どことなく不安げな様子の第六駆。そんな彼女たちが執務室にやって来た。司令官が何事かと尋ねると彼女らは言う。

「鎮守府にオバケがいる」

何を馬鹿な…。しかし話を聞き続けていると…?

※翔鶴の出番少なめ。

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第1話

いつもと変わらぬ朝。チクタクと時を刻む音が耳に心地よい。今日も執務室ではゆっくりと時間が進む。

 

ちらりと横を見る。サラサラ。黙々とペンを走らせるのは秘書艦翔鶴。自身の仕事に没頭しているのか俺の視線には気がつかない。

 

はぁ、美しい。凛々しい横顔、透き通るような白い髪。いつまでも見飽きることはない。

 

 

不意に彼女と目が合う。

 

どうかしましたか、そう言って席を立とうとする翔鶴を手で制する。

 

「見惚れていただけだよ」

 

雪のように白い肌が少しだけ赤く染まる。そして少し間があってから、からかわないでください、とそれだけ言い残してそっぽを向いてしまった。

 

それでも諦めずにジーッと見ていると。

 

「…///」

 

また彼女と目を合わせることが出来た。彼女なりに仕返しのつもりだろうか、今度はなかなか目をそらそうとしない。

 

意地と意地のぶつかり合い。無言の戦い。お互いに見つめ合ってどれくらい時間が過ぎたか。

 

「ッ~~~~~~~///」

 

蚊の鳴くような声が聞こえた。もういいです、知りません。翔鶴は顔を伏せた。俺のことなど気にしないと言わんばかりに書類仕事を再開。先ほどよりどことなくぎこちないのがまたかわいい。

 

このままずっと翔鶴のことを眺めていようか、そうだ、そうしよう。俺は自分の仕事を放り出す覚悟を決め、改めて彼女の方へと向き直す。

 

そんな時だ、室内にノック音が響いたのは。そして俺の返答を待たずして彼女たちは執務室へとなだれ込んできた。

 

ーーー

 

ーー

 

 

「本当なのよ!鎮守府にはオバケがいるんだから!」

 

「怖い!怖いのですぅ!!」

 

「司令官、なんとかしてよ!!」

 

Oh…。先ほどまでの静けさが嘘みたい。俺と翔鶴の静かな時間は第六駆逐隊の登場により消し飛んだ。

 

しかも慌てているというか怯えているというか。並々ならぬ様子に何事かと聞いてみれば…おばけぇ?んな馬鹿な笑

 

「「「ほんとなんだってばー!!」」」

 

第六駆逐隊、特に響以外の三人はかなりビビっているのかワーワーと騒ぎ立てる。喚くんじゃあないよ…。おじさん、もう耳が痛くなってきた。

 

ちらり。助けを求めるように翔鶴を見るが。

 

「しっかりとこの娘たちの話を聞いてあげてくださいね、提督?」

 

さっき出来なかった仕返しとばかりに突き放される。

 

しかしオバケねぇ…。信じられん。今までそんなこと他の艦娘から聞いたこともないしなぁ。比較的新設されたこの鎮守府がいわくつきってわけでもないだろうし。

 

あのさぁ、お前らの勘違いなんじゃねーの?

 

「ちゃーんと聞いてあげてくださいね、て・い・と・く?」

 

翔鶴は優しいからね、放っておけないんだね(諦観)。彼女の背後から立ち昇るゴゴゴという迫力には気がつかないフリをした。

 

しかしなぁ…。

 

「どうにかしてぇ!!」

 

「怖いのですぅ!!」

 

「このままじゃ夜中トイレにいけないじゃない!」

 

これじゃあ要領を得ない。なので何とか宥めて、落ち着いてお話出来るようにと話を持っていく。そして多少は落ち着いたかという頃合いで再び尋ねるが、やはりオバケがいることは譲れないらしい。

 

「…司令官にいつ、どこで、何があったかをしっかり話せばいいんじゃないかな?」

 

そうすれば司令官なら信じてくれると思うよ、と今まで沈黙を貫いていた響が唐突に口を開く。そして彼女に促されるように姉妹たちはぽつりぽつりと話始めた。

 

「昨日のことなのです。夜中にトイレに行こうと廊下を歩いていたらオバケさんの声を聞いたのですぅ!それで怖くなってお部屋に戻って…!寝ていた雷ちゃんに飛びついたのですぅ!!」

 

「電に起こされたと思ったらオバケの声がするなんて言うじゃない…!バカね、そんなはずないでしょって。でも電は泣いてるしトイレにも行きたかったって言うから仕方なく私がついていったの!そしたら…!そしたら本当に!本当にオバケの声がしたの!その場で二人抱き合ったわ、それですぐに部屋に戻って暁を起こしたの!」

 

「…雷と電が私を叩き起こして言うの、オバケが出たって。こんな時ばかり長女扱いしないでほしいって思った。だけど二人が泣くからお姉ちゃんとしてしっかりしないと…。勇気を振り絞ったわ!それでどこで聞いたのって!そしたらトイレに通じる廊下…。そう!司令官の寝室の近くの!それで三人固まってそこへと向かったの。そしたらオバケ、ううん、あれは普通のオバケじゃないわ!獣のような唸り声、身の毛もよだつようなケダモノの叫びが廊下に響き渡っていたの!この鎮守府にはいるんだわ、動物霊ってやつよ!!!」

 

三人は捲し立てる。なるほどねぇ、オバケがいるとそれだけ連呼されていた時よりは幾らか状況が読めた。

 

しかし昨日のこと?しかも俺の寝室の近く…?しかも聞くところによると廊下に響き渡る獣の咆哮?そんなオバケいるかぁ?

