八葉を継ぐ者──AAA──   作:クラウンドッグ

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特異点、解放

 

 

「ごめんな、ユーシス」

 

 

 

それはある意味で場違いな謝罪だった。

 

来たる第四の相克。《鋼の聖女》アリアンロードの駆る《銀の騎神》アルグレオンとの決戦。

それを制したⅦ組の言葉はリアンヌの納得を引き出し、彼女が仲間入りする事となった───

 

 

 

 

「──いいや、“伝説”にはここでご退場願うとしよう」

 

 

 

───と思ったのも束の間、《金の騎神》エル=プラドー──ルーファス・アルバレアの強襲により、リアンヌは致命傷を負った。

 

騎神の核を貫く剣。事態を認識した者たちの動きは速かった。

 

しかし、届かない。

 

ヴァリマールとオルディーネのコンビネーションを躱し、焔の聖獣ローゼリアの一撃すら弾く《金の騎神》。

 

 

相克の勝者に与えられる騎神の力。アルグレオンからヴァリマールに渡り、そしてアルグレオンへと返された力がエル=プラドーに吸収されていく。

 

その無情な光景の前に八葉を継ぐ者は太刀を大上段に構えた。

 

そして紡がれたのがクラスメイトにして、ルーファスの弟たるユーシスへの謝罪だった。

 

 

 

 

「────軌跡改竄 / 落涙叛転(ラクリモサ・オーダー)

 

 

 

 

それは八葉を継ぐ者の、真の奥義だった。

万象の源流たる“八葉一閃”に“特異点”の力を乗せる。斬撃は拡張され、あらゆる防御は意味を成さず、必中不可避の概念が付与された因果決定の一撃。

 

 

リィンとクロウの連携もローゼリアの魔術すら無下にしたルーファスが、何も出来ずに一閃を受けた。

 

袈裟斬りにされた騎神の上下が分かたれる。しかし核のルーファスは右腕を失っただけで健在だ。それは人の身で騎神を降した事で相克がキャンセルされるかもしれない事実をナギトが危惧したからである。

 

 

 

「リィンっ!」

 

 

隔絶した一閃に誰もが動けずにいたが、兄弟分の声を聞いてリィンは我に返った。名前を呼ばれた意味を取り違えたりはしない。

 

 

 

「──っおおおおお!」

 

 

ヴァリマールの振るった終末の剣が閃き、第四相克に割り込んだ第五相克が終わりを迎えた。

リィンはエル=プラドーから流れ込むエネルギーをヴァリマールを介してアルグレオン──即ちリアンヌへと供与する。

 

修復する騎神からのフィードバックを受けてリアンヌの傷も癒やされていく。ローゼリアやエマなど魔女の助けもあった。その甲斐もありリアンヌは復活しⅦ組と行動を共にする事となる。

 

 

 

瀕死のルーファスを見下ろすのはナギトとユーシスだった。

失った右腕と騎神からのダメージのフィードバックでもはや命は助かりそうもない。ナギトのユーシスへの謝罪は兄を奪う事に対してのものだったのだ。

 

ルーファスは呼吸も浅く、溢れ出る血は白い衣装を赤く染めていく。

 

 

 

「兄上………………」

 

 

ユーシスは力なくルーファスを呼ぶ。

兄のやった事は許せないが、こんなにも速くルーファスを喪う事になると覚悟はしていなかった。

 

 

「……ユーシス、か……………」

 

 

か細い声は今にも消え行きそうで、目を逸らしたくなる。

 

そんなルーファスにナギトは手を翳した。その掌から光が放たれてルーファスを包む。

 

 

「これで話すくらいの猶予はできる。………もう謝らないからな。………ルーファスさん、あなたはやり過ぎた」

 

 

“特異点”の力を解放したのだ。死にゆくルーファスの時間は遅延され、最期の兄弟話ができる程度には延命された。

 

 

「……すまないね。……しかし君が、ここまでするとは」

 

 

踵を返したナギトよ背中にルーファスは語りかける。ナギトにはもはや振り返る気はなく、背中越しに返事をする。

 

 

