地味な格好なのに何よりも存在感を放つ男の足跡を辿り、さっきの買い物含めても3分程度で足を見つけた。
サテライトでもわりと見かけるタイプのワゴン車。
「はぁ〜………」
おっと、ついつい溜息が漏れちゃったよ。
けどサテライトの汚さがわかってますよと言わんばかりに汚したワゴン車を見てしまうとね?
見てわかったよ。私どころかロングコート売ってくれたお兄さん(お兄さんは無理あるかな?)の目からしても「理解してますって面した奴ら」って言われるの仕方ないって。
コレだったらいっその事ピカピカな新車にしといた方がどっかの成金が見栄の為に買ったんだなでスルーするし傷物にでもしたらケジメ案件だから誰も近付かなくなるのに。
全く、コレだからシティの都会っ子は。
汚いって一言で言ってもいろいろあるんだよ?うろ覚えだけど黒という色は1色じゃなくて100色以上あるのと同じ様にそれはもういろいろとね。
「ふっ」
適当な廃ビルにデスマッチ用デュエルロープを付け、一度廃墟に入って適当な窓から外に出て汚れた綺麗なワゴン車へ、後輪を狙い投げ付け上手く繋がる。
「………よしっ」
ロープを引っ張りシッカリ強度を確かめて外れる事は無いだろうと確認が終わったところで音に気付いたのかサイドミラーで気付いたのかはわからないけど背の高い男性が助手席から出てきて目が合いそうになる。
「あっ!ガキが!何のつもりだ!」
目が合いそうになったので背を向けゆっくり逃走。
ガキ呼ばわりも身長も服装もラリーと殆ど変わんないしお姉ちゃん許しちゃう。
全力だとすぐ諦めちゃうから足が遅い奴って誤認する程度の速度で走るのがコツだね。
コレで釣れないなら強硬手段が一番手っ取り早い。他にもやり方はあるけど暴力が1番スマートに終わる。
今回は釣れたので適当な建物をグルっと一周し、その途中で適当にかけておいた地味でボロいロングコートを回収して着る。
そのまま流れで何故か鍵のかかっていない不用心な助手席からお邪魔しま〜す。
「いや〜今日も暑いね〜。ちょっとお姉ちゃんも涼ませてよ」
「……………は?」
ここは可能な限り優しい声色で話すのがポイント。
よっぽど変な行動でもない限り脳の処理が終わるまでの間にコッチがしたいこと案外できちゃうもんだからさ。
初見でコレを回避できたのは2人しかいないから成功率物凄く高いよ。
それで何をしたかって言うと助手席と運転席の間から後部座席に移動しただけ。
移動し終わったタイミングで気付いたんだろうね。私が狙っていた1人である事に。
冷や汗垂らして何も言わなくなっちゃった。
背後取られてるし迂闊な事できないとか思ってる?
間違ってもないけど別に暴力振るうつもりなんて無いんだけどな〜。
「くそ、逃げられた。何かロープを切る「お帰り〜」もの………」
「……ん?どうしたの?せっかく冷房効いてるし早く入ってきなよ。お姉ちゃんもこの暑さは大変でね〜。丁度良く冷房完備の個室があって助かったよ〜」
何かを悟り重苦しい気配を漂わせて無言で車に乗り込むお兄さん。
2人の重苦しい空気で車内が凄いことになっているね。
「ここで出会ったのもなにかの縁っていうしタバコミュニケーションで自己紹介からしよっか。初めまして、私はステラって言うんだ。よろしくね。お兄さん達は……って、あれ?もしかしてここ最近よく目が合うお兄さん?」
どちらかに目線を向けるのではなく、目線はルームミラーの真ん中になるようにする。そしたら運転席のお兄さんの方が若干強く反応したからたぶんコッチの可能性が高そう。
「う~ん……気のせいだったかな?ごめんね。それより緊張しすぎじゃない?ほらピースピース」
友好的な笑顔でピースして空気が益々沈んでしまう。何で?って一瞬思ったけどそこで思い出した。写真撮った時と同じポーズじゃん。反応からして行商人からカメラ返して貰ってるみたいだしスッゴイ威嚇してるみたいに受け取られた?
「…………ま、まあ誰にだってミスはあるし気にしないでいこ?って、お兄さん達タバコは?あと、おいたも良いけど、やる相手と場面は間違えないほうが良いよ?」
懐に目線が走ったのを確認したので釘を差しつつ私のタバコを1本ずつ咥えさせてプレゼントしてあげた。
ついでに運転席のお兄さんが被っていた帽子をちょっと借りる。
「どう?似合ってる?………ノーコメントはちょっと傷つくなぁ。まあ私としても荒事はしたくないし仲良くしよ?
