イレギュラーアーカイブ   作:兵器スキー

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時系列的には、本編の二年前です。
トリニティのホスト(セイア)が原作で暗殺された時の夜、アズサとセイアの話す時間を作るために男子生徒が奮闘する話です。

かなり前に執筆したものなので、現在の文体とかなり違います。


もし、アリウスにかなり強い男子生徒がいたら。

倒れ伏した正義実行委員会の警備員が、静かに動かなくなる。その姿を一瞥だけして、シオンは息をついた。荒い呼吸も焦燥もない。ただ、規則正しい吸気と吐息。彼の手に握られたデザートイーグルが、低く下げられたまま微かに揺れる。

まるで戦場に生き慣れているかのように、シオンはマガジンを装填し終えた銃を手馴れた動作で構え直し、再び冷静な視線を周囲に這わせた。

 

(...足音がする。数は三.....いや、もう一人、四。こっちに向かってくる)

 

背後から迫る気配は、次第に明瞭な重みを帯びてくる。だが、彼の思考はそこで止まらない。

 

(だが、今は”あっちの”目標を優先すべきだ)

 

警戒は怠らずとも、彼の判断は常に合理的だ。一瞬の逡巡もなく、彼は思考を切り替え──その直後だった。

空気が裂けるような轟音が響いた。

爆発に近い衝撃とともに、隣の壁が内側から膨れ上がるようにして粉砕される。破片が四散し、灰色の粉塵が周囲を覆い尽くした。コンクリートの欠片が飛び散り、床に叩きつけられる音が続く。

 

そして、その瓦礫の向こうから──異様な“それ”が姿を現した。

鉄骨を踏み鳴らすような重厚な足音が響く。その主は、正義実行委員会の最強戦力。及び委員長。

 

《歩く戦略兵器》の異名を持つ存在。

剣先ツルギ──その少女は、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら、煙の中から姿を現した。

 

「...剣先ツルギ」

 

シオンの呟きは冷静そのものだった。だが、彼の中で何かが、確実に変わる。

 

「キヒヒヒッ......!」

 

その笑みには、人としての理性が欠けていた。ただの敵ではない。“化け物”と呼ぶのが相応しい気配。

 

「......コイツのことか、“歩く戦略兵器”ってのは」

 

唇がわずかに吊り上がる。体の奥で、静かな熱が膨れ上がるのを感じた。

 

(恐らく、サオリよりも数段厄介な存在......ならば──)

 

「......手加減は、要らないよな?」

 

冷たく呟く。瞳に宿るのは、戦士の覚悟と、わずかな興奮。

 

「キヒャハハハハハアアアァァッ!!!」

 

ツルギの叫びが獣の咆哮のように響き、強靭な肉体が地を蹴って突進してくる。その動きには一切の無駄がなかった。ただ直線的で、本能に従った殺意のみを体現する。

シオンは即座に反応した。静かに、しかし鋭く──デザートイーグルを構え、ツルギの膝に向けて正確に一発ずつ撃ち込む。

銃声が空気を裂き、弾丸が肉を打つ鈍い音が重なる。

 

「ガッ!?」

 

膝に命中した衝撃で、ツルギの動きが一瞬だけ乱れる。しかし、異常な耐久と再生能力がそれを支え、ぐらつきながらも再び踏み込んだ。

 

「芸がないな.....」

 

シオンは低く呟き、突撃してくるツルギの懐へ逆に飛び込む。

滑るような動きで足払いを放ち、体の回転を活かして横蹴りを叩き込む。

衝撃波が走り、ツルギの身体が宙を舞った。その質量の全てが十メートル先の壁に叩きつけられ、石壁がひび割れる重い音が響く。

 

(......やはり、硬い)

 

鉄壁のような肉体。その一撃ですら倒れない異常性に、シオンは眉をひそめることもなく、戦闘の次段階へと意識を向けた。

次の瞬間、周囲の一般兵から一斉に銃撃が飛び交う。銃声が連続し、弾丸が空気を切り裂く中──一発がシオンの肩をかすめた。

しかし、彼はそれに構わずマガジンを交換し、スライドを引き戻してからさっとサイドアームのピストルに持ち替えた。

 

「節約、節約っと」

 

軽く呟き、次々と放たれる弾丸が正確に兵士たちの額を撃ち抜いていく。

無駄な動きも、無駄な弾もない。全てが合理的で、致命的。

だが、突如として白い閃光が弾けた。瞬間、視界が真白に覆われる。

 

(......やられた、閃光弾か)

 

視界喪失の一瞬。その隙を突くように、背後から鋭い衝撃が脇腹を撃ち抜いた。

 

「チッ......!」

 

(狙撃手のハスミ......いや、この反響、威力......対物ライフル。マシロの可能性もある。音源的に北西か? だが、まだ視界が......)

