「捜査官君。この男の身柄、しばし治安維持局に預けてくれないかな?」
真夜中のネオドミノシティ。
その言葉によって、今正に始まろうとしていたセキュリティと赤いD-ホイールに乗るマーカー付きの青年によるライディングデュエルは中止させられ事態の複雑さがより深くなろうという場面であった。
「長官からメッセージを預かっておりますよ。……彼女の身柄と一緒にね」
「彼女?………なっ!?」
その小柄な女性は青年の家族であった。
青年にとって常につなぎ服という印象が強く、見慣れない、しかしバイト先での服装だと知っているドレスを身に纏う義姉の姿がそこにあった。
女性は後ろ手にロープで拘束されており、左右に治安維持局であろう男に挟まれながら青年の方へと足を進める。
「ごめん遊星、来ちゃった」
くたびれた雰囲気でありながらも心配させまいと青年へ笑顔を向け、その笑顔を見た遊星は必死の形相で叫ぶ。
「なにを馬鹿な!今すぐその人から離れろ!
手首を拘束されたくらいで止まる人じゃない!
悪い事は言わないから今すぐ逃げろ!血祭りにされるぞ!?」
「ちょっと遊星?」
「あぁ、やはり……私も彼女に囚われのお姫様は無理だと進言させてもらったのですが……ヒッヒッヒ………」
「……お姉ちゃんだって、乙女心って物くらい持ってるんだけどな〜」
軽口と共に溜め息を一つ吐いた彼女を縛っていたロープが地面に落ちる。
神速。神業と評価できる手際であった。
隠し持っていたカードによる一閃でロープは切断され、左右にいた男性が咄嗟に距離を置いたのは誰が責められるだろうか?
義姉の業を見ても逃げなかった事に対して遊星は心の中でとてつもなく強い精神力だと評価した。
そんな態度に納得いかないと女性が不機嫌な表情をするもそれは一瞬の事。
「ゆ〜うせい♪」
親しいからこそ出来る接し方で遊星へと近付くと手紙を差し出す。
「これ、フォーチュンカップの招待状なんだってさ。
まさかこんなに派手な喧嘩ができるなんてラッキーじゃん?
お姉ちゃんもジャックには1発入れるつもりだったけどさ、この大会でぶっ飛ばした方が絶対効き目良いと思わない?
ならやる事は決まりじゃんか。
私もサポートを最大限するからさ。私達を代表して遊星のその手で顔面思いっきりぶっ飛ばしてやろうぜ!……なんてね☆」
そもそも何故私がシティにいるのかの話しをしよう。
長かった祭りの夜の熱がまだまだ冷めずに暑くて熱くなったサテライトは微妙に治安が悪くなっていた。
シティの住人が見たら元々汚れていた所に別の汚れが付着したようなモノで違いなんてわからないんだろうけどさ。
「「デュエル!」」
生存報告の挨拶回りついでにパトロールをしていればここでもデュエルの宣言を耳にした。
あの時のリンチで火が付いたのかデュエルをする悪い大人が多くてさ。それも道のド真ん中でおっぱじめるもんだから交通に支障が出たりでコレが主な理由で治安悪化に繋がっている。
こんな昼間っからデュエルする事ができるのはそれなりに力があって仕事をサボってても文句言われない連中、あるいはいない方が助かるかのどちらかだけど大抵は文句言われない方だね。
いない方が良いのは食い扶持探すのに必死なケースのが多いから。
「ジャック。邪魔になるからコッチおいで」
強めにリードを引っ張り近寄らせ(猫だけど散歩の時間を作らないとジャックは歩かない。歩け痩せろ我が儘キュートボディーめ)、近くに来たところをしゃがんで抱き上げると大人しく腕の中に収まってくれる。……そんなに歩きたくないの?
ジャックを両手で抱え、迷惑集団の脇を通り過ぎれば目的地だ。
「……………」
ドアノブに手を掛けるが上手く回せない。
どういうわけか、軽い筈の扉が酷く重たく感じてしまう。
「すぅー………………よし!」
あの夜、バイクを真っ二つにした時以上に気合を込めてドアノブを回し力いっぱい開……
「あっ………あーっ!!!」
開こうとしたけど元々ガタついてた事もあって私の握力によってドアノブがお亡くなりしました!
わっ、ごめん!いきなり大声出したのは悪かったから暴れないでジャック!良い子だからごめんってぇッ!?
