八葉を継ぐ者──AAA──   作:クラウンドッグ

17 / 17
追想〜アルトリウス・ルグィンの旅路〜

 

 

 

七曜暦1204年初頭。

アルトリウス・ルグィン、14歳。

 

 

「せいっ!」

 

 

剣を振るう。闘気が込められた刃は斬撃を放ち対手に殺到した。

「甘い」と対手である彼女は断じ、斬撃を跳躍して回避。そこまではアーサーも折り込み済みだ。

 

 

「破動剣!」

 

 

空中で行動が制限された彼女に対して再度斬撃を飛ばした。しかし彼女は歯牙にもかけず──

 

 

「───四曜剣!」

 

 

アーサーの“破動剣”を砕き大地に剣を突き立てた。殺到する衝撃波にアーサーはダウン。立ちあがろうと膝をついた所に剣を突きつけられて勝敗は決した。

 

 

「狙いは悪くなかったな」

 

 

「また強くなりましたか───姉上」

 

 

手合わせをしていたのはアーサーの姉、オーレリア・ルグィンであった。

 

彼女の手を借りて立ち上がったアーサーは剣を鞘に納める。

 

 

「まだまだ届きそうにありませんね、姉上には」

 

 

「フフ、拗ねるなアーサー。そなたも歳のわりにはまあまあだ。身体もまだ出来上がる前にしては上出来であろうよ」

 

 

 

オーレリアとアルトリウスは歳の離れた姉弟であった。すでにラマール州領邦軍司令官の座に着く若き最強こそがアーサーの姉、《黄金の羅刹》とも恐れられるオーレリア・ルグィンである。

 

 

「慰めは結構ですよ。もうバリエーションも出尽くしたでしょ?」

 

 

「フフフ……そうだな。そろそろ素直に讃えさせて欲しいものだ」

 

 

「……精進します」

 

 

すでに領邦軍で将軍という立ち位置を得ているオーレリアと、未だ日曜学校に通う年頃のアーサーでは役者が違う。

たまに帰ってくる姉に一手指南を頼んでは敗北して、その度に慰められていてはオーレリアの慰め語彙力も底を突くというものだ。

 

 

「そろそろ夕食の時間だな。切り上げるとしよう」

 

 

「そうですね、婆やが美味しい料理をつくって待ってます。遅れると雷ですよ」

 

 

“婆や”とはルグィン伯爵家に仕えるメイド長の通称だ。2人が乳飲み子の頃から世話になっていて、女傑オーレリアが今でも頭の上がらない人物のひとりだ。

 

「ふふ」とオーレリアは今度こそ忌憚なく笑った。

 

 

「それは楽しみだ」

 

 

 

☆★

 

 

アルトリウス・ルグィンは、いわゆる転生者である。その前世は◾️◾️◾️で名前は◾️◾️◾️◾️という。

 

魂の底から愛していると言える“軌跡シリーズ”の最新作である“閃の軌跡Ⅲ”にて絶望的なエンディングを迎えた物語に、◾️◾️は焦り、逸り───気付けばこのゼムリアに転生していた。

 

生まれは幸運で、宿命の地となるエレボニア帝国の貴族に長男として誕生し、なんなら帝国最強の剣士の一角であるオーレリア・ルグィンの実弟という立場であった。

あの絶望的なエンディングを改変するために力を求めたアーサーは姉に師事して力をつけた。

 

 

 

「───という事で、旅に出ます」

 

 

が、それも限界だとアーサーは感じていた。

アーサーの剣術はオーレリアの真似事だ。オーレリアは若くして帝国二大剣術であるアルゼイド流とヴァンダール流を納め、それを自己流に昇華した、言わばルグィン流を扱う。アーサーもそれを姉から教授されているが、将軍職のオーレリアは忙しくたまにしか指導もない。

かと言って元となった流派の道場を訪ねても飛躍的に成長する事がなかったアーサーは焦っていた。

 

このままでは間に合わない。

 

その焦った思考の末にアーサーは賭けに出る事にした。緩やかに成長する今を捨て、飛躍的にレベルアップする未来を掴み取る。

 

 

「ほう……旅か。そなたもそんな年頃か」

 

 

「言い方が語弊を生みます姉上」とまさしく中二病を指摘したようなオーレリアにツッコミを入れてアーサーは続けた。

 

 

「俺はこのままじゃいけない。なので2年ほど旅をして…‥力をつけて戻ってきます」

 