 

昨晩一緒にいた翔鶴に目を遣る。彼女も頭に?を浮かべていた。

 

ん?

 

あれ、いやちょっと待て…。

 

あっ…(察し)

 

「昨晩のこと、司令官は気が付かなかったのかい?」

 

ここぞとばかりに。姉妹の後方に控えていた響が前へと躍り出る。

 

「廊下に響き渡るほどの大きな獣の声、、しかも司令官の寝室の近くならあるいは聞こえていたんじゃないかい?」

 

もしかして響は気が付いているのか、オバケの正体に。

 

「そういえば瑞鶴さんが嘆いてたなぁ、最近ケッコンしたばかりの翔鶴姉が朝帰りばっかして困るって」

 

あ、ばれてますねこれは…。心配になって翔鶴を見るが未だに?な様子。

 

まるで探偵かのように執務室を歩き回る響に皆が注目している。

 

「翔鶴さんは夜な夜などこに行ってるんだろうね?」

 

どうしてオバケの話から翔鶴さんの話になるのよ、なんて野次が姉妹から飛ぶが響はお構い無し。むしろ、司令官に聞いてごらん、なんて俺を見る。

 

「いやー、俺はなんにも…」

 

翔鶴の名誉の為だ。ここは濁して…

 

「提督、聞かれたことにはしっかりと答えなければいけませんよ?」

 

思わぬところからの攻撃。翔鶴、お前状況分かってんのか!?

 

ギロリと睨みつけるが彼女はどこ吹く風。むしろ未だにさっきまでのことを根に持っているのか。

 

あ、いいよー(ブキギレ)。別に俺は知らんからね。オバケと自分が全く無関係だと思ってる翔鶴さんよぉ!!

 

「ああ、翔鶴は俺と一緒にいたんだ。ケッコンしてるしなぁ?」

 

そうよね、二人は仲良しさんだものね、第六駆逐隊の反応はそんなもんだ。翔鶴も平然としている。なるほどこれを見越してたから余裕綽々だったわけね。コイツらなら知らんだろうと、そう高を括ったわけね?

 

「でもそんな遅くまで二人で何してたの?」

 

知らないからこその当然の疑問。もしかしてそんな遅くまでお仕事?そんなのダメじゃない、体を壊すわ、なんて第六駆の三人は言うが、響がそれを遮るように。

 

「ああ、二人は一緒に寝てるのさ」

 

なんて発言があったと思ったら、今度は翔鶴が吹き出した音がした。

 

「別に仲良しなんだから問題ない、そうだよね司令官?」

 

「ああ、ケッコンしてるからな。一緒に寝たって問題はない」

 

確かにー、と声が続々とあがる。

響に目配せ、二人で翔鶴を見ると真っ赤な顔で固まった翔鶴が。

 

あ、そ、そうよね、私としたことが…と言うが声が震えている。

 

「あれれ、おかしいなぁ~。どうしてオバケの話をしていたのに俺と翔鶴の話になるんだぁ?」

 

わざとらしく響に聞く。翔鶴が思いっきり睨んできてるが知らん笑。

そうよ、確かにーと姉妹からも囃し立てられた響は静かになるのを待ってからゆっくりと話して聞かせた。

 

「…状況的に考えれば、その時間帯に現場近くにいた司令官と翔鶴さんはオバケと何かしらの関係がある、と考えてもおかしくないわけだけど証拠があるわけじゃない。二人とオバケを直接的に結びつける証拠があるわけじゃないからね。だからここからは私の仮説を聞いてほしい」

 

「まずその前に幾つか…みんなには知っておいてもらうべき前知識がある。一つ、好きな人と寝るという行為はとても気持ちがいいことなんだ。私は暁や雷、電と一緒に眠ると安心するし、皆もそうだろう?たまに私の寝床に誰かが入ってきて抱きつかれるけど、相手の体温を感じるからかとても安心するんだ。一人じゃないって感じるのかな。ハグにはリラックスの効果があると聞いたこともあるけど、隣に誰かがいる、しかもそれが自分が無防備になるタイミング…寝るという時に一緒になれるくらいの間柄ならとにかく悪い気はしないはずだ。それに愛に差はないと思うけど、それが家族愛や姉妹愛、友情ではなくて、男女のものならば尚更だろうね、より深く濃いものになる。きっとすごく気持ちがいいんだろうね。尤もまだ恋をしたことのない私たちには実感もないんだろうけど」

