歴史の彼方に<あるトリプルティアラウマ娘について> 作:歴山
それは昔の事だった。その時は自分はまだ幼くレース場に来るのも初めてだった。秋を感じる京都レース場で"彼女"は存在した。
『2番手争いはアドマイヤグルーヴ!しかし速い!●●●●●●●●!』
『先頭を駆け抜けて今、ゴールインッッ!』
『●●●●●●●●が勝ちました!』
『メジロラモーヌ以来の、史上2人目!●●●●●●●●、ついに三冠達成ッッ!』
『ここに新たなトリプルティアラウマ娘が誕生した!!』
「…ぃ…おい!!」
「はっ、はい!?」
叩き起こされるようにして机から立ち上がる。その勢いが良すぎたのか、机の上の資料が乱雑に落ちてしまう。
どうやら自分は勤めている新聞社の机で眠ってしまっていたようだった。そして自分の横には鬼の形相をした編集長が仁王立ちで立っていた。
「へ、編集長!?お、お疲れ様です!」
「“お疲れ様です”じゃない!!時間を見ろ!!一体、いつまで仕事をしているつもりだ!!」
周りを見渡すと自分と編集長以外、誰もおらず、時刻は夜の12時を回ろうとしており、満月がはっきりと見る事が出来た。
「す、すみません!つい、夢中になってしまっていたようで…すぐに帰ります!」
急いで帰り支度をする為に、床に落ちてしまった資料を回収する。一人では回収しきれないので編集長と一緒に集める。
「それにしても、かなりの数だな。ここにある全部の資料、次の記事のやつか?」
「はい!自分で企画した初めての記事なので…良いものを書きたいんです!」
そう、今回の記事は今の部署の所属になって初めて自分に任せられた仕事。しかも内容は…
(”トリプルティアラ”、トゥインクルシリーズにおいてティアラ路線を選んだ子たちにとっての夢である称号を手にした“6人”のウマ娘を…)
「6人…?」
『メジロラモーヌ以来の、史上2人目!●●●●●●●●!ここに新たなトリプルティアラウマ娘が誕生した!!』
違和感。自分の中に突如として湧き出てきた謎の感覚。
「…あの、編集長…」
「ん?どうした?」
「…その…メジロラモーヌの次のトリプルティアラって…●●●●●●●●ですよね?」
「…お前、誰の事を言ってるんだ?」
「…これにも載ってないか…」
持っていた資料を机に置き、頭を抱える。あの夜、編集長と話してから自分の頭の残り続けている謎の存在。自分が持っている一次資料はもちろんの事、二次資料や百科事典、信憑性の薄いネット掲示板も探したが●●●●●●●●の名前は一つも出てこなかった。
資料だけでなく、長年ウマ娘たちの取材をしている部署の先輩たちにも話を聞いてみたが、
『そんな子、いたかな?』
『知らない名前だな。ホントにそんな子、いるのか?』
誰に聞こうとも同じ返答が帰ってきた。
(どういう事なんだ…)
机の上で悩んでいても何も変わらないので一度、立ち上がる。本来、自分はこんな事を調べている場合ではなかったが、この違和感を無視してはいけない気がして何も手が付けられなかった。
「何かきっかけが…」
しかし、考えても考えても何も思いついてくることはなかった。仕方ないのでもう一度、椅子に腰かけて目をつむる。もう一度、あの夢を見れたらと思って…
『……2番手争いはアドマイヤグルーヴ!………』
「ッッそうか!!!」
勢いよく机から飛び上がる。突然叫んだ事で周りからは白い目で見られたがそんな事を気にしている場合ではなかった。自分は彼女に会うために学園に向かった。
「申し訳ないのですが、彼女たちは今、合宿に行っていまして…」
「そ、そうですか…」
学園の担当者の話を聞いて肩を落とす。しかしそれは分かり切っていた事だった。なぜなら今の季節は夏真っ盛り、学園の生徒は夏合宿で学園にいないのだ。
自分の早とちりに恥ずかしさを覚えたが、ここまできて何も手に入らなかったとはいけないのでとりあえず学園関係者に話を聞いてみる事にしたが、
「…いや、自分の記憶にはそんな子はいなかった気がしますね」
「そうですか…」
「でも、もしかしたら学園の書庫にその子の記録が残っているかもしれませんから…宜しかったら調べていきますか?」
「いいんですか!?」
自分の必死具合に同情しての事か、普段は入れない学園の書庫に案内してもらう事が出来たのである。それにしてもどうして通してくれたのか、気になって聞いてみると、
「本当なら駄目な事なんですけど…何故かは分かんないんですけど、貴方は通すべき人だと思ったんですよ」
「はぁ…」
「ま、これも何か”運命”だったんですかね」
いまいちよくは分からなかったが、とにかく担当者に書庫まで案内してもらい、一人書庫の中に入る。そこには見渡す限りの資料がぎっしりと並べられていた。
