八葉を継ぐ者──AAA──   作:クラウンドッグ

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特異点、邂逅す

 

6月、自由行動日。

 

 

「こんにちわ、ナギト教官」

 

「相変わらずトボけた面してやがんな、カーファイ」

 

 

 

「ミュゼにアッシュか。珍しい組み合わせだな?」

 

 

午前10時、ナギトの部屋を訪れたのは新たに新Ⅶ組のメンバーとなったミュゼ・イーグレットとアッシュ・カーバイドだった。

 

「うふふ」と笑うミュゼに対してアッシュはぼりぼりと後頭部を掻いて。

 

 

「あー、そこで鉢合わせただけだ」

 

 

「ほーん。んで、何か用?」

 

 

先月の宿酒場の失言でミハイルから雑事を押し付けられたナギトは昨夜遅くまで仕事をしていたため寝不足だ。自由行動日にまで仕事を持ち込みたくなかったため急いで片付けたが、得られたのは自身は書類仕事が苦手だという認識のみだった。

 

 

「ほら、私たちⅦ組に入ったばかりじゃありませんか」

 

 

「んで、Ⅶ組の副担任様が自由行動日をどうやって過ごしてるか確かめに来たってわけだ」

 

 

 

「んー」とナギトは寝ぼけ眼をこすりながら2人の話を噛み砕く。

 

 

「つまり暇なの?」

 

 

つまるところ、そうだ。色々と理由はあったがミュゼとアッシュは暇を見つけてナギトという未だ謎多き教官の元を訪ねたのである。

 

 

「リィン教官についてはある程度リサーチは済んでいます。せっかくの自由行動日だというのに他人からの依頼を引き受けているようですね」

 

 

「対してカーファイ、お前は何してんだ?帝都に遊びに行ってるわけでもなさそうだし……と思ってな。半日だけ付き合ってやるから、そろそろ正体明かせや。ついでに昼メシも奢らせてやるぜ?」

 

 

アッシュの挑発紛いのそれにあくびで応えたナギトは「ちょっと待ってろ」と言って部屋に引っ込む。それから準備をして2人と共に出かけるのだった。

 

 

 

ナギトを含めて3人組になった彼らの珍道中、最初の行き先はカフェだった。ナギトは朝食と題してサンドイッチとコーヒーを注文、ミュゼは紅茶、アッシュはコーヒーだ。

 

 

「……んでカーファイ、今日は何をするつもりだ?」

 

 

「予定は未定」

 

 

コーヒーを啜りながらナギトは答える。「ああ?」と疑義を申し立てるように凄むアッシュ。

 

 

「あら、贅沢な休日の使い方ですね」

 

 

「午前はな。……午後からも予定はないけど、予感はある」

 

 

「予感だ?」

 

 

サンドイッチをむしゃり。レタスの食感を程よく楽しみつつ質問に答えるまでの間を置いた。

 

 

「………アーサーだよ」

 

 

たっぷりと数呼吸分、間を作って放たれた言葉に2人は怪訝な顔をした。

 

 

「気づいてるのはどれだけかな。俺と分校長……リィンは怪しいか。ユウナにクルト、アルティナは──少しくらいは感じてるかもな。お前らはクラスメイトになってから日が浅いからわかんねーだろうが」

 

 

そのセリフはどこか不穏な印象を纏っている。

 

 

「アルトリウス・ルグィン───オーレリア分校長の弟君で、第Ⅱに入学する3年前から武者修行の旅へ。そこからの足取りは知れず、しかしこのたび第Ⅱが新設されるタイミングで帝国に舞い戻った。………確かに良くできていますね」

 

 

 

「エセふわ………」

 

 

すらすらとアーサーの経歴を語るミュゼにアッシュはやや戦慄している。アーサー自身も機密事項以外は秘してはいないだろうが、それにしても知り過ぎの範疇に入れても過言ではない。

 

これはナギトに対するジャブなのだ。口角を緩ませつつナギトはミュゼの続きを待った。

 

 

「そしてそれは───あなたも同じです、ナギト教官。あなたの来歴はまるで透明人間です。そこにいたはずなのに、そうと認識されていない───リィン教官や旧Ⅶ組の方々に向ける視線の意味とは、そういう事なのでしょう?」

 

 

「鋭いな」とコーヒーを一口。肯定だ。しかも匂わせぶりな態度のない即答。それがこの問答の重要性をアッシュに明示しないための条件だった。

ナギトとミュゼは互いの力量を見積もる。ナギトはそれとは別の部分も見ていた。

 

