金色の髪をなびかせた1人の小柄な女性がD-ホイールの明かりをバックに姿を表す。
「な……なんだあれ、本当に人間か………?」
「おいおいおいおいマジか!?見ろよウォールクラッシャーがフル装備だぜ!」
「あいつら……狂乱の断罪人相手に何をしたんだ?」
聞こえてくる声で彼等はようやく気が付いた。
周囲のビルの僅かながら明かりが付いており、その窓から自分達を観察するギャラリーがいる事に。
そして、この場の空気が物語っている。
ギャラリーの誰もが現われた女性が負ける事などあり得ないと考えているということに。
「………んだよ、ビビらせやがって。
どう考えてもトリックだろうがよ。虚勢を張るの良いが限度ってもんがあるだろうがよバ〜カ。
しっかし女って聞いていたけどなかなか美人じゃ」
自分が感じた恐怖を誤魔化すためか、冷や汗をかきながらも大げさな、まるで役者にでもなったかのような身振りをしながら無防備に近付いた180㎝以上はある1人の男性は悲鳴を上げる事になる。
「んか……あ?あ、あああああッ!!!指!俺の指があッ!!!」
頭に手を置こうと伸ばし、それを払うような動作を相手がした事を認識した次の瞬間。払う動作から流れるように鷲掴みに移行し小指と薬指が握られたと思った次の瞬間には曲がらない方向へ折り曲げられていた。
この男の悲鳴が蹂躙開始の合図となった。
悲鳴を上げる男を蹴り飛ばすと駆け出し、ある程度接近したところで体をねじり解き放つ、全身を使ったその一撃はライオットシールドをアスファルトへ再び突き刺さし直立させた。
シールドを突き刺さすと同時に謎の球体が突如出現し、ソレが何かと暴走族の大勢が凝視しただろう。
ソレが何かを知っている見物人達が一斉に目を逸らす、あるいは目を庇う動作を取り終わった時、闇夜が強い光に飲まれる。
『『ギャアアアアアア!!!』』
突如出現した閃光弾により視界の自由を奪われ、至近距離まで近付れる。
腕を槍のように突き刺す形のタックルを放ち数人巻き込んで押し倒し、勢いそのまま直撃させた人物の服を掴み振り回すように投げつける。
1度の衝突だけで2割以上の人が地に倒れ伏した。
仲間の影にいた為偶然目にダメージを負わなかった面々も、一瞬の出来事すぎて周囲の光景が現実として受け止めきれないでいる。
その隙に女性はデュエルディスクを構え……
「ソリッドビジョンか!?」
モンスターが召喚される特有の光が3つ発生し、人影が4方向へと弾ける。
タネさえわかってしまえば最初の強烈な光の正体も簡単に理解できる。
できたところで意味は無い。
それどころか理解した誰かが叫び余計な情報を伝えた事で彼等に残されていた僅かな勝ちの目は完全に消えた。
今この時は、ソリッドビジョンかもしれないなんて余計な迷いはジャマでしかない。
バイクの明かりに照らされているとはいえ無理矢理照らした明かりの中で、あの小柄な体格が飛び交う別の人影に紛れ集団へと入り込んだ。
そこにいると気付き叫ばれようが問題無い。むしろ好都合。わざと無視する。人という遮蔽物はあまりにも多く、気付いたところですぐに見失い……
「おい!今そっちに…「ぎゃあああああああ!!!」
その情報を伝えられるだけの時間なんて存在しない。それどころか混乱を加速させていく。情報と悲鳴が飛び交い人が痛みで地面へと沈んでいく。
「ふざけんな……なんなんだよコレ!?ふざけんなよ!?」
「姐さんはな、狂乱の宴の時に小さな地獄を作ったからリトルゲヘナとも呼ばれているんだが……お前等マジで何も知らねーんだな。
狂乱の宴は3年とちょっと前の出来事だぞ?」
あまりの出来事に拡声器を持ったまま立ち尽くしていた男は叫ばずにはいられなかった。その時に残っていたのは僅か6人。
6人もいるのだからまだ勝機はあるように見えるものだろうが恐怖はあまりにも強く、小柄な女性の姿が絶望そのものにしか見えなくなっていた。
「がっ!」
そしてまた1人、絶望の魔の手に鷲掴みにされる。
首を捕まれ、ギリギリと音を鳴らすほど力を込められていたが、不意にその手が離された。
「ぜっ……はぁ……はぁ………」
「ねえ、さっき壊した紫のD-ホイール。アンタのだったんだよね?
