絶望少女と魔王達の神殺し 〜魔女狩りの世界に転生したので、神に抗います〜 作:なないろすらいむ
廃墟を抜け、森の木陰で一息ついたときだった。ミツキは赤いドレスの裾を整えながら、ルークの横顔をじっと見つめた。
「ねえ、ルーク、ひとつお願いがあるんだけど」
「なんだい?」
隻眼の瞳が、僅かに揺れる。
ミツキは、真剣な声で続けた。
「あなたの契約者、アスタロトに会わせてほしい。私には託された使命があるの。そのためには、魔王のシギルが必要なんだ」
ルークの眉が、わずかにひそめられる。
「……軽々しく会える存在じゃない。アスタロト様は“戦争の魔王”だ。気まぐれで命を刈り取るような御方じゃないけど……だからこそ、軽んじる者は許さない」
「わかってる」
ミツキは、すぐに答えた。
「それでも、会わなきゃいけない。私はアダムスを倒して、世界を変えるって決めたから」
その瞳は、真っ直ぐだった。
ルークはしばらく黙って彼女を見つめ、深く息を吐いた。
「君の覚悟は本物だな。わかったよ。案内する」
――“戦争”の魔王アスタロト様、どうか我を導き給え――
「……ここが、アスタロトの居城……」
エリシェヴァの声は震え、思わず身を寄せた。赤いドレスを翻したミツキもまた、緊張を隠せないでいる。
「雰囲気からして、めちゃくちゃ物騒な人っぽいね……」
その言葉に、ルークは苦笑した。だが、表情はすぐに引き締まる。
――玉座に、彼女は座していた。
石造りの広間に、冷たい風が吹き抜ける。壁には戦旗が揺れ、剣、槍、戦斧が突き刺さっていた。魔法陣に浮かぶ武器――片手剣、双剣、戦輪、弓――が青白い光を放ち、戦場の残響が空気を震わせている。中央の黒い玉座に、戦争の魔王アスタロトが君臨していた。長い黒髪に金色の角、ルークの右目と同じ紫色の目が輝き、白い軍装の軽鎧が戦女神の威厳を放つ。その存在は、まるで戦場そのものだった。
扉が軋む音を立てて開き、ルークが一歩踏み出す。隻眼の瞳は揺らがず、その後ろにエリシェヴァとミツキが続いた。
「……ルーク。よく戻ったな」
低く響く声が、広間の空気を揺らす。
ルークはひざまずき、敬意を込めて頭を垂れた。
「アスタロト様。ただいま戻りました」
その瞳が、ふと横に向く。ミツキの姿が目に留まると、アスタロトの眉がわずかに動いた。
「ほう……お前が仲間を連れてくるとは珍しいな。こいつらは何者だ? ルーク」
その声音には、驚きと僅かな警戒が混じっていた。だがミツキは怯まず、真紅のドレスの裾を揺らして一歩前に出る。
アスタロトが目を細め、ミツキを値踏みした。
「初めまして! 私はミツキと言います! 天上神と教皇アダムスを倒して、魔女だからってだけで焼かれる人が誰もいない世界にしたいの。そのために貴方のシギルが必要なんです。アスタロト様、あなたのシギルをください!」
「天上神……ですか?」
エリシェヴァが、戸惑ったように呟いた。アスタロトが、面白がるように目を細める。
「何?知らないのか。
この世界の“上”に座す、複数の神々の総称だ。 教会の坊主どもは、さぞ都合よく教えているのだろうな。 教皇アダムスが崇めるのは、その中の一柱に過ぎん」
「複数の、神々ですか。」
エリシェヴァが息を呑む。ミツキも初めて聞く話に、内心で密かに驚いていた。
「まぁ奴らがどんな存在なのか、いずれ嫌でも思い知ることになるだろうよ」
それ以上語らず、話を切り上げるように視線をミツキへと戻した。
「話を戻そう、“翁の巫女”か。戦場で命を賭ける覚悟はあるのか? この力は、軽い心で扱えるものじゃないぞ」
その声には、試すような響きがあった。ミツキは、迷わず答える。
「あります! 偽善や復讐でできた世界なんて嫌なの。翁の使命、絶対果たします!」
その瞳に、炎が宿った。
やがて、アスタロトは短く笑った。
「……いい目だ。ルーク、こいつは気に入ったよ」
片手をかざすと、空に魔法陣が展開する。青白い光が収束し、ひとつの紋章――シギルが形を成した。それはまるで、血と鉄で描かれたような、戦そのものの象徴だった。
「翁の巫女よ。これを受け取れ」
光は矢のように飛び、ミツキの胸に刻み込まれる。ベルゼブブの時のような灼けつく痛みを覚悟し、彼女は思わず息を荒げた。
脳裏に、声が響く。
《これで三つ目だ……“生命の権能”。命を操り、生命の理を司る我が力だ》
声が消えると、ミツキは胸に手を当てた。
(え? これで終わり? これまでの権能は激痛や圧迫感があったのに、今回は驚くほど静か。まるで身体に溶け込むように馴染んでいったけど……)
権能の負荷に身構えていたが、何も起こらなかった。炎が吹き上がるわけでもなく、視界が揺らぐこともない。痛みも疲労もなく、ただ……少し身体が軽くなったような気がするだけだった。
「……なんだろう、何も起きてないように見えるんだけど」
ミツキが、小声で呟く。
エリシェヴァが、不安そうに覗き込んだ。
「ミツキ、大丈夫? 体に異変は?」
「うん、大丈夫。むしろ、普通すぎて不思議なくらい」
アスタロトは玉座に身を預けたまま、ふっと鼻で笑った。
「力とは必ずしも派手に顕れるものではない。……いずれ分かるだろう」
ルークは安堵の息をつき、ミツキを支えるように立つ。
「ありがとうございます、アスタロト様」
ミツキが、改めて頭を下げた。
戦の魔王は鋭い視線を逸らさず、しかし静かに頷いた。
「良いだろう。だが忘れるな。力を持つということは、戦場に立つということだ」
その言葉に、三人は無言で頷いた。
やがて広間を去ろうとする背に、アスタロトの声が低く響く。
「しかし……“悪魔も天使も打倒する無敵の聖女”か。……いや、まさかな」
誰に聞かせるでもなく、戦の魔王は独りごちた。その声音には、確かな興味と、僅かな畏れが混じっていた。
1話に対する文字数についてです。今迄他小説サイトと同じ感じで投稿していましたが他作品を観察した所文字数が少ないかも?と感じたのでアンケートを開催しました。今後の再編や投稿の参考にしたいと思います。
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文字数が多い
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文字数がちょうど良い
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文字数が少ない