「ふむ……
星杯騎士団でもその頂点たる守護騎士にのみ与えられる最新鋭艦メルカバ───その中で後背の2人に声をかけたのは老齢の男。
「さすが先生の勘は冴えてるってもんですね。しかし隠密僧兵の連中……禁じられた遺跡でなにしてやがる?」
「典礼省に問い合わせたところ、一部の者たちの暴走──という話でしたが……にしては3ヶ月もの期間、発掘調査は行われていたようです」
老躯の声に反応を返したのは赤髪の女と青髪の男。それぞれがこの事態における考察をしていた。
「暴走っつーのは建前で典礼省ぐるみの事案って事かよ、リオン」
「自明の理でしょう、セリスさん。でなければ我々に対して3ヶ月も隠蔽できたとは思えません」
女の名はセリス・オルテシア。守護騎士第四位を預かる《赫灼》の異名で知られる娘。
男の名はリオン・バルタザール。守護騎士第十一位の座にある《氷焱》の聖痕を宿す者。
2人は共に先生と呼び慕う老齢の男の呼びかけに応じて随行した星杯騎士団トップに数えられる人物であった。
「かの遺跡は暗黒時代に一部の者たちの間で信仰された邪教の跡形……文献によれば兵器が眠っているとか。でしたよね、先生?」
「うむ。数少ない遺された資料では遺跡には“太陽の聖剣”というアーティファクトがあるようだ。日中に力を蓄えるという性質を持つそうだな」
リオンの確認に老体が頷く。“太陽の聖剣”は古代遺物であり兵器であった。
「そりゃあ…そのアーティファクトはまだ生きてるって話ですよね?どうして教会はそれを放置してたんです?」
今度はセリスが質問した。七曜教会は“太陽の聖剣”の存在を認知しながら、どうして回収しなかったのか。
「かつては回収の動きがあったみたいですよ。ですが当時の教会は件のアーティファクトを危険と判断して回収を取りやめたそうです。日中に力を蓄える性質……それが決め手となったようですね」
「数百年……下手をすれば千年単位で蓄積された力が、もし一度に解放されてしまえば地域を丸ごと吹き飛ばしかねない──そう記されていたな」
質問にはリオンと老人の2人が答えた。セリスも「なるほど」と納得する。
「んな物騒なもんを隠密僧兵の奴らはアタシらに黙って手に入れようとしてたわけか」
「彼らも僕たち騎士団に対抗しようと躍起ですからね……とは言え見過ごすわけにはいきませんが」
「事の経緯がどうあれ、今はあれを何とかするしかあるまい」
2人が若き心を燃やしかけたが、老躯はそれを諌めつつ目標を定めた。途端に男の身体が膨れ上がったかのようにセリスとリオンは感じた。
錯覚ではなく、盛り上がった筋肉がそう思わせたのだ。
老いて益々盛んな男の名はグンター・バルクホルン。守護騎士第八位《吼天獅子》と呼ばれる古強者であった。
「ゆくぞセリス、リオン!まずは暴走している聖剣を確保する!」
☆★
──“この剣は太陽の写し身!ゼムリア大陸を照らす光である!」”
──“「ああ、日の神様。どうか我らをお救いください」”
──“「知ってるか?あの剣を盗み出そうとしたあいつ、消えちまったらしい」”
──“「遠く空の彼方にある太陽さえ見上げれば目を灼かれる。その太陽に触れた日には……わかるだろう?」”
──“「神は声に応えぬ。わかるだろう、大崩壊の後に女神が人を救わなかったように……日の神も我らに手を差し伸べぬ。あれはただの剣なのだ」”
──“「しかし信徒たちにどう説明すれば……」”
──“「ふむ……この反応は……高位次元のものか………?」
──“「お前みたいな奴がいるから!日の神様は降臨されないんだ、この不敬者!」”
──“「責任者が死んだ!?……実験は続くのか?後任は?」”
──“「私たちで研究は続けます。そうすればいずれ別の次元から日の神様は降臨なさるはずです」”
──“「また失敗か。……日の神様のおられる次元は遠い」”
──“「戦力が不足してきている。実験は失敗続きで、現れる魔物に対処する人手が削られている」”
──“「我々共の使命は日の神様の降臨を誘う事。暗黒に包まれている世界を救う事だ。多少の犠牲は飲み込まねばなるまい」”
──“「信徒も勘付き始めている。前の責任者が殺された時のようにだ。研究者たちの周辺を嗅ぎ回ってる奴がいる」”
──“「ああ、日の神様……日の神様!どうか我らをお救いください!その神々しい威光を世界中に───ぎゃあ!」”
