八葉を継ぐ者──AAA──   作:クラウンドッグ

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知っている違和感

 

 

「ちょっと、リィン教官!あの人、あれでいいんですか!?」

 

 

武器であるガンブレイカーを構えつつ、ちらりと列車──デアフリンガー号の上を見て言ったのはユウナ・クロフォードだった。

 

 

 

トールズ第Ⅱ分校最初の特別演習、1日目の夜。

演習地に築かれた簡易拠点に攻撃が仕掛けられた。結社《身喰らう蛇》の人形兵器が多数、第Ⅱの雛鳥たちに襲いかかったのである。

 

 

呼びかけられたリィンはユウナの視線の先──デアフリンガー号の上に立つナギトの姿を確認した。

 

 

「彼は──あれでいい」

 

 

リィンは端的に、ナギトの行動を肯定した。今は長ったらしく説明している余裕はない。彼が、この演習地に入り込んだ多くの人形兵器より遥かに危険な存在を押し留めている事を、今は生徒らに納得してもらう時間はなかった。

 

 

結社《身喰らう蛇》でも最強の部隊とされる《鉄機隊》。その筆頭隊士である《神速》のデュバリィ。そして執行者No.ⅩⅦ《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランド。

この2人こそが演習地襲撃の主犯であり人形兵器の統率者。襲撃の主力であった。

 

デュバリィとシャーリィは共に一流の戦士だ。この場において抗する事ができるのは第Ⅱの教官陣でも戦闘能力に長けたリィンとランディのみ。トワやミハイルもいるがやはり純粋な戦闘力では一枚落ち、そして未だ実戦経験の浅い生徒たちを庇いながらでは勝ち目がなかった。

 

 

 

「アハハ!ヤッバイねー、あの人。《黄金の羅刹》がいない以上、警戒するのはランディ兄と《灰色の騎士》くらいかと思ってたけど……」

 

 

「ええ。私たち2人がかりでようやく抑えられる──いえ、2人がかりでも押し込まれるでしょうね」

 

 

 

この場に、ナギト・ウィル・カーファイさえいなければ。

 

ナギトは列車の上から高台に立つシャーリィとデュバリィの2人を牽制していた。《身喰らう蛇》の2人にとってはまさに晴天の霹靂だ。この襲撃はあくまでこの地で行われる実験を邪魔されないための布石に過ぎず、トールズの介入を防ぐための保険であった。

リィンやランディなど歴戦の猛者も生徒たちを庇いつつ人形兵器に加えてシャーリィとデュバリィの相手をする事はできまいと、そうたかを括っていた。

 

 

間違いだった。

こんな化け物がいるなんて聞いていない。

 

 

シャーリィは愉快げに唇を歪めたが、武器を構える愚を犯す事はなかった。自身がかつて見かけた武神──今や同じ組織に属するデュバリィの師に近い何かをナギトから感じ取っていた。

デュバリィもまたシャーリィと同じように戦闘に発展する事を避けた。自身は《鉄機隊》を代表してこの場に来ており、実験の失敗は主人の顔に泥を塗る行為。実験の失敗を許容するリスクはできるだけ遠ざけたかった。

 

 

 

そんな事は知る由もない第Ⅱの生徒からすれば、ナギトはただ列車の上に突っ立ってサボっているようにしか見えない。この鉄火場でそんな事をする時点で元から底値だったナギトの株は暴落する。そもそもからして怪しい教官ではあったのだ。分校長であるオーレリアのゴリ押しでⅦ組の副担任に収まったナギトという男が如何程のものか、生徒たちもまた見定めている最中なのだ。

 

 

ナギトはまばたきをひとつしてつぶやく。

 

 

「そろそろか」

 

 

ナギトは仲間の気配が付近まで接近している事を感じ取っていた。

 

アーサーに視線をやる。それに気づいた彼は振り返るとこくりと頷いた。

 

 

