その電子の海に住まうのは……   作:睦月透火

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続きです。



Act.2

 事実は小説よりも奇なり……

 

 今の俺の目の前には、一時期話題となった事もある“エルダイバー”が居る。

 

 何でも俺の機体に興味があったらしく、隠れて見ていたとの事……

 

 “エルダイバー”とは、この“GBN”の中で生まれた電子生命体。

 幾人ものプレイヤー達が織り成しては消されていく日々の活動データ……その中に含まれる感情の発露が記録された残滓が寄り集まり、一つの人格となって表出したもの……らしい。

 

 以前から何かとバグや事故等が起きていたが、その殆どにこの“エルダイバー”の発生にも関わっていた……と憶測なんかも立っていたが、公式からは否定されている。

 

 ……まぁ、事件に関しては首謀者やら犯人は特定され処理されたとなってるし、現状致命的な何かが起きている訳でもなし。

 

 ましてや最近起きた“エルダイバー”関連の事といえば、去年辺りの「一騒動」ぐらいだな……それ以降、公式は“エルダイバー”の発生を認め、発見時は必ず公式に通報する事が徹底されている。

 

 ……だがそれは、何も彼ら“エルダイバー”を処分する為ではない。

 

 公式は“エルダイバー”達を“新規プレイヤー”と見做す形で見守る体制を敷き、彼らとの相互協力関係を築く事でGBNの運営をより良いものにしていく事を表明した。

 

 プレイの過程で見つかった“エルダイバー”には、リアルで稼働する為の“アバター”ともいうべき“身体”を用意し、正規の手順で改めてGBNに登録して貰う事で“新規のプレイヤー”となって貰う。

 

 そして“エルダイバー”側からは、リアルの身体とGBNでの正規活動権を得る代わりにGBN内での活動データの一部やプレイログからバグや不正の情報などを提供して貰い、運営の適正化に貢献する……

 

 双方に実利のある取引をする事になっていた……

 

『あわわわわ、ほわわわわ……!』

 

 目の前にいる少女も、外見的特徴は確かに“エルダイバー”だ。

 

 以前にも“エルダイバー”を見たことがあるが、これ程まで人間臭い“エルダイバー”は初めて見た……と言うか本当にコイツ、生まれたてなのか?

 

『おぉ? コイツ……動くぞ!?』

 

 白一色で飾り気の欠片もないワンピース的な服装に、時折網膜に走る走査線、白い肌……

 

 “エルダイバー”は外見なども環境で変わるらしいが、先に挙げた特徴は総じて変わらないとされている。見間違う事はないはずだが……

 

『ほえぇぇぇ……キラキラだぁ……』

 

(人格……というか、既にだいぶ人間臭い性格してるなコイツ。もしかして、生まれ自体はかなり前なのか?)

 

 そう思考しながらも、俺の手はホログラムのコンソール上を走り、正規のエルダイバー発見手順としての通報を選択……専門の調査員が派遣されて来る事になった。

 

──────────

 

 はい、通報されて調査員さんが来るまでの間、最新のガンダム*1シリーズ全話イッキ見して興奮冷めやらなくなりました。キラキラすごいよぉ!!

 

「……興奮してるとこ悪いが、調査員が来たぞ?」

 

『はぁい』

 

 公式から派遣されてきた調査員は、機動武闘伝Gガンダムに出てくるネオジャパン所属MS「ノブッシ」で現れた。

 

 クールビューティーな金髪のお姉さんだ〜。

 

「おまたせしてスミマセン、調査員の新垣です」

 

「ソロプレイヤーのシュウジです、でこっちが暫定エルダイバーの……」

 

『んー、なんて言えばいいのかな……?』

 

「……ったく、さっき決めた名前で良いだろ。さすがに名前ないと不便なんだから」

 

『あぁそっか、エルダイバーのセファーでっす!』

 

 名乗ったは良いが、調査員のお姉さんは一瞬だけど明らかに戸惑った表情を見せた。あれ? コレってヤラカシタのかねぇ?

 

──────────

 

 私は今、どうすれば良いか迷っている……

 

 GBN運営の現地調査員として私「新垣リョーコ」は、通報のあった新規発生した“エルダイバー”との直接接触をしているのだが……

 

『エルダイバーのセファーでっす!』

 

 自然発生したにしては明らかに自己認識が既に通常の人間と変わらないレベルの相手に、今までの経験が全く役に立たない。

 

 それどころか……

 

『お姉さん、推しのキャラとか機体ある? 私は派手にブッ放す奴好きなんだよねぇ。ストフリとかウイングゼロとか〜』

 

 いや何この娘、めっちゃ絡んでくる?! というか推しキャラ?! 既にオタクの域に染まり始め……いやもう沼ってるの!?

