八葉を継ぐ者──AAA──   作:クラウンドッグ

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光と陰、閃きに結ぶ

 

 

“特異点”の存在は世界を揺るがす。

結果的に言えば、ナギトはとても上手くやったのだ。

決定的な場面で、決定的な運命のみを破却した。

それ以外にもナギトの存在ゆえに変わった出来事はある。しかしそれは大筋に関わらない小事のみだ。

だから運命はほとんど既定路線に従って進み──ナギトはクロウを救う事ができた。

 

 

 

☆★

 

 

“特異点”の存在は世界を揺るがす。

結果的に言えば、アーサーは下手を打ったのだ。

致命的な場面で致命的なミスをしたわけではない。

それ以外の場面でそれなり以上の活躍をしてしまった事で脚本は変わり、運命は既定路線の末路を辿り───アーサーは救う事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────だから。

 

 

 

☆★

 

 

帝都ヘイムダル、特別演習2日目。

 

特務科Ⅶ組として課題を片付ける傍ら、ナギトとアーサーは班を離れてルーグマン教授──《黒のアルベリヒ》の確保に動いた。

 

《黒のアルベリヒ》という人物は、かつて内戦の折にオズボーンが《身喰らう蛇》から奪った十三工房の一角目である《黒の工房》の責任者的な存在である。

しかもその正体、というか依代としているのがフランツ・ルーグマンという男性であり、彼はアリサ・ラインフォルトの実父だった。

 

このアルベリヒという男の登場で、かなりのキャラクターの運命が歪むとアーサーは言っていた。

大きな点で言えば、まずアリサが実父が生きていてそれが敵となった事で困惑し、シャロンは契約がどうたらと言ってオズボーン側に着くのだとか。

 

 

それを防ぐためにナギトとアーサーは独自に動いたわけだが、想定されていた場所にアルベリヒはいなかった。

「なんで」と当惑するアーサーにナギトはあごに手を当てて考える。

 

 

「………カレイジャスの件が伝わったのかもな。ジョルジュ先輩──《銅のゲオルグ》から」

 

 

《黒のアルベリヒ》、《銅のゲオルグ》。この2人は《黒の工房》の人間だ。ゲオルグを通じてアルベリヒにナギトらが未来を把握している事がバレた可能性があった。

つまりはルーグマン教授に扮している事実が敵であるナギトらに掴まれているのなら、身柄を補足されないように身を隠すのは道理だった。

 

 

「くそっ」と悪態をつくアーサーにナギト慰めの言葉をかけて、それから2人は班と合流した。

一通りの課題を片付けてから昼食を摂る事になる。リィンらと和やかな会話をしながらもアルベリヒを取り逃した2人の胸中は穏やかではない。

何せこのあと暗黒竜という大物も控えているのだ。アルベリヒを拘束して明日以降の懸念を少しでも減らしてから事件に臨むのが精神衛生上も良かったが、こうなっては仕方ない。

 

午後に入り、再び動き出そうとしたⅦ組にオーレリアから連絡が入った。地下に潜伏していたハーキュリーズの件だが、これには事前にアーサーが語っていた通りに暗黒竜の瘴気が工作員から正気を奪っているらしい。

 

 

「それとナギト……そなたはこちらに合流せよ。オルランドやアーヴィングもいるが雛鳥らを守るには人手が足らぬのでな。少々話したい事もある」

 

 

オーレリアほどの人物が先程はハーキュリーズを取り逃がしたと言っていた。それはシンプルに庇護すべき生徒たちという足枷があるからだろう。それのカバーと、何やら話したい事があるらしくナギトは特務科から離れてオーレリアたちと合流する事になった。

 

 

「そなた、今回の事件をどう見る?」

 

 

合流したオーレリアはいくつか言葉を交わすと、そんな試問を投げかけた。

ナギトはアーサーから帝都で起こる異変について聞いている。言わばカンニングしている状態なのだ。それを答える事もできたが、オーレリアはもっと深く抽象的な事を問うている気がした。

 

 

「色んな因果が絡まって、終局に向けて加速してる感じですね。……思惑は多々あれど、そのすべてがとある勢力にとって都合の良い方向に回っている」

 

 

オーレリアは満足げに頷いて「とある勢力とは?」と試問を重ねた。

 

 

「ギリアス・オズボーン率いる“激動の時代”を呼び起こそうとしている勢力。……その時代を迎撃するためにあなたはミュゼと──ミルディーヌと組んでいるのでしょう?」

 

 