じゃあさ。最近猫とか轢き殺した覚えって無い?」
「……は?猫?」
この状況で何を訳のわからない事を言っているんだというのが男が抱いた素直な感想であった。
だが女の姿をした怪物の、その人を人として見ていないような残酷で鋭利な眼光が考え無しの答えは許さないと物語っていた。
その圧に負け思考を巡らせてしまい、「もしかしてあの時轢いた?」という考えに行き着いてしまう。
「そう」
恐怖に飲まれた状況で表情に出すなという方が無茶な話であり、この男をどうするか決心させた。
男の襟首を掴み、その体を持ち上げると一度引くと一気に押し出すようにして地面へ叩き付ける。
痛みで空気を吐き出したところを逃げられないよう足で押さえつける。
「もう聞きたい事は無いから安心して…………死ねェ!!!」
この騒動の中で最も強い殺気と渾身の叫びと共にデュエルディスクが振り下ろされた。
デュエルディスクが突き刺さったすぐ横には、白目をむき口から泡を吹き出す間抜けな男の顔が………
「バァ〜カ。殺したら反省させられないんだから殺すわけがないじゃん」
男を押さえつけていた足を退け、終わったとばかりにタバコを咥え火を付けると一気に半分程吸う。
この地獄を創り上げた女性は美酒を味わったかのような、とても満たされた表情で煙を吐いた。
あぁ〜……タバコが火照った体に染みて美味い〜。
不思議なものだよ。いつも吸っているタバコと何ら変わらない筈なのに今年入って一番。格別な味だね。
復讐は何も生まないなんて言葉を何時だったか耳にした事あるけどそんな物は痛みを知らない奴の戯言だって確信できるよ。
じゃなきゃ今私がこんなにも晴れやかな気分になれる筈が無い。
復讐単体には何の生産性も無い事は否定しないけどさ、復讐をしなければ明日へ踏み出せない奴だって絶対居る。
私から言わてもらえば復讐は明日へ進む為の儀式だって方がよっぽど理解できるね。
「よっこいしょ」
突き刺したデュエルディスクを引き抜く。
……ん〜?ちょ〜っと手が痺れるな。まあこんな短時間で連続してこの技を使った経験無かったし少しすれば収まるかな?
全身を使って勢いを付けて粉砕するから疲れるんだよねぇ〜。
とりあえずデュエルディスクにセットされたカードをデッキに戻しシャッフルしとこ。
さ〜ってと、次はライオットシールドの回収でいっか。
このライオットシールドはね、狂乱の宴の時に拾ったんだよ。
もしコイツを拾えなかったら生き残れなかったかもしれない大事件でね、事件の後にボロボロにしてしまった事を謝罪してセキュリティへ返却しようとしたのだけれどさ〜。
なんかお姉ちゃんセキュリティの人達にメッチャ怖がられちゃって話にならなくてさ、ゴタゴタの末に私の物になって今では大事な相棒でカチコミに行く時は必ず装備しているんだよね。
人を殴るのはもちろん、遮蔽物にも使えるし高くジャンプしたい時の踏み台としても最高だよ。
「でゅ、でゅあ、デュエルだぁ!!!」
そんな相棒を回収しようと足を進めていると背後から大声がして振り返ると生き残りがデュエルディスクを構えてデュエルを仕掛けようとしていた。
「え?今更?………はぁ、最初からそうしてれば比較的平和に終わったのにね」
「うるせぇ!コッチは5人だがズルイだなんて言わせねえぞ!」
………どうして?
どうしてこう……本当にどうしてこの人は1つ1つ丁寧に自分の逃げ道塞いでるの?
「ふ~ん……ま、何人だろうと良いよ。結果は変わんないだろうし」
内心ドン引きしながらデュエルディスクからデッキを抜き、腰に下げた3つのデッキケースの1つへしまう。
そして、真ん中にあるデッキケースからデッキを取り出しセットする。
「当然俺も参加するぜ」
「ナーヴ。それと………あれ?さっきラリーもいたよね?ラリー?」
「ラリーには刺激の強すぎる光景になると思ってジャックの面倒見させに戻らせた」
「あ、そうなんだあんがと。ナイス判断だよナーヴ」
「クソがッ!!!たった2人で何が出来る!いくぞ!『『デュエル!!!』』………は?」
デュエル開始が宣言された。
デュエルの宣言の数は7人ではない。
10や20でも無い。もっと大勢、50人強はいるだろう。
「ぶっ、ダーッヒャッヒャッヒャッヒャ!なんだその間抜け面はよう!」
「ん?あれ?暗黒行商人じゃん」
「よう、玉砕クイーン。相変わらず健在だな。ひひっ」
「残念ながらちょっと鈍り気味。見ないと思ってたけどそっちも沈められずに生きてたんだ」
「ひっひっひ、行商人がいなきゃ経済は回らねーだろ?」
うわぁ……狂乱の宴の時、記憶違いじゃなければRPG?とかいう名前のヤベー爆発物持ち込んできたヤベー奴が来ちゃったよ。私が想定していた惨事の範囲で済むか不安になってきた。これもしやヤベーんじゃないかな?