 

「ミュゼ、お前はちょっと頭が良過ぎ、で大人ぶり過ぎ。んでアッシュ、お前は穿った視点を持ってるけどひねくれ過ぎ」

 

 

「あら」

 

「んなっ」

 

 

突然の話題転換、注意喚起に2人はたじろいだ。ナギトからすれば2人ともガキだ。10代の内にもっと他人を頼る事を覚えた方がいい。信頼と信用の両方を含めたそれを。

 

 

「縁はすでに結ばれてる。Ⅶ組は、トールズは捨てたもんじゃないぞ?」

 

 

ナギトの言葉は2人には響かない。今はまだ。

その意味の真価を2人が知るのは、もう少し先の話だ。

 

 

「どういう話の変え方だ、アンタ。下手くそにも程があんだろ」

 

 

アッシュの指摘を「はっはー」と笑い受け流すナギト。

 

 

「アーサーの話だったな。……あいつは入学当初から俺に因縁つけてきてだな」

 

 

「へえ、あの弟くんがか」

 

「誰にでも親切で、第Ⅱでは最も頼りになると言われているアーサーさんが、ですか」

 

 

アッシュは露骨に興味ありげで、ミュゼはまた別の意味で興味を示した。

 

 

「そうそう。俺が着任してからすぐだったぜありゃあ……校舎裏に来いや、みたいなメッセージもらってよー」

 

 

「田舎のヤンキーかよ。それで?」

 

 

「ぶちのめした」

 

 

「ハッ!」とアッシュは愉快そうに鼻を鳴らした。あの優等生ぶりっこのアーサーの鼻があかされた、というのが痛快だ。真偽のほどは確かではないが。

 

大層なリアクションをとってくれるアッシュに対してミュゼは微笑んだままで思考を読ませない。

ナギトの話は冗談の類だ。しかし嘘ではない。それが示す事実とは?

 

 

「へえ、アーサーさんがそんな事を」

 

 

適当に相槌を打つのも忘れない。

 

 

「それからも月一くらいで絡んでくるわけよ。しかも自由行動日にだぞ!?面倒ったらありゃしねえ!」

 

 

「ははは、違ぇねえ。せっかくの休みを潰されちゃたまんねえだろ」

 

 

オーバー気味に身振り手振りを加えて説明するナギト。アッシュはすっかり馬鹿話の雰囲気に乗せられていた。

 

「それなー」と声音を弾ませるナギトにミュゼは同級生シドニーの軽薄さを思い出して戦慄した。

つい今ナギトが警戒に値すると判断したばかりなのに、その気安さに流されてしまいそうになる。

 

 

「ミュゼ、反応が薄いな。やっぱり女の子向きの話じゃなかったか?」

 

 

思考の凝縮によって崩れた表情を読まれでもしたのか。驚くべきタイミングで声をかけたナギトにミュゼは瞬時に取り繕った。

 

 

「いえいえ、面白いお話です。休日も2人で会われるなんて………しかも予定も合わせないで、なんて通じ合ってるみたいですね」

 

 

「おっと、いわゆる…腐った話題に持っていくつもりかよ」

 

 

「耽美な世界というやつだな。理解はないぞ。別に俺とアーサーはいがみあってるわけじゃないし、どっちが攻めでどっちが受けとか想像するなよ」

 

 

想像するな、と言われると想像してしまう。「うげ」とわざとらしく舌を出したアッシュに他2人が笑う。

ミュゼの冗談にも応えるあたり、ナギトの余裕は相応だ。

 

 

 

3人の雑談はそれからも続いた。いつのまにか正午を回っており、ナギトが昼食を奢った後に解散となる。

 

ナギトは生徒2人の行く末に思いを馳せ。

アッシュはすっかり流されていた事を反省し。

ミュゼは未来のためにどのような手段を取るべきか思案する。

 

 

 

これは何でもない学院生活の一幕。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「♪〜」

 

 

アッシュたちと別れた後、ナギトは街を散策していた。彼らにはアーサーと会う予感があると言ったものの、それは確信ではない。

用があるのはアーサーの方で、ナギトから出向いてやる義理はなかった。

 

 

午後の2時を回った頃だろうか、第Ⅱの敷地内で部活動などなどに励む生徒たちを眺めていたナギトの前にアーサーが現れた。

 

