絶望少女と魔王達の神殺し 〜魔女狩りの世界に転生したので、神に抗います〜   作:なないろすらいむ

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第4話 魔女達の誘い

廃村の乾いた風が、崩れた石壁の間を抜けていく。草に覆われた石畳が朝の薄光を反射し、廃墟の静寂が、かえって不穏に響いていた。

 

ルークの隻眼は鋭く、黒いローブを羽織った少女たちに注がれている。彼女たち――サンクタ・エヴァ――はミツキたちを取り囲むように立ち、黒いフリルと紫色のスカートが風に揺れていた。中央に立つ青髪の少女が手を叩き、口を開く。

 

「先程のカドーシュ・ゴーレムとの戦い。とても見事だったわ。流石ね、ネファスの魔女ルーク」

 

青髪の少女の声は甘く、だがどこか冷たく響いた。

 

「騙すような真似をしてごめんなさい。私はソフィア。隣の赤髪の子はイザベラ。私たちサンクタ・エヴァには、あなたたちの力が必要不可欠なのよ」

 

ルークの胸が、締め付けられる。ネファスの魔女としての直感が、少女たちの言葉に潜む危険を告げていた。

 

――サンクタ・エヴァ。闇市で囁かれる、過激な魔女集団。教会と天上界を敵視し、禁忌の魔術を操る者たち。だが、ルークの関心はそこにはなかった。

 

「セレスティアの名を使ったのはお前たちか」

 

声は低く、剣の柄を握る手が汗ばむ。ソフィアが微笑んだ。青い髪が風に揺れ、その瞳に狡猾な光が宿る。

 

「ふふ、鋭いわね。聖女セレスティア――あなたの大切な人、よね? 彼女がこの廃村に現れたなんて、ちょっとした仕掛けよ。あなたをここに呼び出すために」

 

その言葉に、ルークの瞳が鋭く細まった。セレスティアの名を弄ぶ態度に、胸の奥で怒りが滾る。

 

「ルーク、落ち着いて」

 

エリシェヴァがそっと呟く。緑のスカートが風に揺れ、長い金髪が輝いた。冷静な瞳が、サンクタ・エヴァの一挙一動から魔力の流れを読み取ろうとしている。

 

「この人たち……何を企んでるの?」

 

ミツキが隣で囁いた。赤い装束が朝光に映え、好奇心と緊張が入り混じった瞳でソフィアを見つめる。ゴーレム戦の疲労は残っていたが、その手はしっかりと剣の柄に置かれていた。

 

「企むだなんて、失礼ね」

 

ソフィアが肩をすくめる。

 

「私たちサンクタ・エヴァは、あなたたちと同じく、教会と天上界の偽善を打ち砕くために戦っているの。教皇アダムス、天使たち――彼らの支配は腐ってるわ。ルーク、あなたも知っているはずよ。セレスティアがどうなったか」

 

その声には、嘲りが混じっていた。

 

「天使たちの裁きの光に焼かれ、村人たちに裏切られ、絶望して消えた聖女。あの出来事も、教会の仕業よ。私たちに加われば、セレスティアの仇を討てる!」

 

イザベラが、まるで演説でもするかのように声を張り上げる。

 

「私たちの目的は、偽善にまみれた天上神と、腐敗しきった教皇アダムス、教会の奴ら全員を皆殺しにすることよ。魔女狩りと称して理不尽に殺された、たくさんの罪なき少女たちのために、奴らに天誅を下してやるの! そうして私たち魔女のための新しい世界を作るのよ!」

 

「……そんな……」

 

ミツキが、言葉を失う。

 

ルークの心が、軋んだ。セレスティアの絶望した顔が、脳裏に浮かぶ。あの夏の日、村人たちの恐怖、ルーク自身の無力さ――そのすべてが、彼女を追い詰めた。だが、サンクタ・エヴァの言葉は、あまりにも過激だった。

 