そろそろ2人の上司も……」
「何故それを!?」
「おい!」
「あれ?当たったんだ。いや〜、サテライトもそうだけど立場ある人間って何で色物が多いんだろうね〜?その中でもあの人は凄い存在感だったよ?……あ、大丈夫。何も手を出してないよ。写真を取ろうと大きな独り言するくらい元気だったからそろそろ戻ってくるんじゃない?」
表情が硬いのは当然だけど、その硬さを貫通して上司が色物って部分に思うところがあるのか何とも言えない表情が滲み出ている。
せっかくタバコをあげたのに咥えるだけで吸ってないからたぶん遠慮してるんだね。一度タバコを大きく吸って灰皿ポーチへ吸った分を捨てて続きを口にする。
「それでさ、わざと隙を見せて写真を撮らせたから今頃《ヒッヒッヒ、サテライトの伝説と言われていようが大したことなどありませんでしたね》って感じに……」
と声真似も混ぜてお話しをしていると後部座席の扉が開かれたので帽子を深く被りつつ席をつめる。
「戻りましたよ。ヒッヒッヒ、サテライトの環境が生んだ怪物と聞いていましたが大したことなどありませんでしたね。まったく、貴人方が珍しく音を上げるものですからどれ程のものかと………貴方達、業務中ですよ?何故タバコを吸っているのです?この私を外で働かせておいてタバコを吸うなど「ブフッ!」……どうしました?」
前の席の2人に向けて話してたところだったピエロメイクをした小柄な男性が怪訝な目を向けてくる。
「ご、ごめんなさい……ふふ、適当に言ったことがこんな、ふ、駄目……アッハハハハハハハ!お腹痛い!」
帽子を外して目線を合わせるともう駄目だった。決壊して爆笑してしまった。
こんな上手くいく事ある!?昔見たことあるコミックスのギャグ漫画じゃんこんなの!?ネズミと猫のコメディなやつ!
いくらこの上司が帰って来る方向とは逆方向のタイヤにロープくっつけたとは言ってもマヌケ過ぎてほんとお腹痛い!
そんな感じに爆笑している私に対してピエロメイクの男性、後で自己紹介して知る事になるイェーガーさんは何かに気付き、目を細めて自分が持っているカメラの映像と私の顔を交互に見比べ………
「な、なななななな何故!何故狂乱の断罪人がここに!?」
「や、やめ!アハハハハハハハ!」
「……で、そのイェーガーって人からフォーチュンカップの事聞いてなんやかんやあって遊星を参加させるのに協力するからって話してここに来たんだよ」
「それは怖かっただろうな。可哀想に……」
「ねえ、その怖かっただろうなって誰の事言ってんの?本当に遊星の中でお姉ちゃんってどうなってるのさ?」
「……………」
美人な姉が全身預ける感じに伸し掛かってるのに完全スルーは酷くない?
お姉ちゃん本当に寂しかったんだよ?
……まあ、それがわかってるから好きにさせてくれてるんだろうな。
遊星は変わらずしゃがんでD-ホイールの内部をいじっていて普段ならとっくに「今は大事なところなんだ、邪魔をしないでくれ」くらい言ってくるだろうに。
クールって言うか、優しさがわかりづらい。てれやさんめ。
「サテライトの環境が生んだ怪物……いや、サテライトの生きる伝説が血縁者では無いが姉って話しはマジなのか」
そんな感じにじゃれている様子をマジマジと眺めていた雑賀さんがようやく口を開いてくれたので背から退くと遊星も立ち上がったので遊星と雑賀さんの中間、D-ホイールの上に寝転んでいたジャックを抱き上げ邪魔にならないようにする。
「……あぁ。何度も命を助けられ、奪うところを見ている」
「へ?奪ってないよ!?何度も言ってるけど顔面ギリギリにデュエルディスク突き刺しただけで殺してないって!殺しちゃったら反省させられないじゃん!?」
「殺さない理由がそれって……確かに本物なのかもな。……なんつーか、本物は言う事が違うな」
「良い人なんだ。……だが、順応しすぎて致命的にズレているんだ」
「うっ……そうやって指摘されるとそうかも。ズレてるというより、生き残るために無視する癖が付いただけだからそんな目で見ないでよ〜………」
………この2人、私がサテライトに流れ着く前はトップスとはいかなくても富裕層って言える生活していたから育ちは良いって知ったらどんな反応するんだろ?
