八葉を継ぐ者──AAA──   作:クラウンドッグ

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賽は投げられた

 

 

七曜暦1205年、8月初旬。

ヴァイスラント決起軍、旗艦パンダグリュエルにて。

 

 

「降りるのか」

 

 

艦から密かに降りようとしていたアッシュ・カーバイドに声をかけていた。

アッシュは振り返って軽薄な笑みを浮かべた。

 

 

「はっ、やっぱ気づきやがったか……カーファイ」

 

 

「まあな」と当然とでも言うようにナギトは答える。

 

 

「アンタじゃなくてもこの艦に乗ってる奴らには気づかれると思ってたが………、止めねえって事は許可されてるって意味だよな?」

 

 

やはり軽薄な言葉を並べたアッシュの確認に、ナギトは「さあな」と目蓋を閉じた。

アッシュの軽薄な笑みの奥、その表情には、まるでこの世の終わりのような絶望が隠されている。

 

 

「少なくとも俺は止めない。生徒の自主性を重んじる教官だからな」

 

 

ニヤリ、とアッシュの絶望に気づかないふりをして、同じように軽い返事をした。

その気遣いにアッシュは困ったように目尻を下げて再び笑う。「はっ」と。自嘲の色があった。

 

そこから言葉を紡げないアッシュに代わってナギトが話題の先制をした。

 

 

「けど、逃げるなよ……アッシュ」

 

 

「───!」

 

 

その指摘には心当たりがあるアッシュは、腹の底に渦巻く呪詛が喉元までせり上がる。それを吐き出す前に先制したのはやはりナギトだ。

 

 

「お前がやった事に対してじゃない。お前が抱えてるものに対してでもない。──ただお前の人生から、逃げるな。……生きる事から、逃げるな。…………もうお前の人生は、お前だけのものじゃないんだからな」

 

 

 

その意味を、アッシュは完璧に理解する事はできない。ただ、なんとなくはわかった。

後頭部をがしがしとかいて咀嚼する。

 

 

「アンタは……今一番痛ぇ事を言ってくれるじゃねえか」

 

 

「それも教育者の務めってやつだな」

 

 

ナギトは肩をすくめた。らしくない事をした言い訳はこれくらいでいいだろう。

 

 

 

「それと謝っとく、ごめんなアッシュ。俺はお前のそれに気づいてた。……けど、リィンやセドリックのそれの方を重要視しててな、甘く見てた」

 

 

ナギトはアッシュの根底にこびりついている黒き影を見破っていた。何ならその発露としてアッシュが皇帝を撃つ事もアーサーから聞かされていたと言うのに、いざとなったら自分がどうにかできると思っていた。

肝心要のその場に居合わせる事もできなかったそれは慢心によるものだ。

 

 

「……こいつは俺の問題だ、アンタに謝られる筋合いはねぇよ」

 

 

アッシュは再び喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 

 

「んじゃ、あばよ…カーファイ。教官としてのアンタ……中々面白かったぜ」

 

 

そしてアッシュはナギトに背を向けた。名残惜しい気持ちもあったが、そんなものに後ろ髪を引かれてはいられない。

 

 

「ああ、またなアッシュ」

 

 

今生の別れのつもりだったアッシュはそんな返答をされて「ハッ」と笑った。本当に、どこまでも痛い所を突く教官だ。

後ろ手を振って艦を降りる。ナギトはその背を見送ってから艦橋に戻ったのだった。

 

 

 

☆★

 

 

「カーバイドの見送りか。ご苦労な事だ」

 

 

ブリッジに戻ったナギトにいの一番に話しかけてきたのはオーレリア・ルグィンだった。その隣にはヴィータ・クロチルダとミュゼ・イーグレット──もとい、ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンがいる。

 

ミュゼの正体は先代カイエン公爵の娘であり、先日次期カイエン公爵に決定したと聞いた時は驚いたものだ。アーサーはおそらく知っていただろうが情報の共有はされていなかった。ナギトが「ネタバレやめて!」と釘を刺していたからだろう。彼にとってミュゼが次期カイエン公爵である事実は伝えるべき必須事項ではなかったのだ。

 

 

