絶望少女と魔王達の神殺し 〜魔女狩りの世界に転生したので、神に抗います〜 作:なないろすらいむ
廃村の風は、乾ききっていた。
かつて人の営みがあった痕跡はすでに風化し、石畳の道は草に覆われている。屋根は崩れ、壁は骨のように残骸をさらしていた。ルークは足を止め、隻眼に冷たい光を宿すと、じっと廃村の中心を睨みつけた。
「……静かすぎるな」
「えっと……その、聖女は何処にいるのかな?」
ミツキが遠慮がちに呟く。その声に、エリシェヴァが静かに頷いた。
「そうね、張り紙の聖女セレスティアはどこに?」
ミツキはキョロキョロと村を見渡す。だが、風のざわめきのほかには、何ひとつ音がしなかった。鳥も獣も、まるでこの地を避けているかのようだ。
その刹那――地が鳴動した。
村の広場を覆うように瓦礫が崩れ、黒い光を帯びてせり上がる。人の数倍はある巨躯。身体は黒々とした岩や土、粘土で構成され、全身に禍々しい赤や紫、黄色の魔法陣が浮かび上がっていた。
――巨大なゴーレム。
胸部には赤黒い大きな魔法陣が刻まれ、脈動するたびに禍々しい光を放っている。背後で、かすかに複数の人の気配がした。
「聖女の目撃情報は、やはり罠だったか」
ルークは低く呟き、剣を抜いた。銀の刃が冷たい光を返し、黒いオーラが彼女の周囲を覆う。
巨腕が唸りを上げて振り下ろされた。石畳が砕け、粉塵が宙を舞う。ルークは疾駆し、一閃でゴーレムの足の魔法陣を斬り裂いた。だが、砕けた断面はすぐに瓦礫が吸い寄せられるように繋がり、まるで何事もなかったかのように元の形を取り戻す。
「再生……だと……!?」
通常、ゴーレムに自己再生能力などない。急所である体表の魔法陣を破壊すれば、忽ち全身が崩れるはずだ。だが、この巨大ゴーレムはそうはいかないらしい。相当魔術に長けた者たちによって造られたのだろう。
ルークの隻眼が細まる。すぐさま次の斬撃を放つが、結果は同じだった。倒しても倒しても、奴は蘇る。
『グオオオオオオオ……!!』
ゴーレムが雄叫びを上げた。その途端、胸部の魔法陣が輝き脈動する。赤黒い光が迸り、無数の礫が弾丸のように放たれた。
「ルーク、危ない!」
ミツキが叫ぶ。咄嗟に剣を構え、赤い光を奔らせた。翁の権能が波紋のように広がり、飛来する礫を弾き飛ばす。その間にルークは跳躍し、ゴーレムの肩に剣を突き立てた。だが、黒い魔力が逆流し、彼女の身体を弾き飛ばす。ルークは吹き飛び、廃墟の石壁に強く叩きつけられた。
土煙の中でよろめく彼女のもとへ、エリシェヴァが駆け寄る。
「ルーク、しっかり! 今、治療するから!」
掌から溢れる青い光が、傷を癒やしていく。
「……大丈夫だ、心配など……」
ルークの唇が、かすかに震えていた。
「もう! 一人で突っ走らないで! 私たちもいるんだから!」
ミツキが声を張る。赤いドレスが翻り、剣が炎のように輝いた。
「エリシェヴァ、ルークに治癒魔法をお願い。その間、ゴーレムは私が引きつけるから!」
「分かったわ」
ゴーレムが再び拳を振り下ろす。大地が裂け、廃屋が粉砕された。ミツキは時間停止の権能を駆使して攻撃を躱し、剣戟を叩き込む。だが、何度攻撃しても魔法陣が輝き、瓦礫が寄り集まり、一瞬で傷が塞がれてしまう。
「ううっ、これじゃきりがない!」
ミツキはできるだけ遠くにゴーレムを誘き寄せ、時間を停止させると、エリシェヴァとルークの元に駆け戻った。
「はぁ……はぁ……エリシェヴァ、ルークの状態は?」
「ありがとうミツキ、さっき治癒が終わったところよ。ゴーレムの方はどう?」
「……駄目みたい。何度攻撃してもすぐ再生して元通りになっちゃう。このまま時間を止めっぱなしにするわけにもいかないし」
翁に与えられた権能は強力だが、万能ではない。人間が一度に権能を使いすぎれば精神の摩耗が進み、最後には発狂してしまう。
「そんな……一体どうすれば……」
エリシェヴァが頭を抱えた。しばらく考え込んでいたルークが、重い口を開く。
「……恐らくあれはカドーシュ・ゴーレムだろう。普通のゴーレムじゃない」
「カドーシュ・ゴーレム?」
ミツキとエリシェヴァが同時に首を傾げる。
「聖レクス市の大図書館の古い本で見たことがある。かの魔界戦争で教皇アダムスと白き勇者が、対悪魔兵器として開発したものの一つだ。通常のゴーレムとは違い、動力源が体表の魔法陣ではなく、体内に埋め込まれた輝石なんだ」
「えぇ……どうしてそんなものが廃村なんかに?」
エリシェヴァが困惑する。教会が仕掛けた罠なのだろうか。