そんな世間話をしていれば行商人に続くように悪い大人達が夜闇の中からバイクの照明の中へ入り込んでくる。
「たった5人で随分強気だったじゃねーか?やる気なくなっちまったか?」
「そこのオネンネしてるお友達も仲間に入れて良いんだぜ~?」
「今言ってた鈍ってるってマジ?……マジかぁ。サテライトの生きる伝説は伊達じゃねーな」
「行商人がいるからその辺は大丈夫だろーがテメーら後片付けの事も考えとけよ」
「俺等全員のツラにドロ塗ったんだから当然覚悟できてるよなお兄ちゃん等よぉ?」
「どうしたどうしたー?膝が笑ってんじゃねーか」
収集付かなくなってきた。仕方ない、そこら辺に転がってる奴からデュエルディスクを1つ借りてアスファルトに突き刺して周囲を黙らせる。
「私はもう満足したからとっとと寝たいの。どうせ残ってるの後片付けだけなんだからアンタら好き勝手ダベるのは終わってからにしなよ。
ほら、先攻はそっちにあげるから好きにやりなさいな」
「こ、後悔してもおせーぞ!俺のターンドロー!俺は手札から……」
頑張って展開してる中で自分の手札を確認してみる。
「(わ~お……見事に緑色だなぁ…………)」
デッキの9割以上が魔法カードだしそりゃそうか。
当然の結果に益々冷めた気持ちになりながら眺めていると相手側の最後の人、たぶんリーダーだろう人がガンナードラゴンからデュアルサモンの偉大魔獣ガーゼットで5600とかいう物凄いことしてきた。
コレが普通のデュエルだったらどう攻略するか手に汗握る感じだったのに勿体ない。
「うはははは!どうだぁ!攻撃力5600!これが俺の力だ!この攻撃力はキングにだって越えられやしねえ!」
「あっそ。やっと終わった?
私のターンドロー。無の煉獄を発動しドロー、成金ゴブリンを発動し1枚ドロー、手札から1枚目火の粉、2枚目火の粉、3枚目火あぶりの刑、4枚目と5枚目ファイヤーボールを発動し対象は全部君ね」
「は?……うぎゃあああああああああ!!!!」
「1枚伏せてターンエンド。」
「俺のターンドロー。いひひ、レアカードだぜ!俺は手札からデスメテオを発動だぁ!ヒャーッハハハハ!!!良いねえその表情!コイツは効くぜぇ!対象は…………」
そして私がした事と同じ事が繰り返され……
「おい……まさか、コイツら全員………?」
「何当たり前な事言ってるの?こうなるに決まってるじゃん。なんかお姉ちゃん、お兄さん達が何考えてるかよくわかんないよ……罠発動ギフトカード」
「ヒュー!お優しいねえ!」
「良かったな!もしかしたらターンが戻ってくるかもしれねえなぁ!?」
「お〜デスマッチ用デュエルロープ持ってくる間に随分盛り上がってんじゃね〜かよ〜!」
悪意しかない笑顔に囲まれご自慢の5600の超強力モンスターが完全無視されるのは可哀想だけど、サティスファクション条約を破ったらどうなるか再認識させるための見せしめとして処刑されておくれ。
「俺のターンドロー。俺は成金ゴブリンを発動しドロー、ファイヤーボールと2枚の火炎地獄を……」
「俺のターンドロー。俺は2枚のファイヤーボールを発動」
「俺のターンドロー。俺は雷鳴に革命にファイヤーボールを」
「俺のターン。ファイヤーボールを」
「俺の」「ファイヤーボールを」「俺のターン」「俺はファイヤーボール3枚」「俺は」
夜空から無数の火球か降り注ぐ。
こうしてサテライトに新たなる伝説の1ページが出来上がったのだった。
狂乱の宴はクラッシュタウン編を数割増しに過激にした感じで戦っていた人達は大真面目ですが至る所の絵面がギャグです。
自分でRPGぶっ放しといてその爆風に飲まれて転げたりしていました。