絶望少女と魔王達の神殺し 〜魔女狩りの世界に転生したので、神に抗います〜   作:なないろすらいむ

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エピローグ 並行宇宙での戦い〜それぞれの思惑〜

純白の光が視界を焼き尽くし、ミツキたちの気配が完全に現実の物理次元へと送り出されたその刹那――。

 残された夢の狭間、崩壊する玉座の間はガラスのように粉々に砕け散り、彼らの意識はサントーンカーシャヘル上空の並行宇宙へと完全に引き戻された。

 

 むせ返るような灰の匂いと、大気を引き裂く轟音が鼓膜を激しく震わせる。

 赤黒い雷雲が渦巻く混沌の空。そこへ意識を戻した魔王ラーヴァナの傍らには、漆黒の夜を紡いだような魔力を身に纏う一人の女性――アマラが、凛とした佇まいで完全なる顕現を果たしていた。魔王の血肉をその存在の楔とする契約魔女は、危険を顧みず、ただ我が主と共に死線を潜るべく、別個体としてこの神霊戦の最前線にその身を置いていた。

 

「冷てェ現世にお帰りなさいってか。おい、トッサカン! 生きてやがるか!」

 

 ラーヴァナが三日月の刃を翻しながら、遥か前方で光の奔流を浴びていた緑の影へと怒号を飛ばす。

 

「あぁっ、ラーヴァナ様! お帰りなさい! もう少し遅かったら、僕の可愛い空間ごと消し炭にされるところでしたよ!」

 

 緑と金の衣装を翻し、数万の天使軍の猛攻を“空間いじり”で紙一重で逸らし続けていた少年――トッサカンが、額に汗を滲ませながらも無邪気な笑みを浮かべて叫び返す。白銀の鎧を纏った天使たちの軍勢は、空間の裂け目から次々と溢れ出し、圧倒的な数の暴力でこの並行宇宙を埋め尽くそうとしていた。

 だが、その絶望的な数の差を、広場の最後尾に佇む『古の神』の存在が完全に無意味なものへと塗り替える。

 

「……羽虫どもめ。我らの旅路を阻むこと、この私が許すとでも思ったか」

 

 翁が静かに黒い衣の袖を翻し、その黄金の瞳をかつてないほど鋭く、深く光らせた。

 瞬間、彼の背後から立ち上った漆黒の神気が、全方位の空間へと津波のように炸裂する。それは破壊の衝動ではなく、かつて神代の時代に天上神の八割を屠った絶対的な『理』の出力。翁はその底知れぬ神気の質量を惜しみなく解放し、この場に集うラーヴァナ、トッサカン、そしてアマラの三人に直接叩き込んだ。

 ゴォォォォォォッ!!!

 大気が激しく震動し、三人の肉体から吹き出す魔力の波動が、天を突くほどの巨塔となって爆発した。古の神による、規格外の超絶的な強化。

 

「なっ……ハハハッ! 聞いてねェぞジジイ、何だこの頭の狂った出力は! 体が軽すぎて笑えねェぜ!」

 

 ラーヴァナの愛刀から溢れ出す赤黒い雷光が、それまでの数十倍もの密度へと跳ね上がる。

 強化の恩恵を一身に受けたトッサカンが、にっこりと残酷なまでに美しい笑顔を浮かべ、両手を大きく広げた。

 

「これなら……いくらでも『いじり放題』だね! はい、消えちゃえ!」

 

 トッサカンが指先を弾いた瞬間、天使軍の頭上の空間が万華鏡のように幾重にも折り畳まれ、巨大な次元の断頭台と化して数千の軍勢を一瞬で圧殺、虚空へと消滅させた。

 さらに、魔王の魔力と神の祝福に呼応したアマラが、その銀髪を激しくなびかせながら術式を展開する。彼女が紡ぐ影の呪縛は、天上界の白銀の光線をことごとく喰らい尽くし、逆に光の鎧を纏う天使たちを内側から泥のように腐食させていく。

 

 戦況は、たった一人の神の介入によって完全に好転していた。圧倒的な無双の力。迫り来る天使の波が、ラーヴァナの一振り、アマラの影、トッサカンの空間魔法によって、塵芥のように粉砕されていく。

 その神霊たちの戦いが最高潮に達し、白銀の軍勢が完全に押し戻され始めた、その時だった。

 

 バリィィィィィィンッ!!!

