中学三年生の夏休み、受験期間ということもあり、全国の学生が志望校に向けて、夏の青春という欲望を封印している。夏期講習詰めの学生も多く、血眼になって、受験勉強に勤しんでいた。そんな中、夏休みの宿題を程々に終えたシュウマは、午後の受験勉強前に休憩時間として格闘ゲームを遊んでいた。
「シュウマ、これからお客さんが来るから、出迎えに行ってくれへん?」
台所から母のエイチが声を掛けた。彼女は、台所で包丁片手に野菜を切っている。料理の準備で忙しいのは一目で分かった。シュウマは、はいはいと返事を重ね、胡坐から腰を上げ、コントローラーのポーズボタンを押す。
「お母ちゃんは、今、お昼の準備で手が離せないんや」
「父さんは家にいないの?」
「父ちゃんは、義父さんと釣りに行ったで。義母さんは町内会の集まりや」
「まぁ、別にいいけど」
「シュウマも知っている人たちやで~」
母の言葉を軽く受け流しながら、玄関へと向かう。玄関を出て、門前を覗くも、通行人は皆通り過ぎていた。
その時、ダダダとアスファルトを走る音が徐々に近づいてくる。彼は足音に気付かず、背中を無防備に晒した。
「シュ・ウ・マー!」
シュウマの背後から、一つの黒い影が跳躍し、彼の背中へと飛びついた。背中に感じる重みに、一瞬、呆気に取られるシュウマだが、聞き覚えのある声に、驚きを隠せなかった。そして、そっと尻目に見る。そこには、一人の少女が抱き着いていた。
「あはは!シュウマ、久しぶりー!」
「マ、マチュ姉っ!?」
マチュ姉と呼ばれた少女が、シュウマの背中に飛び乗り、抱き着いている。彼は、彼女を落とさないように受け止める。赤いショート髪の少女の名は、
「はぁはぁ!マチュ、いきなりかっ飛ばしすぎ」
「あはは、ごめんね~ニャアン」
彼女の名は、ニャアン。見た目は、クール系な高身長レディだ。マチュを通じて、シュウマと知り合い、アニメやゲームの話で意気投合した。マチュと比べて、大人しめな印象のクール系だとシュウマは感じている。
「ニャアンさん!お久しぶりです!」
「うん、久しぶりだね。シュウちゃん」
二人は、神奈川県横浜市
「二人だけで話しすぎ!シュウマ!最近、キラキラ見えた?」
「キラキラ…向こう側のことか?」
シュウマからの返答に、マチュは静かに頷く。シュウマは、マチュからの問に対して、「最近は見ていない」と答える。マチュは、「そっか」と呟き、彼の背中を飛び降りた。
マチュは、時々‘‘キラキラ,,と呼ばれる不思議な現象について語ることがある。
マチュが語るキラキラとは、現実世界とは異なる空間であり、黒須家の血族や関係者に多く見られる現象だ。キラキラは、一種の幻覚現象であり、危険性はない。特徴として、多種多様な色、大きさ、楕円状の物体と光が合わさり、渦となって流動していることが、目撃者の証言で一致している。この現象を目撃した者は、他の経験者とテレパシーのような交信で情報共有が出来る為、何かと便利である。ニャアンも、マチュと過ごしていく内に覚醒し、テレパシーが可能となっている。つまり、相手の思考が筒抜けになるのだ。
「母さんが言っていたお客は、マチュ姉とニャアンさんだったのか」
「そ、シュウマの家にお泊まりだよ」
「四泊五日間、お世話になるね」
シュウマは、暑い外に立ちっぱなしでは熱中症になると思い、二人を家に上げる。
そして、母に客人が訪れたことを報告する。エイチは、料理の手を止め、二人の前に姿を現す。
彼女は、マチュとニャアンを視認した瞬間、二人に抱き着いた。
「マチュちゃ~ん!見ぃひん間におおきゅうなったな~!ニャアンちゃんも久しぶりやね~。二人とも別嬪さんになって、若いってええわ~」
「久しぶり!エイチさん」
「御無沙汰しています。今日からよろしくお願い致します」
マチュは、屈託のない笑顔で、片手を挙げる。ニャアンは、丁寧にお辞儀をする。両極端とも感じ取れる二人の挨拶を見たエイチは、腹を抱えながら笑う。
「あはは!そないに硬くならんでええで!二人は、ウチにとって娘みたいなもんやから!」
エイチが二人に、来客用の寝室を案内する。三人がリビングから離れた瞬間、ピンポーンとチャイムが鳴る。気付いたシュウマは、再び玄関へと出向く。扉を開ければ、唯が立っていた。どうやら、遊びに来たようだ。