 

煙幕を展開しようと手を動かす──その瞬間、ツルギがすでに目前に迫っていた。

鋭い蹴りが風を切り、鉄槌のように彼のサイドアーム、そして補助武装を粉砕し、体を地面に叩きつけた。

背中に衝撃が走る。転がるたび、体から熱が抜けていく。手には、もう何も残っていなかった。

 

「......クソッ! 失せろッ!!」

 

多少の血を吐きながら、彼は口でグレネードのピンを引き抜く。

拳を固め、ツルギの腹に渾身の殴打を叩き込む。空気が弾け、衝撃波が広がる。ツルギの巨体が吹き飛び、その足元にグレネードが転がった。

閃光が走り、爆風が戦場を呑み込む。光と音が混ざり合い、全てを塗り潰した。

 

──静寂。

 

その中で、シオンは淡々と腕輪に向かって語りかける。

 

「ッ...攻撃武器がない、使用許可求む。コード【コンバット、ファーストギア】」

 

数秒の静寂。そして──

 

「ピピッ......使用許可、一段階及びノーマルモード限定。解除されました。現座標に射出完了」

 

右腕に装着された腕輪が、淡くネオンブルーの光を帯びる。

空気を切り裂くような鋭音が夜を貫いた。

煙が晴れる頃、シオンは左腕を額に添え、右腕を水平に伸ばしていた。まるで神の雷を迎える巫のように。

 

「.....まだだ。まだ、アズサには時間が...」

 

小さく息を吐く。

 

正義実行委員会たちの間に動揺が走る。

 

「私はあの飛行物体を撃ち落とします!マシロは侵入者に射撃を!」

 

ハスミの叫びが、緊迫した空気を切り裂いた。続く狙撃が、光を纏った軌跡を描く。

しかし、弾丸は鋭い金属音とともに弾かれる。

マシロも続けて撃つが、青い閃光が弾丸を呑み込み、無傷のまま物体は突き進んだ。

 

「なッ...!?......あれは?」

 

轟音が地を震わせ、飛行体が地面に突き刺さる。シオンの右五メートル地点。

 

「......使用許可対象を発見。セーフティー解除。【カタストロフィ・ゼロブレード】起動」

 

無機質な音声が響く。

黒く重厚な鞘が、幾何学的な光を帯びながら姿を現す。ネオンブルーの輝きが、戦場を幻想的に照らした。

 

《カタストロフィ・ゼロブレード》

──その名は、災厄の剣。

 

剣が、鞘ごと回転しながら宙を舞い、シオンのもとへと吸い寄せられる。

金属の噛み合う音が響き、内部から機構が起動する低い振動音が広がった。

その柄を、彼は確実に掴み取り、感情を一瞬で切り捨てる。

空気が止まる。時間さえも凍りつくような静寂。

 

「──そのためには......此処で、全員死んでもらう」

 

灰色の瞳が淡い蒼に染まる。

冷徹な死神が、今──戦場に武装を携えて再び舞い降りた。

 

 

マシロは、戦場の外れに設けられた狙撃ポジションから、スコープ越しに戦況を注視していた。

焦げた鉄と燃え残った木の匂いが、風に乗って彼女の頬を撫でる。

呼吸は静かに整っていた。だが次の瞬間、スコープに映り込んだ異様な光景が、彼女の心拍を一気に跳ね上げさせた。

 

「ッ...あれは不味いですね、熱センサーで200度以上の反応が剣身にあります...どうしますか、...?」

 

冷静を装っていた。だが、無線に乗った声には明らかな動揺が滲んでいた。

人間の武装にしては異常すぎる熱量――いや、もはや“兵器”と呼ぶべき存在だった。

数秒の沈黙。

その静寂を破ったのは、ハスミのいつも通りの、しかしどこか張り詰めた声だった。

 

「......負傷した兵士は直ちに下がらせて下さい。私とツルギで彼を抑えます。その間にマシロは大至急、L118榴弾砲の直射使用許可をティーパーティーに取って下さい。」

 

理性的で、明晰な判断。

だが、その言葉の奥には確かに、焦燥と緊張が漂っていた。

 

「で、ですが──」

 

マシロの声が揺れた。

その任務の重みが、肩にのしかかる。

狙撃手としての本能が警鐘を鳴らす――これはただの戦闘ではない。

 

「...このままでは、彼一人でトリニティが壊滅する可能性さえあります!急いでッ!!」

 

ハスミの声は命令であり、悲鳴でもあった。

それに、マシロはようやく覚悟を決める。

 

「は......はいッ!」

 

ライフルをそっと地面に置き、彼女は匍匐姿勢から跳ね上がった。

迷いは、もうない。

使命感と不安、そして恐怖を胸に、全力で駆け出した。

 

 