とりあえず、まずはトリプルティアラの事について調べる。学園の記録を見てみると最初の達成者はメジロラモーヌと書かれており、そこから何人もの名前が載っていた。そして一番最近、達成させた赤黄の髪飾りをしたウマ娘を含めて、そこには”6人”のウマ娘が達成した事になっていた。
(まただ…また”6人”…)
どうにも納得する事が出来なかったので、今度はアドマイヤグルーヴがティアラ路線に挑戦した年の記録を調べてみる事にした。しかし…
「何だ…これ…」
彼女の年の資料を開くと、三冠路線のページはぎっしりと書かれていたが、ティアラ路線のページにはまるで誰かが手を加えたのかと思うほど”不自然な”、空白の部分があった。違和感を感じ、巻末を見てみるが、そこには”初版”、と書かれており、一切手直しされていない事が分かった。
結局、具体的な事は知ることが出来ず、学園を後にすることになり、トボトボと歩いていると、
「ねえ、おにいさん」
ふと学園の外に出ると小さな子供のウマ娘が話しかけてきた。●●●●●●●●のぬいぐるみを手にもって。
「え?そのぬいぐるみ…」
詳しく話を聞こうとすると、小さなウマ娘は走り出してしまった。本来、人間はウマ娘の走りに追いつくことは到底できないのだが、彼女の走りはまるで”自分についてこい”と言っているかのように目で訴えかけてきた。
自分は闇雲になって、彼女を追いかけた。彼女についていけば何か分かるかもしれない。そんな気持ちになって、ただひたすらに追いかけ続けた。
自分の足が限界になるぐらいまで走り切った後、小さな案内人はある所で止まった。そこは月がはっきりと見る事が出来る高台だった。
「はぁはぁ……」
(つ、疲れた……)
普段から新聞社に勤める記者として動けている方だとは思っていたが、これほど長く走った事はなかったので体は限界に達していた。クラクラとした体を何とか休めようとしたが、ベンチに座る前に力尽きてしまい、気を失った。先ほどの子が自分の事を見つめながら…
『ある夢を見た。それは一人のウマ娘の事。彼女の体には二つの存在があり、それで彼女は苦しんでいた。そんな時、彼女は運命の人と出会った。こうして二人は二人だけの道を進んでいった。周りの人々は彼女の事を『化け物』と言って恐れていた。しかし彼だけはその姿を美しく感じていた』
『二人は力を併せて偉業に挑み、そして成し遂げた。しかし、二人はそれらを達成する為に大きなものを犠牲にしていった。彼女はそれが耐えられなくなり、犠牲になる彼を苦しめない為に姿を消した。それでも彼は彼女と一緒にいたいと思い、彼女を探し続けた。どこまでも探して探して探し続けた』
『そうして彼はついに彼女と再会することが出来た。大きな花畑で再開した二人は気持ちを伝えあった』
『”今でもー愛している”と』
「………そうか、君の名前は………」
「……それで?これはどういう記事なんだ?」
「そのままの記事です」
「お前な…」
あの出来事から数日後、自分は記事を完成させた。結局、あの後、高台周辺を見回っていた警官に起こされて戻ってきた。警官の言う話には自分の周りには誰もおらず、防犯カメラにも一人で高台に向かっているのが映っており、自分は酔っぱらっていた事にされた。しかし、自分の所には彼女のぬいぐるみが置かれており、確かにあの小さなウマ娘は存在していたのである。
「どうにかして彼女の事を記事に書きたいんです!お願いします!!」
「ん~~、確かにこの子の名前に何か違和感を感じるが…本当にトリプルティアラの子なのか?」
「はい」
「証拠は?」
「ありません」
「は?それじゃあ…」
「それでも、彼女はトリプルティアラウマ娘なんです。編集長も知っているはずなんです」
「………」
「どうかお願いします……」
後日、一つの新聞の記事が話題になる。その記事はあるウマ娘の事について詳しく書かれていたが、話題になったのはそこではなく彼女の存在自体だった。
まったく記録に残っていない彼女はその記事によって一時的に人々の記憶に残ったが、しばらくするとまた人々の記憶から消えていってしまった。
それでもこの記事によって一部の人々には永遠に残り続ける記憶、歴史になっていったのである。この記事では最後にこのような事が書かれている。
『彼女の記録は残ってはいない。しかし人々の記憶の奥底には確かに残っているのである。この記事が出てもまたすぐに彼女の事は記憶の奥底に戻ってしまうかもしれない。もし、そうなったら私は再び彼女の記事を書こうと思う。記録ではなく誰かが語り部となって彼女の歴史を紡いでいくのもいいのだと私は思うのだ』
『あるトリプルティアラウマ娘<スティルインラブ>について』