【東方×BLEACH】幻想郷死神戦記 作:Tekunos02
今回は 東方Project × BLEACH のクロス作品に挑戦してみました。
オリ主が幻想郷に迷い込み、斬魄刀を手に戦うお話になります。
原作キャラに独自解釈や設定改変がありますので、その点はご注意ください。
どうぞお付き合いいただければ嬉しいです。
第一話「紫に連れ去られた夜」
夜の住宅街は眠りについていた。
家々の窓は暗く、街灯の光だけが無機質に道路を照らす。その静寂を切り裂くのは、少年の荒い呼吸と、アスファルトを叩く靴音だけだった。
「はぁっ……はぁっ……はぁ……っ!」
肺は焼けるように熱い。冷たい夜気を吸い込むたび、喉がひゅうひゅうと鳴り、鋭い刃物で内側から裂かれるような痛みが走る。
胸は膨らむたびに軋み、心臓は暴れる太鼓のように耳元で鳴り響いていた。
酸素が足りない。頭がじんじんと痺れ、視界の端が黒く滲む。
額から汗が滴り落ち、目に入り、焦点が合わない。全身を流れる汗は衣服に張り付き、熱いのか寒いのかもわからなくなっていた。胃の奥がむかつき、吐き気が込み上げる。
背後から地面を抉るような衝撃音が連続して迫る。
振り返らなくてもわかる。仮面をかぶった怪物――虚が、牙を剥き出しにして追いすがってきていた。
「……ッ!」
少年は角を曲がり、狭い路地へと飛び込む。
だが脚はもはや言うことをきかない。ふくらはぎが痙攣し、膝は笑い、足首がついに折れるように痛んだ。地面を蹴るたびに脛に電流のような痛みが走る。
呼吸はもはや呼吸にならない。喉の奥から漏れるのは掠れた喘ぎと嗚咽。吸い込む空気は肺に届かず、ただ胸を締め付ける。
「ぐっ……はぁ……はっ……!」
足がもつれ、体が前につんのめる。とっさに手を伸ばすが、肩から電柱に激突した。衝撃で腕が痺れ、口の中に鉄の味が広がる。
立ち止まれば終わる。わかっているのに、脚はもう前に出せなかった。
虚の咆哮が背後で轟く。次の瞬間、壁が砕け、ブロック片が飛び散った。頬をかすめた破片が赤い線を刻み、熱と痛みが広がる。
目の前の景色が揺れる。視界の端が暗く染まり、世界が遠ざかっていくようだった。
汗に濡れた手が滑り、地面に膝をつく。呼吸は荒れ狂い、吐き気が込み上げ、喉から声にならない音が漏れた。
それでも、止まれば喰われる。
背後から響く咆哮が、住宅街の夜を震わせた。
少年は足をもつらせながらも必死に走る。だが肺は焼け、膝は笑い、視界は霞んでいく。
角を曲がった先――道は行き止まりだった。
冷たいコンクリートの壁が立ちはだかり、退路を奪う。
「……っ!」
反射的に後ずさる。けれど、背中はすぐに壁に押しつけられた。もう一歩も逃げられない。
震える足が支えを失い、膝が砕けるように地面へ落ちる。
虚の影が頭上に覆いかぶさる。
振り上げられた爪が、空気を裂きながら降り注ぐ。
声を上げようとしても、喉は恐怖で固まり、音にならなかった。
彼はただ、硬直したまま死の影を見上げるしかなかった。
その瞬間――世界がひび割れた。
夜の闇に走った裂け目は、音もなく爪を呑み込み、虚の咆哮をかき消す。粉塵が舞い落ちる中、異様な静寂が訪れた。
少年は瞬きをした。
そこに、ひとりの女が立っていた。
紫の瞳を持ち、妖艶な微笑みを浮かべるその姿。
肩に羽織られた白い羽織の背には、黒々と大きな「一」の文字が刻まれていた。
意味はわからない。ただ、それを目にした瞬間、胸の奥にずしりと重い圧力がのしかかる。息を吸うことさえためらわせる、理不尽なまでの威圧感だった。
街灯に照らされたその姿は、美しいはずなのに、救いとは程遠い恐怖を呼び覚ました。