アーサーからもらったヒントと、これまでの繋がりからナギトはそう答えを導き出した。予想以上の答えにオーレリアは目を見張ったあと、やはり笑った。

 

 

「さすがに気づいていたか。……彼女によれば、黄昏の開始は止められぬ。しかし運命の向かい風はそこまでだと」

 

 

「ほう?」とナギトは考え込む。

アーサーの知る限り“黒の史書”の記述は“巨イナル黄昏”が始まるまでだ。つまりそこまでは、“黒の史書”による運命の強制力が確約されている。

そしてナギトやアーサーと言った“特異点”が関与する事で変化する歴史を元に戻すためのシステムの修正力。

これら2つが黄昏開始以前に事件を阻止しようとする“特異点”たちの最大の難敵というわけだ。

 

アーサーの知る場所にアルベリヒがいなかったのも、物語が黄昏を阻止されては困るから、そういう風に筋書きを歪めたのだとナギトは考えている。

しかもそれがゲオルグから伝わって──という自然な形をとっていると思われるのだから尚更に厄介だ。

 

 

ひとまずナギトとオーレリアの秘密の会談は終わり、現状で起こっている事態の対処に動く事となる。

 

 

「我らは変わらず動く。そなたには単独での遊撃を頼みたい」

 

 

地下に潜伏するハーキュリーズへの対処。本校の生徒とも協力して行われるそれだが、生徒らへの被害を憂慮して大胆に動けないのが現況だった。そこでオーレリアは武力に長けたナギトを呼び寄せて各所への負担を減らそうと考えたわけだ。

 

 

「私がいちいち指示せずともそなたなら動けよう。頼むぞ」

 

 

しかし裏には別の意図があった。帝都地下という制約はあるものの、ナギトは自由行動が許されたのだ。

先の会話でもわかった事だが、オーレリアも黄昏なんてものを望んではいない。ナギトを自由に動かせることで、それを阻止できる可能性が少しでもあるのならそれに賭けたいという思いがあったのだ。

 

ナギトはその意思を違わず受け取り、ハーキュリーズを追い込む傍らで黄昏を阻止するヒントを得るべく帝都地下を奔走する事となった。

 

 

 

帝都ヘイムダルは、かつて顕現した暗黒竜が討伐された後に、当時の街並みの上に造られたものだと目されている。つまりこの帝都地下は暗黒竜出現以前の帝都とも言えるわけだ。

 

そんな旧帝都であるこの帝都地下は当然、その中枢にも繋がっているわけだ。帝都ヘイムダルの中心にして中枢───バルフレイム宮。

 

皇族が住まい、有権者の執務の場ともなっている宮殿の地下と帝都地下は繋がっている。有事の際の逃走経路でもあるのだろう。

ナギトはかつてこの場に来た事を思い出しながら、話しかけた。

 

 

「久しぶりだな…テスタ=ロッサ」

 

 

緋色の巨体は無惨な姿で横たわっている。試しに触れてみるが反応はない。元々の世界では《緋の騎神》の起動者だったナギトだが、この世界ではその繋がりもなく操る事は不可能そうだ。……かなりの無茶をすれば元々の世界から因果を辿る事もできようが。

 

 

「………ハズレか」

 

 

元々の世界では、テスタ=ロッサに浴びせられた暗黒竜の呪いを起点にしてゾロ=アグルーガは復活した。が、どうやらこの世界では違うようだ。万一の可能性を考えてこの場に赴いたナギトだったがそう吐き捨てた。

 

 

「いや…大当たりだよ」

 

 

声に振り返ったナギトの目に映ったのは白い髪を雑に束ねた痩躯の男だった。

 

 

「ルーグマン教授……《黒のアルベリヒ》か」

 

 

そこにいたのは《黒のアルベリヒ》。《黒の工房》の首領だった。

 

 

「閣下やゲオルグの読みは正しかったというわけか。……今日は身を隠しておいて正解だったな」

 

 

彼のネタバレは、やはりとナギトに思わせた。先日ゲオルグを取り逃したのが効いてるのだ。例え取り逃がさなくてもアルベリヒはルーグマンという皮を捨てて遁走していた可能性もあるが。

 

 

「……その先読みの力………かつて趣味の良い友人に教えてもらったが………“特異点”というのだったかな?……世の理を改変する秩序の反逆者」

 

 

「ハッ」とアルベリヒは笑う。“特異点”という名称は《身喰らう蛇》ゆかりの者からしか出てこないはずだ。《黒の工房》が結社の《十三工房》のひとつだった事からも蛇の連中と繋がっていた事はわかる。