「………今までが甘かったんですよ。事ここに至り、出し惜しみはしません。……仮に俺が脱落してもリアンヌさんが仲間になるならプラスだ」

 

 

その言葉はどこまでが本心だったのか、ナギト自身にも判然としない。

軌跡プレイヤーの集合体であるナギトにとってリアンヌ──アリアンロードは憧れだ。それはいち武人ナギトとしても同じで。だからそんな彼女がこんな不意打ちでやられていいわけがない。

ナギトを突き動かしたのは、リアンヌがパーティインするというある種の夢が現実になる可能性を掴むためのものだったのかもしれない。

 

 

 

 

ややあって場がほどける。一同はクロスベルの湿地帯に戻された。

 

そこからは《身喰らう蛇》の者たちが現れていくつか会話を交わしたが、それが落ち着いた折に彼方の空が輝いたのがわかった。

 

それが何なのか、異変を感じたリィンやクロウだったが正体はわからず────、

 

 

 

「見せてあげるよ」

 

 

 

と、その場に来ていたカンパネルラが指を鳴らした。

 

5つの窓が空間に開かれ、そこに映し出されたのは4本の《塩の杭》と、地精が建造した幻想機動要塞の姿だった。

 

 

 

「あっはは、まさかここまでやるなんてねぇ!」

 

 

笑うカンパネルラにナギトの肝は冷える。腹は決まる。

 

再度、“特異点”を解放する。再度、太刀を大上段に構える。

 

 

 

「──縛鎖全断 / 軌跡共在(モンストルム・オーダー)!」

 

 

 

振り下ろされた一太刀は、遠隔で斬撃を発生させて4本の《塩の杭》を斬り消滅させる。

しかし本命たる機動要塞には届かなかった。

 

 

「おっと、危ない危ない」

 

 

その姿を映していた窓がカンパネルラの手によって消されてしまったからだ。

因果を決定させる概念を持たぬ廉価版の奥義では、視界の内にしか効力を発揮できない。

 

 

 

「くっそ……こんな…子供騙しに…引っかかる、とは…………」

 

 

 

膝から崩れ落ちるナギト。

《金の騎神》を打倒するために放った奥義、ルーファスを延命させるために使った力、そして今回、事態を終わりに近づけるために撃った一手。

それらの負債は“特異点”としての肉体の意味消失に拍車をかけていた。

ナギトの全身は無に包まれ、辛うじて保っているのは顔面の部分のみ。すでに立つ気力すらナギトからは失われていた。

 

そんなナギトを見てカンパネルラは大笑する。

 

 

 

「まさか……本当に、ここまで上手くいくとは思わなかったよ。総督さんを失ったのは計算違いだけど────まあ、それも込みでこの結果と言えるのかな」

 

 

 

アーサーに肩を貸してもらい、それでも膝立ちのナギトは、いつものように笑う事もできない。

 

 

「《塩の杭》がやられるのに間に合わなかったのは痛手だけど……それでも割りに合うよね。……ナギト・カーファイ───君というイレギュラーを盤面から取り除く事ができたんだからさあ!」

 

 

カンパネルラの発言で他の面々も、今の展開がオズボーン勢力の仕込みである事がわかった。

 

ナギトという無比の駒を盤面から排除するために、オズボーンが打った一手。

《塩の杭》に幻想機動要塞と、破格の代物を見せつける事でナギトの危機感を煽り、“特異点”の力をもって事態の解決に動かせる事。

ギャンブルも甚だしいが、その賭けにオズボーンは勝利した。《金の騎神》、《塩の杭》を喪失したとは言え、大金星らしい。

 

最終局面で舞台をひっくり返す可能性のあるナギトを事実上行動不能にできたのだから。

 

 

 

《身喰らう蛇》の面々はその結果を確認してその場を去り、仲間たちもまたカレイジャスと合流した。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

カレイジャスの医務室でナギトはベッドに寝かせられていた。

“特異点”の力を使った代償により身体の大部分が無に帰したためである。

無に帰した、とは言っても厳密には消滅したわけではない。内臓は機能してるし四肢も動く。ただし感覚はない。欠損した肉体を他者のそれで補っているような心地だ。

 

