今回は、主人公黒須シュウマの前日譚です。
「ふぅ、帰ったら風呂に入ろう」
羆を倒し、下山を再開したシュウマは、実家近くの道に着き、そのまま家へと歩く。その途中、白いワンピースを着た一人の黒髪少女に出会う。黒髪少女の姿に気付いたシュウマは挨拶代わりに片手を上げ、少女もそれに則って片手を上げる。
「唯、三日ぶりだな」
「ん」(シュウマ、久しぶり。山籠りお疲れ様)
彼女の名は、小大唯。シュウマの幼馴染にして、唯一の友達である。何故、シュウマの唯一の友達なのか。それは、シュウマが無個性だからだ。
個性持ちが人口の七割であるのに対し、無個性は、世間から見ればマイノリティーな存在として認知され、個性社会の水面下で迫害や軽蔑の対象となっていた。
シュウマも例に漏れず、学校において無個性であることを理由に陰湿ないじめや無視などの差別を受けていた。また、個性を使用した暴力を受けそうになるもシュウマの精神内に眠る気迫に怯える者共が大半である。
それ以外にも、学年一の美少女である小大唯と幼馴染であり、距離が近いことも含めた僻みや嫉妬などがある。シュウマから見れば、傍迷惑な話であり、毎度辟易している。
「唯は買い物帰りか?」
シュウマは、唯が手に持っているコンビニのレジ袋を指さす。唯は、コンビニ袋を掲げ、シュウマの問いに応える。
「ん」(小腹が空いたからコンビニでお菓子を買ってきた)
他人から見れば、口数の少ない会話に疑問を抱くだろうが、付き合いが長い二人からすれば、ごく自然な会話であり、シュウマ自身は彼女の言葉を理解している。
シュウマにとって、唯という存在は精神的な支えになっていた。無個性という被差別対象の者たちは、個性という特殊能力のない前時代的な人間というだけで蛇蠍の如く嫌われている。
人は、余程のことがない限り赤の他人に対して興味を持たないが、一度でも、その他人が格下の存在だと認識すれば、罪悪感を忘れ、誹謗中傷という行為に悦入り、ストレス発散を行う。
シュウマも過去に『無個性菌』という酷いイジメを受けていた。それも精神が未熟な小学校低学年の時期に言われ続けていたのだ。
「何を買ったんだ?」
「ん」(ポテトチップスやオレンジジュースとか)
ガサゴソと袋からポテトチップスとオレンジジュースを取り出た唯は、シュウマに見せた後、また袋に戻す。いきなりシュウマの腹の虫が鳴く。時計を確認すれば、丁度、午後三時だった。
「腹減ったな。軽く風呂入ったらお菓子でも買ってくるか」
「ん」(私もついていくよ)
「良いのか?外暑いし、さっき買い物してきたんだろ?」
「ん、大丈夫」
唯は、問題ないと親指を立てる。気遣いに感謝したシュウマは、家まで一緒に歩く。家に戻り、修行での汚れを落としたシュウマは、夏服に着替える。そして、唯への連絡と準備を済ませ、玄関へと急ぐ。扉を開ければ、唯が待っていた。
「待たせたな」
「ん」(私もさっき来たところ)
シュウマの言葉にフルフルと首を横に振る唯。シュウマは、扉の鍵を閉め、唯の隣に移動する。歩き出した二人は、適当な会話をしながら、コンビニへと向かった。
道中、シュウマの肩に自身の肩をピタリと近付けさせるが、シュウマは唯の行動に無頓着だった。
「どうした唯?」
「ん」(何でもない。気にしないで)
「そ、そうか」
コンビニに着いた二人は、冷房の効いた涼しい店内で品物を物色していた。
炭酸飲料を見つけたシュウマは、棚から飲み物を取ろうとした瞬間、「動くな!」と男の大声がレジの方角から聞こえてくる。
レジの方を見れば、腕からナイフを生やした大男が店員に刃物を向けていた。どうやら、コンビニ強盗のようである。店員は、恐怖で顔を青ざめている。
「う、動くんじゃねえ!命が惜しければ、この鞄に金を詰めろ!早くしろ!」
初めての犯行なのか、緊張していた強盗は震えた手つきで店員に命令していた。
次の瞬間、シュウマは思いもよらない出来事に遭遇した。
「んんー!?」
シュウマの耳が唯の叫び声を捉え、咄嗟に振り向く。すると、ハイエナの顔をした異形型個性の男が、唯の口を手で押さえこんでいた。コンビニ強盗は、まさかの二人組での犯行だった。
