君の隣を歩きたい。─車椅子の女の子が百合ハーレムを築く話 作:豚姫
私が目を覚ましたあと、先生や看護師さんたちは慌ただしく私の周りを動き回っていた。
主治医の鈴風先生は、意識がなかった間に緊急手術をしたこと、しばらくはこの部屋から出られないことを、静かな声で教えてくれた。
現実味のない話にただ頷く。
(なんか、体が痛くなってきた…)
意識がはっきりしてくるにつれて、体のあちこちが鈍く痛み始める。それなのに、下半身には痛みが全くない。それどころか、感覚すらない。
痛くないのはいいことのはずなのに、得体の知れない恐怖が足元から這い上がってくる。
「体痛い?ちょっと待っててね」
(先生はエスパーか何かなの…?)
私が何も言わずとも、それに気づいた先生が、点滴に何かを注射してくれた。
「少し眠くなる薬だからね」
その言葉通り、急速に意識が遠のいていく。
最後に見たのは、心配そうに私を覗き込む先生の顔だった。
◇
それから
薬のせいか意識はいつもぼんやりとしていて、覚えているのは、たくさんの大人たちが代わる代わるやってきては、私の体に触れていったことだけ。
ご飯も、お風呂も、トイレも、全部自分ではできない。ベッドから起き上がることすら許されない。日に日に、自分が自分じゃない何かになっていくような感覚に、精神が少しずつ削られていくのがわかった。
「うぇ…っ、げほっ、ごほっ…!」
夜中にうなされては吐いた。
あのときのお父さんのぐしゃぐしゃになった姿が、フラッシュバックして頭から離れてくれない。
お母さんの顔も赤かった、お姉ちゃんは起きなかった、ももちゃんは泣き叫んでいた。
みんな死んだのかな。
「っは、はぁっ、はっ…」
「
口に広がる酸っぱい味と、自分の情けなさに涙が滲む。モニターの電子音だけが鳴り響くこの部屋で、私は迷惑をかけることしかできない。
ごめんなさい、ごめんなさい…。
◇ ◇
そんな地獄のような日々に、光が差したのはあの日からちょうど1週間ほどたった頃だった。
「ゆずちゃーん!会いたかったよー!」
目の前で、ウーパールーパーみたいに人懐こい笑顔を向けているのは、
ブラウンの髪を高い位置でお団子に緩くまとめている先生は、ギャルっぽさが滲み出ているけど、本人に指摘しても「え"っ、いやぁ…ないない!」と、絶対に認めてくれない。
「アッキーうるさい。
「えー嘘だぁ」
もう1人は、
長く艶やかな黒髪をクリップで留めた、泣きぼくろの似合う大人な雰囲気の先生だ。
どうやら女の子に人気らしく、アッキー先生が「ずるーい!私も人気になりたーい!」って羨ましげに嘆いていた。
私が思わず「アッキー先生のことも皆んな大好きですよ」って口にしたら、その日から私の方が大好きアピールをされるようになってしまって、毎日ちょっと恥ずかしい。
この2人、見た目だけなら正反対で、森先生が厳しそうに見えるんだけど、これが意外とそうでもなくて、2人は緩さが不思議と噛み合っていて仲良しらしい。
この2人の存在が、地獄だと思っていた私の日々に、少しずつ彩りを取り戻してくれていた。
「あ、そうだ。これあげたかったんだ」
「お!ウーパールーパーじゃん!」
森先生がポケットから取り出したのは、ウーパールーパーのキーホルダーだった。この前、私が「ウーパールーパーかわいいよね」と何気なく言ったのを覚えててくれたのだろうか。
もしそうなら…じんわりと胸の奥があたたかくなる。
(この、ニコニコした顔……)
キーホルダーを見つめながら、数ヶ月前の記憶が蘇る。あの時も、お父さんと一緒にウーパールーパーの動画を見て、二人で可愛いねって笑い合ったんだっけ。
「今度、
嬉しいのに、なぜか涙が出そうになる。
「……ありがとう、森先生」
ハッとして、慌てて下手くそな笑顔を作る。
泣いたら森先生に勘違いされちゃう。必死に涙を堪えた。
「ウーパールーパーかわいいよね」
森先生が、私の気持ちを察したように優しい声で言った。
「うん。ニコニコしてる顔がかわいい」
「…えへへ」
「アッキーのことじゃないからね」
アッキー先生が照れ笑いを浮かべると、森先生がすかさず突っ込む。
以前、アッキー先生の笑顔がウーパールーパーに似てると言ったのを、二人はまだ覚えているらしい。
二人が言い合っているのを見ていると、張り詰めていた心がフッと軽くなる。優しい二人の笑顔が、じわじわと私をあたためてくれた。
「…先生たちと話してると、楽しい。だから…ありがとう。えっと…このキーホルダー大切にするね」
恥ずかしいけど、ちゃんと言葉にした。
伝えたいことは、伝えることができるうちに伝えないといけないから。
顔を上げると、先生たちが顔を手で覆って何かをぶつぶつ呟いていた。
(私変なこと言っちゃったのかな…?)