こうなる以前、黒キ星杯で《緋の騎神》を呼び出した際には身体の50%が無に飲まれたが、それは何とか自力でフォローできていた。しかし今回の件で残る“特異点”の力は5%を切った。今のナギトはまともに歩く事もままならない状態にある。

 

 

そんなナギトにリアンヌは申し訳なさそうに頭を垂れた。

己の命を救った恩人への見舞いに訪れていたのだ。その場にはデュバリィもいて、ナギトは気まずい思いをしていた。

 

 

「頭を上げてください、リアンヌさん。デュバリィさんからの視線が痛い」

 

 

「ですが…………いえ、すみません」

 

 

リアンヌは言われた通りにして、ナギトの心情を慮る。確かに自分が彼の立場でも謝罪は求めないだろう。

 

 

「俺はもう元の5割の力も出せなかった。そんな俺の戦線離脱とトレードで貴女が仲間入りしてくれたんならむしろプラスです。それに当日の作戦だって………」

 

 

「単純な戦力として換算すれば、の話でしょう。あなたの“特異点”としての力は常に相手の脅威でした。それが失われたとなれば………」

 

 

「“特異点”ならまだアーサーがいますよ。あいつの実力は貴女も知っての通り」

 

 

要するにナギトは“気にするな”と言っているのだ。そこまでされてはリアンヌも引き下がるしかない。むしろ叱咤されている気すらした。己の抜けた穴を十全に埋めよとばかりに。

 

 

「………改めて感謝を。ナギト・ウィル・カーファイ。あなたのおかげで私は《黒》に立ち向かう覚悟を──ドライケルスと向き合う覚悟が決まりました」

 

 

 

「どういたしまして、聖女様」と微笑みと共に感謝を受け取ったナギトに、リアンヌは感謝の追撃をした。

 

 

「それにデュバリィのことも。あなたが彼女を引き上げる一助を担ったと聞きました」

 

 

それは相克が始まるより前、ナギトがデュバリィに与えたアドバイスについて言及していた。

 

 

──“「あなたのスピードはピカイチだ。でも読み易いのはその出し方が単調だからだ」”

 

 

《神速》のデュバリィのスピードは渾名に違わず世界一と言って良い。しかし動きにキレがなかった。最高速度は最速でも、そこに達するまでの間と緩急の付け方がもったいない、と平たく言えばそんな助言だった。

例えば《風の剣聖》アリオスもスピードはかなりのものだがデュバリィの最高速度には及ばない。が、デュバリィとはキレが違い過ぎる。彼の動きをデュバリィが見れば己より速いと勘違いするだろう。だから磨くべきは何々──と。

そんな感じでナギトはデュバリィを指導して、相克前の対戦ではリアンヌの手からランスを弾き飛ばすにまで成長した。

 

 

「……こほん。わたくしからも、改めて感謝しますわ、ナギト・カーファイ。……………あなたのおかげでマスターに想いを届けられましたし、何よりマスターを喪わずに済みました」

 

 

 

「…………ふ。師弟そろってまったく………。もう感謝は食傷気味ですよ。謝罪もね。………だから、俺から言えるのは、託したぞ…ってな事だけですよ」

 

 

2人の女の感謝を受けてナギトは胸中を垣間見せた。声音に滲むのは、最後までリィンらと共に進みたかったという意思だ。それを不意にしてまでリアンヌを救ったんだから、その甲斐あったと思わせてくれ、という願いだった。

 

 

医務室のドアが開く。入ってきたのはアーサーだった。

 

 

「アルトリウス・ルグィン───、お見舞いですか?」

 

 

話題にも登ったアーサーの登場に忘我を挟み、リアンヌは要件を尋ねた。

 

 

「はい。ナギト教官、少し話せますか」

 

 

相変わらず疑問符を入れぬ確認にナギトは大仰に眉根を上げてからリアンヌに視線をやる。

 

 

「デュバリィ、外しましょう」

 

 

すぐに意図を察したリアンヌは医務室を出ていく。「はい、マスター」とデュバリィも追従した。

 