女は静かに歩み寄り、震え立ち尽くす少年の目の前で膝を折った。距離は近い。吐息が頬をかすめ、汗に濡れた髪をそっと指先で梳く。
「……もう大丈夫よ。怖い思いは、もうしなくていいの」
その声音は母のように優しく、柔らかく響いた。
慰めに似た響きは心地よいはずなのに、少年の心臓はなおも早鐘を打ち、全身に恐怖が染み渡っていく。
「あなたは本当に強い子ね。ここまで逃げて、生き延びて……立派だわ。でも、独りで頑張ってきたのでしょう? 誰にも言えずに、怯えながら」
細い指先が頬を撫でる。驚くほど冷たいのに、触れ方は慈愛そのものだった。
声を出そうとしたが、喉は固く塞がれ、掠れた呼吸しか漏れない。
「大丈夫。もう我慢しなくていいのよ。泣きたいときは泣きなさい。怒りたいときは怒っていい。弱音も全部、私が受け止めてあげるわ」
甘やかな声が胸に絡みつく。優しさの形を取りながら、奇妙な圧迫感を孕んでいた。
少年は逃げ場を失ったように壁際で震えるしかなかった。
女はさらに顔を近づけ、耳元で囁く。吐息が首筋を撫で、背筋に冷たい戦慄が走る。
「だって私は……ずっとあなたを見ていたもの。泣き顔も、苦しむ顔も、眠れずに震えていた夜も……全部知っているの」
少年の瞳が大きく揺れる。
助けられたはずなのに、安堵ではなく恐怖が胸を支配した。なぜ、この女はそんなことを知っているのか。
「誰も気づいてくれなかったあなたを、私は知っている。孤独も、恐怖も、全部……。だから安心して。これからは私が側にいてあげる」
女の笑みが深まる。唇の端が冷たく吊り上がり、彼女の瞳には底知れぬ闇が宿っていた。
「もう独りにさせない。もう逃がさない。……あなたは最初から、私のものなのよ」
声色は甘いまま、言葉だけが狂気を孕んでいた。
慰めに似た響きは、逃げ場を閉ざす鎖となり、少年の心を容赦なく締め付ける。
声を出そうと唇を震わせても、喉は閉ざされ、掠れた息しか漏れなかった。
彼はただ――紫の囁きを受け入れるしかなかった。
声を出そうと唇を震わせても、喉は閉ざされ、掠れた息しか漏れなかった。
彼はただ――紫の囁きを受け入れるしかなかった。
紫は優雅に立ち上がると、まるで恋人を労わるように少年を抱きかかえた。細いはずの腕なのに、不思議と逃げられない力がそこにはあった。
「安心して……もう独りにはしないわ。これからは、ずっと一緒よ」
囁きは甘く優しい。けれど、同時に背筋を凍らせるほど重たかった。
抗おうと身をよじるが、指先は空を掻くだけ。腕も脚も鉛のように重く、力が入らない。
気づけば足元に、黒い裂け目が開いていた。
紫の髪が闇に溶けるように揺れ、蝶が一匹、また一匹と隙間から飛び出しては宙に消える。
「怖がらなくてもいいの。……あなたはもう、私のものだから」
女は優しく抱きしめたまま、一歩、また一歩と闇の中へ進む。
少年の視界は黒に侵され、世界の輪郭が歪んでいった。
「これからは私が導いてあげる。もう、どこへも行かせない」
最後に耳元で囁かれたその言葉は、救いにも似ていたが、呪いのように冷たかった。
伸ばした手は宙を掻くだけ。
息は荒く、心臓は喉から飛び出しそうに暴れる。
それでも抵抗はできなかった。
紫の微笑みが、最後に鮮明に焼き付いた。
そして彼は――ただ呑み込まれるしかなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
第1話は「紫に連れ去られる夜」ということで、導入回でした。
次回から博麗神社で霊夢たちと出会い、物語が本格的に動き出します。
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