このミルディーヌを頂点とし、その脇を固めるのがオーレリアとクロチルダの2人となる。

天才的な頭脳の持ち主であるミルディーヌと、帝国最高峰の軍人にして武人オーレリア、魔女として強大な力と卓抜した知識を誇るクロチルダ、この3人がこの決起軍の骨子となる。

 

 

 

「これでも教官ですからね。担任が不在の間くらいはらしい事はしますよ」

 

 

かつかつ、歩きながら答える。

 

 

「ナギト教官、補給は済みました。そろそろ発艦しますが………あなたは降りなくていいんですか?」

 

 

そのナギトにミルディーヌが報告と疑問を呈した。

すでにナギトは新旧Ⅶ組と連絡を取り合っていた。彼らはオズボーンら敵勢力に囚われたリィンを解放するために動き出したようで、ナギトにも協力を求めてきている。

 

 

「まあ、そうさな………降りてーと思ったら降りるよ」

 

 

「魔女でもないのに転移を使いそうな語り口ね。いえ、あなたなら空から飛び降りても無事に着地しそうではあるのだけど」

 

 

空に浮かぶパンダグリュエルから飛び降りて離脱するナギトを目蓋に浮かべたのはクロチルダだ。

 

 

「俺がそんな人間離れしてると思います?」

 

 

「思うわ/思います/思うな」

 

 

肩をすくめておどけてみせたナギトにクロチルダ、ミルディーヌ、オーレリアの3人から口を揃えて是と答えられる。おどけた肩ががくんと落ちた。

 

 

「まあいけますが」と持ち直して、ナギトは3人を前に口角を上げる。

 

 

「まだ話し足りませんからね」

 

 

「そうだな、我が愛弟子よ」

 

 

 

それに鏡写しのように応えたのはオーレリアだった。

その“愛弟子”という呼び方はナギトが前にいた世界でのもので、この世界においては通用しないはずの愛称だった。

それがこうして今、2人の間で共通認識になっているのは、元の世界の記憶がこの世界に流入したからだ。

 

 

 

「ミュゼは各方面との折衝で忙しかろうが、我が恩師とクロチルダさんは暇でしょ?もう少しお喋りしましょうや」

 

 

「別に暇というわけではないのだけど……いいでしょう。あちらについて聞いておきたい事もあるわけだし」

 

 

「そうだな、魔女殿。私としても我が愛弟子とは色々とすり合わせをしたいと思っていたところだ」

 

 

というわけで、客間を借りて3人で話し込む事になった。

 

 

「どぞ」

 

 

グラスを彩る金色の液体は値段の張るブランデーだ。球形に削られた氷が光を反射して輝く様は一種の芸術品のようにも思えた。……という感想に至るのもナギトが酒飲みとして一端の者になったからだろうか。

パンタグリュエルの客間に備えられたボトルを開けてグラスに注ぐと、まるで己の持参品かのようにナギトは2人に手渡した。

 

 

「ナギトくんはいけるクチだったかしら?」

 

 

 

「ほどほどに」

 

 

「前にジュノー海上要塞が《身喰らう蛇》に占拠された折にも《鋼の聖女》と呑んでいたな」

 

 

「噂には聞いていたけど本当だったのね………信じられないわ」

 

 

「こやつは大莫迦者だからな。突飛な事もしようと言うもの」

 

 

2人にグラスを渡したナギトだったが、本人そっちのけで話を弾ませるオーレリアとクロチルダに苦笑いするしかない。

 

 

「さて……まずは大前提から問おうか」

 

 

一口、酒で喉を潤したオーレリアはグラスをテーブルに置いて足を組んだ。

 

 

「この記憶は、なんだ?」

 

 

それは問いというよりは確認だ。すでに軽く説明してはいたものの、帝国が共和国に宣戦布告してから3人は腰を落ち着ける暇がなかった。

 

 

「別の世界の記憶、ですね。……あの黒キ星杯で、俺は元々の世界で契約していた《緋の騎神》を呼び出した。世界を隔つ壁をぶち破り現れたテスタ=ロッサ───、つまり世界間の壁が破られた事で、あっち側の情報がこっちの世界に流入したって事なんでしょう」

 

 

 

別の世界の記憶、と簡単にナギトは言ったが、それは魔女をして埒外の出来事だ。

 

 

「信じられない話だけれど───、こうして実際に記憶があるのが何よりの証拠ね。……そしておそらく、この事象は私たちだけじゃなくナギトくん……君に関わったすべての人に起こっている」

