アトラスお姉ちゃんの日々   作:メリルメリルメリル

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配信1回目(2回目)

 

 画面に砕けたコンクリの塊が映る。

 

『あれ?そっちじゃないよ~。……ん~、む~?』

 

 コンクリを映したままコツコツという叩く音がし微妙に映像が揺れる。

 

『…………お?よし♪』

 

 アメジストのような色の瞳と金色のウルフカットが特徴的な美女が映り出される。

 

 正常に自分の姿が映し出され微笑む女性は目付きの鋭さに反して優しい笑顔を浮かべ距離をとっていく。

 

『こーんにーちス〜テラ〜。サテライトの小さな地獄、ステラちゃんです』

 

 キャラじゃないし【ちゃん】って歳じゃないが掴みは大事なので親しみやすさを全力で押し出していく。

 

 ステラという名はセイラがバイトの時に使っていた名で、

 セイラ→セイ→星→ステラ

 といった感じで付けた名である。

 

『限られた時間の中でステラチャンネルを見に来てくれてありがとね☆

 こうやって放送するのは初めてだね〜。

 このチャンネルではとりあえず適当にサテライトが……っと。フッ!…あ、ストーンバレット!』

 

 コンクリの破片を拾い上げ、わりと本気で投げてから思い出したかのように適当な技名を口にする。

 そんな間の抜けた様子が流れているが画面の外ではビルのパイプに命中し石が砕け音が鳴ったりと彼女の雰囲気とは真逆の状況になっていく。

 

『ひぃっ!?』

『流血沙汰にしたくないからさっさと逃げなさい。次からは喧嘩を売る相手と場面は間違えないように!』

『ひぇ〜!!!』

『……はぁ~まったく。

 え〜っと………あぁそうだった。

 このチャンネルではサテライトの事を知ってもらう為に散歩しながらどういった場所でどう生活していたかなんかを紹介していくよ〜』

 

 最初から問題しか起きていないが問題無いと振る舞うステラはコレが日常だと言いたげにおっとりとした口調で話しを進めていく。

 

 その説明の中に起きたいきなり窃盗騒動な訳で、付けているイヤホンから読み上げられるコメントから『やはりサテライトの✕✕か』などといった物が流れる。

 

『それ!それだよ!

 今サテライトはセキュリティや治安維持局が協力して治安を良くしようといろいろ頑張ってくれている。

 けどね、貴方が【やっぱりサテライトのクズ】って思ったのと同じように、どうせシティのヤツらは自分達を何かに利用しようとして甘い蜜を与えてきているって思っているサテライトの住人はまだまだ多いのが現状なんだよ。

 この地区は皆が頑張ってくれてるおかげで盗みなんてしなくても良いくらい開拓が進んでいるけれど、信用できないから危険でも今までのやり方をしているんだ。

 ……うん。完全にわかってくれなくても良い。

 ただ、彼等が盗みをするのは出来心でとか、そういう次元じゃ無くて、飢えて死にたくないからって人が多くて、生きるのに他に選択肢が無いってだけ。

 そんな絶望の状況に慣れてしまって、いきなり美味い話が舞い込んでそれを信じられるかって無理でしょ?

 サテライトとシティが繋がる事が怖いと思うシティの人達も多いと思うけど、サテライトの人達はシティから侵略者が来て勝手に開拓されてるし、もしかしたら誘拐され奴隷にされるかもって考えになってるんだよね。

 さっきの人は……配信ができなくなるから追っ払ったけどさ、機材を盗むじゃなくて食べ物よこせだったらあげてたかな。

 まあ今はセキュリティから貰った携帯食しか無いから渡して新しいのを貰うだけなんだけどさ~』

 

 そこまで語ると画面へと手が伸び、映像がステラの手で見えなくなり、続けて一瞬服が見えたと思ったらポケットに入れられ真っ暗になる。

 

『ここで話してても時間の無駄だし適当にぶらつこっか。

 何か気になった事があったらドンドン質問してね〜』

 

 ポケットの映像は真っ暗である。

 時間が時間のため視聴している人は一桁であり、映像が真っ暗(僅かな光で完全な黒ではない)でコメントすることも無く視聴者が消えていった。

 

 


 

 

 映像が真っ暗な事に気がついたのは約1時間後の事であった。

 

『あ〜した天気にしておくれ〜♪

 それでも曇って泣いてたら そなたの首を切〜り〜落〜……』

『画面真っ暗、キングは?』

『っ!?シッ!…いない?