「ん」(遊びに来たよ)
「唯か。外暑かったろ。早く入りな」
シュウマは、唯を家に招き入れる。玄関に上がった唯は、マチュとニャアンに挨拶を交わす。二人と顔見知りであり、久々の再会に、マチュ達も挨拶を返した。
「唯ちゃーん!」
「唯ちゃん、久しぶり」
マチュとニャアンは、唯に抱き着く。唯は、大人しく抱擁を受け、二人に挨拶をする。
「ん、お久しぶり…です」
「相変わらず可愛い~!」
「いつ見てもお人形さんみたい」
二人は、唯のあどけない可愛さに胸を打たれ、頭や体を好き放題優しく撫でまわす。
その光景を静かに見ていたシュウマの足元に、一体のハロが転がってきた。
〈シュウマ!ユイ!ヒサシブリ!アイタカッタ!〉
ニット帽を被った白いハロが、畳の上を転がりながら、二人に向けて、挨拶する。白ハロは、マチュのペットロボット兼小さな相棒だ。マチュのハロの音声は、ツンデレ系少女っぽい声をしている。シュウマのハロと比較すると、耳の部分がスピーカーになっているのが特徴的だ。ハロに続き、ニャアンの相棒であるヤドカリ型ロボ〈コンチ〉も片方の鋏を上げ、挨拶する。唯は、コンチの頭をツンツンと優しくつつく。
ニャアンは、それを見て、小さく笑う。コンチは、唯のツンツンから逃れ、ニャアンの肩へと移動した。
唯は、少ししょんぼりとした表情を浮かべ、ニャアンは苦笑いする。
挨拶を済ませた四人は、お昼の冷やし中華を食べる。食事中、マチュが近くのショッピングモールに出かけることを提案する。シュウマと唯は、受験生で受験勉強に夏休みの課題と忙しいが、エイチから息抜きすることも大事と丸め込む。そこからは、冷やし中華で蓄えたエネルギーでショッピングモールへと向かう。
その際、エイチは防犯対策として、シュウマに腰布の携帯を促した。
徒歩五分のところにあるバス停まで歩き、終点イズモモール行きのバスに乗車する。
そこから、十五分後、シュウマ一行は、出雲市内にある複合商業施設イズモモールにやってきた。
入口に入ると、冷房が効いており、猛暑ともいえる外と比べて、快適だった。涼しんでいるシュウマ達だったが、シュウマだけが違和感に気付いた。モール内にいる人間の半分が、シュウマに対して、敵意に近い視線を向けていた。
(またか、この視線。はぁ、今日はやけに刺さる)
彼は、周囲からの視線に気づき、高揚していた気分が駄々下がりとなった。
シュウマ達、男一人に女三人のグループは、否が応でも目立ちやすい。それに、マチュ達三人は、それぞれタイプが違う美少女だ。スレンダー体型長身美少女のニャアン。見た目は小柄であどけなさがあるマチュ。黒髪ボブヘアーで清楚な顔立ちの唯。遊びに来ていた中学生から若い大学生カップルの彼氏まで、三人に見惚れていた。その分、隣にいたシュウマに嫉妬混じりの視線が集中している。シュウマは、唯関係で男子同級生からの妬みに慣れていたが、公共の場における不特定多数からの嫉妬には、流石に辟易する。猛暑とは違うストレスに、少し疲れた顔を見せる。そんな彼の気持ちも露知らず、女子三人はお目当ての服売り場へと向かう。シュウマもその跡を追った。
「ねぇねぇ、二人とも、これ可愛くない?」
「ん、可愛い」
「マチュに似合いそう。これもどうかな?」
〈女三人寄えばと姦しい〉という諺がある。その諺の通り、三人は、服屋で季節の服やトレンドのコーデを眺め、試着を楽しんでいた。シュウマは、壁に寄りかかりながら、女性陣の買い物を見守っている。そして、他の女性客や女性店員から、生暖かい目で見られている様子に気付き、顔を下に俯く。彼が居るのは、女性服コーナーだ。当然、夫婦やカップル以外の男性はいない。
「さ~て、次はシュウマの服を見るぞ!」
マチュの一声で男性用の服が置いてあるエリアに移動する。急遽、シュウマのファッションショーが強制的に開催された。シュウマを知らない人から見れば、父母譲りの整った顔立ちであり、身長も高く、体は鍛えられている。
「じゃじゃーん!どうよ!」
マチュのおすすめコーデは、ワイドデニム・白のインナーシャツ・淡い茶色のジャケットの重ね着スタイルにバケットハットといったストリートスタイル。
「…街で見かける服装だな。ふむ、この帽子も案外いいな」
「シュウマの服は、いつも簡素だから偶には良いんじゃない?」
