TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『誰もがド肝を抜かれてく』

 ぱちり、と私は目を覚ました。

 

 開眼と同時に意識が覚醒した私は、周囲を見渡し、ここが小金井さんのおうちである事を確認する。傍らには、丸くなって寝息を立てるアースの姿。

 

 就寝前と変わらぬ客間の様子に小さく安堵し、私は布団からのそりと身を起こした。

 

 小金井さんに買って貰ったふわふわもこもこの可愛いパジャマが乱れているのをちょっと整えて布団の外へ。

 

 こういうのは趣味じゃないとはいえ、せっかくの頂き物だ。正直私なんかじゃなくてもっと可愛らしい子に似合うもんだと思ってるけど、まあ服は主人を選べないしね。ごめん。

 

 この瞬間に気だるさとかそういうのはない。シンプルかつ機能的なこの肉体に、宵越しの疲労など残らないのだ。全人類このスタイルで生きろとはとてもじゃないが言えないけど。

 

 いや、うん。肉体弄繰り回されすぎてそういう事への拒否感とか消し飛んだからな、私。性自認も狂ってるし。

 

「ふあぁほ……」

 

 とはいえ人間だった頃の名残で欠伸も出る。形だけの眠気を引きずりつつ、私はまずはトイレに向かった。

 

 朝起きたらまず、老廃物の排出である。いやこの肉体、その気になれば取り込んだあらゆる物質を完全に分解吸収できるけど、それやったらちょっとこう、人間じゃないじゃん?? 私は一応まだ人間のつもりなので、食事と排泄はしておくべきだろう、多分。

 

 こういうのを疎かにすると人間としての共感性を失って、いつしか化け物として退治されちゃうのだ。漫画とゲームで習った。

 

 人間だからこその不便を堪能していると、閉じた扉の向こうから、何か変な音が聞こえてくる。

 

 カリカリ。

 

 カリカリ、カリカリ。

 

 猫が壁をひっかいているようなその音に、私は小さくため息をついてトイレから出た。

 

「アース? ちょっとぐらい落ち着きなさい」

 

『ピィロロロ……』

 

 トイレの外で扉をひっかいていたのは案の定、アースだった。力は強いくせに人の数千倍寂しがり屋なこの子、私が見えない所にいくとすぐこれだ。トイレぐらいちょっと待っててほしいんだが。

 

 腰にしがみついてくるアースを引きずったまま手洗いで手を清めると、私はそのままリビングに向かった。ずるずるずる。

 

「おはよう、クロボウズちゃん」

 

『ボロローン』

 

 今のリビングで、いつものようにぬいぐるみの如く鎮座しているフレンドに挨拶。真っ黒な毛玉が、気さくに挨拶を返してくれる。小金井さんのフレンド、クロボウズちゃんはいつもこうしてリビングでぼっとしている。

 

 どうやら戦闘タイプとしての性質で、まとまった睡眠時間を取らないらしい。見てるとどうやら日中でも脳みそを交互に休眠させるスタイルの様子。

 

 ちなみにそんなクロボウズちゃん、戦闘力は私の見立てでは、パワーだけならプルートゥ級。ただし、実戦経験が皆無なのと、特殊能力がないのでやりあったら数秒でうちの子の勝ちだろう。

 

 それはとても喜ばしい事だ。

 

 能力があるからとそれを必ず役に立てなければならない、なんてことはない。無駄を許容される、戦士としての才能がありながらそれを生かさずにいられる、なんと素晴らしい事か。

 

 この世界が平和な証だ。

 

 朝から平和と幸せを噛みしめつつ、私はテレビのスイッチを入れた。数千数万とチャンネルがある中で、政府公認のニュースチャンネルに切り替える。

 

 画面の中では、何か華やかな会場で、アナウンサーが畏まった顔で実況をしていた。その傍らでは、マイクを抱えて頑張って声を拡大しているフレンドの姿も見える。

 

 微笑ましい光景だ。

 

 この世界では人間とフレンドが互いに助け合い、支え合って生きている。なんて美しいのだろう。

 

『えー、皆さま、ご覧になられていますでしょうか! 今、私が居るのは、宇宙連合結成30年を記念して行われる、宇宙平和推進式典の会場です! 今回、このイベントの為に現時点で宇宙連合に参加している12種族の代表が、続々と会場に到着している様子が見えます。あっ、見てください、今、護衛を伴って会場入りしたのは、ア・ラクチャ・ルゥの代表、パ・パ・ドゥ・ラ・メラ氏です! ア・ラクチャ・ルゥは人類が4番目に接触した知的生命体で、人類と同じくエルダーとは無関係に発生した生命体とされており……』