 ……………あ、イヤホン。コメントか〜。

 背後取られたと思って驚いちゃったから咄嗟に足払いが出ちゃったよ〜。

 ……って、え?真っ暗?………あぁッ!?』

 

 ガサゴソと映像が乱れに乱れ、ポケットから出されたスマホが焦っているステラの顔を映す。

 

『ゴメンね〜。こんな事ならもっと練習しておけば良かったよ〜。

 えっと、キングってジャック?遊星?』

『アトラス様』

『………ジャックの事ってのはわかるんだけどアトラス様って言われるとなぁ〜』

『一緒にゲームしてたけどどういう関係?』

『姉弟だけど?』

『は?』

『ワタクシの名はステラ・アトラス、ジャックの姉ですわ。今後とも宜しくお願い申し上げます』

『嘘つくんじゃねー!この✕✕✕✕✕✕✕!!!』

『ひえ、ひっかかってコメント伏せられてるじゃん』

 

 このあとすぐ拡散されジャックの姉としてバズり、同時に自称姉で炎上し、目の色も顔の形もソックリだし本物の可能性もあるのでは?、いや整形だろどう考えてもとプラスとマイナスを反復横跳びすることになるが本人は気にしてない。

 

 気にしないというかSNSを知らない。

 名前は見た事あるが、過去に触れただけで作動したトラップで物理的に死にかけた経験から下調べ無しに未知に触れるようとしない。

 ステラちゃんはテレビニュースと新聞人間なのだ。

 唯一触れる機会があったとすれば彼氏に勧められてだったのだが、彼氏も彼氏でトラウマの影響でSNS系は全て削除しているので触れる機会が無かった。

 

 


 

 

『……という感じでジャックは元サテライト住人で私の弟なんだー』

 

 物凄く平坦な声で身の上話をするステラ。

 それも当然だろう。なんせ今ので8回目である。

 最初は丁寧に思い出に浸りながら話していたが今では見る影も無い。

 

『ジャックと私の関係は……ちょっと20分くらいバーを戻せばしてると思うから戻って』

『もっと早く言えば良かったのに……』

『判断が遅すぎる』

 

 人が増える事は嬉しいが同じ質問コメントが投げかけられ、15回目にしてついに投げた。

 

『え〜っと、なんて説明しようとしたんだっけ………………あぁ、そうだ。

 サテライトの歴史、それを語るには外せないチーム・サティスファクションの聖地巡礼をしようと思ってたんだけど、そのメンバーの1人、ジャック・アトラスの聖地巡礼に変更していくよ〜。

 という訳で〜…………』

 

 現状スマホからピン留め型カメラに視点が変更しているのでセイラの胸ポケットの位置がカメラの視点になっている。

 

 今まで廃墟ばかりの街並み?を映していて、おそらく一際大きな廃墟、何かしらの会場か何かに使われていただろう建物へ向かっているのだろうと察せられる状況だった。

 

 それがいきなり地面を写す。

 

『うん……わりと新鮮な足跡だね。微かにアルコールの匂いもする。あそこにはタバコの吸い殻………

 ジャックがいない間に誰か住み着いたようだね。それも複数人』

『チーム……なんて?』

『えぇ……?』

『なんでわかんだよ』

『これくらいは必須技能だよ。

 女性1人で散歩できるってそういう事だから、サテライトで平然と歩く女性を見かけたら度胸が凄いか腕っぷし最強の〜…………見られてるね』

 

 その言葉と共にある一方を振り向く。

 振り向いた先からロープが飛んできており、それがステラの体に巻き付く瞬間、高速で景色が変化する。

 

『ナニッ!?』

『忍法変わり身の術……なんてね』

 

 次の瞬間には2〜3階建ての屋上から男達を見下ろしており、投げられたロープはステラではなく真っ赤な消火栓に巻き付いていた。

 

 


 

 

 悪は滅びた。

 

 ステラの異常過ぎる身体能力にコメントがザワつき、治安維持局のエリートなら誰でもできる(実際にイェーガー様がした)技術だと説明すると益々ザワついた。

 

 視聴者にせがまれて7階建てのビルを外から登ったり、ビルからビルへ飛び移ったりと遠回りしながらもなんとか目的地へと到着した。

 

 それから数十分。

 

『あったあった!ほらコレだよ!』

 