シュウマは、マチュのファッションセンスに内心驚いた。だが、本人の服装を見て、納得がいった。マチュ自身の服装も、ストリート系のファッションだからだ。
「マチュ姉、意外とセンスがあるんだな…」
「それどういう意味?」
失礼な呟きに気付いたマチュは、ジト目で彼を見つめる。シュウマは、呟きを聴かれていたことに驚き、慌てて弁明する。
「いや、マチュ姉に選んでもらったことないから、内心ビックリしただけであって」
「ふ~ん?」
それでもジト目を止めないマチュ。ジト目状態になったマチュは非常に厄介だ。
「スイーツとか奢りますんで、お許しをマチュ閣下」
「……よろしい。ニャアンと唯ちゃんの分もね」
「モチロンデス」
シュウマは、買い物途中のスイーツ奢りでなんとか許して貰えた。それを見ていたニャアンは、愛想笑いを浮かべた。唯は、ストリートスタイルのシュウマを見て、無言で親指を立てる。
「じゃあ、次は私の番」
二番手は、ニャアンになった。マチュとは、対称にクールな彼女のファッションコーデに、シュウマは少し気になっていた。
「流石、ニャアンさんが選んだ服だ。新鮮な気分になる」
「シュウちゃん、カッコいいよ」
ニャアンが選んだのは、冷感デニムパンツ、白無地の半袖、薄手のカジュアルジャケットだった。マチュのストリート系コーデと違い、爽やかな印象を与える夏らしいコーデとなっている。
「ん」(次は、私だよ)
唯の番となり、シュウマは彼女の服選びを待つ。そして、持ってきた服を見て、頬を引きつらせながら、カーテンを閉じた。
「…で、何なんだこれは」
「ん、似合ってる」
唯が選んだのは、〈トマトの宿に泊まっとれ〉と書かれた面白Tシャツ、某配管工兄弟のようなオーバーオール、ニット帽だった。完全にネタ枠である。シュウマの顔が、羞恥心で赤く染まる。その横で、マチュは、腹を抱えて笑っている。ニャアンは、彼の姿を直視しないように顔を後ろに背けていたが、肩を小刻みに震わせていた。
「ピラメ〇ーノのGO皆〇!風ファッションじゃねえか。誰が知ってるんだよ」
「ん」(結構、懐かしいでしょ?昔一緒に見てたよね)
「確かに、小学生の時にテレビで観てたけど」
シュウマは、唯の小ボケにツッコむ。そして、周囲の視線が恥ずかしくなり、すぐに私服へ着替えた。約束の甘いもの奢りの時間となった。四人は、エスカレーターで二階へと向かう。
二階のフードコートでは、大勢の客が昼食やアイス・クレープといったおやつを食べ、賑やかな空気に包まれていた。フードコートの一角にある席を取り、四人が好きな昼食を選びに店舗へ向かった。マチュは、シグマナルドのハンバーガー。ニャアンは、金蛸のたこ焼き。唯は、ホットドック。シュウマは、タムラ屋の塩ラーメンを食べる。
シュウマ達は気付かずにいたが、フードコートに居た人たちは、個性的な人間性を持つ者ばかりだった。
「ララァよ。このクッキーバニラ味は中々の美味さだ。食べてみるかね?」
「シャア、ありがとうございます。では、一口いただきます。あら、美味しい。それでは、私の抹茶味もご賞味ください」
赤いジャケットにサングラス姿の金髪青年は、カップからアイスを掬いだし、口に入れる。クッキーのサクサク食感とバニラの甘味が彼の心を癒す。向かいの席に座っているインド系の女性は、アイスを食べる彼の無邪気な様子を見て、思わず口が緩む。
「お父様、お母さま、冷たくて美味しゅうございます」
「ガハハ!良かったな、ミネバ!うおっ!?頭がキーンとなる」
「うふふ、アナタ。慌てて食べなくてもアイスは逃げませんわよ」
大柄な体格と短く刈り上げた薄紫髪が特徴の男性は、娘の喜ぶ顔を見て、豪快に笑う。
そして、手元の二段アイスを一気に齧りついた為、頭痛を起こした。男の奥さんであろう女性は、彼の面白可笑しい姿に含み笑いをする。
「う~ん!41のアイス美味し~!」
「オレンジ&ラズベリー最高」
「ん、さっぱり」
「この中納言小豆とやら、中々いけるな」
昼食後、マチュ達は甘いもの休憩として、41のアイスを食べていた。
マチュはストロベリーバニラアイス。ニャアンは、オレンジ&ラズベリーアイス。
唯は、パチパチシャワー。シュウマは、中納言小豆を注文し、舌の上でひんやりと溶ける冷感と小豆の素朴な甘みを味わっていた。
