よりお姉ちゃんちょっとトイレ〜」
「わっ!ちょっ、ふらついてんじゃん!大丈夫!?」
「大丈夫〜。お店の娘よりお酒弱めなのは確かだけどお酒好きだし飲み慣れてるんだよね〜。
これくらいなら気持ちが良いで終わるから大丈夫大丈夫〜。
でもまぁもう1本開けたら吐くラインになるかもしれないけど〜」
「なんでそう言いながら開けてんだよ!?」
「おぉ?ちょっとそれ私のカクテルだよ?か〜え〜せ〜……って。
あ、そっか。もしかしてナーヴ遠慮してた?1本しか飲んでないし私だけズルいよね」
「ちっげーよ!ってかトイレ行くんじゃなかったのか?」
「ん〜?違うの?いや〜最後の1本で勿体ないし飲んでからにしよって思って」
「わかった。それならコレは俺が飲むからとっとと行って来い。ほらいったいった」
「素直じゃないな〜。それじゃトイレ行ってくる〜」
といった感じでこの時はコレっぽっちも気にしていなかった。
サテライトの犠牲あってのこととはいえシティのやる事のスケールは本当に凄いなという感想だったよ。
赤い龍を目撃してから数日が経った。
遊星もジャックもクロウもいない。
なんだろう……仕事はあるけど急に暇になってやる事が無くなった。
「寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末〜食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポパイポのシューリンガン、シューっいったぁ!?
あっぶな!これ安全靴貫通してくるヤツじゃん!痛くなかったけど普通に痛い………ったく、何処の素人がこんな下手くそなゴミ漁りしたのさ?」
レゴブロックを踏んだ時に近い痛みに寿限無が中断される。
寿限無を全部歌えるのは弟達への自慢?になってるので忘れてないか定期的にする復習で歌う。歌いながら雑誌収集の為ぶらついている。
けれど現在進行系の雑誌収集、裁縫、アカペラで歌うなどの趣味をしている筈なのにどうも身が入らない。
「………あのさ〜。さっきから付いてきてるのわかってるからさっさと出てきてくれないかな?
やりやすいように雑誌があんま無いってわかってるゴミ山が多い場所まで態々移動してきたんだよ?」
「テメェ……女だからって調子こいてんじゃねーぞ」
雑誌収集とは別の目的を消化する為に手配書の束を取り出してから声をかけると6人の男達が出てくる。
さて、全員マーカー有り。加えて見覚えの無い顔だからシティから来たばかりのニュービーだろう。
記憶に無いメンツなのに恨みだけで行動しているって事はどこの組にも属していないって事だしまず間違い無いだろうね。仮に最近入ったばかりの組の若いのが相手だったとしても相手が私だと知った時点でたったの6人を差し向けたりしないし、こんな堂々と挑まないよう忠告するだろうからね。
なんて考えながら1ページに8人の顔写真が載ってるリストを5ページ程流し見て確認する。
「全員リストに無し。得にならない暴力はしない主義なんだけど何の用?(……って、後ろの方の大きい奴ゴミ山でタバコってふざけんな火気厳禁でしょ!?)」
「ふざけんな!テメーが柳のヤツをセキュリティに突き出しただろうが!」
「自業自得じゃん」
マーカーは位置情報がセキュリティに筒抜けになる代物なのだけれど技術さえあれば案外簡単に無力化できる物でセキュリティ側も質よりも量を優先している節があるんだよね。質を求めると出費もかさむし仕方ないんだろうけど。
そんなマーカーだけれど意外なことに無力化しただけじゃ指名手配されたりしなかったりするんだよね。
手配される基準はマーカーを刻まれた時の罪状の重さ、もしくは軽犯罪の再犯現場を目撃されたけど逃げ切れちゃった場合が殆どかな。
「なあ、マジでやるの?女って聞いてやる気無かったんだけどめっちゃ美人じゃん。正直好みだわ」
「ありがと」
美人って褒めてくれたから手を振ってあげると手を振り返してくれる。それはそうとタバコの火を消せ。
「馬鹿!女だからってやらなきゃメンツが立たねえだろうが!」
「女性1人に6人がかりの時点でメンツも何も無いだろ」
「…………チッ!おいお前!デッキ!デッキを置いていけや!