 

「ここにいたのか。気配も隠して、試してるつもりか?」

 

 

「いやいや。思ったより早かったな」

 

 

「試してるじゃねーか」

 

 

ナギトとしては本当に試しているつもりはなかった。

武術の達人は歩く姿だけで、その道に通ずる者を魅せると言うが、ナギトはそうと悟られないように歩き、一般人と変わらぬ闘気の漏出を普段からやっている。

侮られるための方策だ。いざ強敵と戦う際に油断してくれれば儲け物──程度のせせこましいフェイクだ。

 

 

「………そろそろ絆レベルは上がったか?」

 

 

毎月の儀式を、アーサーは今月も果たした。ただ秘めたる意志は先月以前より重く見えたナギトは茶化さずに片目を閉じた。

ナギトの黒瞳がアーサーを貫く。真剣な視線が交錯し、ナギトは瞬き。両目を開けた後にあごをしゃくった。

 

 

「ここじゃアレだろ。ついてこい」

 

 

 

2人の特異点は学院を出てリーヴスを出て街道へ向かう。両者の胸中には並々ならぬ覚悟が渦巻いていた。

 

 

 

 

「上がったよ」

 

 

街道も外れ、魔獣避けの街灯も効力を発揮しない場所に到達した。群れる魔獣を正面に捉えて言ったナギトにアーサーは「?」だ。

 

 

「さっきの答え。絆レベルの話だよ。3ってところかな?」

 

 

冗談めかして言うナギトに、アーサーの推測はようやく確信に至った。

 

 

「ナギト、やはりお前もこの世界の者ではないんだな?」

 

 

「ああ。特異点ってやつだ」

 

 

「特異点………?」

 

 

その質問にあまりに軽く答えたナギトにアーサーは思わず鸚鵡返しをした。

 

 

「あー、まあ……そこからだよな」

 

 

ナギトはアーサーの反応に納得すると“特異点”について説明した。それが世界の示す答えにNoを突きつけるモノであり、それは世界に突如発生したバグであり、世界を変えるための変革の礎なのだと。

 

 

「つまり俺やお前は“特異点”と呼ばれる存在であり、世界の──言ってしまえば脚本家の定めたストーリーを書き換える異分子って事だな」

 

 

「そうだ」とナギトは首肯。それからアーサーはナギトの説明で気になった部分について突っ込んで聞いた。

 

 

「それと……特異点としての異能と言ったか。世界の理を好き勝手に乱す権能らしいが…どうやって扱うんだ?」

 

 

ナギトが語った内にあった特異点の異能。それは、その身が物語中にある限りは、世界の内にあるものを自由に扱う事ができるというものだ。

例に出したものは、特定の人物に睡眠の状態異常を永続付与する──といったもの。

 

 

「どうやって?どうやって…って、うーん………」

 

 

ナギトも特異点の力を使えはするが、あれこそまさに感覚のもので、言葉で説明する事はできない。

特異点の権能については、それこそ特異点なら標準装備のはずなので、使い方がわからない方がどうかしている。

 

言葉に詰まったナギトを見てアーサーは質問を変えた。

 

 

「改めて自己紹介する。アルトリウス・ルグィン───元の世界じゃ◾️◾️◾️しかくと名乗っていた。お前は?」

 

 

 

「あ?」

 

 

その音が聞き取れないのはおそらく世界の修正のせいだ。ナギトが引っかかったのはそこではない。

 

 

「お前まさか………ひとりなのか?」

 

 

「はあ?」と聞き返すアーサーにナギトはこめかみをつついてわかりやすい言葉を絞り出した。

 

 

「俺は、数万数十万の人々の願いが結晶化してヒトの形になったものだ。……だがアーサー、お前は、元の世界の自分の名前を言える…という事は…………ああそうか、そういう事か!」

 

 

ナギトの中にあった様々な疑問が氷解した。

 

アーサーが“アルトリウス・ルグィン”だった事からも明らかだ。アーサーは特異点でありながらヒトの胎から産まれた存在だ。

ナギトがこれまでアーサーを特異点だと断定できなかった理由──特異点としての気配の薄さも、ナギトのように人々の願いが織り重なった存在ではなく、たったひとりの熱量で世界の変革者となったからだ。そうナギトは納得する。

 

 

「いやあ……マジに驚いたよ。すげえなお前、たったひとりで…………」

 

 

