絶望少女と魔王達の神殺し 〜魔女狩りの世界に転生したので、神に抗います〜   作:なないろすらいむ

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第7話 生命の権能

アスタロトの居城を後にしたミツキ達は、ようやく人間界の土を踏んだ。

日はもう沈みかけ森が黒色へと変化していく、風は冷たく、だが戦の魔王との謁見を終えた安堵が胸に広がっていた。

 

「ふう……緊張したね」

 

ミツキはドレスの裾を直しながら、額の汗を拭った。

 

ルークも小さく頷く。

 

「アスタロト様がミツキを認めたのは……正直驚いたよ。あの御方は誰彼構わず力を渡すような魔王じゃないからな」

 

エリシェヴァはそっとミツキを見やり、不安そうに眉を寄せた。

 

「でも、……大丈夫? さっきの“シギル”……何も変わっていないみたいだったけど」

 

「うん……」

 

ミツキは胸に手を当て、苦笑する。

 

「派手な光とか痛みとか、全然なかった。ただ……少し身体が軽くなった気がするくらい」

 

ルークは腕を組み、静かに言った。

 

「アスタロト様が無意味なものを渡すはずがない。生命の権能……いずれその真価が分かるだろう」

 

三人は互いに顔を見合わせ、歩みを進めた。

やがて夜が更け、廃屋に身を寄せた時だった。

 

――その夢は、再び訪れた。

 

 

---

 

虚空に浮かぶ黒樹の根元で、赤々とした彼岸花が風もなく揺れていた。世界に張り詰めた冷気が走り、ミツキは自分の夢が翁に染め上げられたことを悟った。

その根元に、青年の姿があった。

 

長い黒髪が揺れ、黄金の瞳が冷たくも深い光を宿す。

翁――私をこの世界に転生させた存在だ。

 

「……アスタロトのシギルを手に入れる事に成功したようだな、ミツキ。」

 

「やっぱり来たね。もう驚かないけどさ、毎度ちょっと心臓に悪いんだから」

 

ミツキは軽口を叩きながらも、真剣な眼差しを向けた。

翁は口元をわずかに緩め、しかしすぐに厳しい声音に戻した。

 

「うん。でも……正直、何も起きなかったんだ。力が増した感じもしないし……」

 

翁の黄金の瞳が細められ、静かに告げる。

 

「それで良い。お前が授かったのは“生命の権能”。

 常に発動し、お前の命を高め、病や毒を拒み、老いや死すら遠ざける力だ。派手な力ではないが──それこそが不死の礎だ。」

 

ミツキは息を呑み、胸に手を当てる。

 

(……だから何も起きなかったんだ。もう動いてるから……)

 

翁はさらに続けた。

 

「だが覚えておけ。この権能はお前ひとりに留まらぬ。仲間に分け与えることもできるのだ。……ただし、その時だけは代償を払う。己の精神を削ることになるだろう」

 

「仲間にも……!」

 

ミツキの瞳が揺れた。エリシェヴァやルークの顔が脳裏に浮かぶ。

 

翁の声は重く、だがどこか優しさを含んでいた。

 

「使いどころを誤るな、ミツキ。守る者が増えるほど、お前自身を蝕む刃にもなる」

 

ミツキは拳を握り、俯いた。

 

「……わかった。絶対に無駄にはしない」

 

翁は静かに頷き、話題を変えるようにその瞳をさらに光らせた。

 

「次に向かうは──砂漠の都、カルデア・ザフラーン。そこに"業火"の魔王イブリースが潜んでいる」

 

 ミツキの瞳が揺れる。

カルデア・ザフラーン。サンクタ・エヴァの魔女達が話していた街の名前だ。

 

「分かった。今迄みたいにネファスの魔女を見つけて、そのイブリースって魔王に謁見して──」

 

「甘い」

 

翁の声が鋭く遮った。

 

「イブリースは悪意そのものだ。彼奴は理を語らぬ。人を見下し、魂を喰らい、炎に呑ませて悦ぶ存在だ。交渉は通じぬ。対話を試みれば、命を落とすだけだろう」

 

その言葉に、ミツキは思わず息を呑んだ。

 

「……つまり、戦うしかないってこと?」

 

翁はゆっくりと頷く。

 

「そうだ。お前の使命は"イブリースの暴走を止め、シギルを奪うこと”。 だが忘れるな──これまでとは違い、命を賭ける覚悟が要る。戦の準備を怠るな。その"生命の権能"を存分に役立てるといい。」

 

ミツキは拳を握り、俯いた。

胸の奥に不安と恐怖が渦巻く。けれど同時に、熱く燃えるものがあった。

 

「……わかった。やってみせるよ」

 

翁は黄金の瞳を静かに光らせ、言葉を落とす。

 

「その覚悟を忘れるな。……世界の行く末は、お前の手に委ねられている」

 

 翁の言葉が途切れると同時に、闇の大地が揺らぎ、夢の世界は崩れ去っていった。

 

――

 

ミツキは荒い息を吐きながら目を覚ました。

冷たい夜気が頬を撫でる。焚き火の赤い火がぱちりと弾け、小さな火の粉が舞った。

 

「……夢、か」

 

呟きながら手を伸ばすと、乾いた薪の角で指先を掠めた。

 

一瞬、かすかな痛みと赤い筋が走る。

 

だが――その血は一滴すら零れることなく、瞬きの間に塞がっていた。

まるで最初から傷などなかったかのように。

 

ミツキは指先をじっと見つめ、小さく息を呑んだ。

 

(……これが、“生命の権能”)

 

胸の奥で熱いものが広がる。

恐怖もある。けれど、それ以上に――世界の運命を託された責任が。

 

焚き火の炎が彼女の瞳に揺らめきを映した。

 

(――必ず勝つ。あの“業火の魔王”に)

 

夜明け前の闇は、ただ静かに彼女を包み込んでいた。

 

1話に対する文字数についてです。今迄他小説サイトと同じ感じで投稿していましたが他作品を観察した所文字数が少ないかも?と感じたのでアンケートを開催しました。今後の再編や投稿の参考にしたいと思います。

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