アトラスお姉ちゃんの日々   作:メリルメリルメリル

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短足我が儘胴長ボディ

 

 あれから数日。

 

 相変わらず何もかも面倒くさいと思ってしまう事には変わりないけれど、なんとか動くことはできるようになった。

 

 動けるのは建物内だけで外に行くなんてとてもできる気がしない。なんなら家の中でさえ動く気になれないしトイレも小はペットボトルで済ませてしまう程でラリーが物凄く慌てふためいていたのが記憶に新しい。

 

「……なあ、勉強なんてろくにできてない馬鹿なりにずっと考えてたけどさ」

 

 そんな状態である私の面倒を見てくれているのは基本的にラリーなんだけど今は交代でナーヴが見てくれている。

 

 ナーヴは馬鹿なりになんて言い出して否定しようと思ってもすぐには声が出ない。

 

 本人は自分のことを頭が良いとはこれっぽっとも思っていないけど別に頭が悪いわけじゃない。

 彼が観察眼に優れている事を私はよく知っている。この時点で頭が悪い訳が無い。ただ反射神経が残念だから喧嘩が弱くて勿体ないとも思うけど空気を察する事ができるくらいには頭が良い。

 どれだけ勉強ができても空気を読めない馬鹿ってのはサテライトじゃ長生きできないよ。

 

「姐さんがそうなったの。やっぱり遊星がシティに行ったからだろ?」

「……うん、そうだね」

 

 ここ数日ラリーが会話をすることを諦めないでいろいろ話してくれたおかげでこれでもかなり話せるようなった。

 相変わらず小声だし歩くのと同じくらい口に出すのが遅いのだけれど自分でも回復していると自覚できるくらいには大きな変化だよ。

 

「今でも遊星はジャックの親友だと思ってる。だから派手に喧嘩でもすれば仲直りできると思う。正しいと思えば細かい事を無視してズカズカ入ってくる性格のジャックと、友情を何より大事にするけど細かい事を気にしちゃって罪悪感とかずっと引きずる遊星だもん。相性は凄く良い筈だし絶対仲直りできる。

 ………ナーヴ達からしたら複雑かもしれないけど」

「そりゃ、確かに複雑だな……けど、その状況は簡単にイメージできちまうな」

「でしょ?…………遊星も、クロウもそう。2人とも弟の親友で、私の弟同然だよ。

 ……でも、それでもジャックは、あの子特別。

 私のお母様とお父様に託された形見。私の最後の家族で………今思い返すと、あの日から今までの私の人生は全部。本当に全部をジャックに捧げていたんだなって思う。

 当然、その事に後悔なんて有りはしないのだけど、そのせいで遊星には失礼なことしちゃっていたな。

 だって家出し「セイラ姉さん!猫!めっちゃ大人しい猫見つけたから連れてきた!見てよこの猫!全然逃げない!」

 

 壊されたままなので鍵なんてかかってない扉を開いてラリーがたぽっとしていて随分と胴体の長い茶トラ猫を連れてきた。君よく伸びるね。あと足短いね。

 

「おま……今めっちゃ大事な話してた」

「え?マジ?………で、でも姉さん猫大好きだったよね?」

「(これはもしかしなくても飼おうって流れだよね?)その子、毛並みからしても飼い猫じゃないの?返してあげないと」

「その調査に1日使って野良だってわかったから大丈夫!野良猫なのに水も大丈夫みたいで丸洗いしてから連れてきた!」

「何やってんだよ……」

「ほら、姉さん抱いてみて!」

 

 駄目だったか〜と考えている間にラリーからその子を渡されてしまい膝に乗せて頭を、喉をと撫でても、なんなら背中をつまむ感じにスイってやっても全然嫌がらない。

 もしかしてここまで甘えん坊なのって、それがこの子の生存術になっているのかも。

 こうして甘えてご飯を人から貰って栄養取り過ぎた結果たポテっとした短足我が儘胴長ボディになっているとみた。

 サテライトでこんなワガママボディなの人間だと大金持ちの成金しかいないよ。贅沢者め。

 

「姉さんってあんまり名前付けないよね!けどこの猫は飼おうよ!だからさ、名前付けてよ!」

「名前……」

 

 今は私が飼われて面倒見られてるような立場だし無責任なことになるから飼えないって言いたいけど飼い人間のニートだから何も反論できない……

 名前……名前かぁ………

 

「ジャック」

「………え?」

「この子の名前は今日からジャックだ」

「よし、タイムだ。ラリー、お前も一端撤退するぞ」

「う、うん!」

「ヤベェよ、絶対にヤベーって。普通ご健全な弟の名前を猫に付けるか?」

「で、でもさっきの見た?笑ってたよ?セイラ姉さん」

「いや、確かにそうだけどさ……」

「………ねえ、ジャックも内緒話は本人に聞こえないところでしてほしいと思わない?」

 

 


 

 

 ジャックを飼い始めてからの変化は私自身でも驚くほどで普通に喋れるようになった。

 最近になって知ったのだけれど私は鬱病という心の病気にかかっていたらしくて病名を教えてくれたのはセキュリティの人らしい。たぶん雑誌くれるお兄さん。

 