本気で感心した様子のナギトにアーサーは困惑する。

 

 

「…なんだよ。わかるように言ってくれ」

 

 

 

興奮したナギトだったが求められるままに説明した。

それから2人は腰を落ち着けて話をするために周辺の魔獣を駆除してから会話を始める。

 

 

「もう時間がない」

 

 

そうして口火を切った話し合いは3時間に及び───、その終わり際に思わぬ人物の訪問があった。

 

 

 

 

「男2人でこんな所で密談か?」

 

 

 

☆★

 

 

 

「……姉上」

 

 

アーサーは埒外の闖入者の存在を認めた。アーサーの姉、すなわちオーレリアだ。

ナギトは「はあ」と小さくため息。当たって欲しくない方の予感が当たった。

 

 

「フフ………探したぞナギト、そしてアーサー」

 

 

オーレリアは不敵な笑みと共に真紅の宝剣を抜き放った。彼女の愛剣たるアーケディアを。

 

 

 

「姉上、いったい何の真似です?」

 

 

アーサーの問いにオーレリアは無言。答えを引き出してみろ、とでも言いたげだ。

 

 

「そろそろ痺れを切らす頃だとは思ってましたよ」

 

 

姉弟のやり取りに割って入ったナギト。その意図を解説する。

 

 

「羅刹とさえ言われるあなたが、俺を前にして良くここまで我慢できたものだ」

 

 

「……………まさか姉上は………」

 

 

解に至ったアーサーは、オーレリアとナギトを交互に見た。

つまりオーレリアはナギトと剣を交えるためにこんな街道の外れにまで来たのだ。

 

 

 

「ふむ、まあ及第点はやろう。………ナギト、そなたは私を狂犬のようだと勘違いしてないか?」

 

 

「あれ、違いました?」

 

 

冗談のようなやり取りの最中、ナギトはいつの間にか太刀を抜いていた。

 

 

「違うとも。ただ少し予感がしてな───近い内に私の剣を試す場に恵まれると。そなたには、その時に備えて我が剣の錆落としをしてもらいたい」

 

 

「常在戦場の化身が如き《黄金の羅刹》の腕が錆びついていると?」

 

 

「精神は錆びずとも肉体はな。特に最近は実戦に恵まれぬ」

 

 

オーレリアが毎日稽古をしているのはアーサーもナギトも承知している。しかしそれだけではカンが鈍るのも理解できた。

 

 

「アーサー、そなたも混ざれ。武者修行の成果とやらを手ずから確かめてやろう」

 

 

「……!」

 

 

オーレリアは弟に視線を向ける。普段の在り方や特別演習での報告を見てもわかるが、彼女の実弟たるアーサーは成長している。

そしてそれを己で確かめたいと思う程にはアーサーはオーレリアの興味を惹く存在になっていた。

 

 

「2対1か。こりゃ勝てるぞアーサー」

 

 

貼り付けた笑みに緊張感を走らせながらナギトはアーサーに得物を抜くように指示。

武を尊ぶ帝国において最強の一角に数えられるオーレリア・ルグィンを相手にしてはナギトも慢心を捨てアーサーも奥の手を披露する。

 

 

 

「フレア」

 

 

「無縫真気統一」

 

 

アーサーの総身を炎が包み、ナギトの肉体の内側には並々ならぬ密度の闘気が充填された。

 

 

 

「来るが良い、若き剣士たちよ。オーレリア・ルグィン──《黄金の羅刹》がそなたらを見極めてやろう!」

 

 

 

武神功。オーレリアから黄金の烈気が放たれる。

 

死線を踏み荒らす刃の舞踏会が幕を上げた。

 

 

 

 

 

だん、と音が遅れてオーレリアの姿が消える。ただの踏み込みが音速を超えていた。

 

 

「反応は悪くない」

 

 

辛くも反応した弟に振るった宝剣は防がれるが、その衝撃によりアーサーは吹き飛ばされてしまった。

 

 

「迅雷」

 

 

「む、速いな」

 

 

「しっかり防いでおいて………」

 

 

負けじと最速の踏み込みでオーレリアに斬りかかったナギトの“迅雷”は読まれていたかのように防がれた。

 

 

「無幻九十九疾風」

 

 

スピードは防がれた。ならばとナギトは趣向を変える。「ほう」とオーレリアは息を漏らした。

 

 

「独特な歩法だな。どちらかと言えば暗殺者のそれに近い」

 

