君の隣を歩きたい。─車椅子の女の子が百合ハーレムを築く話 作:豚姫
一般病棟に移って4日目。
不思議なことに、昨日から103号室のみんなが、なんだか私に優しい。
あれだけ騒がしかったきらりちゃんは、私のベッドの近くでは静かに漫画を読んでいるし、
やはり、昨日のことで気を遣わせてしまっているのだろうか…?
そんなことを考えていると、隣のベッドから不意に声がかかった。
「ねぇ、
「え?あ、うん。もちろんいいよ」
彼女のLINEアイコンは、綺麗な毛並みの黒猫だった。意外なチョイスに少しだけ心が和む。
すぐにピコン、と通知が鳴り、私はグループラインに招待された。その名前は、とてもシンプルで、だけど今は何よりも心強い響きを持っていた。
グループ名は『103号室』。
さっそく「よろしく」と、スタンプが飛んでくるので、私のお気に入りのウーパールーパースタンプを返しておく。
その時だった。
ぽん、と別の通知が画面の上部に現れた。
送信者は『
(うわ…やばい、めちゃくちゃ鬼電されてる…)
トーク画面を開く前から、通知が「999+」でカンストしているのが見えて、背筋に冷たい汗が流れる。
でも、返信する勇気が出ない。
こんなボロボロで、動けない姿、
私は一つ息をつくと、覚悟を決めてトーク画面を開いた。そこに並んでいたのは、怒涛のメッセージと不在着信の嵐だった。
『柚華どこにいるの?』
『既読がつかないんだけど』
『学校にも来てないの?』
『…事情も知らずにごめんなさい。起きたら連絡して』
『……あんた、スマホ見てないでしょ』
『あまりにも音信不通だから、こっちで調べたわ。小児総合医療センターにいるのね』
『乗り込もうとしたら、お父様に止められたわ。ドローンでも潜り込ませようかしら』
『柚華、これを読んでいるならすぐに連絡なさい。もし連絡できない状況なら、私がそっちに行くだけだから』
『そこ、屋上に
(ん…?えっ、ヘリポート…?)
見逃せない文字に、数秒時が止まった。
(まって、ヘリコプターで来ようとしてる!?)
た、たしかに雅の家はプライベートヘリ持ってるけど、病院のヘリポートって絶対使っちゃダメでしょ!緊急用だよ!?
(ヘリで来られたら、大騒ぎになっちゃう…!)
あまりに雅らしい、常識外れな最終通告に、私はパニックになり、震える指で必死に文字を打ち込んだ。
『絶対ヘリで来ちゃダメだからね!?』
送信した瞬間、はっと息を呑む。
しまった、と思った時にはもう遅い。
すぐに『既読』の文字が灯り、間髪入れずに返信が来た。
『やっと連絡してきたわね、この大馬鹿』
『あ』
さすが、幼稚園からの幼馴染。
私の扱い方を完璧に心得ている…。
『そこの病院。家族か、家族が同伴する第三者でないと面会謝絶なんですって』
『だから、今度あなたの母方のお祖母様と一緒にそっちに行くわ。いい?私は貴方のこと逃したりしないから。一人で全部抱え込もうだなんて、絶対に思わないことね』
その有無を言わせぬ、力強い言葉。
両親を失って、不安でたまらなかった私の心に、雅の優しさがじんわりと染みていく。
(…雅、ありがとうね)
「柚華?なんか、今すごい顔してなかったか?」
不意に、きらりちゃんがベッドの向こうから声をかけてきた。
「あー…ううん。なんでもない、なんでもないよ」
私は慌ててスマホの画面を伏せると、込み上げてくるものを必死に押し殺して、何事もなかったかのように、へらりと笑って見せた。
◇ ◇ ◇
そして約束の時間が訪れる。
気を遣ってくれたのだろう、103号室のみんなは少し前にプレイルームへと向かい、病室には私と本郷先生だけが残された。
「さてさて、心の準備はどうだい?もうすぐ、君の愛する人たちが会いに来てくれるよ!」
先生は、私の緊張を解そうとしているのか、いつものように明るく笑っている。
その笑顔を見ていると、ずっと胸につかえていた言葉が、自然と口からこぼれ落ちた。
「先生、ありがとうございます」
「ん?」
「私、先生のおかげで…なんとか、心が壊れずに済んでる気がして…。それに、今日の面会も、すぐに手配してくれてありがとうございます。先生のこと、最初はちょっと怖くて、変な人だなって思ってたんですけど…」
私は一度言葉を切り、先生の目をまっすぐに見つめて続けた。
「今は、大好きです」
それは、自分でも驚くほど素直な言葉だった。
先生は一瞬きょとんとして、それから急に慌てだした。
「あ、ああ。いや、まあ、別にこれくらいは専門家として当然のことだからね、うん。気にしないでくれたまえ」
さっきまでの自信に満ちた態度はどこへやら、先生はしどろもどろになりながら、意味もなく眼鏡の位置を何度も直している。
「先生…もしかして、照れてる…?」
私の指摘に、先生は「ぐっ」と喉を詰まらせた。
「…まったく、大人を揶揄うんじゃないよ」
眼鏡のグリッジを押し上げ、ふいと目を逸らす本郷先生。
その耳が少しだけ赤くなっているのを、私は見逃さなかった。
この変で、胡散臭くて、でも誰よりも優しい先生のことが、私はもう大好きになっていた。
「……こほん!それじゃあ、桃香くんを呼んでくる。心の準備は、大丈夫かい?」
咳払いで無理やり仕切り直した先生に、私はこくりと頷いた。
「はい、大丈夫です」
先生が頷き返し、静かに病室のドアを開ける。
そして、私の妹『