「へへっ、悪いなお嬢ちゃん。お前さんには人質になってもらうぜ。抵抗すれば、他の客の命も無いと思えよ?」
ハイエナ男は、下卑た顔で唯の頬に舌を這わせる。その行為に顔を青ざめる唯と他の客。
シュウマは、男が唯に向ける下卑た視線と行いに腸が煮えくり返りそうになる。ここで暴れては相手の思う壺なので、ハイエナ男にバレない様、腰に常備している手拭に手を掛ける。
しかし、シュウマの行動に違和感を感じたハイエナ男は、彼に対して、牽制を仕掛けた。
「おっと、そこの小僧。動いたら、この小娘の顔を八つ裂きにしてやるぜ?」
「くっ、下種が!」
ハイエナ男の言葉に、作戦がバレ、動けなくなったシュウマ。外にいる警察も犯人たちを刺激しないように動きを控えていた。
突如、扉から黒い影が乱入してくる。店内にいる全員が硝子製扉の破壊音を聞き、呆気に取られる。
黒い影の正体は、ハイレグのような恰好をした褐色兎の女性ヒーローだった。女性は、強盗二人に向けて啖呵を切った。
「強盗なんてつまらねえ真似してねえで、手っ取り早く降参することだな!敵共!」
「て、てめえは兎ヒーローミルコ!?なんで、島根にいるんだよ!」
強盗からミルコと呼ばれたヒーローは、ニヤリと笑い、速やかに行動を仕掛ける。
「ニュース見て跳んできたんだよ!足が蹴りたくて疼いてんだ。速攻で蹴り飛ばす!
ミルコは、足を屈めて跳躍し、刃物男の頭部目掛けて、踵落としを決め込む。ミルコの身体能力による速さに追いつけない刃物男は、為すがままに技を受け、白目を向き、呆気なく倒れた。
「相棒!?」
(今が好機!)
シュウマは、手拭を取り出し、ハイエナ男の顔目掛けて、布を巻き付ける。
ハイエナ男は、突如として視界を塞がれた事に驚き、思わず力を緩める。唯は、その隙を突き、敵の股間に膝を当て、金的をお見舞いする。ハイエナ男は、男の象徴を蹴られた痛みに、悶絶し、地面に両膝を立てて蹲る。
「巫山戯るなよ!餓鬼共、嚙み殺してやるウヴヴ!」
ハイエナ男は、怒りによって体毛を膨らませ、鋭利な爪を振り上げ、襲い掛かる。
ミルコが助けようと動くも、シュウマの方が一足早かった。
「唯に手を出した事!地獄の閻魔に代わって俺が裁く!」
シュウマは、瞬発的な加速で男の懐に入り込み、男の腹部に膝蹴りを噛まし、顎下に拳を突き上げる。常日頃からゲームで学んだ技を相手に叩き込んだ。
「昇竜拳!」
アッパーカットが顎に炸裂し、攻撃を喰らったハイエナ男は、放物線を描きながら地面に激しく体を打ち付ける。
「総員、突撃―!」
店内の音を聞いた警察達は、警棒を片手にコンビニへと突入した。そして、ハイエナ男と刃物男を逮捕し、無事にコンビニ強盗事件が沈静化する。
敵がパトカーに押し込まれている様子を見届けていたシュウマの胸に唯が抱き着いてきた。シュウマは吃驚するも、唯が震えていることに気づき、優しく頭を撫で、落ち着かせる。
「もう大丈夫だ。あとは警察が対処してくれるさ」
「ん、怖かった」
唯は、小さく涙声で呟く。それもその筈、幼い頃から祖父の元で厳しい修行を行い、心身共に鍛えてきたシュウマと違い、唯はごく普通の中学生である。
今回の事件で強盗の人質という非日常に値する状況から恐怖で動けなかった。しかし、シュウマが自分を助けてくれた事により、勇気をもって、ハイエナ男に立ち向かい、逃げることが出来た。
「よう、坊主。お前中々見どころあるじゃねえか。だが、詰めが甘いな。下手すれば人質全員がタダじゃ済まなかったぞ?」
警察への報告を済ませたミルコが、シュウマと唯のもとにやってきた。頭をガシガシと搔きながら、二人の方に歩いてくる。
「でも、その娘を守ろうとしたその心意気、アタシは好きだぜ」
ミルコは、わしゃわしゃとシュウマの頭を撫で、軽く説教しながらも称賛する。ヒーローに褒められるシュウマを見て、唯は嬉しくなり、少し口角を上げた。そして、唯の頭を撫でる事も忘れていない。