──“「なんだあの化け物は!?」”
──“「終わりだ。終わった、すべて………」”
声が聞こえていた。頭の中で反響している。景色が走馬灯のように流れていく。
3つの光が落ちてきた。それは質量を伴い、破滅的なエネルギーを纏って突撃してきた。
「コロナブラスト」
聖剣は対抗するように熱波を放出した。
3つの光はそれを受け止めて着地した。
「おいおい……ガキじゃねえか。隠密僧兵はどうした?」
「発掘隊の一員でしょうか?……剣に操られていると見るべきでしょうね」
「うむ。まずあやつから剣を取り上げる。もろもろの救助はその後だ」
4つの光が遺跡の外縁で激突した。
アーサーが見ているのは聖剣の記憶。この遺跡という場に刻まれた記録だ。
言葉が出ない。信仰があった。願いがあった。研究者に転じた。異次元から魔物や悪魔が現れた。終わった。
繰り返し反響するソレに、魂が雁字搦めにされている気がした。
目の前には3人の聖痕を発動した守護騎士。
視覚はいたって正常だ。
「マルスフレア」
アーサーの総身を炎が包んだ。それは聖剣から与えられる恩恵“フレア”の上位版であり、時間制限付きの奥の手だ。
「むう……《却炎》を思わせる熱量………!」
「しかもあれは……聖痕!?」
「いえ、よく見てくださいセリスさん。あの聖痕は剣から伸びたもの……おそらく所有者を媒介に剣が発動しているものです!」
「日中に力を溜め込むっつーアレか!……となるとあれは擬似聖痕………いや擬似ってレベルじゃねーな。さしずめ13番目ってとこか!」
「セリス、リオン!あれを止められるか!?」
「アタシとリオンが組みゃあいけますよ!」
「任せてください!」
聴覚も通常通りの働きをしてくれている。
「グローリープロミネンス」
ただ衝動だけに身体が突き動かされている。
「コロナブラスト」
そこにはただ、願いがあった。
世界を救うという願望が。
それはアーサーの願いと似通っていたのかもしれない。
あの結末を変えたい。彼らを救いたい。
だから、共鳴してしまったのかもしれない。
「いくぞリオン!」
「合わせます!」
2人の聖痕が限界まで光を放ち、太陽の暴威を打ち消した。
そこに飛び込んできたのは老練のバルクホルン。
「吼破六合天衝!」
聖剣にあった遺志。それが潰えようとしていた。願いの残り滓が消えようとしていた。
しかし蝋燭はその最期にこそより強く輝く。
アーサーはその願いを肯定 / 否定した。
「────
それは平らかなる世をつくりだす一撃。比喩ではなく物理的に、地平線まですべてを灼き尽くす太陽の具現。
これが彼らの祈りの果てだ。“太陽の聖剣”──それはただの兵器だ。正しい信仰を捧げたとしても返ってくるのは破壊だけ。
だからこれは正しい帰着だ。迎えるべき終わり。これで彼らの願った通り、太陽は顕現し遍く世を生の苦しみから救済する。
太陽は顕現し遍く世を生の苦しみから救済する。
その結末は棄却された。
「ふざ…けるな……っ!」
アーサーが己の制御権を取り戻した。
太陽の顕現により聖剣にこびり着いていた、言わば怨念はその結末を見届ける事なく成仏した。記憶が脳内で反響する事もなくなり、アーサーはいつも以上に十全のコンディションだ。
そのアーサーがすべての力を用いて灼熱を抑え込む。
“日之禍神”──守護騎士たちが、そしてかつての教会が懸念した通り、地域一帯を吹き飛ばす太陽の具現とも言うべき炎の墜落を。
「おおおおお!」
「はああああ!」
聖剣が千年規模で溜め込んだ力に、聖痕を宿す2人の若き守護騎士が限界を超えて奮起する。
赫灼と氷焱の聖痕がその背中で煌めきを放つ。
「砕け──プロミネンス・アギオン!」
「貫け──ミュルグレス・ペイン!」
届かない。それでもなお。
アーサーが抑え込み、セリスとリオンが全力を叩き込んでなお、太陽の墜落は。
バルクホルンも奥義を放った直後で、しかも“日之禍神”発動の煽りを受けて動けない────否。この場でこそ老骨の意地を発揮する。
金色の刻印が大いなる輝きを纏う。《吼天獅子》を後押しした。
「老兵は死なず─────、ただ消し去るのみ!」
バルクホルンの右拳が“日之禍神”を直撃した。周囲一帯を光が包み─────。
結果として、聖剣の暴走は停止した。