 

「そしてもう一つ、私たちは気持ちがよすぎるとつい声が出てしまうんだよ。思い返してみて、任務を終えてクタクタになって鎮守府に帰ってくる。それでお風呂にみんなで入るんだ。冷えた体を熱い湯に、肩まで浸かるとさ、つい声が出ちゃうよね?私もそうだけど、暁や雷なんてオジサンみたいなぶっとい声が出ちゃうよね?電はそこまでじゃないけどさ、ついみんな腹の底から声が出てしまうんだよ、完全にリラックスしきっただらしない声がね」

 

「さて、それがオバケと司令官、翔鶴さんを関係づけるものなのかって、なんの脈絡もないじゃないかって思うんだろうけどね。あるのさ」

 

「暁たちは声を聞いたんだよね、獣のような。その癖、オバケ自体を見てはいない。まあ、オバケなんだから姿が見えないっていったらそこまでなんだろうけど。姿だけ見えないのに声だけ聞こえるなんて、なんだかすごく都合がいいと思うんだよね。火のない所に煙は立たない、やっぱり実体がないと見ることも聞くことも、知覚出来ないと思うんだ」

 

「じゃあ暁たちは何を聞いたのか?聞き間違い?三人も揃って?いや、それは違う。三人はちゃんと聞いたんだ。どこから?あの廊下にあるのはトイレと…司令官の寝室さ。トイレに誰かいたかもしれない、だけどこの点で最も怪しいのは司令官の寝室だよね、だって少なくとも二人、その時間帯にそこいたんだから」

 

「あれ、翔鶴さん、どうしたの?顔が真っ赤だよ?司令官、もうこの話は……ああ、そうかい。司令官が続けていいよと言ってくれてるから続けるね?」

 

「電が声を聞く前、そのずっと前から司令官の寝室では司令官と翔鶴さんが一緒に寝ていたのさ。そしてすごく気持ちがよくなってしまったんだよ。それこそ獣のような、野太い声が出てしまうくらいに、ね。それでどちらがそんな声を出していたのか…はこの際置いておこうか。とにかくそれを暁たちが聞いた、たったそれだけの簡単な話さ。ちなみに、暁たちはオホ声………いいや、知らなければそれでいいのさ。私含め、そのうち経験することになるんだろうね、それこそ大人のレディ(笑)になったら」

 

「どうかな、翔鶴さん?」

 

響の言葉に皆の注目が翔鶴へと集まる。わなわなと震えているのは恥ずかしさからかそれとも怒りからか。こっちに助けを求めるような目を向けてるけどさぁ…。

 

でも翔鶴、言ってたよな?ちゃんと話を聞いてあげて、と。

 

これは翔鶴が始めた物語だから(笑)

 

「なーんてね」

 

今話したことはすべて私の妄想、嘘話さ。

 

飄々と言ってのける響に他の姉妹は驚く。

 

「司令官はさておき、こんなに可憐で誰にでも分け隔てなく接する優しい清純な艦娘、翔鶴さんがお下品お下劣な獣の声で媚び泣くなんてありえないじゃないか」

 

響がニコリと笑う。俺も笑う。暁、雷、電はそうね、そうよねと納得したように同意する。あえて翔鶴本人には触れない。俺の後ろで唸ってるけど知らん笑

 

じゃあオバケは?

 

「さあね、野犬でも忍び込んだんじゃないかな?それにオバケなんてこの世には存在しないんだよ、その証拠に今日夜中にトイレに行ってごらん?きっと声なんてしなくなってるはずさ笑」

 

まあ、尤も。違う場所で聞こえるようになるかもしれないけどね。

 

響の言葉に他の姉妹は納得したのか、安心した様子で執務室をあとにした。

 

翔鶴を見る。

 

あはは、FXでお金を溶かした人の表情をしてらあ笑。可哀想に髪の毛もすべて真っ白になってしまって笑

 

そんな翔鶴を抱きしめる。すると抱きしめ返されたので耳打ちした。気持ちいいのは分かるけどこれからはもう少し声を抑えような、直後に俺は翔鶴にワンワン喚かれることとなった。

 

その後、確かに声はしなくなったようで、暁たちは普通にトイレに行けているらしい。野犬が忍び込んだと響に言い聞かせられたようだ。

 

しかし完全になくなったのか、いや。

 

 

???「ず、瑞鶴…弓道場に通じる廊下で私はとんでもないものを聞いてしまったわ。最初はうめき声かと思って耳を澄ましたわ。そしたら段々大きくなって…この世の者とは思えない、地獄からの声…!もうこの鎮守府はおしまいよ!幽霊にとりつかれたんだわ!!」

 

???「あ、加賀さん、それ私の姉っす」

 

場所は伏す

 

 


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