 

オーレリアの周囲をゆるりと歩き回るナギトのそれは分身したかのようであり、緩急をつけて相手に刃を差し向ける。

 

取り囲む円からひとつの影がオーレリアに襲いかかる。

 

 

「こちらか」

 

 

それは幻であると見抜いたオーレリアは背後に迫るナギトの実体を捉えた。「げ」と笑みを貼り付けたナギトは一合の後に離れた。

 

 

「初見で見抜くとかどうなってんだ」

 

 

オーレリアほどの超一流を超えた武人は殺気に聡い──という以上の冴えだ。

 

 

「今度はこちらから行くぞ」

 

 

オーレリアが掲げたアーケディアに莫大な闘気が集束する。放たれるは“覇王斬”。相手を地平線ごと斬り裂くが如き戦技だ。

 

だが、ただ威力のあるだけの斬撃などナギトの螺旋の技術の前には意味を為さない。

ナギトがそれを返すのではなく受け流す選択をしたのは、返しの最中に距離を詰められて追撃されるのを防ぐためだ───が、それは杞憂だった。

 

 

「コロナブラスト!」

 

 

初撃で戦線離脱していたアーサーが復帰したからだ。解放された聖剣から放たれたエネルギー波はオーレリアを直撃した。

 

 

「アーサー、もっと集束しろ!先月教えたろ!」

 

 

ナギトのアドバイスはオーレリアがそれで倒れていない事の証左だ。

 

 

「ははっ────」

 

 

凶悪な戦士の笑みを浮かべたままオーレリアはアーサーに踊りかかる。ノーダメージではなかった。

 

一合、二合、三合。宝剣と聖剣が交わった。分が悪いのはアーサーだ。劣勢を覆すべく更なる力を解放───

 

 

「マルス───」

 

「遅いな!」

 

 

──できない。一瞬のタメを見抜いたオーレリアの一撃がアーサーを打ち据える。

 

しかしトドメにはナギトが待ったをかけた。オーレリアとアーサーの間を引き裂く“神威残月”が2人に距離を取らせたのだ。

 

 

「連携しよーぜ。あの人、わりとガチじゃん」

 

 

ナギトの提案にアーサーは二つ返事。2人の間に戦術リンクが形成された。

戦術リンクは戦場を共にする仲間のアクションをリアルタイムで把握できる戦術オーブメントARCUSの、言わば目玉機能だ。

その後継機たるARCUSⅡは更なる機能が実装されている。戦術リンクが連携の極致ならば、こちらは統制の極致。

 

 

「いざ解禁───無窮陣《八葉》」

 

 

ブレイブオーダー。各人の有する戦闘における構え方を共有するもの。リィンなら攻撃に寄るものや防御に寄るものを個別に発動するが、ナギトのそれは近接戦闘メインのもの。

与えるダメージを上げて受けるダメージを減らす。致命的な攻撃を入れる可能性を増やして回避も怠らない。攻撃後の隙も少なく、───と万能型だ。

 

 

「いけるか?」と問われたアーサーは、共有された情報に頭痛がする思いだ。

 

 

「いつもこんなに考えて戦ってんのか」

 

 

かぶりを振って頭痛の幻覚を追い払う。

 

 

「いける。──攻めるぞ!」

 

 

「合わせる」と気安く言ったナギトを尻目にアーサーは吶喊した。

 

聖剣から溢れ出る炎がオーレリアに殺到する。オーレリアは愉しげに一閃、生じた剣風が炎を吹き飛ばす。

アーサーは剣風の圧力に負けずと肉薄した。

 

 

「凝縮、圧縮、集束────」

 

 

先月の訓練の際にナギトが何度も言っていた言葉だ。

 

 

──“「大量に水を含んだスポンジを握り潰すイメージね。ただし水は一滴もこぼれない」”

 

 

そんな馬鹿げたイメージを伝えられた。そんなイメージは破綻している。だからアーサーは別のイメージをもって力を集束させた。

 

 

眼前のオーレリアが振り下ろした剛剣が地面を穿った。アーサーと彼女の間に割り込んだナギトが受け流したからだ。

 

 

「グローリープロミネンス!」

 

 

切先から放たれたのは超高密度に圧縮された炎の斬撃。光線さながらに振るわれたそれに、あわやオーレリアは命の危機を覚えた。

 

瞬時に宝剣を防御に回したオーレリアだが、炎の斬撃の威力は凄まじく───、

 