「君たちの目的は復讐か」

 

ルークの声は冷たく、隻眼がソフィアを貫く。

 

「セレスティアの名を口にするな。僕には僕の道がある。お前たちの過激な思想に組する気はない」

 

ソフィアの笑みが、すっと消えた。

 

「……ふん、残念ね。ネファスの魔女の力は、私たちの盟友がカルデア・ザフラーンで進める計画に必要だったのに」

 

その言葉に、ミツキが首を傾げる。

 

「カルデア・ザフラーン? それって何? 街の名前?」

 

エリシェヴァが眉をひそめた。

 

「聞いたことのない街ね」

 

ミツキたちがその地を知らないことに、ソフィアは薄く笑う。

 

「ふふ、知らなくてもいいわ。いずれわかる時が来るもの。あなたたちの力は私たちがいただくわ。たとえ強引にでもね!」

 

イザベラの声が鋭く響き、地面に赤黒い魔法陣が浮かんだ。黒い霧が廃村を覆い、少女たちの手から呪術の鎖が放たれる。鎖は蛇のようにうねり、ルークたちを縛ろうと襲いかかった。

 

「来るよ、ルーク!」

 

ミツキが叫び、剣を構える。赤い光が奔り、時間停止の権能が発動した。だが同時に、彼女の額に汗が滲む。鎖の動きは遅くなったものの、完全に止めることはできない。

 

「うっ……さっきの戦いで……ちょっとキツいかも!」

 

精神は、まだ回復しきっていなかった。

 

「ミツキ、あまり無理するな。……ここは僕に任せて」

 

ルークが駆け寄ると、右目の眼帯を外す。青い左目と違い、右目は紫色の瞳をしており、中にはシジルのような模様が浮かび上がっていた。

 

「――止まれ」

 

その瞬間、世界が凍りついた。

 

黒い鎖は宙に浮かんだまま、まるで意志を持たぬ蛇のように蠢きを止め、イザベラやソフィアの姿もそのまま時に縫い止められている。微かな風だけが動きを保ち、ルークの外套をはためかせていた。

 

ミツキが、見開いた瞳で周囲を見渡す。

 

「こ、これって私の時間停止の権能、よね……本当にどういうこと……?」

 

「記憶の中にあった“彼女たちの戦術”を再現しただけさ」

 

ルークが小さく答える。声は静かだが、どこか余裕があった。

 

「僕の“記憶魔法”はね……“一度見た戦術や現象”を、相手の記憶から抽出し、再現することができる。さっき、ミツキの能力を観察していた彼女たちの脳内に、君の時間停止がきっちり刻まれていたんだよ」

 

ミツキの表情が強張ったまま、それでも呆れ混じりに返す。

 

「すごい。一体どうやって!」

 

「今は悠長に話している場合じゃない。詳しい話は後にしよう」

 

言い終えると同時に、ルークはエリシェヴァの腕を引き寄せ、ミツキに頷いてみせた。

 

「――逃げるぞ」

 

三人は行方をくらますため、森へと駆け出した。凍りついた村の風景が、音を立てぬまま流れていく。だが――耳の奥に残響のようにこびりついていたのは、あの少女たちの声だった。

 

『偽善に塗れた天上神と、腐敗した教皇アダムス……皆殺しにして、魔女のための新しい世界を作るのよ!』

 

その響きが、ルークの胸をえぐる。セレスティアの名を弄び、復讐の燃料とした少女たちの姿が、過去の村人と重なって見えた。

 

「……あの人たちの言葉、聞いてて……正直、少し怖かった」

 

ミツキの声は、震えていた。

 

「何だか……教会と同じことしてるみたいで。敵だからって、皆殺しにしていいなんて……それじゃ、ただの暴力じゃない」

 

ルークが、黙って頷く。彼女の中に浮かんでいたのは、あの日のセレスティアの顔だった。聖女と呼ばれた彼女が、どれほど純粋に人々を信じていたか。その無垢さが、どれほど簡単に裏切られたか。