静寂に包まれたティーパーティーのテラス。桐藤ナギサは、精緻な磁器のカップに注がれた百鬼夜行産の高級茶を、いつものようにゆったりと嗜んでいた。窓から差し込む柔らかな陽光が、銀のポットに反射して微かに光る。いつも通りの、優雅な午後――

 

だがその静寂は、重厚な扉が激しく開け放たれた瞬間に破られ、マシロが、全速力で駆け込んできた。

 

普段なら長距離の移動でも息を乱さぬはずの彼女が、額に汗を滲ませ、身体を震わせながら立っていた。息は荒く、身体も傷だらけだ。制服の肩口は破れ、露出した肌には泥と血がこびりついている。

 

「......どうしましたか?紅茶のおかわりは頼んでいま――」

 

ナギサは、いつもの調子で冗談めかした言葉をかけかけて――止めた。

 

マシロの様子に、ただならぬものを感じ取った。少女の体は酷く震えており、今にも崩れ落ちそうな顔色をしている。無理に立っているのが明白だった。

 

「......何があったのですか、落ち着いて報告して下さい。」

 

静かに、だが確かな重みを込めて、ナギサは問う。

 

「L118榴弾砲の直射射撃許可を...ナギサ様に......!」

 

呼吸を乱しながらも、マシロは全身を使って言葉を絞り出す。

 

「......はい?使用許可は兎も角、何故、直射を...?」

 

ナギサの眉が僅かに動く。想定外の申請内容に、わずかに理性が乱れる。

榴弾砲の直射射撃――それは、制圧ではなく“殺傷”を目的とした異常な運用だ。

 

「セイア様、が...危な───」

 

マシロの声には、恐怖と確信が入り混じっていた。

その言葉を言いかけて、最後に、彼女はその場に膝をつき、力尽きるように倒れた。

 

「──ッ!!」

 

ナギサの手からティーカップが滑り落ち、砕けた音が静かな室内に響く。

それを気にする暇もなく、彼女は立ち上がり、ヒールの音も響かせぬ速さで駆け出す。

 

「誰か近くにいませんか!直ぐに来て下さいッ!!」

 

その声には、ティーパーティーとしての命令権と、揺るぎない焦燥感が滲んでいた。

 

 

同時刻。セイアのセーフハウス付近――

 

――戦闘開始から約27分経過。

 

斬撃が刹那に放たれ、ハスミとツルギの肩を切り裂いた。裂ける空気の中で、二人とも自らの神秘によって致命傷には至らなかったものの、それは確かに“死”に限りなく近い一撃だった。

 

敵の強さは、単なる“速さ”では説明できない。全ての行動に予測と殺意が混在し、次の一手を読むことすら難しい。

 

「銃弾がッ...効かない......!!」

 

ハスミの叫びとともに、ツルギの放った散弾が宙を走る。しかし、敵――シオンは、その全てを読むように捌いてみせた。

 

銃声と金属がぶつかる音が響く。だが、どれひとつとして、彼の体を捉えはしなかった。

 

肩の傷から流れる血とともに、彼女たちの体力も急速に削られていく。

 

そしてついに、ハスミは片膝をついた。

 

その目の前に、血に濡れた大剣を引きずりながらゆっくりと歩み寄る無傷のシオンの姿が映った。その姿は、もはや“人間”の範疇ではない。獣ですらない。ただの“殺戮”そのもの。

 

「やめろ...ッ!!」

 

ツルギの叫びが、夜の闇を切り裂いた。

 

「先に壊すならッ......私のヘイローを先に壊せ...!!」

 

声は掠れ、恐怖と怒り、焦燥と覚悟――その全てが震える言葉に込められていた。

 

(...安い挑発だな。こいつらのヘイローを破壊したら、アズサと合流して離脱しよう)

 

だが、シオンは冷徹に判断を下し、引きずる剣を徐々に速く、滑らせるように歩を進めた。

そして、大剣をハスミの胴に振り上げようとしたその瞬間――

 

剣身が地面に衝突する破砕音が周囲に木霊する。

 

一撃の裏拳が彼の剣を真横から叩き割っていた。

驚愕に染まるシオンの瞳と、その奥に、計算外の存在が映り込んでいた。

 

「......君、ハスミちゃん達に何してるのかな?」

 

それは、静かに狂気を孕んだ声だった。

 

月明かりの下に立つ少女――聖園ミカ。

ティーパーティー、武力を象徴するパテル派閥。その名が示すのは、危険人物としてリストに記載されていた人物ということだった。

味方として、アリウスとして交渉する時の、普段の柔和な笑顔は消え失せていた。

浮かび上がる無数の青筋、感情を抑え込んだ表情、そしてそこから滲み出る“殺意”が――戦場の空気を一変させた。




最強孤高の青い春もしっかりと修正を進めているので、少々お待ちください...

面白かった話。

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