 

 白銀の光線が交錯する赤黒き天空、その頂点がガラスのように鋭く鳴り響いて叩き割られた。

 顕現したのは、暴虐なまでの紫の魔力。空間の裂け目から白いマントを堂々と翻し、戦の魔王アスタロトが姿を現す。彼女は手にした巨万の戦火を、間髪入れずに天上界の第二波へと叩きつけ、聖なる軍勢の陣形を跡形もなく消し飛ばした。

 

「ふむ…。随分と派手な同窓会を開いているではないか、ラーヴァナ。私を誘わぬとは水臭いぞ」

 

 紫の瞳を不敵に光らせ、アスタロトが戦場を見下ろして言い放つ。

 まさかの大物の乱入に、それまで悠然と刃を振るっていたラーヴァナが、その三白眼を驚愕に大きく見開いた。

 

「……!? アスタロトだと!? テメェ、何故ここが分かった……! あの引きこもり(ルシファー)以外には、一切漏らしてねェはずだぞ!」

 

「フン、我が軍王の隠蔽工作も、お前の倅の抜かりなさも、私の目を欺くには足りんということだ。お前の息子のメーガナーダを問い詰めれば、資料庫(アーカイブ)の記録などいくらでも引き出せる」

 

「なっ………!」

 

 ラーヴァナの言葉を遮る様にアスタロトは着地の衝撃で白いマントを大きく波打たせ、彼の隣へと降り立った。彼女は周囲を埋め尽くす天使の軍勢を一瞥し、さらに言葉を続ける。

 

「ルシファーの密命も、お前のくだらんプライドも知ったことか。だが、ラーヴァナ……お前、私の可愛い契約者(ルーク)を、この泥沼の戦いへ巻き込んでくれたな?」

 

 その声音が、一瞬にして冷徹なまでの威圧を帯びる。

 

「ルークはあのセレスティアという娘の、唯一無二の親友だ。あの子が己の意志で友のために剣を取るというのなら、私は止めん。……だが、もしお前の仕組んだ因縁のせいで、ルークの身に万が一の事態が起きてみろ。天上の羽虫どもを駆逐した後、次はお前をその三日月刀ごと叩き潰してやる。よくその胸に刻んでおけ」

 

 戦の魔王としての確かな脅迫と、愛すべき契約者を想う気高き矜持。

 釘を刺されたラーヴァナは、チッと忌々しげに舌を鳴らし、三日月刀を肩に担ぎ直した。

 

「ケッ……相変わらず子煩悩な過保護っぷりだぜ。あのガキが傷つかねェように、俺様なりに裏から回線をひっぱたいて安全圏へ逃がしてやったんだろうが。文句はあのクソ親父(ヴィクラム)に言いな」

 

「……ならばその言い分、信じておこう。……さて、天上の有象無象どもに、これ以上我が物顔でこの空を飛ばせるな。ラーヴァナ、このまま一気に、ケリをつけるぞ!」

 

「ハッ、言われなくてもそのつもりだぜ!」

 

 古の神、二人の魔王、そして最強の魔女と使い魔。

 並行宇宙の上空に、並び立つはずのない規格外の超越者たちが背中を合わせる、絶対的な布陣が完成したのだった。

 

 ――――――――

 

 

  サントーンカーシャヘルの中心部にそびえ立つ、白銀の宮殿。

 かつての高度な文明の残骸を覆い隠すようにして建てられたその清浄なる玉座の間で、聖太守マヌは退屈そうに頬杖をついていた。

 

「聖太守様、緊急の報告がございます」

 

 大理石の床に平伏した神官が、焦燥を滲ませた声で沈黙を破った。

 