シュウマは、ミルコから先程の戦闘を聞かれ、素直に答えた。普通に布で攻撃した事、個性を使用していないこと、素の身体能力であることを伝えた。
「へぇ、おもしれえ!あの布の扱いは個性じゃないのか。ま、今度からは素直に大人を頼りやがれ。じゃあな!」
ミルコは、二本指で敬礼し終えた後、建物から建物へと飛び移り、消えていった。
ミルコと入れ替わりでやってきた警察から事情聴取を受けることになったシュウマと唯は、パトカーに乗り込み警察署へと向かう。
その後、警察からの取り調べの最中、シュウマは年配の担当官から説教を受けた。凶暴化した敵に抗わず、ヒーローを待つべきだ、子供が危ない事をするな等、至極当然の正論にぐうの音も出なかった。また、敵との交戦から個性使用の疑いを掛けられ、軽い個性検査を受けさせられるが、検査の結果、個性不使用という事が判明し、釈放される。
唯は、事件の直接的な被害者ということで先に解放され、彼女の母親と共に帰路に着いていた。身元引受人としてやってきたのは、祖父の秀次だった。
「このバカモンがぁ!運良く倒せたから良かったものの、下手すれば大怪我を負う羽目になったのだぞ」
「痛っ!」
怒り心頭の秀次から小突かれたシュウマは、涙目になりながらも担当官に対して、秀次とともに深々と頭を下げる。年配の担当官は、苦笑いしつつ、彼をフォローする。
「まあまあ、落ち着いてください。この子がいなければ、被害が拡大していたのもまた事実ですから。しかし、あの東方不敗先生のお孫さんとは、彼の強さに納得です」
年配の担当官は、東方不敗の功績や伝説を知っている世代であり、笑いながらシュウマの強さを褒める。また、警察からの計らいにより、学校へ連絡することはなく、事件の解決に貢献したことへの感謝状を渡すことを伝えた。
帰り道、秀次とシュウマは、帰路に着いていた。秀次は、シュウマに話しかける。
「シュウマよ。ワシはお主を鍛えてきたが、無謀過ぎる。今のお前は半人前だ。今回は運が良かったが、下手をすればお主も唯ちゃんも大怪我していたのだぞ」
「爺ちゃん、確かに俺の行動は軽率だった。でも、気が付けば、体が動いていたんだ」
「確かに、お前の行動は無思慮であった。それ故に多くの人に迷惑をかけた。だがな、お前の人を守りたいという意思による行動をワシは誇りに思う」
「じ、爺ちゃん!」
祖父に褒められたシュウマは、無意識に目から涙を流していた。それに気付いた秀次は、声を出して笑う。
「ハハハ!何を泣いておる!涙で目が腫れてるぞ!仕方のない孫だ!」
後日、警察から感謝状を贈呈された唯とシュウマの二人は、翌日の新聞記事に活躍が掲載され、一躍、時の人となった。
翌日、学校に着くと、唯はクラスの女子から賞賛を受けていた。
シュウマは特に誰からも称賛されることなく、唯と一緒にコンビニにいたことについて、クラスの男子から質問責めを受けていた。
「黒須!お前が唯さんとコンビニにいた理由はなんだ!」
「お前のような奴が唯さんとコンビニデートとは、羨ましいぞ!妬ましい!」
「喧しい。授業の準備の邪魔だ」
そして、昼休みにクラスメイトの一人から放課後に校舎裏へ来るように伝えられた。放課後、校舎裏へとやってきたシュウマは、校舎裏の光景を見て呆れる。そこには、『唯様LOVE』や『小大ちゃん天使』の団扇を持つ男子生徒たちがいた。しかも、二年生のちに飽き足らず、三年生までもが混じっている。
「それで?小大唯ファンクラブのお前たちが、校舎裏にまで呼び出してきやがって、一体、俺に何の用だ?」
「私が小大ファンクラブの会長だ。黒須シュウマよ。我々は貴様の存在に不愉快を感じている。我々が要求することはただ一つ、我等の天使である小大唯から手を引け」
「要するに、俺が唯と仲が良いから離れろってことか?」
シュウマは、ため息を吐きながら、小大ファンクラブからの要求を要約する。シュウマの答えにファンクラブの全会員が頷く。
「巫山戯るのも大概にしろよ?それはお前らが決めることじゃねえ。唯自身が決める事だ。ファンクラブなら慎ましく応援だけしてろ」