ドアが閉まる間際、振り返ったリアンヌはアーサーを見る。

アルトリウス・ルグィン。13人目の聖痕持ち。《太陽の騎士》。女傑オーレリアの実弟。武闘派執行者に勝るとも劣らぬポテンシャル。もうひとりの────否、この世界における第一の“特異点”。

 

ナギト・カーファイという先駆者が力を失った事で、その身を縛る重圧は倍増どころではないはずだ。

 

 

しかしすれ違い様に交わした視線──、瞳は力強く優しいものだった。不安の色も見えはしたが、だからこそ人間味を感じさせる。

 

それでいい、とリアンヌは思った。

強さと弱さを兼ね備え、仲間と共に歩んでいく。それが人間として正しい道なのだと。

 

 

きっと上手くいく。そんなふうに思わせてくれる青年にアーサーはなっていた。

 

 

 

 

☆★

 

 

つい今までリアンヌが座っていた椅子に腰をおろし、重たい雰囲気をまとったままアーサーは問いただす。

 

 

「どうして、あんな無茶を……」

 

 

ナギトがこうなっている理由。ルーファスを斃し、《塩の杭》を消失させた一閃の対価。こうなる事はわかっていただろうに、それでも実行した価値はあるのか、意味はあるのか。

 

 

「……なんつーか、ノリと勢い?」

 

 

「俺は真面目に聞いてる」

 

 

やれやれ、と肩をすくめたかったが、今やそうするのもひどく億劫だ。

 

 

「まあ……ノリと勢いってえのもあながち嘘じゃない。直感とも言うかな」

 

 

「はあ」とわかりやすくため息をついてナギトは続ける。

 

 

「カンパネルラのクソのせいで本命は取り逃したが。………あの《塩の杭》も塩化能力のないレプリカだったらしいけど………まあ損はしてないと思ってる……思う事にしてる。アレが残ってたら当日の突入部隊も人数分けてただろうし」

 

 

 

だから戦力的には大幅なプラスだ。幻想機動要塞に乗り込む予定のメンツはかなり多めに設定されている。相手方からはセドリックやルーファスはリタイア。騎神の数でも優っている。問題はイシュメルガの強さだが、それについてはもう信じるしか選択肢がない。

 

 

 

「それで……いいのかよ、ナギト教官………?」

 

 

どこか飄々と、感情を靡かせない発言にアーサーはうなだれる。セリフの端々に覗かせた思いはどれも他人行儀のように感じられた。

 

 

ナギトは再びため息を吐く。そして「わかった」と短く言った。

 

 

「本心を言うぞ。お前が俺と同じ“特異点”だから言う本音だ。くれぐれもリィンとかには内緒だからな」

 

 

今度は「ふー」と息を吐いた。冷静になるためだ。胸中に渦巻く激情をそのまま吐き出せば、それは巡って仲間たちへの迷惑になるとわかっているから。

 

 

「いいわけねぇだろ…!ざっけんな、俺だってリィンたちと肩並べてクライマックスに挑みてえに決まってる……!」

 

 

それはすごく俗っぽい語り口で、しかし“特異点”だからこそ、あの英雄たちと共に戦いたいという気持ちは共感できる。

 

 

「ついに騎神も出揃って?オズボーンとの親子対決も間近で?最後の相克とか胸アツ過ぎんだろ……!くっそー、俺も行きたかったなー機動要塞!」

 

 

“特異点”とか言う格好つけた表現では語りたくない、あまりにもプレイヤーメンタル全開の嘆きにアーサーは目を丸くした。

 

 

「しかもそれだけじゃなくてさ、巨イナル一とかもあるじゃん?これ相克終わったらどうなんの?ってさー、もうワクワクたまんねー!」

 

 

 

そのあまりにもあんまりな発言の数々は普段の言動から凄まじく逸脱していて、アーサーは思わず「ぷっ」と吹き出してしまう。

 

 

「オタクじゃん」

 

 

「……そうだよ、俺は軌跡オタクだよ。お前だってそうだろうが」

 

 

「そうだな。……そうだった」

 

 

ナギトは“ナギト・ウィル・カーファイ”という人間として振る舞っていた。アーサーもそうだ、“アルトリウス・ルグィン”といういち個人として生きている。

 