 

「あ、いやその……私は……」

 

「ったく調子に乗るな、この人は仕事でここに来てるんだから」

 

 あ、連れの男の子(通報者)が助けてくれた……と言うか今ガチの拳骨したよね? 凄いわこの子も……既にそんなレベルの信頼関係が出来てるなんて。

 

「スミマセン、調子付くとこうなるんで」

 

「あぁ、いえ大丈夫です。では、規定に従って調査を始めますね」

 

 新規発生したエルダイバーの調査は所謂、通過儀礼のようなものだ。

 

 先ずはエルダイバーの身体情報と保有データ量のチェック……コレは必須で、そのデータ量と質から、現実世界に落とし込む為のボディを生成する基礎部分の設計が導き出される。

 このチェック次第で、現実世界用のボディのシステムや構造体の大まかな設計が左右される為、必須かつ最重要の情報だ。

 

『調査してる間、私は何したらいいの?』

 

「特に何もしなくて良いですよ。貴女の保有データ量や傾向をみるだけなので」

 

『ふぅん? ってあっ……』

 

「……? どうかしましたか?」

 

 何か急に焦った表情をした様だが、私が声を掛けると逆にスンッと無表情になってしまった。

 

 私はそんなにノリの悪そうな相手だと見られたのだろうか……

 

 調査と言っても、何もその場で全てが分かる訳では無い。この場で分かるのは対象となったエルダイバーの性格や傾向、過去ログの一部だけで、本格的な調査は本部のサーバーにデータを送ってからになる。

 その為、今回の調査はぶっちゃけデータ取りと簡単なヒアリングだけであり、それほど時間も使わない。

 

 しかし派遣としての諸々カウントはしっかり取れるので、割と美味しい仕事ではある……今回の件を除けば、ね。

 

『……でさぁ、私も早く専用機とか乗りたい〜』

 

「……先ずはレンタル機体か何かでの基礎訓練からだ。お前の戦闘傾向とか見る必要もあるし、そもそもエルダイバー用の機体は調整が難しい。データ無いままじゃ作れねんだぇぞ」

 

『ゔぇっ?! やだなぁ訓練とか……』

 

「絶・対・に・や・れ。機体の特性もほとんどはお前の戦闘傾向次第で決まるんだからデータ取りは最重要だ。でなきゃ基礎設計もできねぇんだぞ?」

 

『そんなぁ……』

 

 通報者の少年と楽しそうに会話する少女……私の知る限り、新発見されたエルダイバーは周囲の物事の殆どに戸惑う傾向が強かったが、この娘だけは明らかに違う。

 

「……データそのものにバグや不正データは無いわね、もうそろそろ終わりますよ」

 

『あ~い』

 

 ……本当に彼女はエルダイバーなのかしら? 最初からほぼ人間の様な言動してるし、会話の内容も特に問題なし。雰囲気もエルダイバーらしくない……と言うか本当にエルダイバーなのか分からないわ……

 

『……多分エルダイバーだと思うな、私』

 

 突然、彼女は私の思考を読んだ様な答えを発した。

 

「え……どうして……と言うか何故そんな事を?」

 

『う~ん、何でか分かんないけど……私が何者かっていうのは私自身も分かんないし、当て嵌まるものが他に無いなら、それで良いかなって……』

 

 あまりにも的確なタイミングで放たれた言葉だったが、どうも私の疑問に対して……と言う意図は全く無かったらしい。

 

 ……それにしてもタイミング良すぎない?

 

──────────

 

 セファーのデータ取りは恙無く終了。簡易検査でもバグや不正データは無いとの事で、新垣は調査の次の段階……彼女に簡単な質問を始めた。

 

「貴女が一番やりたい事はなんですか?」

 

『ガンプラバトルかな〜。街でアニメや試合を見てて、自分もあんな風に機体を操ってみたいな〜って思ってる』

 

「なるほど……では、貴女に嫌がらせをする人が居たとしたら、その方をどう思いますか?」

 

『ヒトに迷惑掛ける時点で最悪……とりあえず見たら即通報するわ』

 

「即答ですね、前に何か……?」

 

『んー、ゲームって楽しむものでしょ? 楽しむ為の世界で迷惑行為はもう完全に“ないわ〜”って思ってる』

 

「なるほど。では……」

 

 そんな質問が幾つか出た後、新垣は最後にこう問うた。

 

「では最後に……自分が()()()()()()()()()()()()としたら、どうされますか?」

 