シュウマの言葉を聞いたファンクラブ会長は、怒りが込み上がり、各会員に向けて指令をだした。
「穏便に済ませようと思ったが、止むを得ないか。我らが同志に告ぐ!この場で黒須シュウマに制裁を与え、我らが天使を奪還するのだ!」
会長の言葉を合図に、金属バットに釘バット、竹刀や竹箒を装備する者、個性を発動させる者までいた。
「おいおい、一般人の個性使用は法律違反だぞ?」
「ふふふ、貴様を葬ることが出来るのならば、法律の一つや二つ怖くなどない!総員、討ち取れぇぇぇ!!!」
会長の合図を皮切りに、怒声を上げて突撃してくる会員たち。再び呆れたシュウマは、手始めに、左右から襲い掛かる竹刀を躱し、二人の頭を押さえ、衝突させる。
二人の会員A・Bは、衝撃により脳震盪を起こし、気絶する。二人がやられたことに動揺が走るも、続けて襲い掛かる会員達。
シュウマは、金属バットを掴み、会員Cごと持ち上げる。
そして、金属バットと生徒を分離させ、空中に投げ飛ばす。落下する男子生徒の両足首を脇の下に挟み、振り回す。
「あ、あれはジャイアントスイング!?」
会員の誰かが呟く。シュウマは、振り回した相手を大勢のいる方向へ投げ飛ばす。投げ出された会員Cは、大勢の会員を巻き込み、倒れた。
その後も、次々と会員たちの側頭部を蹴り飛ばし、顎を蹴り上げ、殴り飛ばし、吹き飛ばす。全ての会員が気絶しており、気づけば、会長一人だけが生き残っていた。
シュウマは、掴んでいた会員の胸倉から手を放す。そして、会長へとゆっくり歩み始める。
「き、貴様は無個性のはずだ!なぜ、個性持ちの我々が貴様相手に全く歯が立たないんだ!」
「俺を貶そうが、闇夜で攻撃してこようが、一向に構わねえ。喜んで相手になってやる。だがな、唯のことを邪魔しようとするやつは俺が許さん!再三言ったが、ファンなら大人しくしてやがれ!」
シュウマは、会長の額に勢いよく頭突きをする。額に瘤が生じ、涙目で気絶する会長。ファンクラブを全員片づけたシュウマは、鞄を掴み、校門まで歩く。校門を抜けると、近くで唯が待っていた。
「悪いな。遅れちまった」
「んん」(遅かったね?それに、制服が汚れているよ。何かあったの?)
シュウマの服が汚れていることに気付いた唯は、小首を傾げる。
「いや、なんでも…少し転んだだけだ」
「ん」(そうなんだ…一緒に帰ろう)
「ああ、そうするか」
シュウマの隣を唯がくっ付き、二人は家へと帰る。唯の家に着き、門前で唯と将来の進路について話す。
「なあ、唯は雄英高校のヒーロー科を目指すんだよな?]
「ん、んね」(そうだよ。それが私の進路。シュウマは進路を何処にするの?)
「ん~?俺も雄英高校を受験しようかな」
「本当に?」
シュウマの言葉に、『ん』しか言わない無口な唯が普通の言葉を話した。その様子を見たシュウマは、ニヤッと不適な笑みを浮かべた。
今回、流派・東方不敗の技を出さなかった理由として、技が基本的に強すぎて、過剰防衛になると判断しました。それに、コンビニ強盗如きの雑魚敵に対して、なんか勿体ないという気持ちが強かったので、出しませんでした。流派・東方不敗の技を出す機会はありますので、ご安心ください。では、また次回!
サブヒロイン
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ミルコ
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拳藤一佳
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柳レイ子
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取蔭切奈
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塩崎茨
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全員