老練の守護騎士に癒えぬ傷を残して。それが一因となり、その聖痕が譲られる軌跡へと発展するのだが───それはまた別の話。
☆★
「で、テメェ……この惨状をどうするつもりだ?」
事態が落ち着き、守護騎士たちは撤退の準備をしていた。遺跡にいた者たちも回収し、治療が必要ならそうした。
そしてアーサーはセリスに詰められていた。
聖剣の暴走による人的被害は奇跡的に0という数字であったが、それは結果論だ。
バルクホルンら3名の守護騎士の活躍がなければ地域一帯を吹き飛ばしていた公算もある。そうでなくても、聖剣と聖痕の激突の余波で遺跡周辺は生物の生存を許さぬ土地と化していた。
「…………手は、ある」
アーサーは立ち上がり、傍らにあった聖剣を手にとった。
「なんだテメェ、まだやる気か?そいつから手ぇ離せやコラ!」
瞬時に戦闘態勢に入ったセリスの名を呼んで制止したのはリオンだ。最後の激突で負傷したバルクホルンを治療班に預けて一段落したため戻って来ていた。
「先生も言ってたでしょう。彼は剣に操られていただけだと。………それに彼に何が出来るか僕も興味があります」
リオンはセリスを止めたが、アーサーが牙を剥けば殺める準備があった。にこやかな口許に反比例した底冷えのする瞳が何よりも雄弁にそう語っている。
「君はまだ子供です。責任は問いません。むしろ非はこちら──教会の側にあると言っていいでしょう」
「おいリオン」
「百歩譲ってですよセリスさん。………ですが、君がこの地の災厄となる可能性があったのもまた事実。……隠密僧兵に聞きました。君は遺跡に現れた魔物を倒し味方を救うために剣を取ったと。───そんな君が手があると言うんでしたら、それはさぞ期待していいんでしょうね?」
リオンの皮肉っぽい性格の悪さが全面に押し出されたセリフだった。直情的に相手を責めるセリスの方がよほど人情味がある。
しかしアーサーは狼狽えずにリオンを睨み返した。
「すべてが元通りとはならない。……だけど、ある程度なら」
聖剣が光を帯びる。その炎は、直接対峙していたセリスとリオンだからわかる、人を灼く炎ではなく、癒す熱だった。
「サンライトヒーリング」
大地に突き立てられた刃から熱が伝播する。
その熱は円形に広がり遺跡周辺を包んだ。
「これは……!」
掌を見つめてリオンは驚愕している。セリスも同じだ。聖痕の特性上、セリスの方がむしろ驚嘆の度合いは上だった。
「こいつは…生命の熱……!驚いたな……これなら先生も………!」
セリスの推測は正しく、メルカバにて治療中の昏睡していたバルクホルンが目を覚ます。
「……フフ…………未来を託せる若者が増えたか………」
同時に焼けた大地に緑が戻る。
それはまさしく神話のような光景だった。
それから一段落して。
アーサーはバルクホルンらと共にメルカバに乗り込んでいた。
アーティファクトである“太陽の聖剣”を七曜教会に運搬するためだった。アーサーから聖剣を取り上げて簡易的な封印を施して運ぶ案もあったが、聖剣は資格なき者が触れると危ないため、より安全策をとってアーサーを介して運ぶ流れとなった。
そう判断されたのにはもうひとつ理由がある。アーサーが志願したからだ。“太陽の聖剣”運搬の任をやらせてほしい、と。実際は剣を持ってメルカバに乗り込むだけだが教会の都合もアーサーの有利に働いた。
もちろんアーサーの狙いはそれだけではない。“太陽の聖剣”は未だ機能を発揮するアーティファクトであり、教会は個人での所有を許していない。しかし教会は任務を遂行するためならアーティファクトを使用する事もあった。
アーサーは“太陽の聖剣”所有の許可を教会から得るためにメルカバに乗り込み教会本部へと向かうつもりなのだ。
セリスとリオンの両名は懐疑的だが、バルクホルンはその気なら星杯騎士に推薦するとも言っている。
つまりアーサーの目的は《星杯騎士団》に入り、その一員として“太陽の聖剣”の使い手になる事だった。
今はまだ絵に描いた餅だが、この試みが成功すれは来る時に大きな力になるはずだ。
およそ数時間のフライトの後にアーサーは七耀教官の総本山たるアルテリア法国に至り、長きにわたる審議の末に《星杯騎士団》の末席に加わる事になったのだった。
セリスとリオンの活動時期どうだったかな〜、と思いつつの投稿。
原作との矛盾があるかもですが、暖かく見逃して下さい。