どうやらこれで筋書き通りらしい。

ナギトは漲らせていた闘気を霧散させる。それとほぼ同時にラウラ、エリオット、フィーの3人が演習地に飛び込んできた。

 

交わされる刃と銃弾の果てに人形兵器は殲滅され、《身喰らう蛇》構成員の2人は去っていった。

 

 

 

 

☆★

 

 

「やあ、君がナギト・ウィル・カーファイだね?リィンから話は聞いてるよ」

 

 

《身喰らう蛇》の襲撃を退けて一段落したところで、ナギトは旧Ⅶ組の面子と顔合わせをしていた。

最初に話しかけてきたのはエリオットだ。やはりと言うべきか、ナギトとの記憶はないようだが、優しく強かな男は静かながらにナギトを見定めるために視線を寄越している。

 

ナギトはそんな思惑をぶっ飛ばしてやろうとボケに走る事にした。

 

 

「よおエリオット。こないだの飲み会は楽しかったな」

 

 

言わずもがな、ナギトが元いた世界での出来事であり、この世界のエリオットは知る由もない。

 

 

「えーっと……その飲み会って……?」

 

 

おそるおそる、エリオットは問う。

エリオットからすれば身に覚えのない事実。しかし、この怪しい人物の何がしかを少しでも掴めれば、という思考だ。

 

 

「お前とリィンとマキアスの卒業祝い。その時俺も帝都に来ててな、街で偶然出会って合流したわけよ。…あ、ちなみに俺も飲み会の予定でな、相手はオズボーン宰相とレクターさんとクレアさんだ」

 

 

 

ラウラやリィンの話から察するに、このナギトという人物は曲者の印象を受けたエリオットは半ば試すつもりで声をかけたが、そのナギトの発言で色々と吹っ飛んだ。

 

 

これには初耳のリィンも目を剥いて、

 

 

「さすがに冗談だよな……?」

 

 

「はっはー、俺の知るリィンも飲み会誘った時には同じ反応だったぜ。あと代金は俺とオズボーンで割り勘した」

 

 

そのナギトの軽々しい笑い声に本当にあった事なのだとリィンは苦笑を浮かべたまま固まった。

 

 

 

「ちょっと信じられないかな。……でも、そうだとすると、あなたはその世界とやらでオズボーン宰相たちと親交があったって事だよね?」

 

 

 

と、そこであまりの衝撃に固まったリィンとエリオットに代わり詰問してきたのはフィーだった。

 

 

ギリアス・オズボーンとの親交。一国の宰相。しかも大陸最大規模の軍事力を持つエレボニア帝国を支配する人物と言っても過言ではない彼との親交があった。その指摘、確認は固まっていたリィンとエリオットに理性と緊張感を取り戻させた。

 

ピリついた雰囲気。何か一言でも失言すればそれだけで信用失墜───その中でナギトは「まあな」。あっさり返答した。

 

 

「色々ありましてねぇ……。オズボーンは野心を失って帝国は平和だったのよ」

 

 

にわかには信じ難い発言だった。それこそオズボーンらとリィンたちが飲み会をしたとかいう戯言以上に。

 

 

「ああ、そういや飲み会についてはサラさんにも怒られたな。余計な気を回すなってさ」

 

 

おまけとばかりに付け加えられたその言葉の意味を履き違えるリィンたちではない。

あの煌魔城にいたごく限られた者たちしか知らないリィンとオズボーンの親子関係についてナギトは言及している。

その事実は、ナギトが本当に並行世界においてⅦ組の一員だったと思わせてくる。

 

 

が、未だ疑念は晴れない。旧Ⅶ組のそれを見抜いたナギトはこう締め括る事にした。

 

 

「お前たちはゆっくりと、しっかりと俺を見定めていけばいい。……それとひとつ。俺がお前らを害する事は絶対にない。……それだけ覚えててくれればいいよ」

 

 

そう言うナギトの目はどこまでも優しげで、それが自分ではない自分と友誼を結んだ証だと言わんばかりだった。

 