 

 

「そうですね」とナギトは首肯。黒キ星杯でのアリアンロードやオズボーンの妙な反応は別世界の記憶が混じったからだと思われた。

 

 

「1人2人だけではなく、多くの人物に記憶の流入が起こった事実こそ、これが何者かの仕掛けではない証明になっているな」

 

 

記憶の混入は元々の世界でナギトと交流のあった者に限定されるが、それは幅広いものだ。敵味方問わず起こった、別世界の己の記憶の流入はどの陣営を特別有利にするわけではない。

作為的な仕掛けではないからこその出来事だとオーレリアは言っている。

 

 

「一応、確認なんだけれど……ナギトくん。君は本来この世界の住人じゃないのよね?」

 

 

再度、首肯。目を閉じてゆっくり3秒、語るべき事を脳内でまとめた。

 

 

「──はい。俺は別の世界からやってきました。あなたたちに流入した記憶にある世界が、俺の出身です」

 

 

「この世界にやってきたのは君の意思なのかしら?」

 

 

「いいえ。“特異点”の権能でテスタ=ロッサを呼んで世界間に穴が穿たれたせいで混同するかもですが、俺は巻き込まれた側………この世界の結末を変えんとして、俺を召喚したのはこの世界の“特異点”─────」

 

 

 

「我が弟、アルトリウス・ルグィン…………だな?」

 

 

 

セリフの最後を奪われた形になったナギトだが、それは言った本人の方がつらいだろう事実だ。

ナギトをこの世界に呼んだ“特異点”はアルトリウス・ルグィン──オーレリアの実弟であるアーサーだ。

オーレリアの混乱は想像に難い。この世界において実弟として可愛がっていたアーサーが別の世界では存在しないなど、どれほどの心痛だろうか。

 

しかし肯定せねば話は進まない。

 

 

「そうです。……おそらく、と一応は言っておきますが」

 

 

「おそらく?」と鸚鵡返しに問うクロチルダにナギトは語り始める。

 

 

「まず前提として、この世界はアーサーという“特異点”の存在する……仮に世界A、俺のいた世界をBとして……」

 

 

アーサーは閃の軌跡Ⅲという物語の結末を変えるために、これまで準備を重ね、その一環として無意識の内か、もしくは召喚の事実を忘却したかは定かではないがナギトを世界Bから強制的に呼び出した。

 

そういった事を噛み砕いて説明する。

 

 

一息つく。グラスを傾けてブランデーが喉を通っていく。鼻腔に残る香りは罪悪感を少し和らげてくれた。

 

 

「ひとつ問う、ナギト」

 

 

ゆっくりと目蓋を開いたオーレリアは紫紺の瞳をナギトに向けた。

 

 

「そなたの世界にアーサーは存在せぬ。この事実こそあやつが“特異点”である何よりの証拠と思ってよいのだな?」

 

 

ナギトが語らずともオーレリアは世界の仕組みについて理解しかけていた。つまりは“特異点”の存在する世界は、本来の歴史から派生した異聞史だという事実を。

 

 

「はい」

 

 

肯定する。そんな事を知ったくらいでオーレリアがへこたれる人物ではないとナギトは知っているからだ。

“特異点”の存在により派生した世界は、正史の複写+αでしかない。ここにいる自分はただのコピーでしかない。そんな事実を、それがなんだと言える人なのだ。オーレリア・ルグィンという女傑は。

 

 

「そうか」とオーレリアはブランデーを嚥下した。短い言葉に浮かばない感情の色は、だからこそオーレリアの複雑な心境を察させる。

 

 

まばたきひとつ、ナギトは話題を進めた。

 

 

「んで、記憶の流入って事象が起こった事で発生したいくつかの副作用ですが……」

 

 

指折りナギトは語り始める。

 

 

「まずひとつ、様々な勢力に俺──ナギト・ウィル・カーファイの存在が知られたこと。これはメリットとデメリットの両方がありますね」

 

 

ひとつの目の指をたたむ。

 

 

「ふたつ目、世界Bでの結末を知ったオズボーンらが計画をより強固にする可能性。…これはひとつ目のともかかってますね」

 

 

つまりはナギトという脅威を勘案して計画を修正する可能性だ。

 