「──はあっ!」

 

──宝剣が熱に溶かされる前に、気合いを入れて斬撃を天に逸らす。

 

その隙をナギトは見逃さない。死に体のオーレリアに太刀を差し向ける。手のひらで太刀をくるりと弄ぶと峰打ちの体制に移行したのは慈悲だろうか。

 

その一撃を腹筋で受け止める。生半可な防御では骨の数本とおまけに意識、更には勝利まで持っていかれただろうが、オーレリアは自己強化に充てていた闘気を防御に回し、ナギトの峰打ちを防いでいた。

 

 

「甘いな、ナギト」

 

 

死に体、転じて上段の構えと為す。峰打ちでなく刃を向けられていれば負けていたオーレリアだが振り下ろす剣に容赦はなく、防いだナギトを吹き飛ばした。

 

次いでオーレリアはアーサーを標的と見定めるが、感じたのは再びの炎の闘気。

 

 

「グローリープロミネンス───!」

 

 

再度放たれる聖剣の斬撃。アーサーはナギトの甘さを見て聖剣に再び炎を集束させていたのだ。

戦術眼もそれなりになった、とオーレリアは踏ん張りが効かずに斬撃を受けて空に舞う。

 

 

「姉の威厳を見せようか」

 

 

───だが、2人の間には未だ埋まらぬ地力の差があった。

 

先と同じく空に斬撃を逃したオーレリアは、その勢いのままにアーケディアを地面に突き立てた。“四耀剣”。円形に広がるエネルギーがアーサーを弾き飛ばす。

 

 

「っと。……さすがに強いな、お前の姉ちゃん」

 

 

地面をバウンドするアーサーを受け止めたナギトはため息を吐く。オーレリア・ルグィン、さすがの傑物だ。

 

 

「ずっと成長期みたいなもんですよ、あの姉は」

 

 

軽口を叩く2人をオーレリアは宝剣を肩に担いで睨め付けた。

 

 

「連携はそれなりだ。だがアーサー、気づいているな……お前だけが見合ってない事に」

 

 

アーサーは苦い顔だ。ナギトとオーレリア、対峙する2人の英傑に割り込むだけの実力をアーサーは有していない。奥の手がある事を加味しても結論は同じだ。

 

 

「そしてナギト、そなたもアーサーに付き合っていると言えば聞こえはいいが、それではこの勝負に乗った意味が変わってくるだろう?」

 

 

オーレリアは立ち合いの前に言っていた。剣の錆落としをしたい、と。それは第Ⅱの分校長になってこっち、ヒリつく実戦の雰囲気を味わわなかったゆえの頼みだった。

 

 

「……ですね。まあ、まあ……もういいでしよう。アーサーもいいな?」

 

 

ナギトの言は、退がって見てろ、というものだ。その発言に含まれた別の意図も読み取った。

ナギトはこのオーレリアとの勝負にアーサーを混ぜる事で成長の糧としてほしかったのだ。

 

 

「………はい。不服ではありますが、分は弁えてます」

 

 

剣を納める。忸怩たる思いを飲み込んで20アージュほど離れてから勝負の行方を見守る事にした。

 

そんなアーサーを見てナギトとオーレリアは先駆者の笑みを湛える。その悔しさはバネになる。分を弁えず格上に挑む事こそが成長の好機であると言わんばかりだ。

 

「くつくつ」と笑ったナギトはオーレリアに視線を向ける。

 

 

「弟想いなんですね?」

 

 

「あれで将来有望だからな。面も悪くないとなれば、早々に当主の座を譲って私は剣の道に邁進する事もできよう」

 

 

「照れ隠しだ」

 

 

ナギトにアーサーへの愛を看破されたオーレリアは息を吐いてから剣を構えた。

 

続く言葉はなく、両者は剣呑に、穏やかに視線を交わしている。その間ではすでに幾合もの剣撃を交換し合い、終着までのイメージを探りつつある。

 

傍目では一向に動かない2人にアーサーも感じとる。ナギトとアーサーの間ではすでに濃密な闘気が渦巻いていて、2人は互いのチェックメイトのためにいくつもの斬撃のイメージを交わしているのだと。

 

 

 

西日に差し掛かった陽光が雲に遮られる。黄昏の時間に両者の剣舞は刻まれる。

そしてそれは、三者三様に己が財産として生涯持ち歩く記憶になったのであった。

 

 

 

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