ナギトを見送ったⅦ組はオルディスに潜入していた。そこで皇妃プリシラや帝都知事レーグニッツを軟禁していたオズボーン勢力の一員である《紅のロスヴァイセ》──アンゼリカ・ログナーを撃破。仲間にした。
どうやらアンゼリカはクロウ同様に《黒の工房》の仮面により記憶を封じられて役割を強制されていたらしい。オルディスに潜入した面々によって仮面は破壊されてアンゼリカは正気を取り戻したのだとか。
ナギトがそれを知ったのはメルカバに合流して以後だ。中々にハブられている感があった。
そこからⅦ組は各地の依頼を解決していたが、アルフィンやティータの居場所を把握すると救出すべく動き出した。
旧都セントアークで情報収集をした後に第四機甲師団が詰める基地へと潜入、アルフィンらが軟禁されている基地の奥を目指す。正規軍最強と名高い第四機甲師団が道中で立ち塞がるが、こちらには師団長の息子であるエリオットがいる事もあって楽に進む事ができた。
が、ここでハプニングが起きた。
第四機甲師団は虜囚となっているアルフィンらを不憫に思ってⅦ組が通る事を全力で阻止しようとはしなかった。
しかし第四機甲師団でも比較的若い新兵は戦争に前のめりになって呪いに冒されていた。
戦争を讃美する《巨イナル一》の呪い。黄昏によって帝国全土に広がったそれを。
ナギトやリィンにとって問題だったのは、その呪いに冒された兵士というのが同級生だったアランである事だった。
呪いのせいか思考回路がぶっ飛んでいて、共和国打倒=自分と婚約者のブリギットの幸せなんて結論を出している。
ナギトは騎神を呼ぼうとするリィンを制して前に出る。
「ここは俺に任せて先に行け」
「ナギト……だが」
リィンは言い淀んだ。立ち塞がる兵士はわずか3名。しかしその全員が魔煌機兵に搭乗しているからだ。精神を蝕むデメリットを持ちながら、ゆえにより騎乗者との繋がりがダイレクトになった機甲兵のアップグレード版が魔煌機兵だ。
睨みつけるように魔煌機兵を見上げるナギトにリィンは言おうとした事を引っ込めて、別の言葉に変換した。
「任せるぞ。必ず追いつけよ」
「あたぼうよ」と言ったナギトの横を通り過ぎていく仲間たち。それを阻止しようと魔煌機兵の一体が銃撃を放つが瞬時に移動したナギトによって受け流された。
そうして仲間たちを見送ったナギトは───
「──疾風」
二の型の剣技でアランの取り巻きの魔煌機兵二体を片付けた。両手両脚が切断されてダルマのように床に転がった。
戦慄したアランを他所にナギトは太刀の背を肩に担ぐ。
「一応聞くが、生身でやるか?」
目の前の信じられない光景を前にアランは激昂するよりまず恐れていた。同時に思い出した。かつてトールズでこの男に憧れていた事を。自分にないものをすべて持っていたナギトを。
「ナギト・シュバルツァーッ!」
魔煌機兵が剣を振り上げ、振り下ろす──前に剣を振り上げていた右腕が根こそぎ斬り吹き飛ばされた。
「今はナギト・カーファイだ」
そんな音をマイクが拾ったかと思うと、次の瞬間には魔煌機兵はカッティングされていた。操縦席が切り取られてアランの身が空中に投げ出される。もんどり打って倒れたアランを見下すナギトに、怒りを原動力に立ち上がって剣を抜いた。
「お前はぁぁぁ!」
肉薄。剣を交える。至近距離で視線が交錯した。拮抗は刹那も許されず、アランの剣は弾き飛ばされた。理不尽な程の実力差を思い知らされる。
膝をついたアランにナギトは語りかけた。
「なあアラン……お前は何がしたいんだ?」
「俺は戦争に出て共和国のやつらを倒してブリギットに釣り合う男に………」
「そうしてくれってブリギットが言ったのか?」
ナギトとアランはただの同窓生ではない。同じフェンシング部で鎬を削った仲だ。アランとブリギットの事も知っているし、何なら部活で調子こいていたパトリックに一矢報いる手伝いをした事もあった。
だからナギトはキレている。だからナギトはわからない。
「平民と貴族の恋路だ、そりゃあ試練も多かろうさ。戦功を上げてやろうって気持ちもわかる。だけど戦争に行く恋人に願うのはなんだ?」
それは問いかけるというよりは諭す口調だった。
「俺は武勲を得て……ブリギットに…………」
「そりゃあ二の次だろ。彼女が願うのはまずお前の無事だ。恋人が戦に出て無事に帰る。ブリギットの願いの第一はそこじゃねえのか」
それは本来のアランなら理解していて然るべき事だった。しかしブリギットとの婚約やらで目が曇ったところを呪いにつけ込まれたと見える。
一閃。ナギトの太刀が呪いを斬り祓った。
オズボーンやリィンのように魂と絡まり合ったようなモノは不可能だが、アランのように被っただけの呪いならば祓える。
「そこらへん見つめ直せ。それから向き合えよ、ブリギットと」
アランは倒れ伏して気絶した。精神と結びついていた魔煌機兵のダメージ、そして呪いの影響によって意識を失ったのだ。
ひとまず自分にできるのはここまでだ、とナギトはリィンらを追いかけた。
ナギトが基地の司令部に到着した頃にはすでに戦闘は佳境だった。
エリオットの父、正規軍最強の第四機甲師団の長、《赤毛》のクレイグと師団の若きエース《剛撃》のナイトハルト。
その2人の剣撃を捌くⅦ組と協力者アガット。
オーラフ・クレイグの斬馬刀と鍔迫り合うアガットの重剣。ナイトハルトと幾重にも切り結ぶリィン。そこに割って入るエリオットのアーツ。
「灰の太刀・絶葉──!」
「ドラゴンフォール──!」
2人のSクラフトで戦闘は終了した。
基地で“保護”されていたアルフィンとティータを救出し、Ⅶ組はメルカバへと戻る。
☆★
エリンの里で休息を取った後に向かったのはリーヴスだ。トールズ士官学院第Ⅱ分校を取り戻す戦いとなる。
「内戦の時を思い出すなぁ」
当時貴族連合に占拠されていたトリスタを解放した際の事を想起して言ったナギトにリィンは微苦笑した。
今の第Ⅱ分校にはトールズ本校の者たちが詰めているらしい。内戦の折に立ち塞がったパトリックらを思い起こさせるムーブをする彼らにはつい笑ってしまう。
「とは言え油断は禁物だ。本校の教官──俺たちの教官だったマカロフ教官やメアリー教官もいる。それに……」
「《不撓》の……だったな」
ミハイル・アーヴィング。第Ⅱでは教官陣を取り仕切っていた鉄道憲兵隊の特務少佐。
「試す、つもりなんだろうな」
「たぶんな」とリィンの理解にあごを引く。
第Ⅱが帝国の未来を託すに足るか、と言ったところだろうか。何とも大した話だし、何とも自らを大きく見積もった話だ。
「蹴散らしてやらぁ」
口角を歪めたナギトは新Ⅶ組の副担任として彼らに同行。第Ⅱの敷地内を巡って本校の生徒らをわからせていった。
そうして第Ⅱ分校を取り戻した一行は本校の面々に今後の協力を約束させる。ミハイルは第Ⅱに戻り主任教官としての役目を務める事となる。
そしてⅦ組は、パンタグリュエルに乗艦した。