絶望少女と魔王達の神殺し 〜魔女狩りの世界に転生したので、神に抗います〜   作:なないろすらいむ

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第1話 砂漠の街カルデア・ザフラーン

砂漠の風は灼熱を孕み、遠くの蜃気楼を溶かすように揺らめいていた。カルデア・ザフラーン――砂漠の宝石と称された大商業都市は、かつて絹、香辛料、宝石を運ぶ商人の隊列で賑わい、ラクダの鈴が響き、色鮮やかな天幕が市場を彩った。

 

 その砂岩と白亜の城壁は陽炎に歪み、星型や幾何学模様の彫刻が刻まれた門は熱でひび割れ、隙間から地獄の業火のような熱波が吐き出されていた。空気は重く、焦げた鉄、焼けた布、血の鉄臭が鼻腔を刺す。かつての活気は消え、不気味な静寂と荒廃が支配していた。

 

「…息が、苦しい…」

 

エリシェヴァは額の汗を拭い、茶と緑のロングスカートを握りしめて足を止めた。金髪が汗で額に張り付き、緑の瞳に深い不安が滲む。ルークも軽鎧の下で呼吸を荒げ、青と紫のオッドアイの右目を眼帯で隠したまま、隻眼を細めた。銀髪が熱風に揺れ、剣の柄を握る手に力がこもる。

 

「こんな温度、ただの砂漠の暑さじゃない…まるで街そのものが燃える炉だ」

 

 ルークの声は低く、鋭い視線で城門を睨む。

ミツキは立ち止まり、赤いドレスの胸元に手を当て、深く息を吸った。ツバキの髪飾りが熱風に揺れ、黒髪が頬に張り付く。胸の奥で翁の力が微かに脈打つが、不穏な予感が彼女を締め付けた。熱波の向こう、街の奥に何か禍々しいものが潜んでいる――直感がそう告げていた。

 

(…この熱、この気配…これ以上二人を連れて行ったら、焼け尽きてしまうかもしれない)

 

彼女は仲間を見やり、決意を固めた。

 

 「ルーク、エリシェヴァ…少し、目を閉じて」

 

二人は不安げに顔を見合わせたが、ミツキの真剣な瞳に押され、素直に従った。ミツキの掌から淡い金色の光が広がり、ルークとエリシェヴァを柔らかく包み込む。まるで砂漠の熱を跳ね返す薄い膜のように、二人の肌を覆い、呼吸を楽にした。

 

「…これは?」

 

 エリシェヴァが驚いて目を開き、緑の瞳を瞬かせた。

 

「翁から授かった『生命の権能』。私の力を二人に分けてる。これで死ぬような熱でも、簡単には倒れないはず」

 

 ミツキは笑顔を浮かべたが、額に新たな汗が滲み、呼吸がわずかに乱れている。瞳の奥に、僅かな疲労が垣間見えた。

ルークの隻眼が大きく揺れた。

 

 「まさか…こんな力まで持ってるなんて。だが、代償は? 大丈夫なのか?」

 

ミツキは一瞬言葉を詰まらせ、苦笑いを浮かべた。

 

 「ちょっと頭が重くなるくらい…だと思う。大丈夫、これくらいでへこたれる私じゃないよ」

 

 彼女の声は明るいが、額の汗は増え、生命の権能の代償が彼女を蝕み始めていた。

エリシェヴァは拳を握りしめ、目を伏せた。

 

 「ミツキ…ありがとう。でも、無理しないで…」

 

 その声には感謝と心配が混じる。ルークは短く頷き、剣の柄を握り直した。

 

 「わかった。お前がそこまで言うなら、背負わせてもらう。だが、無茶はするな」

 

三人は視線を交わし、カルデア・ザフラーンを見上げた。

 城壁の装飾はかつての栄華を物語るが、熱で歪み、黒ずんだ焦痕に覆われている。門の隙間からは焦げた鉄と血の臭いが漂い、廃墟の静けさが不気味に響く。

 