 

「みっつ目……というには些か小さいですが、俺の弱体化です。正確には記憶の流入とは別件ですが、“特異点”の権能は存在を代償に発動する……ありうべからざる縁を手繰ってテスタ=ロッサをこの世界に顕現させた俺は肉体のおよそ5割が虚無に飲まれました」

 

 

服を捲って暗黒に染まった腹部を見せる。

 

 

「今のそなたは全盛とは程遠いというわけだな」

 

 

「感覚はないですが普通に動かす分には問題ない。……ただ、闘気の総量や出力も5割減です。幸い、内臓なんかは働いてくれてるみたいですが」

 

 

「やれやれですよ」とナギトは肩をすくめた。

闘気の総量、出力は戦闘に直結する重要なファクターだが、ナギトのそれは元より莫大。5割減じたところでさしたる問題ではない。問題なのは感覚が失われた事だ。

テスタ=ロッサを呼び出す代償としてナギトの左半身は無になった。左足から左の頬までを包む暗黒は、ナギトがかつてそうなったように感覚を喪失させている。

トールズ時代を彷彿とさせる不調がナギトを襲っているのだ。とは言え、あの頃とは違いナギトが術理を言語化できている以上は普通の戦技を使う分には問題ない。だがナギトの神髄たる“八葉一閃”はこれまでのように縦横無尽に振るえるわけではなく、大上段から振り下ろす格式ばったものに逆戻りだ。

 

 

「と、以上のみっつが記憶の流入による功罪ですかね。他にあります?」

 

 

「……そうね、細かく分ければまだ挙げられるでしょうけど、大まかにはそうかしら」

 

 

ナギトの確認にクロチルダが頷いた。

特にひとつ目については相応に大きな影響があるはずだ。例を挙げれば、オーレリアはあちらの世界では“界理剣”というナギトの“八葉一閃”と同種の剣技を身につけていたが、それをこちらの世界でも使えるようになるかもしれない。

 

 

「まだ話し足りないけれど……そろそろ時間じゃないかしら、ナギトくん?」

 

 

クロチルダに指摘されて時計を見ると、約束の時間が迫っている事がわかった。

 

 

「そっすね。んじゃ俺はミュゼに挨拶したら降りますんで」

 

 

「私はここでもう少し休んでから戻るわ。少し考える時間が欲しいもの。将軍はどうするのかしら?」

 

 

「もはや私から我が愛弟子に言う事はない。せいぜい励め、ナギト。そなたの道はまだ終わらぬのだろう?」

 

 

「………激励、受け取りましたよ我が恩師。再会する時まで御壮健で」

 

 

そうしてナギトは2人の女傑と別れの挨拶を済ませた。あとはミルディーヌ──ミュゼ……手のかかる生徒との挨拶を残すのみだ。

 

 

 

☆★

 

 

 

「そういうわけだから、あとは適当なタイミングで艦を降りるわ」

 

 

「事前に聞いていた通り、ですね。やはり揚陸艇か艦の降下は……?」

 

 

「いらないいらない。大丈夫」

 

 

ブリッジに戻ったナギトはミルディーヌと別れの挨拶を交わしていた。

前もって話していた事もあり、ナギトの離艦はスムーズだ。

 

 

「すまんな、力になれなくて」

 

 

ナギトが謝罪したのは、黒キ星杯から離脱する際にミルディーヌに便乗させてもらったはいいものの、その後決起軍の一員として助けになれなかった事に対してである。

 

 

「いえ、ナギト教官には私の考えに賛同していただけましたし……充分な勇気をもらえました」

 

 

ミルディーヌは胸に手を当ててナギトに感謝する。

 

 

「開戦しようとするエレボニアへの対策───、世界各国で連合を組むってのは元から考えてた事だしな。そんなんでいいならいくらでも力を貸せる」

 

 

エレボニア皇帝の銃撃事件を、帝国政府はカルバード共和国によるものだと断定した。

間髪を入れない宣戦布告に対してミルディーヌが提案したのは、エレボニアVS世界という構図だった。

今のエレボニアの軍事力はゼムリア大陸でも頭ひとつ抜けている。皇帝が撃たれた事もあり帝国が一丸となって士気も高いとなればカルバードの敗北は必定だ。そしてカルバードが負けたとなればエレボニアへの対抗馬はいなくなる。その後は帝国が世界各国を併呑して大陸統一国家の出来上がりだ。