 

「武者修行に2年か……まあ妥当だな」

 

 

夕食後のティータイムで、弟の旅立ちをいきなり聞かされたというのにオーレリアは泰然としていた。幼い頃は溺愛されていたアーサーだが、姉の愛情が薄くなったのではないかと勘繰った。

 

 

「そなたが何か大きいものを背負っているのはわかっていた。……旅は今からでないとダメなのか?」

 

 

「さすがの慧眼ですが……姉上。今からでないとダメです。……この先の展開に介入しないのは少々惜しいですが………背に腹は変えられません」

 

 

「ふむ………久々に出たな、その思わせぶりなセリフ」

 

 

「茶化さないでください」とアーサーは紅茶を飲む。オーレリアも同じように紅茶を口に運んで。

 

 

「そなたはミルディーヌ公女を知っているか?」

 

 

ミルディーヌ公女──ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン。もしくはミュゼ・イーグレット。第Ⅱの新Ⅶ組に配属される女の子だ。知らないはずがない───が、その点について詳らかにするわけにはいかない。

オーレリアはアーサーが未来予知に類する能力を持っていると思っている節があるが、本当は違う。未来について知っている……その事がどこかに漏れればアーサーの願いが叶えられない可能性が高まるだろう。

 

 

「前カイエン公の遺児ですね」

 

 

「勉強はしているようだな。そなたは彼女と同じ眼を持っているのか?」

 

 

やはり紅茶を楽しみながら事もなげに問うオーレリアにアーサーは絶句した。

話にあったミルディーヌの眼が明確に何を指すのかアーサーは知らない。だが散りばめられたピースを繋ぎ合わせて大まかな把握はできた。

 

アーサーの瞠目と沈黙が、オーレリアに理解をもたらした。「やはりな」と再び紅茶を飲む。

 

 

「詳しく聞くつもりはないが……あまりひとりで抱え過ぎるなよ、アーサー」

 

 

「わかっています。……その時が来れば姉上にも助力を願いたい、ですが…………姉上は俺とは別の意味で多くのものを背負っておいでだ」

 

 

「フフ………その口ぶりだと、我らは敵対する事こそないが道を違えると言ったところかな?」

 

 

「さあ、そこまでは」とアーサーも余裕を取り戻して紅茶を飲む。カップが空になった。

 

 

「どうやら姉弟の楽しいティータイムはここまでのようだ。旅立ちはいつだ?不肖の姉だが見送りくらいはさせてもらおう」

 

 

 

 

翌日の朝、アーサーは旅に出た。

 

 

 

☆★

 

 

 

七曜暦1204年7月。

 

アーサーが旅に出てからすでに半年が経過していた。旅は順調とは言えず、アーサーの実力は最後にオーレリアから稽古をつけてもらってから伸びていないように思われていた。

 

そんな中でアーサーが眼をつけたのは自身に影響されない力──端的に言えば騎神や聖痕などの超常的な力だった。

 

幸いと言うべきか、アーサーは大陸南西部のとある遺跡の発掘調査隊に紛れ込む事ができた。護衛兼監視役として七曜教会から派遣されたという僧兵がいる。彼らを出し抜いて遺跡最深部にあると思われるアーティファクトを入手するのは困難に思われるが、希望は捨ててはいけない。

 

 

発掘調査は順調とはいかなかった。遺跡の崩落や棲みついていた魔獣。現れる魔物や悪魔が調査隊の行く手を阻む。

その度に僧兵と協力してアーサーは敵性存在を打ち倒していった。

自然と築かれる信頼関係と、アーサーがここにいる不信感が降り積もり────3ヶ月後、調査隊はついに遺跡最深部に到達した。

 

祭壇の奥に隠された部屋で、それは石に突き立てられていた。剣だ。一目でわかる宝剣や聖剣に類するもの。───しかも、そのアーティファクトは生きている。生物というわけではない。機能を停止しておらず、教会が回収対象としている古代遺物という事だ。

 

 

その剣を回収するべく慎重に手を伸ばす僧兵だったが、彼はその剣の柄に触れた瞬間に灼き払われた。鍛え抜かれた僧兵の肉体が一瞬にして灰になる。驚愕と狂乱に陥る調査隊と僧兵たち。それに呼応するように最深部には異形の幻獣が現れていた。

 

蛸やイカを想起させる触手を無数に蓄え、顔面は髑髏をかぶったような風体。

 