痛い目見たくなかったらデッキ置いてけ!それで許してやる!」
「無理矢理奪ってみれば?無理だと思うけど」
挑発すると3人がお約束的な台詞を吐きながらこちらに近付いてくる。
残りの3人はやる気が無いのか見物するみたい。
たぶんやり過ぎそうになったら止めるつもりでいるんだと思う。
とりあえずやる気無い3人から距離を離す為にわざと逃げるような動き、背中は見せずゆっくりと後退をし引き付けて……うん、いい感じにやる組と見物組の距離が離れたね。
「……わかった。ちょっと待って」
デュエルディスクからデッキを抜き、腰に下げてる3つのデッキケース。その内の1つ、空のケースにしまう。
私が後退した様子を見てニヤニヤと趣味の悪い笑みを浮かべた3人だったけど私がデッキをしまう様子を見て足を止める。なので1番近い奴の数歩前の地面へ「ほら」と下投げで優しく投げ置く。
「なんだよ、最初っからッグアァッ!!!」
デッキを取ろうと数歩前へ、腰を曲げ手を伸ばしたところでデッキしか見てない顔面を蹴り上げる。
「なっ!てめガッ!!!」
「ひっ!」
次に近い男をデュエルディスクでもう1人の方へ飛ぶように殴り、殴り飛ばされた奴を支え状況を飲み込めた最後の1人を大きくジャンプしかかと落としで沈める。
身長低いとこういう時は辛いよね。
小さいから避けやすい利点もあるけど。
チビだから掴まれたら終わりとか思われがちだけど掴んできたら両手で腕を抱えて握力と全体重かけたスピンの勢いも使って折りにいくんだよ。折れなくてもしばらくは正常に使えなくなるから便利だよスピン。
「うおっスッゲ……」
「ヒュ~♪」
「はぁ~、めんど……一応聞くけど、まだやる?」
デッキケースに付いた土を払い戻しながら確認すると誰もやる気は無いと伝えてくれる。
1人に関しては私のかかと落としに思わず拍手していたくらいだしやる気無いのはわかりきっていたけど確認は大事だよね。
「じゃあコイツらの後始末おねがい。それで手打ちって事で良い?」
「あ、あぁ。すまない、迷惑かけた」
「全く本当だよ。……ところでお兄さん」
「な、なんだよ」
近付いて咥えているタバコを奪い、大きく吸い煙を吐き出す。
「この場所、火気厳禁ね。私もタバコ吸うから気持ちはよくわかるけれどゴミ山でタバコは駄目。
万が一この場所で火事が起きて全部燃えちゃうと例え火事から逃れて生き延びても食い扶持が無くなって100じゃきかない大勢の人が飢えて死んじゃうから絶対にしちゃ駄目だよ。わかった?」
一口味わったタバコを握りつぶしながら何故駄目なのか説明すると「わりぃ、ここじゃもう吸わねえ」と理解を示してくれたから「ありがとう」とお礼を言っておく。
どれくらい吸う人かわからないけどあんまり吸わない私でも長時間ゴミ山にいると吸えないことにイライラするから気持ちは本っ当に痛いほどよくわかるからね。
ちなみにタバコを握りつぶした手だけどちゃんとグローブ付けてるから熱くはないよ。
付けてる理由はいつ人をぶん殴っても自分の手を痛めないようにするためだけど。
そんなついてない出来事が起きてゴミ山入り口付近に停車させていた軽トラに戻って靴を脱ぐ。
「いつつ……本当ついてない………」
いつもだったらまずしないミス。たかが3人を相手に足をひねるなんて。
何故かわからないが本当に調子が悪かった。
負ければ尊厳から命まで奪われようが文句の言えない実戦だっていうのにどうも緊張感が持てなくて浮ついた……とは違うか、とにかく変だった。
「はぁ……面倒くさ………」
指名手配犯を捕まえた時に手足を縛る為に常備しているテープでテーピングを済ませて車を走らせた。