八葉を継ぐ者──AAA──   作:クラウンドッグ

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緋の騎神の行方

 

 

 

それは皇太子セドリック率いるオズボーン勢力の襲来だった。《身喰らう蛇》のマリアベルや《黒の工房》の《銅のゲオルグ》など、勢力に属している者たちを贅沢に連れた襲撃。結社の強化猟兵や人形兵器も盛り沢山で、パンタグリュエルを撃墜して共和国の犯行とする事で開戦の口実を強化する腹積もりらしい。

 

 

ナギトらはVIPを避難させる組と迎撃する組とで別れた。ナギトは迎撃する組だ。

 

その行動開始間際、ナギトはクロチルダとエマの魔女2人と会話をした。

 

 

「2人の力でこの場を精霊窟と同じにするか、もしくは特定人物を精霊窟に転移させる事って可能?」

 

 

ナギトの思惑はシンプルに、この局面で第二相克──セドリックの《緋の騎神》との決着をつけてしまおうというものだった。

 

セドリックはこの襲撃について、オズボーンから委任されたと語ったが、十中八九ハッタリだ。本心では止めて欲しがっているであろうオズボーンが、こんな暴走するセドリックに全権を渡すわけがないのだ。

 

であるならばこの場面はオズボーンの想定外───。相手のメンツも結社の使徒やら執行者やら西風の面々やらで豪華だが、つけ入る目があるとナギトは踏んだ。

 

 

「────。相克を始める場として、ここは適格じゃない。だから後者を選ぶ他ないのだけど……それも相当の難易度よ?」

 

 

ナギトの提案から考えを読んだクロチルダはそう言った。エマは手をあごに当てて思考して結論を出す。

 

 

「ですが、不可能じゃないと思います。私と姉さんの転移で特定の人物を指定するのは難しいですが………クレアさんの時と同じ手段ならいけるかと」

 

 

クレアを魔女の里に連れ込んだ時と同じやり方なら。そう聞いてナギトは「なるほど」と言い、機が来れば合図すると伝えた。

 

 

 

そして来たる襲撃者との対決。それが始まる直前にナギトは合図を出した。

魔女2人の杖が掲げられて複数の転移陣が展開される。もちろん座視する相手ではなかったが。

 

 

「リィン、クルト!」

 

 

「───わかった!」

 

「ナギト教官!?………そういうことか!」

 

 

 

瞬時に理解した2人は転移陣に足を踏み入れる。ナギトは転移陣を避けたセドリックをさらって陣内に踏み込む。その他数名が陣に踏み込み────、それらの面々は精霊窟へと転移した。

 

 

 

 

そこでナギトから解放されたセドリックは味方の元へ駆け寄った。そこには紛れ込んだ異物が3人。シャーリィ、ゼノ、レオニダスだ。

 

 

「さすがの嗅覚だな、猟兵」

 

 

ナギトの策を読んでか妨害すべく自ら転移陣に踏み入った3人。

 

 

「こっちの襲撃を逆手に取って相克を進めるつもり?……相変わらず剛腕だね、おにーさん」

 

 

得物であるテスタ=ロッサを構えながらシャーリィはナギトを睨みつける。彼女もナギトとの関係を黒キ星杯以降思い出したのだろう。

 

 

「仲間の技能ありき、だけどな。あっちもエステルたちやロイドたちもいるし滅多な事は起きねぇだろ。なんならオーレリア将軍もいるしな」

 

 

ナギトが挙げたのは味方側の安心材料だ。ナギトとリィン、クルトの3人をあの場から連れ出した戦力ダウンだが、残ったメンバーならあの局面でも乗り越えられるという信頼。

幸いにしてマクバーンやアリアンロードなどの破格の戦力もなかった事だし、パンタグリュエルに集った英雄たちならば大丈夫だろう。

 

 

「さ、て…………おいたが過ぎたな、セドリック・ライゼ・アルノール?」

 

 

笑みを向けつつセドリックに矛先を向ける。

 

 

「ッ………あなたという人は……………!」

 

 

歯噛みするセドリック。かつて帝都での演習中に散々にやられた記憶が甦る。

 

「殿下……」と声を漏らしたクルトの心情は複雑だ。かつての主人。いずれは騎士としてその剣を捧げるはずだった友。その忠誠心は未だ腐れてはおらず、今の歪んだセドリックを正道に戻せるかもわからない。動くに動けないのだ。