唯は、カップアイスとシュウマを交互に眺め、スプーンで一匙掬い上げる。そして、彼の目の前にアイスを近付けた。
「あーん」
「あ?唯どうしたんだ」
自分の意図に気付かない朴念仁の反応に、唯はぷくっと小さく頬を膨らませる。
シュウマは、訳も分からず固まるが、差し出されたアイスと唯の表情から、口を開けるよう促されていると悟り、口に入れる。パチパチ飴の弾ける食感と甘めのミントの相性が抜群だ。
「ん、んぁ」
「…あぁ、分かった」
唯は、親鳥からの餌付けを待つ雛鳥のように、小さく口を開ける。それを見たシュウマは、先程の唯と同じく、中納言小豆アイスを掬い上げ、唯の口元に運ぶ。
唯は、パクッとシュウマのアイスを食べ、幸せそうな表情で味わっている。
マチュは、アイスを楽しみながら、シュウマと唯の二人を眺める。彼等より、年が一つ離れているマチュ達は、中学生の甘酸っぱい雰囲気を見て、微笑ましく笑う。
「はぁ、シュウマは本当に…唯ちゃんは苦労するな~」
「あはは、シュウちゃんも唯ちゃんも元気そうでよかった」
「私も青春したいな~キラキラを見たいな~」
「マチュは、本当にキラキラが好きだね」
ニャアンの言葉に、「まぁね」とマチュは笑う。マチュは、少し溶けたアイスを口の中に頬張り、次の目的地を脳内でイメージする。そこで、学生の憩いの場として知られるゲームセンターが思い浮かんだ。
「折角だし、このあとゲーセンで遊ぼうよ」
彼女の提案で、ゲームセンターに直行することが決まる。二階にあるゲームセンターは、三分の一のスペースを占めており、学生から大人まで多くの人で賑わいを見せていた。シュウマ達は、クレーンゲームやアーケードゲームで盛り上がり、楽しい時を過ごす。
最後に、唯は、三人に対して、プリクラに行きたいとねだる。シュウマがプリクラから離れようとするも、ニャアンとマチュによって、両腕を掴まれ、強制的に連行された。彼は、慣れない空間に戸惑いながらも、三人の後ろに立ち、大人しく写真を撮られた。
一方、その頃、黒須家の縁側では、二体のハロが世間話に耽っている。ハロ男は、煙草をふかしながら、庭園を眺める。蝉の大合唱が終わり、風鈴だけの音色が、彼らに夏の風情を与えていた。
〈どうだい?マチュちゃんやニャアン嬢とは仲良くやれてるか?〉
〈マチュ、ニャアント一緒デ、イツモ、楽シソウ!ハロ嬉しい!〉
ハロ男の言葉に、ハロは飛び跳ね、全身で喜びを表現している。ハロ男は、ハロの様子を愉快そうに眺め、再び煙草を吸い、吐き出す。空中に紫煙が舞い、静かに霧散する。
〈姪っ子のお前が楽しそうで、おじさん嬉しいわ〉
〈ハロ、オジサントアエテ、ウレシイ!これからお泊まり楽しみ!〉
談笑している二体の近くで、こっそりと一人の人影が覗いていた。その正体は、お隣に住む小大家の大黒柱である唯パパ。彼は、数年前から、シュウマのハロことハロ男の正体に気付いた人間だ。
(やはり、あのハロというロボットは腕を生やして、エイトスターの煙草を吸っている!妻にも話したが、話半分で聞いて貰えず、モヤッとしていたが、私の見間違いではなかった。それに、隣の白い球体は姪っ子だと!?)
唯パパは、生垣の向こう側からハロ達の行動を観察し、ハロ男の正体について、モヤモヤしていた。これが、八年ほど続いている。
〈夏やなぁ〉
〈夏ダネェ〉
唯パパの行動に気付かない二体のハロは、のんびりと夏の空気を堪能していたのだった。
裏話① ハロ男の中の人には、プロヒーローの妹がいる。その妹は、性転換手術で男性になった。
サブヒロイン
-
ミルコ
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拳藤一佳
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柳レイ子
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取蔭切奈
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塩崎茨
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