 

 

「大層な肩書きだ。……今こうして私の仕掛けた罠にかかっていると言うのに──!」

 

 

アルベリヒは指を鳴らして合図を出す。すると周囲には数十体の人型の兵器が現れた。どいつもこいつも銀髪の女子型で、アルティナを思わせる外見だ。

 

 

「Ozシリーズ……、根元たる虚無の剣…とやらの失敗作か?」

 

 

「良く知っている。やはり君は脅威だ。この場で排除できる事を僥倖と思えるほどにな!」

 

 

一斉にかかってくるOzシリーズの失敗作たち。総数80は下らぬだろうそれらを掃討する、その間およそ10秒。

 

 

「かかったな“特異点”!」

 

 

失敗作たちを殲滅したナギト。そのままアルベリヒに手をかけようとして、その前進が止まる。

白い闇がナギトの半身を飲み込んでいた。

 

 

 

「それは我ら《地精》と《魔女》の協働により創り出された別次元への入口……その余りものだ」

 

 

ナギトはもがくが脱出できそうになかった。

アルベリヒがこの場にのこのこ現れた時点で警戒しておくべきだった。己の力量を過信していた。

 

 

「……なるほどな、感心したよアルベリヒ。ちゃんと俺の弱点を突いてる」

 

 

「多少のリスクはあるが、君を盤面から排除できたのは幸先が良いと言うべきかな。………しかし気に食わない態度を取るじゃないか。敗北が確定してやる気を失ったかね?」

 

 

「この場ではな」とナギトは肯定する。何をしても効果がないならやる気も失せようというもの。本当の意味で何でも試したわけではないが、この場で封じられたとアルベリヒに思わせる事ができれば後の布石になる可能性もあった。

 

 

「だが俺は仲間たちを信じている。俺なんかいなくてもあいつらは大丈夫だ。オメーらのいけすかねぇ黄昏とやらも夢想と果てる」

 

 

「虚勢もそこまで来れば腹も立たないな。……いいだろう、遺言は受け取った。君の仲間たちとやらには最後まで許しを嘆願してみじめに涙を流していたと伝えよう」

 

 

こいつ性格悪いな、とナギトは思った。さっき言っていた結社の趣味の良い友人とやらは《白面》のワイスマンなんじゃなかろうか。

 

 

「全然伝わってねーじゃねーか」

 

 

「さらばだ“特異点”。永劫を別次元で彷徨いたまえ」

 

 

ナギトの減らず口もそこまで。アルベリヒが手を翳すと白い闇はナギトの全身を飲み込んだ。

 

 

 

 

☆★

 

 

そこは“白い闇”としか形容しようのない空間だった。どこにも出入口は見つからず、遥か遠方に絶大な力の波動を感じるのみだ。

 

「ふーむ」とナギトは考えた後、話しかけた。

 

 

「いるか?」

 

 

それは久しぶりの呼びかけだった。

 

「いるぞ」と返事。己の内側からの声だった。ナギトの裡になぜか生き残っている“特異点”の本質、ナギトが化身と呼ぶ存在のものだ。

 

 

「あんまり話しかけるなって言ったろ」

 

 

「すまんすまん。こんなとこにひとりでいると気が滅入りそうでな」

 

 

化身の文句に軽く謝ったナギトは続けた。

 

 

「お前もそろそろ観測者気取りに飽きた頃合いだと思ってよ」

 

 

「俺は閃の軌跡が好きだ。そこにお前って存在が混入した物語も許容してる。だがそこに、その世界に。俺自身が入るのは雑音が過ぎる」

 

 

化身の感情を「まあまあ」と受け流す。この化身は、言わばもうひとりのナギトだ。ナギト自身が見聞きした事象しか知らないとは言えど、別の視点からの意見も出せよう、という魂胆でナギトは話しかけたのだ。

 

 

「お前はここ、なんだと思う?」

 

 

「知らん」と化身は一刀両断。ナギトが知らない以上、化身が知らないのは道理だった。しかしそれでもナギトはめげずに化身が推測を吐き出すのを待った。

 

 

「アルベリヒは別次元と言ってたな。ゼムリア大陸から隔絶された空間なのは間違いないだろう」

 

 

「戻れると思うか?」

 

 

「特異点の力を使えば楽勝だろ」

 

 

「それはそう」

 

 

重い話題のはずだったが、軽妙に会話は進んだ。化身の言った通り、特異点の力を使えばいつでも帰れるのだ。特段慌てる必要もなく、アルベリヒの奥の手であろうこの別次元について調査するのが良策と思えた。