 まるで街全体が何者かに焼き尽くされ、魂まで奪われたかのようだった。砂漠の陽光がミナレットの残骸を照らし、灰と砂が風に舞う。

 

「…行くよ」

 

 ミツキの声に、二人が頷く。三人は熱風を切り裂き、城門に足を踏み入れた。

 

――ギィィィ…

 

城門は不気味な軋みを上げ、ゆっくり開いた。熱風と共に、焦げた木材、焼けただれた絹の天幕、血の鉄臭が鼻腔を突く。エリシェヴァが顔を覆い、呻いた。

 

 「…ひどい…これが、カルデア・ザフラーン…?」

 

かつて交易都市として栄えたカルデア・ザフラーンは、絹の天幕が揺れ、モザイクの噴水が輝き、商人たちの笑い声が響く場所だった。

 スークには香辛料の匂いが漂い、星型のタイルが広場を彩り、ミナレットから夕暮れの祈りが響いた。今、目の前に広がるのは崩れた石造りのバザール、ひび割れたタイルの広場、砂と灰に埋もれた屋台の残骸だ。

 

街路には巨大な爪痕や焦土が刻まれ、折れたミナレットが砂漠の風に呻く。人の姿はなく、ただ不気味な静寂と炎の痕跡が残る――もはや虚無の廃墟と化していた。

 

「これは、魔物の仕業…だけじゃない」

 

 ルークが膝をつき、地面の焦痕を指でなぞる。黒ずんだ跡は赤黒い炎の残滓を思わせた。

 

 「この炎…まるで街そのものが灼熱の獄炎に薙ぎ払われたみたいだ。何か、でかい力が働いてる」

 

その瞬間、瓦礫の影から獣のような呻き声が響いた。

 

 

 「…グオオオオッ!」

 

 

赤黒い皮膚の巨大な魔物――牙を剥く獣型の魔物が姿を現した。背には焦げ跡が走り、眼窩は灼けるように赤く光る。まるで業火に焼かれ、なお戦う亡魂のようだ。鋭い爪が砂を抉り、熱気を帯びた息が空気を歪ませる。

 

「来るよ!」

 

 ミツキが剣を抜き、仲間に叫ぶ。魔物は凄まじい速さで突進したが、ルークが眼帯を外し、右眼の紫が光った。

 

 「危ない!」

 

 剣筋が閃き、悪魔の喉を一閃で裂く。砂漠の砂が血で濡れた。

 

「っはぁ…! さすが、早い!」

 

 ミツキは剣を構え直し、すぐに次の気配を察知。瓦礫の影から、焦げた翼のワイバーン、四つ足の獣、瘴気をまとう異形が次々と現れた。ワイバーンの鱗は熱でひび割れ、獣の咆哮は砂漠に反響する。

 

「多すぎる…!」

 

 エリシェヴァは震える声を上げたが、すぐに両手を組み、祈りを捧げる。

 

 「ベルゼブブ様、力を…!」

 

 緑の魔力が広がり、瓦礫に絡む砂漠の草木が一気に伸び、魔物の脚を絡め取った。茨のように鋭い蔓がワイバーンの翼を貫き、動きを封じる。ミツキとルークは連携し、一体ずつ切り伏せていった。

戦闘が終わると、三人は荒い息を吐き、互いを見やった。ミツキの額の汗は増え、生命の権能の代償が彼女の精神を蝕み始めていた。

 

 「…大丈夫か?」

 

 ルークの隻眼が心配そうにミツキを捉える。

 

「うん、平気。…でも、油断しないで。街の中、絶対に普通じゃないよ」

 

 ミツキは短く答え、焦げ付いたバザールの奥を見据えた。崩れたミナレットの影、砂と灰に埋もれた街路の果て。そこには“業火の魔王”が待ち受ける――炎に呑まれたカルデア・ザフラーン。その中心で、赤黒い炎と"業火"の魔王が三人を待ち構えている。

1話に対する文字数についてです。今迄他小説サイトと同じ感じで投稿していましたが他作品を観察した所文字数が少ないかも?と感じたのでアンケートを開催しました。今後の再編や投稿の参考にしたいと思います。

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