君の隣を歩きたい。─車椅子の女の子が百合ハーレムを築く話   作:豚姫

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21話 グッバイきらり…?

 

 

 翌日、カーテンの開く音で目を覚ました。

 差し込む日光と、聞き覚えのあるモーニングコール、私は諦めて目を開いた。

 

「起きてー二人とも」

 

 声をかけてくれたのは佐倉さんだった。テキパキ動きながら、きらりにかかった布団を回収し、叩き起こしている。

 

「んぁ……?」

 

 芸術的な寝癖をつけたきらりは、半目で顔を上げた。

 

「おはよう、きらり」

「……はよ」

 

 眩しい朝日にきらりは、目を細めた。

 二人してシパシパした目で顔を見合わせる。

 

「きらり寝癖すごいよ」

「それお前もな」

「え、うそっ」

 

 慌てて髪を押さえる私に、きらりが『嘘だよ』と笑った。それにむすっと、顔を膨らませる私を、佐倉さんは呆れたように笑っていた。

 

 

「それで、なんで二人は手繋いでるの?」

「はい?」

 

 佐倉さんの言葉を理解できないでいると、ふと、右手に温もりを感じて、視線を落とす。

 

「……本当に、なんで私たち手繋いでるの?」

「真央がよく繋いでるから、触り心地でもいいのかと思って」

「感想は?」

「まあまあだな」

 

 きらりはそう言って、私の手を小さく握りしめ、そしてそっと離した。

 

 あ、と思わず声が出そうになるのを隠した。

 寂しいけど、揶揄われるのは癪だから。

 

(……でも、やっぱり寂しい)

 

「きらり、また連絡してよ」

「へいよー」

 

 呑気にあくびするきらりが、私たちのこと忘れないといいなぁって、そう思った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 部屋のモニターやゲーム機などが、次々と片付けられていく。 

 

(ああ。本当に、きらり退院するんだ──)

 

 目に見える形で変化していく病室が、その現実を嫌でも突きつけてくる。

 荷物を片付けていくきらりを、私たちはみんなで黙って見つめていた。しかし、きらりの顔はいつも通り、どこまでもあっけらかんとしている。

 

 もう少し寂しがってくれてもいいのに、と私はひっそりと思ってしまった。

 

 

「ふいーこれくらいだよな」

 

 忘れ物がないか確認したらきらりは、拍子抜けするほどさらりと別れの挨拶を済ませた。

 

「んじゃ、まあ世話になったな!退院したらまたみんなで遊ぼうぜ!」

 

 きらりがそう言って、病室のドアへと向かう。

 

「っ、きらりんあっさりすぎ!このバカ!」

「シンプル暴言はやめろよ!」

 

 睦美ちゃんが引き止めるように叫んだ。

 きらりは振り返って睦美ちゃんにツッコミを入れる。その顔は、やはり笑っていた。

 

 

「もう、階段から滑り落ちないように気をつけなさい。次はレギュラー取られるかも知れないわよ」

「うげ、痛いとこつくなぁ」

 

 真央が、いつもの冷静な口調で言った。きらりは眉をひそめ、がっくり肩を落とす。

 

 

「きらり、今度試合見せてね!」

「おう!そん時は、スリーポイントシュート決めてやるよ!」

 

 私が精一杯の声で言うと、きらりはパッと笑顔になった。今度は全国大会行ってやるよ、ときらりは親指を立てる。

 

 

「お前ら私がいないからって泣くなよ!」

 

 それが、きらりのお別れの言葉だった。

 最後までお調子者らしく、笑って去っていった。睦美ちゃんは最後に涙を流して、真央はなんだかんだ嬉しそうに見送っていた。

 

(私は、寂しいような嬉しいような、複雑な気持ちだった)

 

 不思議と悲しくはない。

 いつか、きっとすぐにまた会える。

 そんな予感がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 きらりがいない103号室はものすごく静かだった。真央ちゃんは「この部屋が騒がしい原因ってアイツだったんじゃないの?」なんて言ってたけど、やっぱりどことなくつまらなそうな顔をしていた。

 

 それでも時間っていうのはあっという間に過ぎてくもので、気づけば消灯時間になって、私たちは夢の中にいた。

 

 

 

 

 ──────ヴヴ……。

 

 

(………?)

  

 

 ──────ヴヴ、ヴヴ…!

 

 

(……うる、さい)

 

 

 ──────ヴヴ、ヴヴ、ヴヴ…!

 

 

(…なんの音?)

 

 

 眠くて重たい瞼を、かろうじて開ける。

 真っ暗な病室、私の近くで何か音がした。

 

 ──ヴヴ─ヴヴ!

 

(……あ、スマホか)

 

 ベッドのサイドテーブルに置いたスマホが、振動を繰り返していた。アラームをかけたつもりもないし、なんだろうと、ベッドの角度を上げてスマホを手に取る。

 

 持ち上げたスマホは明るく光った。

 真っ暗な病室に眩しいスマホの画面には、バスケットボールのアイコンが表示されていた。

 

 

(え、きらり……?)

 

 夢かなと思って試しにほっぺをつねってみたが、普通に痛い。

 ……たしかに、困ったら連絡してもいいって言ったけど、流石に早くない?それに、今夜中の1時だよ?

 

 しかし、あまりにも長いコールに底知れない違和感を感じた。眠い目を擦って、ワイヤレスイヤホンを片耳に装着する。

 

 ──そして、応答ボタンに軽く触れた。

 

 

「もしもし、きらり……?」

 

 恐る恐る出た電話は、背景に雑音が混じっていた。人の歩く足音、ガタンゴトンと鳴る電車の音、車の排気音。

 

 それら全ての音を切り裂くような大きな声が耳をつんざいた。

 

 

「──柚華っ…!!」

 

 

 きらりの切羽詰まった声。

 

「ど、どうしたの…!?今どこにいるの…?」

「今は…近所の公園にいる」

「え、そんなの危ないよ。今からでも──」

 

 家に戻りなよ、と言おうとしたところで辞めた。こんな時間に公園にいるなんて、おかしい。

 家に帰れるならとっくにそうしてるはずだ。

 

 

「……もしかして、家出した?」

「うん」

 

 ほんとに家出なの…!?

 驚きのあまり、声が出そうになるのを、必死で飲み込んだ。

 

 落ち着いて、私。

 一回深呼吸して冷静に考えよう。

 

「とりあえず、きらり今の状況を説明できる?」

 

 まずは本人に説明してもらうのが先だ。

 私が尋ねると、きらりは震える声で答えた。

 

「あたし、みんなに嘘ついてたんだよ」

 

 嘘…?

 ポツリと私のこぼした言葉に、きらりは「うん」と言葉を返した。

 

 

「怪我した原因……本当は、階段から滑り落ちたわけじゃないんだよ」

 

 だとしたら──。

 嫌な予感がした。

 

 きらりが家に帰りたいコールに乗らなかったこと、入院を長引かせるためにごねたこと、そして退院してすぐに家出したこと。全てが繋がった気がした。

 

 

「──親父に突き落とされたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

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