 

白い闇の中を歩きながら会話は続く。ナギトが話を振った。

 

 

「アルベリヒはこうも言ってたな。“リスクはある”と。どんな意味だと思う?」

 

 

「《地精》と《魔女》が共同製作した、この別次元への隔離……装置か?余りものって話だったな?」

 

 

「言ってたねえ。なら、俺たち以外に…ここに封じられた別の何かがいるはずだ」

 

 

「それがあれか」

 

 

化身の言葉にナギトが頷く。視線の先には銀色の球体が浮かんでいた。

 

それは銀色の球体と言うより水銀の塊のようだった。絶大な力を感じる。

 

 

「これは……」

 

 

化身が漏らす。ナギトが感じている力の波動を化身も感じ取ったのだ。

 

 

「……─────」

 

 

ナギトは絶句していた。遠目からでもこれが絶大な力を保有しているのはわかっていた。だが目の前という距離でもその全容がまるで掴めないのには恐怖を抱く。

 

 

「意志は感じられない、か……?」

 

 

恐る恐る観察する。それは指向性を持たない純粋な力のようでもあった。しかしそれだけに危険でもある。

エネルギーの総量で言えばマクバーンの魔神形態をゆうに越しているだろう。それこそひとつの時代を終わらせるだけのものを感じた。

 

 

「ちょっと触ってみる」

 

 

ナギトは化身の制止も聞かずに指先を水銀の塊に挿し入れた。

 

 

「づぉっ……!?」

 

 

が、一瞬で弾かれてしまう。闘気で腕をコーティングしていたがまったく意味を為していなかった。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

「……おう。なんか……資格がないみたいだな」

 

 

「資格?」と問う化身に、水銀の塊に指を挿し込んだ際に見えた光景について語る。

 

 

「起動者の資格」

 

 

「……これには騎神が関わってるのか?」

 

 

「おそらく」ナギトは推測を固めつつ言った。

 

 

「霊力が騎神のガソリンだとすれば……これはエンジンだな。いや……というより原型というか……うーん………」

 

 

どう形容すべきかわからない。だがあえて言うのならば。

 

 

「終の騎神……かな?」

 

 

「……は…………?」

 

 

 

終わりの騎神。最後の騎神。呼び方はどちらでも良かった。

 

 

「俺がこれに触れて見たのは七の騎神の姿……それと《紅き終焉の魔神》。……………こいつは騎神の大元だが、それだけじゃない。おそらく双方向だ」

 

 

言葉足らずの説明に「双方向?」と化身は鸚鵡返しした。

 

 

「これは騎神に力を与え、その代わりに騎神の似姿を得てる。……いや、騎神の最終形態の姿──その写し身か?」

 

 

予断、憶測はナギトの得意分野だ。それによってナギトは仮定に仮定を積み重ねて解を得る。

 

「考えがまとまってから話せよ」と言う化身の忠告に苦笑いして、結論を出した。

 

 

 

「つまりこいつが───“巨イナル一”ってわけだ」

 

 

 

「───ッ!…こいつ、が…………!」

 

 

やはり化身は衝撃を受けている。ナギトもこの事実に気づいてから受け入れるのに少しばかり時間がかかった。

 

“巨イナル一”───未だその正体は不明なれど、巨いなる焔にして顎とされる騎神の太源。

 

 

「あー!こんな事ならもっとアーサーから話聞いときゃ良かった!」

 

 

「お前が、ネタバレやめて!とか言って話を遮るからだろ」

 

 

実はアーサーとの会話で“巨イナル一”について触れた事があったが、ナギトは化身の言ったようにしてそれを断っていた。

 

と、そんな漫才も一段落して。

ナギトは太刀の柄に手を伸ばした。

 

 

「……斬る気か?」

 

 

化身の言葉にナギトはしばらく“巨イナル一”を見据えて、柄から手を離した。

 

 

「………いや、やめとく。こいつはこの空間の柱でもある。斬れば空間そのものが消滅して俺も……って感じだ」

 

 

「……マジ?適当言ってない?」

 

 

「適当が本来の意味なら、適当に言ってるな」

 

 

化身の訝しげな顔にナギトは嘆息する。これでも八葉の二代目だ。物事を見極める眼くらいは持っている。

 

 

「……じゃあこいつはどうする?」

 

 

「どうもしない。今はノータッチが正解かな」

 

 

 

「なら……どうする?地道に出口を探すか?」

 

 