 適当な場所に置いて放置されていたカメラの画面へとメイド服を着たセイラが姿を現し、キャンパスを見やすいように抱えていた。

 その絵は廃墟の中、今よりも幼いが王者の貫禄溢れるキングが玉座へ座り、その背後に立つキングと同じ瞳、同じ髪色をしたメイドの姿で正に今のステラの姿そのものだった。

 

『コレね、ここで描いてもらった……ん?ちょっとまって。

 はい、もしもし』

『セイラさん、貴方何をなさっているのです?』

『イェーガー様お疲れ様です』

 

 スマホから着信音が鳴り、ミュートなどにする事無くテレビ通話により生放送の画面内にイェーガーの顔が浮かぶ。

 

 視聴者そっちのけでイェーガーとのやり取りが開始され、聖地巡礼としてこの場所へ訪れた事など説明した。

 ジャックがいたという証拠品としてキャンパスを持ち出したという説明に入った所で……

 

『セイラさん、手袋を着用しているのは偉いですかその絵画はそんな雑に触れてはいけません』

『え?』

『それはセイラさんが思っている何十、いえ、おそらく何百倍も価値のある『イェーガー様!』……何です?今通話中なのですが?』

『すみません!ですがこの会話が生放送で垂れ流しになっております!』

『あっ』

『…………なっなななななんですとぉ!?

 セイラさんあなた何故切っていないのです!?今すぐ放送を中止なさい!』

『りょ、了解です!それでは本日の放送はここまでです!お疲れステ』

 

 映像がぶつ切りで途切れる。

 

 


 

 

 初配信から4日後、私はシティへと戻ってきた。

 

「どうかな!?」

「これは酷い……っていうかこれ残しても良いものなのか?」

「うえぇ〜……ツトムも〜?

 ツトムは弟達と違ってフォローしてくれると思ったのに……」

 

 座布団ひいて2人並んで動画を見終えて感想を求める。

 

 いやさ、私も酷いとは思うけど散々弟達にボロカスに言われて「他の人にも聞いてくる!」とか我ながら随分と子供っぽい事言って飛び出して彼氏に慰めてもらおうとしたのにこれじゃトドメの一撃じゃんよ。

 

「いや、その……凄く可愛いとは思うけど………」

 

 とか思ってムスぅとしてたら消え入りそうな照れた様子でそんな事言ってきた。

 

「ん……そっか、ありが……殆どつなぎ服なのに?」

「服装じゃなくて行動が初々しくて。それに最後のメイド服は……凄く…………うん……」

「そっか……そっかぁ〜」

 

 うわ……うっわぁ。なんだろう。欲しかった言葉だったんだけどヤバイね。なんか滅茶苦茶恥ずかしい。

 恥ずかしくてなんか口角上がっちゃうし声上ずっちゃうよ〜。

 

「そ、それで動画残しといて良いのかって話しだけどさ、宣伝になるから残しといて良いってさ」

「宣伝?」

「ジャック・アトラスがキングを目指した始まりの地として観光名所にするんだってさ。

 それであの絵画は今じゃ治安知事局の金庫で厳重に保管されているらしくて、運営を開始する前日に会場に飾るって話だよ」

「そうなってくると値段が付けられないくらいの価値になりそうだな」

「まさか落書きオジサンが描いた絵がそんな事になるなんてね〜」

「落書きオジサン?」

「そ、落書きオジサン。もう寿命で死んじゃったけどいっつも色石で壁とかに落書きしているオジサンがいたんだよ。

 1色で絵を描くけど上手でね、その人に絵の具一式と筆あげるから描いてくれって依頼して描いてもらったのがあの絵なんだ」

「死後評価されるってのは音楽界じゃよくあるが絵画でもあるもんなんだな」

「ふ〜ん……なら落書きオジサンが描いた他の絵も保護もした方が良いのかな?」

「それ、絶対にイェーガー様にお伝えした方が良い」

「そっか。じゃあ後でメールしとくよ。

 それよりゲームしよ」

「今すぐ送りなさい」

「え〜……わかったけどどうなっても知らないよ〜?」

 

 渋々メールを送ったら案の定詳細を教えなさいと催促メールが飛んできたので「ほら言わんこっちゃないどうしてくれんの?」とスマホ渡してツトムに対応メール書かせ後日案内する事が決まった。

 私の彼氏はどうも見通しが甘い。

 わりとライブ感で生きてる私が言うのもなんだけどさ。

 

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