 

 

「あとラウラ。この後少しいいか?返すものがある」

 

 

その後、ナギトはラウラから借り受けていたミラを返した。

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

「どうやら本物のジョーカーがいるみてぇだしな?」

 

 

 

ルトガー・クラウゼルはそう言うと、木立に目を向けた。

 

 

廃村ハーメルにて迎えた一度目の演習の最後。その決戦の場にナギトの姿はなかった。

少なくとも全員がそう思っていた。甦った《猟兵王》ルトガー・クラウゼル以外は。

 

 

「うっげ」

 

 

ナギトの悪態は口をついて出た。ルトガーはこちらを見ている。戦場より数百アージュ離れた位置にて完全に気配を消していたナギトを。

 

 

「化け物だな、相変わらず」

 

 

ナギトが元々いた世界でもルトガーとは邂逅していた。直接刃を交わせば自分に分があるだろうが、戦士としての嗅覚というか、そういう面では敵いそうにない。

 

 

ルトガーは半透明の騎体───《紫の騎神》ゼクトールを呼び出すとリィンらが倒した機神アイオーンを撃滅し彼方へと飛び去っていった。

 

 

 

その後、ナギトは説教をくらっていた。

演習に向かう第Ⅱの群れから抜け出したⅦ組の生徒たち───アッシュに檄を受けたクルトらを追う…という名目で決戦のハーメル村に行くために、

 

 

「ランディ教官、あいつらは俺に任せてください!」

 

 

という三文芝居をやったはいいが、結果としてナギトは彼らに撒かれ、生徒たちを危険に晒すハメになった……事にしたのだから当然だ。

 

 

「……………………………」

 

 

ミハイルのご尤もな説教を聞き流しながらナギトは考察していた。ゼクトールについてだ。

《紫の騎神》ゼクトール──その名をナギトは知っている。………知っている、ことが問題なのだ。

 

ナギトが唐突に連れて来られたこの世界は、おそらく閃の軌跡Ⅲ以降の物語だ。ナギトという異分子がいるからには正史に程近い別史ではあろうが。

 

 

ナギトは───否、その真であり芯である“特異点”の本質は閃の軌跡Ⅱまでしか知らない。

 

だが《紫の騎神》ゼクトール───その名前が、姿形が、元々いた世界のそれと一致するのは何故だ?

 

もしかすると、ナギトの元々いた世界は───

 

 

 

 

「聞いているのかね、カーファイ教官」

 

 

 

ミハイルの注意。思考の海から浮上する。

 

 

 

「聞いてますとも、ミハイル教官。…………今後は、ちゃんとします」

 

 

 

抽象的な回答にミハイルはさらに青筋を立てたが、それは確かにナギトの決意表明であった。

 

 

 

 

そんな様子のナギトを第Ⅱの生徒たちは見ていた。未だ実力も知れず、受け持ちの授業では好き勝手にする彼を、疑問の眼差しで。本当にあんな人物が自分たちの教官でいいのか、と。

 

しかしそれとは別種の視線を向ける生徒もいた。アーサー──アルトリウス・ルグィンだ。

ナギトも半ば気づいてはいるが、アーサーもまた本来ならばこの軌跡には登場しない人物だ。それをアーサーは自覚しているし、なによりアーサーはナギトが異物だと確信している。だからこそその動向が気になるのだ。

 

 

「アーサー、聞いてるのか!?」

 

 

と、そこでアーサーはリィンにお叱りを受けた。勝手に演習を抜け出し、ハーメル村の決戦に参加、命を危険に晒したツケである。

 

 

「しっかりしてくれ。……君が強いのはわかる。だが相手はそれ以上の脅威だ。油断や慢心は即命取りになるんだぞ」

 

 

「わかってます、リィン教官」

 

 

 

 

奇しくも2人の“特異点”が説教を受ける、という締まらないオチで、この第一回目の演習は幕を下ろしたのであった。

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