「出口か、ないだろ。これは《黒の工房》──《地精》と《魔女》が“巨イナル一”を封じるために創り出した異空間だし」

 

 

それこそ反則技である“特異点”の力を使えばどうとでも出来る。しかし、だからこそそうはしない。

 

 

「良い機会かもな。……俺の剣を、八葉一刀流を極めるのに……ある意味絶好のロケーションだ」

 

 

この場なら誰の邪魔も入らない。「悠長だな」と責める化身に「わはは」と笑ってみせた。

それからナギトは座禅を組んで刀を膝の腕に置いた。

 

 

「我が剣はすでに完成している。始の太刀“八葉一閃”は森羅万象の創の一太刀。……それは総てを断ち、全てを寿ぐ。……ここで問題。始の太刀の対になる剣は、いったいどんなものだ?」

 

 

瞑目したまま、半分にやけ面でナギトは化身に問う。化身は剣の理なぞ知らず、解を導き出す事はできない。だが化身はこれでも軌跡ファンの集合だ。原作知識からナギトの試問の答えを持ち出した。

 

 

「終の太刀、か?」

 

 

「正解。つっても“黒皇剣”や“暁”じゃないぜ?それぞれの型に嵌められた奥義ではなく、万物の始点の対となる、万物を終わらせる終点の一太刀だ」

 

 

ナギトは未だ終の太刀を体得していない。だが構想はあった。

 

 

「始の太刀はその後に生まれるすべてを孕む。もちろん終わりもだ。八葉一閃が斬ったものを機能停止させていたのはそういった側面があったからだ」

 

 

「だったら、終の太刀は始の太刀の下位互換?」

 

 

化身の問いかけを「いいや」と否定。

 

 

「対なんだよ。何回も言うけどな。始まりがあれば終わりもある。それはワンセットだ。そもそも技自体には上下はない」

 

 

化身にはナギトがもうわからなくなっていた。この世界の観測者としてゲームを遊んできたプレイヤーの化身だが、少なくとも己が見聞きした情報では、とてもナギトの語る言葉の意味がわからない。

 

 

「終の太刀はすべてを終わらせる。それに特化した剣となる。まさしく始の太刀の対だな」

 

 

ここまでがナギトが抱いている終の太刀のイメージだ。しかしそれをはっきりと言語化したことで、またひとつの疑問が浮かんだ。

 

 

「ん?いや…そうなると始の太刀は………。俺はまだ八葉一閃をただの斬撃と捉えてたみたいだ。……奥が深いな、武の道は…………」

 

 

その意味を、やはり化身はわからない。

本人だって正しく把握してるわけではないのかもしれない。ナギトはこの場を絶好のロケーションと言ったが、思索に耽るには良い場所だったらしい。

 

 

「ま、それは良いとして。……今は終の太刀だな」

 

 

と、ナギトは話を戻した。化身は結論だけ聞くことにした。

 

 

 

「終の太刀を覚えられれば、この異空間を脱出できるのか?」

 

 

「可能性はある。無理ならもう“特異点”パワーで何とかするしかないな」

 

 

そこからナギトは本格的に瞑想に入った。化身も邪魔はせず、それを見守る。

 

数時間は経っただろうか。おもむろに「うしっ」と立ち上がったナギトに視線を向ける化身。

 

 

「いけそうか?」

 

 

「間違いなく。……ただこれ、めっちゃやばい」

 

 

「やばい?」

 

 

「始の太刀は総ての始まりの具現。終の太刀は総ての終わりの具現。どちらもその概念を体現した一閃だ。……俺が言いたい事わかる?」

 

 

「いや」と化身は否定。しかしとんでもない事を言いそうなのはわかった。

 

 

「超気をつけて超繊細に扱わないと、世界が終わる。比喩じゃなくマジで。ゲームやってる時に停電起きたみたいになる」

 

 

冷や汗でも流しそうな半ニヤケ面に、化身もそのヤバさを実感する。何しろ具体例が的確過ぎた。

 

 

「終わりを内包した一閃は、振るうだけで世界を毀す。……相当慎重にやんねーと」

 

 

言うとナギトは真面目な表情になり、太刀を大上段に構えた。

 

 

「んじゃ、そういうわけだから……戻るわ。話し相手になってくれて助かったよ。終わりに触れて気が狂いそうだったし」

 

 

「おう。気をつけろよ。見守ってる」

 

 

「ありがとう」と微笑し、ナギトは太刀を一閃した。

 

 

 

 

 

 

「───光陰閃結」

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