TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『ソシテカイブツハウミオトサレタ』★

 

 

 最近、子の様子がおかしい。

 

 前のように私にすり寄ってこない。呼んでも、距離を置いたまま壁から動かない。

 

 体の調子も悪そうだ。痩せこけて、甲殻の色艶もよくない。それでいて、お腹だけはでっぷり膨らんでいる。

 

「ねえ、こっちにおいでよ。ねえ」

 

『み……』

 

 ずっとこんな調子だ。

 

 明らかに様子がおかしいのを見てか、最近は戦闘試験も行われていない。

 

 正直助かるが、なんだか不安だ。

 

「来ないならこっちからいくよ?」

 

 しびれを切らして、距離を置いて寝転がっている我が子に近づく。

 

 じっと向けられる視線を感じながら、一歩一歩近づく。

 

 そして我が子まであと1m、という所で、急にぶん、とその尻尾が振るわれた。

 

「きゃっ」

 

 こっちに来るな、と言わんばかりに尻尾を叩きつけられて足が止まる。

 

「どうして……?」

 

『みみ……』

 

 問いかけるも、答えはない。

 

 私は訳もなく悲しくなって、その場にぺたり、と座り込んだ。

 

 もしかしてこれが反抗期という奴だろうか。

 

 それならそれで構わないのだが、あの子の体調が明らかによろしくないのがどうしても気になる。

 

 本当に大丈夫なんだろうか。

 

「……ここにいるね」

 

 ギリギリの距離で体育座りしながら、我が子に思いをはせる。

 

 一体何が原因なんだろう。

 

 こうなる前、最後に起きたイベントといえば……人類軍の兵士とのあれこれだ。あれで、私に対して猜疑心を抱いた?

 

 いや、それはない。あの後もしばらくの間、我が子は私にべったりだった。むしろあの事があってから、余計にべたべた纏わりついていた気がする。

 

 ちらり、と右腕に目を向ける。あの時、牙でズタズタになっていた腕だが、今は傷一つ残らず綺麗に治ってしまっている。

 

 正直ふざけた回復力だ。若いからか? だがそれでも、小学校の時にざっくり切った太ももの傷は大人になっても残っていたし、白い傷跡も残さずに綺麗に消えてしまうのは違和感の方が強い。

 

 やっぱり中身も大分人間からずれてきてしまっているのを思い知らされる。だが逆に言えば、傷が綺麗に治った事で我が子の罪悪感も大分薄れたはずだ。

 

 そういった事情を考えれば、兵士とのやりとりがきっかけではない。

 

 となると、何が原因だろうか。

 

「私じゃなくて……あの子の側に?」

 

 自然に考えればそういう事になる。

 

 何か、あの子の生態的に、私と距離を置きたい事情がある。そう考えるべきだろう。

 

 おかしな話ではない。生物はそのサイクル上、どうしても凶暴化したり、周囲に攻撃的になる時期がある。人間だって、生理だとかなんだとかで機嫌が悪いと周囲に当たり散らすし、それを自覚している人は距離を置いたりもする。

 

 今回の場合はなんだろうか。

 

 生理……はなんか違うな。そもそも、我が子は宿主に卵を植え付けて増殖するタイプだから、見た目は恒温動物だが生態的には昆虫に近いはず。

 

 昆虫が凶暴になるタイミングはなんだろうか。考えられるのは繁殖期だ。凶暴化とはちょっと違うが、産卵を控えた雌が、交尾の為に近づいてきた雄を食べてしまう、という事はよくある事だ。全ての種の雄がそれを受け入れている訳ではなく、雌に食べられないように慎重にタイミングをうかがう種もあると、聞いた事がある。

 

 いや、その決めつけはよくないか? 凶暴化しているのではなく、もっと別の理由で私と距離を置きたいのかもしれない。

 

 その理由は……。

 

「……待って。寄生虫?」

 

 ぴんときた。

 

 彼らは卵を植え付けて繁殖する。

 

 我が子も、見た感じ十分に育ち、成熟している。それはつまり、産卵の時期を迎えているという事だ。

 

 だが、このガラスケースの中、卵を産み付けるようなものは他に存在していない。

 

 たった一人。

 

 私を除いては。

 

「…………」

 

 流石に、躊躇する。

 

 躊躇いもある。

 

 それでもしばらく考えてから、私は覚悟を決めた。

 

 すくっと立ち上がり、私は我が子へと歩み寄る。ばちん、と警告するように尻尾が打ち鳴らされるが、それを無視して我が子へと歩み寄る。

 

『ぐるる……』

 

「……ん」

 

 わざとらしく唸りを上げる我が子を見下ろして、私は唾を飲んだ。

 

 そのまま膝をついて、優しく首を抱きかかえる。

 

 息を飲む。

 

 いつの間にか、この子はすっかり骨と皮になっていた。やせ衰え、乾いた体は、かつてのような生命力がすっかり損なわれている。

 