「何度攻撃しても元通りに再生するのは、そのせいだ」
ルークが続けた。
「僕の見立てが正しければ、あのゴーレムの体内には輝石が埋め込まれている。それさえ破壊できれば、完全に倒すことができるはずだ」
「つまり、何度も攻撃してゴーレムを崩し、完全に再生する前に輝石を探して壊さないといけないってことよね。そんなことをしていたら治癒魔法が追いつかない。皆、途中で力尽きてしまうわ」
エリシェヴァが頭を抱える。
ミツキは胸のシギルに、そっと手を当てた。
――《これで二つ目だ。“破壊の権能”我が力の片鱗。教皇アダムスを討ち、天上界の道を切り開くために使いなさい》
聖レクス市で、ベルゼブブから告げられた言葉が耳の奥に蘇る。あれから一度も、使ったことのない力だった。人を消し飛ばすほどの力を、自分が制御できるのか――その恐れが、ずっと胸の底に沈んでいた。
だが、今は迷っている場合ではない。
「エリシェヴァ、ルーク……私に考えがあるの。協力してくれる?」
――
ミツキが時間停止の権能を解くと、ゴーレムが再び動き出した。数十メートル離れたミツキたちを見つけると、雄叫びを上げながら猛烈な勢いで突進してくる。
「来た! こっちへ向かってくる!」
エリシェヴァが叫ぶ。
「大丈夫! ギリギリまで誘き寄せて!」
ミツキが叫び返した。
ゴーレムがあと数メートルまで迫った、その瞬間。
ミツキの身体が、燃える星のように金色に輝きだす。地面には複雑な紋章と見慣れない文字による魔法陣が浮かび上がり、三人を包み込んだ。
心臓が、耳の奥で鳴っている。
――もし制御を誤れば、この光は敵だけでなく、隣にいるエリシェヴァやルークをも巻き込む。頭の片隅でその恐怖が過ぎったが、ミツキはそれを振り切るように奥歯を噛みしめ、勢いよく剣を振りかざした。
轟音とともに、ゴーレムの身体が内側から弾け飛ぶ。石と土の塊が、四方八方へ吹き飛んでいった。
「よし! 今のうちだよルーク!」
「ああ!」
爆散してもなお再生しようとするゴーレムを阻止すべく、ミツキは間髪入れずに時間停止の権能を発動させる。粉々になった岩石の間に、ほんの僅かに緑の光を放つ宝石のような石が、ルークの目に映った。
「そこだっ!」
ルークが跳躍し、黒いオーラを纏った剣で輝石を叩き切る。
「う、うっ……もう無理……かも」
ミツキが権能を解除する。時間が進み出したことで、ゴーレムは身体の再生を始めるが、動力源である輝石が破壊されたことで上手く形を成せない。歪な形になったゴーレムは、悲鳴のような振動を上げ、静かに崩れ落ちていった。
「や、やった。やったぁ! ゴーレムを倒した!」
ミツキは歓声を上げると、ヘナヘナと地べたに座り込んだ。
「ミツキ! 大丈夫!?」
エリシェヴァが駆け寄る。
「へへへ……。ちょっと、疲れただけ」
ミツキが力なく答えた。無理もない。先程の戦闘で時間停止の権能を連発したうえ、破壊の権能と同時発動という荒業をやってのけたのだ。彼女の精神への負担は、相当なものだろう。
エリシェヴァがミツキの治療に当たる中、ルークは誰もいないはずの廃墟の一点を、じっと見つめていた。
「どうしたの、ルーク?」
エリシェヴァの問いには答えず、ルークは廃墟に向かって声を張った。
「そこにいるのは分かっている。ずっと見ていたのだろう? 覗き見など卑怯な真似はやめて、出てきたらどうだ」
村の廃墟から、次々と少女たちが姿を現す。まるでミツキたちを取り囲むかのように。彼女たちは皆、黒いフリルに紫色のスカート、黒いローブを羽織っていた。
「先程のカドーシュ・ゴーレムとの戦い。とても見事だったわ。流石ネファスの魔女ね」
青髪の少女が、手を叩きながら前に出る。
「騙すような真似をして、本当にごめんなさい。私たちには貴方の力が必要不可欠なの」
――罠は、まだ終わっていないようだった。
1話に対する文字数についてです。今迄他小説サイトと同じ感じで投稿していましたが他作品を観察した所文字数が少ないかも?と感じたのでアンケートを開催しました。今後の再編や投稿の参考にしたいと思います。
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文字数が多い
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文字数がちょうど良い
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文字数が少ない