 

 

セドリックの横でゼノとレオニダスが静かに武器を構えた。シャーリィもそうだが、彼らも元々の世界でナギトには敵わないと思い知らされた面々だ。

 

 

「相克を始めたいところだが、まずはこの場を闘気で満たす必要がある。……………すぐには死んでくれるなよ?」

 

 

殺気を放つナギトにセドリックは怖気を覚えつつも剣を抜いた。

 

 

「ほらほらビビんないの。………なんなら私らを囮にして逃げてもいいんだよ?それくらいの時間なら稼げると思うし」

 

 

シャーリィは姉貴分よろしくセドリックに逃走の選択肢を提示する。セドリックは「誰が!」と反発するが、

 

 

「そうだぜ、逃げてもいい。その背を撃つだけだしな。………なんなら相克をするんじゃなくてお前からテスタ=ロッサを奪うのもいいかもな」

 

 

ニヤついたナギトは名案とばかりに《緋の騎神》簒奪を公言した。

 

 

 

「テスタ=ロッサは僕の力だッ……!誰にも奪わせはしない……僕だけの………!」

 

 

セドリックが恐れているのは、それが現実にあり得る可能性だからだ。セドリックにもナギトの元々の世界の記憶は混入している。あちらの世界で起動者だったナギトは、こちらの世界のテスタ=ロッサと縁を再構築する実現性も充分に考えられた。

 

 

「この力を得るためにっ……僕は………!………僕は、父上や兄上を見殺しにしたんだ………!」

 

 

吐き出すセドリックは本当につらそうで、ナギトも悪辣の仮面を脱いでしまいそうになる。

ナギトは昔の……今から2年も経たない前の彼を知っている。皇宮で蝶よ花よと育てられたアルフィンと並ぶ帝国の至宝。虫も殺せないような少年。英雄譚に憧れる普通の感性を持ち、皇位継承を約束された次代の皇帝。

その才覚は悪意によって目覚めさせられてしまった。力を求める理由が、力を得る事に溺れてしまった哀れなる皇太子。

 

いったいどれだけの血反吐を吐けば、親愛する父兄を見殺しにできるのかナギトには想像もできない。セドリックの言葉は己を縛る呪詛のようでもあった。

 

 

「お前はもう、気づいてるんだろ……セドリック。────己の歪みの臨界に」

 

 

セドリックは限界を迎えているように見えた。

普遍的な感性のセドリックが、こうも戦争に前のめりになっている。父ユーゲントの銃撃を見過ごし、兄オリヴァルトの爆死を見逃した。

普通の少年が耐えられる痛みではない。しかしセドリックが今もこうして立てている事実は、そんな現実から目を背けて歩める道を示されたからだ。

 

だがそれも今や窮みに達している。パンタグリュエルにはアルフィンも乗艦している。今度は姉さえ見殺しにしようと言うのだから当然の話だ。

 

 

 

「それでも僕は前に進む……!偉大なるオズボーン閣下の目的のため…邪魔者は排除する!」

 

 

 

熱を帯びたセドリックの激情に水を差したのはクルトだった。

「殿下」と短い呼びかけには哀れみがあり。

 

 

「あなたは気づいているのですか……?よしんばこの場を切り抜けたとして、最終的には騎神の起動者同士として……あなたの敬愛するオズボーン宰相と相克を争う未来を」

 

 

 

「────ッ!」

 

 

その当然の帰結は刃となってセドリックの胸を抉る。

気づいていなかったはずはない。しかし、やはり、見ないふりをしていたのだ。

 

 

 

「うるさい……うるさいうるさいうるさいッ!僕は正しい!アルノールの血が教えてくれた……大帝の意志に沿う悦びを!!」

 

 

 

セドリックから噴き出したのは紅く黒い闘気。否、それはもはや闘気とは呼べない呪縛のような何かだった。

 

 

「殿下……俺たちにはあなたが何を言っているのかわかりません。……ですが、俺と同じものに取り憑かれているあなたを放ってはおけません」

 

 

抜き放たれたリィンの太刀が光を反射する。リィンとセドリックが宿す闇は根源を同じとするものだ。

 

 

「………リィンさん……………あなたはいいですよね。オズボーン宰相の実子であり、今や帝国の英雄《灰色の騎士》だ!……僕はあなたとは違う………違い過ぎる………!」

 