バイト先やら付き合いのある人達に心配かけた事への謝罪もあらかた巡り終わり、疲れて完全に歩かなくなったジャック様を抱いて近くにある品揃えの悪すぎる雑貨店を目指している最中。
「か〜ごめか〜ごめ〜♪籠の中の鳥は♪い〜つい〜つ出〜や〜る〜♪夜明け〜……」
「お〜いたいた」
「ん?暗黒行商人?」
日当たりの良過ぎる道の真ん中で見た感じくたびれた50代(本人曰く40前半)くらいの怪しい男、暗黒界デッキを使用するサテライトで上位のデュエリストに入るだろう行商人が声をかけてきた。
「よう玉砕クイーン。んや、今は死を運ぶ童歌手って「訂正しないとブチのめす」……ひ、ひひひひっ、ワリィワリィ。もう2度と言わねえよ」
「なら良し」
私の趣味は大声を出すこと。そして歌だ。
残念なことに7〜8歳くらいまでしかマトモな生活を送れていないので二十代相応の大人な曲を知らないから歌のレパートリーが童唄とかアンパン〇ンのマーチくらいしか無いんだよね。
サテライトという治安の悪い場所で堂々と歌っていられる女性となればそれは十中八九リトルゲヘナである。
だから後ろめたい事している奴等は歌を耳にしたら即座に逃げ出す事ができ、私も面倒事に巻き込まれなくて済むでWin-Winってやつになる。
指名手配されてるのに逃げなかったら死(セキュリティ送り)あるのみで弟達のお小遣いやマーサハウスの寄付金になる。
そんな理由から『死を運ぶ童歌手』なんて異名が付けられた。
けどさ、趣味の中でも歌と大声を出す事は好きの度合いでかなり上位に入る物な訳でこの異名は本当に嫌なんだよ。
訂正しないと指名手配される要素を適当に付け足してお駄賃にしてやる。
暗黒行商人なら付け足す手間が無いから楽だね。
どうせ半日もしないで釈放されるんだろうけど(4回)
こうなってくるとやっぱりマーカーってマヌケの証だよね。
自分は牢屋の中にぶち込まれました〜って。
だってRPGなんて兵器持ち込んだ超悪い大人がマーカー付けられる事もなく釈放されるんだよ?
どんな手段使ったか知らないけど狂ってるよね〜。
「それはそうと玉砕クイーン。何枚か写真撮らせてもらっても良いかい?」
「写真?…………6なら良いけど?」
「いひひ、話が早くて……6!?強欲が過ぎんだろ!?2!2だ!」
「5」
「2だ!」
「4」
「……オーケーわかったわかった。3だ。これ以上は無しだ」
「3ね。オッケー」
このタイミングでこの男が写真を欲しがるということは何処かが依頼しているところを見つけて来たってところだろう。
そしてこの反応からして中々の依頼料みたいだね。
酒代の足しになる小銭程度じゃここまで抵抗しないだろうし。
「弟達も見るかもしれないし可愛く撮ってよ?ほらピースピース」
「ひひひっドヤ顔ダブルピースたぁスゲェな!」
「ん?写真ってピースするモノじゃないの?」
「んん?もしやジェネレーションギャップってやつか?おじさんももうおじさんか………」
「50歳はおじさんどころかおじいちゃんなのよ?」
「まだ40代じゃい!」
呆れながら一度下ろしたジャック様を抱え直して行商人のカメラを見る。
「カメラの良し悪しなんてわからないけどさ、随分良さそうなの持っているんだね。なんか意外」
「おじさんの趣味じゃねーよ。借りもんだよ借りもん。依頼主からのな」
「へぇ〜。サテライトの成金のくせに随分と気前が良いんだね。ん〜……もしかしてシティの住人?」
「ひひっ、それはどうだろうねぇ〜。
ただ、おじさんから見てもお客さんはかくれんぼが上手そうに見えたけどよぅ、それでもお前さんにレンズを向けるとコッチに振り向いてくるってんでおっかなくて写真が撮れないんだとよ。ひっひっひっ」
「あぁ……あの祭りの後くらいからスコープで見られてる気がしたけどカメラだったんだ。レンズとスコープの違いってわからないからなぁ……」
「逆に何でわかんだよ怖いって」
「はあ?3年前にどっかの馬鹿がRPGなんてモノを持ち込んでくれたお陰で警戒するしかなくなったからなんだけど随分と面白い遺言じゃんね?」
「おいおいおいおい、売り込んだのはおじさんかもしれねーが祭りに持ち込んだのは別の奴だろ?だからそんな目でこっち見るなって………ちょっとは悪かったかもな、わりぃ」
「…………はぁ〜。いつか本当に沈められてもしらないよ〜?」
「ひひっ、お優しいなぁ。せいぜい気ぃ付けさせてもらわぁ」
そう言って手を振って去っていく行商人の後ろ姿を完全に見えなくなるまで見送る。
「さて、3割もしくは相応の対価はキッチリ貰いに行かなきゃね」
サテライトのアスファルトは常に砂やらで汚れてるから新鮮な足跡なんかがクッキリ残る。
行商人の今日の靴は随分良いモノらしくて追うのが簡単そうだ。
ふっふっふ。実はお姉ちゃん、かくれんぼは当然として追いかけっこも大得意なのだ。ヤンチャが過ぎる弟3人に振り回されてきた実績は伊達じゃないからね。
隠れ鬼……いや、ケイドロかな?どっちでも良いけどその途中で隠れ拠点Bの近くを通る感じだったから一度そっちへ行ってジャックを置いていく事にした。
「あれ?みんな居るんだ」
「セイラ姉さん!」
ラリーがパソコンから顔を退けて笑顔で手を振るとコッチコッチと手招きしてくる。
「全員で仕事サボるなんて珍しいじゃん………?」
スコープ?見られ………いや、タイミング的に行商人と同じカメラだろうね。危ない危ない、あともう少しでそっち振り向いてしまうところだった。
しかし私はともかくこの4人の写真が欲しいってどこの誰よ?