アーサーが◾️◾️◾️◾️だった元の世界にはクトゥルフ神話などというものがあったが、この異形の幻獣はそれを思い起こさせる見た目をしている。

 

その幻獣に調査隊は散り散りに逃亡し僧兵らはこれまでにしてきたように物理攻撃や法術で対抗するも触手に絡め取られていった。

アーサーの剣技も幻獣に痛打は与えられず迫り来る触手をいなすのだけで精一杯だ。しかもそれは逃げる調査隊や未だ抵抗する僧兵らへの対応が一段落するまでで、彼らを捌いた後ならばアーサーへ割く余力も増すだろう。

 

そうなってはこの遺跡を生きて出ることすらままならない。

 

 

アーサーは聖剣の元へ駆け出していた。

 

 

「待てっ!やめろアーサー!」

 

 

触手に囚われもがきながらも僧兵のひとりがアーサーの意図に気づいた。しかしその制止をアーサーは振り切って、突き立てられた聖剣の前に立つ。

 

 

「応えてくれ」

 

 

フラッシュバックするのは聖剣に触れた瞬間に灰になった僧兵の姿。厳しい訓練を潜り抜けてきたであろう彼を一瞬にして灼き払った火力。

 

 

それが得られれば異形の幻獣にも勝ち目はあるはずだ。

 

 

深呼吸をする。一回、二回、三回。背後からは悲鳴が聞こえる。これまで3ヶ月間、苦楽を共にした仲間の声だ。

 

聖剣に手を伸ばす。

 

 

「今はただ、命のために────」

 

 

掴み取る。聖剣はアーサーを拒まなかった。するりと石の鞘から抜けた聖剣。その仕様が脳髄に叩き込まれる。

 

ふらついたアーサーだったが気を持ち直して政権を構えた。

 

 

「聖剣、解放─────!」

 

 

炎が、爆ぜる。

 

 

 

 

この遺跡は暗黒時代に造られたものだ。

暗黒時代とは、古代ゼムリア文明が滅び、今日に至る七曜暦が始まるまでの期間。大陸に闇が蔓延っていた時代である。

 

遺跡に祀られていたのは“太陽の聖剣ガラティーン”と呼ばれたアーティファクトである。

暗黒時代、この遺跡に集った者どもは女神を奉じず、この暗黒時代にあっても中天を照らす陽光を、その写し身たる“太陽の聖剣”を信仰した。

信仰はいずれ研究へと変貌し、ガラティーンを用いた実験が繰り返された。遺跡に張り巡らされたトラップは当時の侵入者を撃退するものであり、異空間から現れる魔物や悪魔は研究の副産物であった。

 

現在、アーサーら発掘調査隊を苦しめている異形の幻獣もまた聖剣の実験で開かれた異次元から現れた存在であり、かつての研究を終わらせた怪物である。

 

かつてこの遺跡に集った研究者たちは“太陽の聖剣”という伝記に伝わる文言から、聖剣が太陽ゆかりの物品であり、それを媒体に異次元への扉を開けば太陽の化身が現れて暗黒時代を終わらせると信じていた。荒唐無稽な話だが、根っこには聖剣への信仰があったのだから無理もない。

 

 

“太陽の聖剣ガラティーン”の性能はそのように大したものではなく、もっとシンプルだった。

 

 

 

「フレア」

 

 

アーサーが唱えると、聖剣は炎を纏った。

これはガラティーンの最も初歩的な扱い方。

 

陽の光が射す時間帯に力を溜め込む聖剣。

そして“フレア”は聖剣のそれを解放する合図の言霊だ。

 

 

瞬きの内に肉薄したアーサーは聖剣をもって無数の触手を灼き払った。

調査隊や僧兵の面々は無事だ。陽光は味方には恩恵となり敵には身を焦がす炎となる。

 

 

聖剣は性能を解放すると、その所有者を己に相応しい次元にまで引き上げる。

 

 

「グローリープロミネンス」

 

 

太陽の威光が聖剣から放たれ、幻獣を灰にした。

 

これは聖剣。太陽のある昼の時間に力を蓄えるもの。夜には蓄えた力を放出し太陽の威光を示すもの。

その許容に上限はなく───、幻獣を灼いた炎は数百年に渡り蓄えられ続けた威光の象徴であった。

 

 

 

 

アーサーの意識は、そこで途切れている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。