だが、今ここにいるのはただふたりの軌跡ファンだけだ。そういった衣さえ必要ない。剥き出しの己であっていいのだ。いつもの姿が偽物という話ではない。いずれも本物、そういった多面性のすべてで自分なのだ。

 

 

 

「──だったら」

 

 

 

アーサーはナギトに手を翳す。仄く淡い光がそこからあふれてナギトに注がれていく。

 

 

「おいっ!やめろ……!」

 

 

“特異点”の移譲だ。アーサーは己の本質をもってナギトの欠けた力を埋めようとしている。

 

 

 

「あなたと彼女らのトレードが差し引きプラスなら……これもそうだろ……!」

 

 

 

アーサーとナギトでは力の差がある。聖剣があっても埋められない差が。

ナギトとリアンヌたちを単純な戦力で考えて、ナギトの離脱が割に合うのなら、これもそうだ。最適解ではないかもしれない。それでも───。

 

 

「これはお前の物語だろうが………!」

 

 

ナギトはアーサーの腕を掴んでそれを阻止した。そうできてしまった。そうできるほどに力は戻っていた。

 

 

「……ナギト教官…………」

 

 

「これはお前の物語、お前が始めた軌跡だ。最後にアウトサイダーに頼ろうとするんじゃねえよ」

 

 

「それに」とナギトは続ける。

 

 

「お前の存在によって正史から分岐した世界だ。お前──アルトリウス・ルグィンがいなきゃ世界そのものの存続すら危うい。お前の存在なしにこの世界が独立して在り続けるのは難しいかもしれないんだぞ」

 

 

セリフと同時に手を離されたアーサーは、その説得によって“特異点”の力を引っ込めた。手を下ろして「すまない」と謝る。

 

 

「気持ちだけもらっとくよ。……まったく、莫迦な事しやがる。…………にしても、“特異点”の力の使い方、わかったんだな?」

 

 

「あなたが使ったところを見たからな。なんとなく、本能的にわかった」

 

 

「………まあ、そういうもんか。身体に異常は?」

 

 

“特異点”の力を使ったのだ。ナギトの今を鑑みると、アーサーも無事ではないはずだ。

 

 

「いや──、特には」

 

 

しかし、アーサーには何ら痛痒はなかった。“特異点”を使った以上は何らかの損失があるはずなのだが。

 

 

「そう、か………。ふーむ」

 

 

ナギトはベッドから起き上がる。それができる程度には回復している。アーサーから移譲された力は相応で、そのぶんアーサーは己を損しているはずだ。

 

 

「おい………」

 

 

「もしかしたら、俺とお前の“特異点”としての成立の仕方の差かもしれんな」

 

 

ナギトを支えようとしたアーサーに、そんな考察をぶつけてみる。

ナギトは数多の願いが結晶となったもの。アーサーはたったひとりの熱量が世界に及んだもの。“特異点”という結果は同じだが、過程がまるで異なる。それが力を使った後の損失の仕方に関わりがあるのではないか、という話だった。

 

 

「そう……なのか……?」

 

 

「いや知らん。適当かました」

 

 

ナギトの言い分に呆れた笑いがこぼれたアーサー。彼としても推理するには材料が足りないのだろう。

 

 

「ナギト教官、あなたは……おそらく───」

 

 

ナギトの指が一本立てられて、言葉を紡ごうとするアーサーの口を閉鎖させた。

 

 

「それは言うな。俺も薄々は勘付いてる。…………お前の損失はわからないくらいゼロに近くて、俺が立って歩けるまでに回復したのはそのおかげかもな」

 

 

 

アーサーは驚く。まさかナギトがその結論に至っていたとは。いったいどこにヒントがあったのだろうか。自分でも、前周回での出来事を黒キ星杯で思い出してからようやくこの考えに辿り着いたというのに。

 

 

「けどやっぱり禁止な。費用対効果は大きいかもだがリスクもでかい。最終戦は俺抜きで行っとくれ」

 

 

半分とぼけたような言い方にアーサーは煙に巻かれている感覚さえ覚える。

 

やはりこの男は偉大なる先輩であり、己が憧れた英雄なのだと。

 

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