てっきり不本意に付けられた異名を知って写真を欲しがった物好きな金持ち、それこそトップスに住んでるくらいの金持ちが趣味で依頼したものかと思ってたけど何か話が変わってきたね。
「システムトラブルで復旧の目処が立たないとか言い出してよ。それで……」
「それでなんかさ!シティでもシステムトラブルがあったのかシティのテレビが見放題な状態でちょっとした大騒ぎになってさ!」
「へぇ〜、だから外出てる人少なかったのか」
デュエルにお熱な人も多いけど熱量に対して人数が少ないなと感じていたけどそういう理由だったのか。
「見たいけど探し物しに来ただけだから。あ、ジャック預かっておいてよ」
「探し物なら手伝うけど?」
「エッチ」
「え?ごめん、デリケートなもんだったか?」
「ナーヴがエッチだって〜」
「おい!」
「ジョーダンだよ。でもせっかくの機会だしお姉ちゃんの事は気にせず楽しんでなって」
2階に軽やかに上がり、自室に入り扉を閉めるとつなぎを脱ぎ捨て、クローゼットを開き手早くラリーとほぼお揃いの服に袖を通し、衣類と一緒に入れていたデスマッチ用デュエルロープを回収する。
そのまま流れるようにスムーズな動きで窓から飛び降りる。
自室に入ってから2分使ってない手際の良さに我ながら惚れ惚れしちゃうね。
代償に自室は脱ぎっぱなしの開けっ放しで空き巣に遭ったかのように汚いけど……
服のズレなどを調整しつつ悟られないよう遠回りして、大雑把にこの辺かな?と目星付けていた付近を慎重にうろつく事で気付かれる前に見つけることができた。
それは帽子を目深に被りカメラを構えた小柄な男で………
「ぐぬぬぬぬ、あの娘も含めた5人の写真をもう数枚は撮りたいというのにもう10分も経って……いえ、もしかしたらもう少し降りてくるかもしれません。ヒッヒッヒ、ここは落ち着いて待つのが最善でしょう」
と、物凄く特徴的な、一度聞いたら忘れられない声色で大きすぎる独り言を呟いているものだから。この不思議過ぎる存在に思わず数秒間フリーズしてしまった。
気付かれる前に物陰へと隠れる事に成功し、そのまま離脱してたばこに火を付ける。
「スゥー………フゥーーーー…………………」
………よし、落ち着いた。
怪しいけど地味な格好。なのにあの存在感は凄いね〜。
あれはもう才能としか言えないね。お姉ちゃん驚いたよ。
だってさ、お姉ちゃんがこの方向性でこんなにも驚いて心が乱れたのは初めてだよ?
笑い方暗黒行商人と被ってるし。でもダーッハッハッハとは笑わなそうな感じがする?
……さて、きちんと足跡も確認したしこのままコレを追いかければ仮拠点、もしくは足に辿り着けるでしょうしそっち押さえよう。
足跡が続いてる方向も丁度暗黒行商人が向かっていた方向と一致してるしね。
「ん?お?おぉ~ラッキー。ねえねえそこのお兄さん。丁度良さそうなコート着てるじゃん」
パソコンでテレビをラジオ代わりのに流しながらトランプしてる4人卓で良い感じのコートを見つけたので飛び込む。
最初ラリーと間違えて「なんだ盗っ人のガキかよ」と言われたけど、声をかけたお兄さんが私をジッ……と見ていて、何かに気付いて顔を青くする。
「リトルゲヘナじゃねーか!?」
「やっほ〜。リトルゲヘナちゃんです。
ちょっとヤンチャするのにもう一手間変装したいからそれ譲ってくれない?2でどう?」
「……仲間襲うなら売れねーぞ?」
「シティの連中が?」
「シティ?なんでシティの連中が………って、あぁ。もしかしてあの理解してますって面した奴らか。……こんな小銭にもなんねー中古に2ってマジ?」
「緊急だからね。待ち時間が発生するけどそれ抜いて……まあ5分以内に終わらせる感じ?」
「わかった、2で売る」
「取引成立!」
脱いで持ち上げたコートひったくり机に2枚の紙幣置いて飛び出して狩りへと戻る。
なんかこのコート汗臭い。
ま、まあロングコートを布団にして寝るのはサテライトじゃありふれた光景だしそういう事でしょ。今は暑くなってきてるし尚更だね、仕方ない仕方な~い。
………うん、すぐに終わらせよ。