 こんなになってるだなんて。

 

 そして、それでも、この子は本能に抗い続けた。

 

 私の為に。

 

「……いいよ」

 

『っ』

 

「植え付けても、いいよ。受け入れてあげる」

 

 優しく、しわしわになった首筋を撫でてやる。黄色い瞳が、至近距離から私の顔を覗き込んだ。

 

 ああ。

 

 この子に接する時、私はこんな顔をしていたのか。

 

「大丈夫、大丈夫。嫌いになんてならないよ。私が貴方を、嫌いになるわけなんて、ないでしょう? 大丈夫……大丈夫……」

 

『ぐ、ぐるる……』

 

 体全体で抱き寄せて、頭を優しく撫でてやる。戸惑うような声。

 

 それでも、我が子は動かない。

 

 ぴく、ぴく、と尻尾の先が震えている。針のようにとがった切っ先を少しだけ持ち上げては、それをはっとしたように床に戻す。

 

 葛藤というよりも、意地でもそれを抑え込んでいるように私には見えた。

 

 私のせいなのだろうか。

 

 私が、優しく、穏やかにこの子を育ててしまったから。親を傷つけるのを絶対に許せないような優しい子に育ててしまったから。

 

 だから今、この子はこんなに苦しんでいるのだろうか。

 

「ごめんね……」

 

 目が潤む。

 

 この子のやさしさに、胸が痛む。本能に抗う事が、どれだけ大変な事なのか、人間の私には分からない。わかってやれない。

 

 それを悲しく思った。

 

『くるる……る゛っ!?』

 

「え」

 

 としゅん、という小さな音とともに、子の背中に何かが突き立った。

 

 小さな注射針。見ている前で、その内容物の真っ赤な液体が体内に送り込まれていく。

 

 はっと顔を上げた先、銃のようなものを構えたロボットアームが目に入った。

 

「これは……」

 

 見る見る間に、我が子の黄色い瞳が血走って赤く染まる。息を荒らげて身を起こした我が子は、有無を言わせず私を床に引き倒した。

 

『ぐるる……るるる……』

 

 完全に理性を失い、黄色く粘ついた涎を垂らす獣の顔。その爪が、私の質素な衣服を裂いて、肌を露にする。

 

 サソリの尾のように持ち上げられた尻尾の先。それが、私のお腹に振り下ろされようとして……。

 

 

 

 ぴたり、と止まった。

 

 

 

『ぐ、ぐる……』

 

 ぽたぽた、と胸の上に落ちる滴。

 

 我が子の眼窩からあふれ出す、透明な滴。ぼたぼたと涙を流しながら、必死に衝動に抗う愛し仔の顔を、私は優しく両手で抱きかかえた。

 

「いいのよ。いいの……」

 

『ぐるる……るる……』

 

「いいの。……だから。来て」

 

 針のように鋭くとがった尻尾の先。

 

 それが、長い躊躇の果てに。

 

 ぶすりと、私のお腹に突き立った。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「~~~♪ ~~♪」

 

 ガラスケースの片隅で、私は子を傍らに、子守歌を歌っていた。

 

 産卵で体力を使い切ったのか、子供はぴくりとも動かない。眠たそうに半目を開いたまま、静かに息をするだけだ。

 

 その子供の背中を何度も何度もやさしく撫でてやりながら、私はずっと胸の内に閉まっていた言葉を吐き出した。

 

「ねえ。そういえば、貴方の名前、付けてなかったわね」

 

『…………』

 

「ルー、っていうのはどう? クルクル鳴くから、っていうのもあるけど、人間に伝わる光の神の名前でもあるのよ。戦いの神でもある。強くて優しい貴方にはぴったりだと思わない?」

 

 応える事のない子供に語り掛ける。それでもきっと、届いているはずだ。

 

「ルー。可愛い、優しい、私のルー。疲れちゃったのね。いいわ、おやすみなさい。ずっとずっと、傍にいてあげるから」

 

『…………』

 

 まあるい瞳の瞼が、完全に閉ざされる。それはきっと、もう二度と開かれることはない。

 

「おやすみ、ルー」

 

 我が子が穏やかに眠れるように、私は子守歌を歌い続けた。

 

 ずっと。

 

 ずっと。

 

 ……ずっと。

 

 

 

『ママ、愛してくれて、ありがとう。ずっと、ずっと、永遠に、大好き』

 

 

 

◆◆

 

 

 

 そして。

 

 侵略者ども。

 

 許さない。絶対に、許さない。

 

 あの子の尊厳を。覚悟を。愛情を。

 

 踏みにじり、凌辱し、汚濁に塗れさせた貴様らを。

 

 私は、決して許さない。

 

 

 

 

 

 ユ ル サ ナ イ。

 

 

 

 

 

 その日。

 

 宇宙に、恐るべき怪物が、産声を上げた事を。

 

 まだ、誰も知らない。

 

 

 

 

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