 

歪みの臨界、と表現されたセドリック。願望、使命感、本心、愛情───、それらがごちゃ混ぜになって今まさにその臨界点を越えようとしていた。

 

 

「今のお前にはその実力も資格もない。……選ばせてやろう、セドリック。三文役者として舞台を降りるか、道化として舞台で踊り続けるか」

 

 

 

ナギトが提示したのは舐め腐った2択だった。セドリックの憤怒は頂点に達し───。

 

 

 

「………いいでしょう。そこまで言うのなら乗ってあげますよ。第二の相克………ここで始めようじゃないか!」

 

 

 

ナギトはしてやったり、という顔はせず、セドリックの脇を固める3人の猟兵に視線をやった。“付き合ってくれるか?”と問う。

ゼノとレオニダスは顎を引く。シャーリィも同じように首肯した。無言のアイコンタクトであった。

 

 

斯くして第二相克の火蓋は切って落とされた。

 

 

 

☆★

 

 

 

「おにーさんさあ」

 

 

激戦の中、対峙していたシャーリィが開口する。

 

 

「これは違うよね?」

 

 

その意図は理解できた。

 

 

「お前も大概世話焼きだな」

 

 

シャーリィはセドリックを目にかけている、というのが正しいだろうか。“テスタ=ロッサ”という得物と“テスタ=ロッサ”という騎神───その名前の縁からか、シャーリィはあの黒キ星杯以降、セドリックと共に行動する事が多かった。

今この場においても、セドリックの歪みを正そうというナギトの思惑に乗っかっているのもそのためだ。

 

 

だが、シャーリィが感じているのは、求めているのは、それをもう一押しし、さらには自分も愉しむための一手。それをナギトに促した。

 

 

 

「了解。覚悟しろよ」

 

 

 

交える刃。その重さが飛躍する。弾き飛ばされたシャーリィは精霊窟の岩壁に打ち付けられた。

 

 

「シャーリィさん!」

 

 

リィンらと交戦しつつもシャーリィに声をかけたセドリックにシャーリィは否を唱える。

 

 

「もっと集中しなよ!」

 

 

刹那、静寂。ナギトの太刀が空を切り、ひゅんと音を出した。

 

 

 

「セドリック・ライゼ・アルノール!ごちゃごちゃと考えるな!男一貫、もっとアツくやり合おうぜ…!もう戦う理由すら忘れて今この時だけは交わす刃を、潜る死線を耽溺しろ!……もっと愉しめ!!」

 

 

それは馬鹿みたいな提案だった。阿呆みたいな熱情だった。平熱だった毎日を越えて、熱に浮かされよう。

 

 

「リィン、クルト…お前らもだ!………俺たちはここに生きてる!その実感を世界に刻め!!」

 

 

闘いの愉悦。シャーリィがセドリックを沸かせたかったのはそれだ。一寸先は死の戦域。それを踏み荒らす生の実感を。

 

小難しい論理は彼方に投げ捨てて、今を生きる事を。

 

 

 

それに真っ先に応えたのはゼノとレオニダスだった。息の合ったコンビネーションでナギトに肉薄する。

 

 

「まったく…団長が聞いたら何と言うか……!」

 

「でもまあアリやろ。どこまでも冷静にアツくなるってのも…!」

 

 

至近で交わす刃と視線。2人の猟兵は確かに熱に浮かされていた。しかもそれでミスが起こる事もない。一流の戦士の証だ。

 

 

「悪いな、付き合わせて」

 

 

ニヤリと、謝意があるのかないのかわからない表情でナギトは言って、力任せに2人を引き離した。

 

そこに追撃するリィンとクルト。それを横合いから飛び出して阻止するシャーリィ。そのシャーリィを狙った斬撃を放つナギト。戦いはより混迷を極め────。

 

その熱に置いていかれたセドリックはどこか寂寥感を覚えてしまう。しかし時折向けられる視線には心臓が跳ねる。

それは期待だったり警戒だったりするのだろう。しかしセドリックはあえて解釈を違えた。

 

 

僕も混ぜて、と言っていいのだと。

一緒に遊ぼう、と手を引かれているのだと。

 

 

 

 

 

「プルガトリーセイバー───!!」

 

 

 