 意地の悪い質問である……しかしこれはエルダイバー等の倫理観を試す一つの指標を測るものである。それに対しセファーは……

 

『私が原因なら潔く消えるわ。他に方法が無いならね』

 

 唐突に放たれた答え……それは当人の倫理観としてはごく普通なのだろうが、聴いている我々からすれば耳を疑う内容だった。

 

「……潔く……ですか?」

 

『うん』

 

 これまた即答。表情は真剣そのもの……というか冗談でも何でもなく、感情を完全に無くした真の意味での“無表情”だ。

 

 絶対に超えてはならない“線”というか……決意のようにも感じる。彼女はこのGBNと自身を比較し、自分が妨げになってはならないと考えている様だ。

 この考えそのものは他の“エルダイバー”にも見られたが、これ程までにアッサリ言い放つ程ではなかった。

 

「お前アッサリし過ぎだろ……」

 

『ん〜? だってそうじゃん。原因分かってて対処しないのはマズイでしょ?』

 

「……まぁ、そうだが……」

 

 通報者の男の子は言い淀むが、彼女の方は口調こそ軽いけど表情は真剣そのもの……何故彼女はそんな簡単に自身を捨てれるのだろうか……

 

 

『……というかさ、こんな暗い話題ヤメヤメ!』

 

「ソ、ソウデスネ! ヒアリングもまだありますし……」

 

「……分かったよ」

 

 雰囲気に流された2人だったが、セファーの言葉で我に返り、リョーコはヒアリングを再開するのだった。

 

──────────

 

 そんなこんなで調査員さんはお仕事を済ませて帰ってった……残ったのは私とシュウジの2人だけ。

 

『……というかシュウジって名前、タイムリーじゃん。私、さっきGQuuuuuux見た訳だしさ〜?』

 

「……番組の方が後発だ。俺はわりと古参だし、最初からこの名前で通ってる」

 

『そうなんだ……でも同じ名前ってなるとやっぱ注目されるんじゃない?』

 

「……まぁ、確かにな……面倒事も増えるが……」

 

『面倒事……?』

 

「……適当な理由付けて腕試しとか言って巻き込んでくるタチの悪い奴とか、難癖付けて一方的に殴りにくる奴」

 

『あ~、そういうのあったんだ……気苦労してたのね』

 

「別に……昔の話だ」

 

『昔……じゃ、例の相棒さんともその時から?』

 

「……そうだよ」

 

 ぶっきらぼうに答えるシュウジ……セファーは彼の話に夢中で気付いてないが、シュウジはホログラムコンソールを操作してセファーを連れたままバトルフィールドから離脱しており、現在はセントラルロビーと呼ばれるエリアに戻って来ていた。

 

 セントラルロビーとは、エルダイバーらの増加によって彼らやプレイヤーの為に景観や生活利用目的で整備された市街地エリアと、ゲームのメイン目的であるガンプラバトルを行うバトルフィールドへ繋がるゲートエリアの間に位置し、ミッション受注やトレーニングを行えるカウンターや、大型ミッションの作戦会議に使えるレンタル会議室などの待機施設が併設されたハブスペースだ。

 

 具体的には……

 

市街地エリア

↑↓

セントラルロビー

↑↓

ゲートエリア

↑↓

各バトルフィールド

 

 ……のような構成だ。

 

 その為、シュウジとセファーが会話している様子は周囲の目を嫌でも惹きまくっていた。

 

「……おい、あれ……」

 

「エルダイバーか? なんかやたらとフレンドリーみたいだが……」

 

 ざわざわと俄に周囲が騒がしくなる。

 

「おい、お前ら」

 

 その時、ひときわ大きな男の声が響く。

 

「……はぁ……またか……」

 

 声に気付いたシュウジは、声の主に心当たりがあるのかため息混じりに振り向き、心底嫌そうな目線を相手に向けた。

 

『……誰?』

 

「会えば必ず難癖付けてくる、腐れ縁って奴だ」

 

 紹介……と言うにはかなり乱暴な、心底どうでもいい心境が滲み出るシュウジの物言い。対する相手はそんなシュウジを前に不敵な笑みのまま、シュウジとその横のセファーを舐めるように見物する……まるで獲物を見つけたかのような、灰色の体毛が特徴的な狼男みたいな風貌だった──

 

 

To be continued……

*1
本作執筆時点の最新作。

タイトルは勿論「機動戦士ガンダム GQuuuuuux(ジークアクス)」。




なんか長くなった……

エリア構成は原作からエルダイバーも増えたのでまたバージョンアップしたという設定です。
実際に生活も可能になってますよ!
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