「サントーンカーシャヘルの外縁を囲む結界の各所で、複数の警戒陣地からの通信が途絶いたしました。……それだけではございません。国境付近のあちこちで、あの忌まわしい過激派魔女集団『サンクタエヴァ』の進軍の形跡が確認されているのです。奴らの術式による爆破の痕跡や不穏な魔力の残滓が、我が聖域を脅かしつつあります」

 

「へぇ、サンクタエヴァ(聖女イブ)ねぇ……」

 

 マヌは陶器のように白い指先で、美しく整った自身の髪を弄びながら、薄い唇を歪めた。

 

 (イブ…イブかぁ……)

 

 神官たちの慌てようとは対照的に、その瞳の奥にあるのは冷徹な退屈さだけだった。

 

「あの泥にまみれた魔女どもが、今さら何の目的で我らの都へ進軍してきているのか。……早急に迎撃の軍を整えねば、教皇アダムス様の耳にも届きかねません」

 

 神官が恐る恐るその名を口にした瞬間、マヌの脳裏に、同じ「超人」である教皇の酷薄な顔が思い浮かんだ。

 

(まったく、あの教皇様は本当にそこら辺にうるさいからねぇ。表面上は魔女のみを処罰する完璧な聖域にしておいてくれないと、ボクがまたお説教されるのは本当に御免なんだよ)

 

 アダムスは、超人にしては魔女以外の女性を処刑することを酷く嫌う、ひどく偏屈な男だった。

 マヌの記憶の底から、以前、同じ超人である彼と同行した現世での忌々しい一幕が蘇る。

  あの日、アダムスが「魔女ではない」という理由だけで、一人の人間の女性を処刑対象から外し、無関心に見逃した直後のことだった。

 マヌは理解できないとばかりに肩をすくめ、彼に向かって軽口を叩いたのだ。

 

『……本当に、君の基準は分からないな。なぜあんなものを生かしておくんだい?』

 

『あれは魔女ではない。ただの人間だ。法に照らし、処刑する理由がない』

 

 淡々と返すアダムスに、マヌは嘲笑を隠そうともしなかった。

 

『ただの人間? 冗談だろう。ボクたちみたいな汚れなき超人から見れば、人間の女なんて全員同じじゃないか』

 

 マヌは鼻で笑い、教皇の冷たい横顔を覗き込むようにして言葉を続けた。

 

『だってそうだろう? かつてルシファーの甘言に乗せられ、原初の魔女に成り下がったあの愚かなイブ。人間の女なんて、どいつもこいつもあの裏切り者を始祖に持つ末裔だ。魔女だろうが人間だろうが、存在そのものが穢れてるんだから、早めに掃除したって同じことだろうに』

 

 その瞬間、アダムスの纏う空気が完全に凍りついた。

 直後、網膜が捉えるよりも速い速度で放たれたロンギヌスによる神速の一撃が、マヌの喉元を寸前で捉えていた。ただの脅しではない、明確な殺意だった。アダムスは凍てつくような激怒を湛えた瞳でマヌを睨み据え、その首を容易くへし折ろうとしたのだ。

 あの時は、同行していた天上の天使たちが慌てて割って入り、力尽くでアダムスを制止しなければ、いくらマヌとて間違いなくその場で殺されていただろう。

 

(あの時の顔と言ったら、本当に不気味で怖かったなぁ。神の最高傑作のくせに、一体何にそこまで拘っているんだか……)

 

 不快な過去の残像を頭を振って追い出すと、マヌは再び跪く神官たちへと視線を戻した。

 

「まぁいいさ。あのアヤメとかいう女狐が率いるサンクタエヴァが、わざわざボクの庭まで出向いてきてくれたんだ。地下のネズミどもといい、ボクの退屈を紛らわそうとする羽虫が多すぎて、本当に飽きないねぇ」

 

 マヌは芝居がかった仕草で両手を広げると、酷薄な笑みを浮かべたのであった。

 

1話に対する文字数についてです。今迄他小説サイトと同じ感じで投稿していましたが他作品を観察した所文字数が少ないかも?と感じたのでアンケートを開催しました。今後の再編や投稿の参考にしたいと思います。

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