 

それを防ぐには、エレボニア帝国に負けないだけの勢力をつくる必要がある。カルバード共和国だけで戦力が足りないのなら、他国をも巻き込んでエレボニアの軍事力に対抗するしかない──、というのが雑にまとめた結論だ。

 

しかしそれは全世界を巻き込む大戦の幕開けを意味する。戦争に参加する百万単位の兵だけではない、民間人にも被害が出るのは間違いない。しかもそれで勝利が約束されるわけではないのだから、あっさり負けて被害を減らした方が賢かった、と後悔する可能性もあるのだ。

 

 

だが、ミルディーヌは決断した。帝国と共和国の戦争に世界を巻き込む事を。そしてナギトはそれを支持した。

 

 

「しっかし、大したもんだよお前は。俺の世界連合の構想は夢幻の類いだったんだけど、それを実行した手腕たるや………結社の使徒にもなれるって評価でもまだ足りねえと思うぜ?」

 

 

からかうように口角を歪めながらナギトは言う。

戦争に参加する──と、口で言うのは容易いが、それを現実的に考えられる各国の首脳陣を説き伏せたミルディーヌの手腕はナギトをして驚嘆に値するものだった。クロチルダはそれを結社の使徒並みと評したわけだが、ナギトからすればそれでもまだ安い見積もりだ。

 

 

「フフ…」と口元を隠して困ったように笑うミルディーヌに、ナギトは軽口を後悔しそうになる。

ミルディーヌとは改めて話したい事もあったが、約束の時間が迫っている事もあり手短に済ませる事とする。

 

 

「少なくとも俺とお前は共犯だ、ミルディーヌ。………その上で言うが─────、ミュゼ……だからこそ俺たちはⅦ組を全うしなければならない。あいつらがするであろう選択に乗っかって、表と裏で連動するからこそ戦争を止められる一縷の望みを掴み取らなきゃいけない。───これからの人生を罪の重さで台無しにしないために」

 

 

「……ナギト教官……………」

 

 

「いいかミュゼ、お前は頭が良いが大莫迦の類いだ。役割に囚われるな、まだ16〜17のガキの背中に世界の命運が乗るものか、って話な。……もっと周りを頼れ、大人だけじゃない。莫迦なお前を愛してくれる友達もいるだろう。現実的な最善を求めるのも結構だが、夢みたいな最高を掴み取るのがいいんだ。俺はお前と仲間たちならそれが出来ると信じてる」

 

 

 

ミルディーヌ───否、ミュゼの顔に戻った彼女は目を丸くしている。捲し立てた言葉のいったい何割が理解されるだろうか。

 

ナギトは気恥ずかしさを感じつつもリィンの真似をしてみる事にした。

 

 

「おー、よしよし」

 

 

ミュゼの頭をぐりぐりと撫でてやる。労わりではないそれは照れ隠しだ。ミュゼは荒らされた髪型を直しながら、やはり困ったように、しかしミルディーヌではなくミュゼとしての笑顔を見せた。

 

 

「もう、ナギト教官ったら。………でも、はい。そのお言葉は胸に刻んでおきます」

 

 

しかしそれは束の間で、ミュゼはミルディーヌに戻ってしまう。やはりナギトの言葉だけでは十全ではないのだ。新Ⅶ組として、同じ教室で共に学んだ彼らでなくばミルディーヌをミュゼに戻すのは難しいのだろう。

 

 

「んじゃ、そういうわけで………またな、ミュゼ。まあ近いうち会うだろ」

 

 

「ええ、そうなると良いですね」

 

 

 

「じゃあ」と手を振ったナギトはブリッジを出る。これにてミュゼとの挨拶も終わりだ。

 

腕時計を確認した。約束の時間が間近に迫っている。

 

 

ナギトはパンタグリュエルの甲板に出るとそのまま艦を飛び降りた。

“幻造”で足場をつくりながら、飛び降りと着地を繰り返す事数回────、ナギトはようやく本物の大地に着地した。

 

 

 

「悪いな、少し遅れたみたいだ」

 

 

 

そこは旧Ⅶ組とクレア・リーヴェルトが対峙する戦場だった。

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