その6人をまとめて薙ぎ払う炎の刃。求められるがままにセドリックは参戦する。それをそれぞれの笑みで迎え入れる敵味方。

 

そうして束の間、胡蝶の夢を見る事になるのだ。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

しかし夢はいつかは覚めるもの。現実に生きる時はやってくる。

騎神の起動者ゆえか、セドリックは精霊窟が闘気で満たされていくのがわかった。

 

 

愉しい時間が終わってしまう。

寂しさもある。しかしそれ以上に充足感があった。

 

ナギトと目が合う。突撃。真紅の騎士剣は太刀に受け止められた。

 

 

 

「ありがとう、僕の英雄」

 

 

「礼には及びませんよ、殿下」

 

 

 

乱戦の最中、顕在化したセドリックの贄の力はナギトによって斬り祓われていた。その最たる要因はセドリックの歪みがすでに限界だった事に加えて、本心に向き合う事ができた点がある。それによってセドリックの黒の枷は外れていた。

 

ナギトに向けた言葉は、彼を驚かせるかもしれなかったが、それでも言った。ナギトは当然のように返答する。

まるで幼子が“ばいばい”、“また明日ね”と翌日また遊ぶ事を確信しているかのように。

 

 

 

 

 

 

精霊窟が闘気で満たされる。

これで第二相克の本番を始める用意が整ったわけだ。

 

ナギトはリィンに頷きかける。ここから先は起動者の領分だ。セドリックに取り憑いていた贄の残滓も祓えた。もはやこの場においてナギトの出る幕はなかった。

 

 

《灰の騎神》ヴァリマールと《緋の騎神》テスタ=ロッサの決戦を見守る。

 

 

 

すすす、と同じく観戦するシャーリィらに近づいた。

 

 

「改めて、付き合わせて悪かったな」

 

 

「ホントやで。ガキのお守りはもう勘弁やな」

 

「しかし、面白いものを見せてもらった」

 

 

ゼノは悪態を吐いたが、そんなセリフはフィーという子供を育てた実績からして否定されている。レオニダスのそれはあの歪み切った皇太子を正しい道に戻した事を言っていた。

 

 

「それは私のおかげだよね、おにーさん?」

 

 

「否定はせんが、お前の場合はもっと愉しいバトルがしたいってのもあったろ」

 

 

「それはそうだけど。……でもおにーさん…最後まで本気出さなかったよね?」

 

 

「………この場における本気は出したさ。そもそも俺は黒キ星杯の時から弱ってるしな」

 

 

シャーリィの愚痴を聞き流す。クルトはナギトの静かな移動に気づいたようだが、敵の隣にいってお喋りするという気狂いムーブには付き合わずリィンとセドリックの戦いの行方を静かに見守っていた。

 

 

「そうなんだ。…………まあ確かに、そういう話は聞いてたけどさ。……だったら今の私でもおにーさんの相手が務まるかなぁ?」

 

 

「かもね」

 

 

「雑ー」

 

 

シャーリィも本心からの言葉ではなかった。先の戦闘からしてナギトはシャーリィやセドリックを接待していた。2人が気兼ねなく遊べるように。理合の心地良さを得られるように。それは最早戦場のコントロールだ。

そんな風に盤面を操れる男を相手にサシで勝てると思うほどシャーリィはカンが鈍っているわけではない。

 

 

 

 

「………決まったね」

 

 

 

ヴァリマールの振るった終末の剣がテスタ=ロッサの手から騎士剣を弾き飛ばした。第二相克は決着を見た。

 

そしてテスタ=ロッサはヴァリマールに吸収されて虚空に消える。セドリックも体力を使い果たしたようでリィンとクルトの2人と話してから気絶した。

 

 

ナギトは“Ⅶの輪”にてエマに連絡。迎えに来てもらった。

 

そして一行がパンタグリュエルに戻った頃にはそちらも決着がついていた。

 

死んだと思われていたオリヴァルトが新たなる紅き翼──カレイジャスⅡを駆って救援に訪れて襲撃を凌いだ。

通信越しに現れたオズボーンの指示により襲撃者たちは撤退した。

 

 

他にも様々な事柄がありつつも事態は収束し────。

 

 

Ⅶ組はカレイジャスに合流。

《大地の竜》、《千の陽炎》に次ぐ第三勢力《光まとう翼》の発足となるのだった

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