言えないけどさ。
「あ、そうそう。ちゃんと行商人からはキッチリ3割巻き上げたし皆にシティに行くことも話してあるからその辺は安心して」
「その辺は心配していないが……」
私へと一歩近付きしゃがみ目線を合わせた遊星は嘘や誤魔化しは許さんとばかりに真っ直ぐと私の目を見つめ、いつも以上に真剣な眼差しで……
「……遺言を書き置きしたりは?」
「してない!してないから!もう二度としないって約束したでしょ!?」
「それなら良い」
「遺言ってお前、その若さで………?」
5年前の出来事で十分大きくなっていたジャックやクロウだけじゃなくて遊星も泣かせちゃったからもうしないって約束してるのに時々不意打ちで確認取ってくるよね。まだまだ許されなさそうだからコレを出されると私は謝罪しかできなくなる。
「そ、そうだ!雑賀さん何でも屋なんだよね!頼みたいことがあって!」
「そうだが何をだ?」
「サテライトに繋がりってある?暗黒行商人があるくらいだしあるよね?」
「サラッとこの界隈でレジェンド級の人持ち出すなよ……いや、当然あるけどさ」
「良かった、ちょっと待ってて!確かコッチに……あれ?ここら辺に……ちょっと遊星!招待状は一応大事な物なんだから工具入れの下敷きにしちゃ駄目じゃん!?………はい、とりあえずコレ」
そう言って作業台に置かれていたフォーチュンカップの招待状と2枚の写真を渡す。
「この写真は?」
「最初の計画だとその写真渡してフォーチュンカップに参加しなければ写真の人物の身の安全は保証できないって言うつもりだったらしいよ?」
「それって脅迫じゃ……なんでダブルピース?」
「そっちもだけど、もう一枚の方をよ~く見て」
雑賀さんが見ている写真は4人がパソコンでテレビを見ている最中に私が戻ってきた時の写真で、丁度覗かれている事に気が付いてそちらを向かないように気をつけていたのだけど……
「………なんか、セイラだけカメラ目線だな。全く違う方を向いてるのに」
「それでも盗撮されてる方に振り向かないよう気をつけてたんだよ?」
「いや、そもそもなんで気付いてるんだよ?」
「そこは慣れと経験としか……」
何そのアイコンタクト?2人とも長くたって知り合って1月くらいでしょ?お姉ちゃん置いてけぼりにしないでよ。
いや何のアイコンタクトだったかわかるからやぶ蛇突いたりしないけどさ。
「それで今まで話したイェーガーさんとのコントの流れをしてね。向こう側が脅迫が脅迫にならないと理解してさ、偶然にも私達の利害と一致したから協力して遊星をフォーチュンカップに参加さる話になったんだよ。ここまでは良い?」
「ああ」
「利害が一致し協力しているのだからお互いに要求をし合う訳で、その中の1つがサテライトの仲間達が無事であるか定期的に写真付きで送るように話が付いてるんだよね。
けどさ、お互い利害だけの関係な訳じゃん?治安維持局なんて当然信用できないから別ルートで皆の安否を知りたいんだ」
「脅迫しようとしていた相手だし信用できないのは当然だな。この写真しばらく借りるぞ」
「え?そんなすぐ行くの?依頼料の話しもまだだし」
「今回は事態が複雑だしいい……それに、遊星。これはお前の絆だろ?」
そう言って雑賀さんは出て行ってしまった。
え?何あの人?漢が過ぎない?カッコ良すぎる……せっかくサテライトからシティに来たのに最初にモテた相手が漢って遊星、知ってたけど人垂らしが過ぎない?
「……あっ。そうだ、お姉ちゃんも買い物したかったから今のうちに行ってこよ」
「部品なら足りているが?」
「あのね遊星、お姉ちゃんがいつも弟の為に買い物してると思ったら大間違いだよ?」
「違うのか?俺の知る限り最近は誰かの為にしか買い物なんてしていないように思えたが気のせいだったか?」
「………………え、やだ。そんな事言われたらそんな気がしてきた。
ちょっと待って、ここ最近何か自分だけのためだけに買ったっけ?」
「当然生活必需品は対象外だ」
「わかってるよ!」
……………えぇ?ちょっと嘘でしょ?
指摘されるまで全然気が付かなかった。確かにお猫様の為や孤児院の子達の為、弟の遊星の為(ジャックもクロウも側にいてくれないから)にしか稼いだお金使ってなかった?
「こ、今回は違うから!お姉ちゃんお洋服を買いに行く為のお洋服を買いに行ってくるから!」
「???……待て、いったい何を言っているんだ???」
遊星が困惑しているのを背に飛び出す。
プログラミングに入って技術不足で手伝えなくなったから暇になったんだよね。
姉弟2人っきりでやれることがジャックを愛でるか遊星がキレるまでからかい続けるチキンレースしか無いから…………
ん?2人っきり?
「たっだいま〜!」
「どうした?忘れ物か?」
「忘れ物というか、忘れ事って感じかな!」
遊星に近付きほっぺを、正確にはマーカーをムニッて押す。
「セキュリティに捕まったマヌケはっけっとおっ!?ふぅ、危ない危ない。じゃあお姉ちゃん今度こそ行ってくるね!」
めっちゃムスぅとした遊星を背に飛び出していく。
2人っきりの時にしてあげたんだからむしろ感謝してほしいっての。
クロウは1回目で身内が数人いる中で「このおマヌケさんめ〜」とか言いながらマーカーほっぺグニグニしたし遊星も見てた。
2回目で夜中寝てる間にマーカーの上にマジックでマヌケって書いてやって朝食の時当然遊星もそのラクガキ見たし、そっから何回目だっけか?お尻ペンペンでクロウが本気で悔し泣きしそうになってたのが一番記憶に新しいかな。
そんな事してたらクロウが「何でアンタはマーカー付いてねーんだよ!」とか言ってきて「わからないからマヌケって言ってるんだよ?」って返したけど、たぶんわかるけど受け入れたくないんだろうな。
反骨精神強くて器用なくせして不器用なヤツ。
でもそこが可愛いんだけどさ。