 ラリー達は自分達が面識無くても聞き込みで私の事を知っている人がいないか聞いて回ってくれていたらしくて、セキュリティに声をかけるって怖かっただろうし凄く勇気を出したんだろうな。

 当然セキュリティのお兄さん達も医療は専門じゃないから正確な病状はわからないようで、いわく大雑把な枠組みに当てはめれば鬱病だろうとのこと。

 医学的にはA型鬱病とかB型鬱病とかもしかしたらあるのかもしれないが詳しくはわからないって言っていたと聞かされて、あの偉そうなセキュリティのお兄さんが焦って半端な知識を披露している姿を想像してつい笑っちゃったよ。

 

「ジャック、ジャック。歩かないと痩せられないでしょ。こら、にゃーんじゃない。私に持ってこさせようとするな。こっちに来なさい」

 

 そして現在、私はキャットフードを入れた皿を片手にご飯を食べる場所と覚えさせようと指定の場所からジャックと睨み合いつつ床をペシペシ叩いていた。

 

 この部屋はサテライトに腐るほどある廃ビルを使えるようにインフラ整備等も施した場所で、その分の代金を払って勝手に水道繋げたりしているのを見逃してもらっている。

 ……という事になっているが実際はどの組の縄張りでもないと扱われていて平和条約ならぬサティスファクション条約によって守られていて、どこかの組の人達からセキュリティの人達も休憩所として使う為にと色々インフラ整備をしてたら十分生活できるようになっていた土地である。

 

 住むのは勝手だが住むには腕っぷしが必要であり力を示さないとならないのでサティスファクション条約を作った中の1人であり、狂乱の宴というサテライトの大事件の鎮圧に一番貢献した私は力の証明が十分過ぎるということで所望した小さめなビルまるまる1つが私の家となった。

 当然持て余しているけどそうしないと周囲の立場が無くなるから押し付けられたに近かったけど。

 

 このサティスファクション条約は書面にしている訳では無いので正確にはそんな条約は存在しない。

 口約束で出来上がった暗黙のルールというもので、書面が無いのだから破ってもなんら問題無い。問題無いが自由である事と責任が生じないのは別問題。好き勝手したらソイツ対他勢力全てによるサテライト世界大戦が始まるので馬鹿な事はまず起こらない。

 個人の喧嘩は起こしても見逃されるけど、組織の抗争を起こすなんて随分手の込んだ自殺だよね。

 

 だからまず起こらない……筈だったんだよなぁ…………………

 

「オイ!いるのはわかってんだぞ暴力女!出てきやがれ!」

 

 コンクリの壁を貫通して聞こえてきた拡声器越しの大声にビックリしたジャックが大きく跳ねてキャットフードを撒き散らす。せっかくジャックとの攻防に勝利し食事ゾーンまでこさせられたのに台無しだ。

 小さく溜息を吐きつつ何処の馬鹿か確認を取ろうと窓から覗き見て……

 

「全く……無知は罪っていうけどこの地区でやるって死に急ぎ過ぎで……………」

『うん……私、目の前で見て凄くビックリして固まっちゃったけど、凄く派手だったからどうなったかよく覚えてる』

 

 あの小さな猫がどんなふうに死んでしまったか話してくれた時の言葉がフラッシュバックし、その特徴が口から自然と漏れ出る。

 

「紫色をした、黒の雷みたいな模様のD-ホイール……」

 

 


 

 

 静かだった夜。

 シティと違い明かりの少ないサテライトでありながら複数のD-ホイールから発せられるライトによっい異様に照らされその場所だけ明るくなっており、そこで伝説は再来しようとしていた。

 

「うっせーな!拡声器まで持ち出して馬鹿か!?」

「お前らここはサティスファクション条約がある事知らねーの!?正気か!?」

「テメーらまだ邪魔すんのか!?人数差わかんねえ程馬鹿かテメー!コッチは態々あの暴力女の為に26人も用意してんだよ!」

「26人ねえ……いくら弱っててもお前らじゃあの人に勝てるとは思えねえけどな」

「あんな奇襲が上手いだけの奴に負けるわけがねえだろ!数とスピードは力なんだよ!俺たちプラズマストリームが最速で最強の……」

 

 言い合いの中、背後の少し離れた位置からまず耳にしない破壊音が鳴り響く。

 

「な、なんだ……?」

「俺のD-ホイールが……」

 

 複数台のD-ホイール。その先頭付近に置かれていた1台が破壊されていた。

 

 ただ破壊されていたのではない。

 真っ二つだった。

 

 真っ二つにされたその中心には歪なほどボコボコになったライオットシールドが突き刺さったまま佇んでいる。

 

 その1擊でD-ホイールを真っ二つに粉砕して尚止まること無くアスファルトを砕き刺さったライオットシールドを抜き、金色の髪をなびかせつなぎ服を着た小柄な女性がD-ホイールの明かりをバックに姿を表す。

 

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