 

「セレスティアは……あんなやり方、望まない」

 

エリシェヴァも、冷静に言葉を重ねた。

 

「怒りや悲しみを原動力にすることまでは否定しない。でも“皆殺し”なんて……それはただの独善。教会の狂信と同じだわ」

 

廃村を吹き抜ける風が、冷たく三人の頬を撫でる。

 

ミツキは唇を噛み、強く言い切った。

 

「復讐で作った世界なんて、結局また誰かを泣かせるだけ。……私は、そんなの絶対に嫌」

 

その声は、彼女自身を鼓舞するように響いていた。

 

「逃がさないわよ! あなたたち!」

 

森の入り口の方から、イザベラの声がする。同時に赤黒い魔法陣が輝き、呪術の鎖が廃墟の間を這うように追いかけてきた。赤黒い炎が森の木々を焦がし、ゴーレム戦で見た不穏な光を放つ。どうやら、時間停止の権能は解けてしまったらしい。

 

「足止めするわ、みんな走って!」

 

エリシェヴァが走りながら何かを念じると、周囲が緑色に光り出した。ミツキたちが通った後の草木が急激に成長し、道を塞いでいく。それにより、一部の魔女たちは足を草や蔦に引っ掛け、転倒し始めた。だが魔女たちは歩みを止めることなく、ミツキたちを追い続ける。

 

「やっぱり、私も戦わなきゃ……」

 

ミツキが応戦しようとするが、やはりゴーレム戦の疲労の影響か、額に激痛が走り、時間停止の権能は発動できなかった。

 

「こうなったら……やむを得ないな」

 

ルークはそう呟くと足を止め、魔女たちの方へと向き直る。

 

「ちょ、ちょっと、ルーク!?」

 

エリシェヴァとミツキが困惑し、ルークへと駆け寄る。そうしている間に、サンクタ・エヴァの魔女たちに追いつかれてしまった。

 

「いい加減、観念したかしら? さぁ、私たちと一緒に来てもらうわよ」

 

魔女たちは三人を取り囲み、勝利を確信したのか、イザベラとソフィアがルークたちを捉えようとじりじりと近づいてくる。

 

その途端、ルークの右目のシジルが輝き出した。

 

「――忘れろ」

 

一瞬の出来事だった。ルークがそう呟いた途端、真っ白な閃光が魔女たちを包み込む。光が収まったかと思うと、サンクタ・エヴァの魔女たちは、さっきとは打って変わって、皆一様に気の抜けた顔で呆然としていた。

 

「――ここはどこ?」

 

「私たちは一体何をしていたのかしら……?」

 

どうやらイザベラもソフィアも――魔女たちは直近の記憶を失ってしまい、皆混乱しているようだった。

 

「ぐっ、うっ……」

 

ルークの右目が疼き、紫色の瞳から一筋の血が流れる。彼女は手で目を覆い、息を整えた。

 

「……これで当分、追ってこられないはずだ。早く、できるだけ遠くへ逃げよう」

 

記憶魔法の負担が、彼女の身体を蝕んでいる。エリシェヴァが駆け寄り、青い光の治癒魔法を放った。

 

「ルーク、無理しすぎよ! この魔法、身体を壊すわ!」

 

その声に、心配が滲む。

 

「……問題ない。セレスティアを見つけるまでは」

 

ルークの声はかすれていたが、決意に満ちていた。

三人は手を取り合うと、そのまま森の奥へと姿を消した。

 

セレスティアの行方、サンクタ・エヴァの真の目的――廃村の戦いは、新たな謎を残すばかりなのであった。

1話に対する文字数についてです。今迄他小説サイトと同じ感じで投稿していましたが他作品を観察した所文字数が少ないかも?と感じたのでアンケートを開催しました。今後の再編や投稿の参考にしたいと思います。

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