 

「おぉー……まじもんの異星人かあ」

 

 画面に映るのは、熊のような毛むくじゃらのモフモフとした獣人が、白銀の袈裟のようなものを纏って廊下を歩いてくる様子。その隣には、白いティラノサウルスのようなフレンドがそのそばを離れずに寄り添っている。時折、メラ氏とやらがフレンドに語り掛けると、フレンドが周囲の別のフレンドに話を伝え、そこから人類に言葉が伝わっているようだ。

 

 本来、意思疎通が不可能な者同士の仲介をフレンドが行っているという、まさに理想的な共生関係を目の当たりにして私は思わず感じ入った。

 

 素晴らしい。

 

 なるほど、これがこの子達の真の役割なのだな。それに比べれば、基地を一人で落とせるとか、宇宙船を撃墜できるとか、なんてしょぼい事なのか。

 

 平和こそがもっとも価値あり困難な資源である。

 

 それを生み出せる事こそ、もっとも優れた力だ。

 

『ピィロロロ~』

 

「ん。大丈夫、お前にそれが出来ないなんて微塵も思ってないよ。アースはなんだって出来る凄い子だもんな」

 

『ピロロロ!』

 

 頭をぐいぐい押し付けてくるアースを構いつつ、台所に。

 

 居候の立場として家事全般を熟すのはあたりまえの事である。私は冷蔵庫を物色しつつ、朝ごはんの準備をする。

 

 そうこうする間にも、テレビからは式典の様子が流れてくる。

 

 エルダーだの後継者だのよくわからん単語のオンパレードだが、どうもあのクソ宇宙人どもが喧嘩うっていたのは地球だけに限らないらしい。そういった、同じように迷惑をかけられた者同士が団結して、この宇宙に平和を齎そう、という趣旨のイベントのようだ。

 

 そして彼らを助けるにおいて、フレンド達が大いに活躍してくれたようである。人類以外の知的生命体にもフレンドは浸透しており、宇宙に広がれフレンドの輪、という事らしい。

 

 フレンド達は既に私の手を離れた命だが、彼らが元気にやっていけてるようで私としては本当にうれしい。

 

 でもちょっと寂しい。これが……親心……。

 

『ピリロロロ?』

 

「いや、うん。そんなに気にしてはないよ。大体、もう随分たってるんだから、今更顔を出して親気取りというのもみっともない」

 

 いやまあ、なんか私が眠りについて200年ぐらいたってるらしい、と聞いた時は物理的に目玉飛び出るかと思ったけど。

 

 ま、まあ、1年だと思ってたら10年たってた事に比べれば、50年ぐらいだと思ってたのが200年ぐらいだったのなんて、誤差みたいなもんさ、ははは、はははははは……。

 

「いかんいかん、手が止まる。今は朝ごはんに集中だ」

 

『……また、今回の式典を記念して、宇宙連合でも屈指の彫刻家でいらっしゃる、シュリンプスタのデメ・バッカ氏から、母様像が寄贈されており……これは、宇宙でももっとも希少な元素とされる……を大胆に……』

 

「それにしても、この母様ってのは誰の事なんだ? 迂遠表現ばっかりで得体が知れんぞ」

 

 画面の中に、金ぴかに輝く美少女像みたいなのが出てきて私は首を傾げた。

 

 なんていうか、目が潰れんばかりの超絶美少女、って感じの女の子が慈愛に満ちた笑みを浮かべて全てを招き入れているようなポーズである。私からするとちょっとすしざんまい、という言葉が連想されるが。

 

 勿論、口に出したりはしない。今も画面の向こうでは種族問わず全ての人類がその女神像に頭を下げているし、何なら小金井さんもテレビに母様像とやらが出てくると食事を中断して頭を下げる。ひと様の信仰に口を突っ込むのは藪である。私は蛇を出したくはない。

 

 まあ私からするとなんか新興宗教の過激なパフォーマンスみたいでちょっとビビる、というのが正直な感想ではある。

 

 というかなんか、今の人類からすると母様とやらへの信仰はもう呼吸するようなもんらしく、逆に尋ねると底なしのアホを見る目で見られそうなので確認できねーのだ。

 

 一体なんだろな、この母様っての。具体的な功績みたいなのが出てこなくて、なんかひたすら崇めよ奉れよ、って感じ。今の時代、なんでもかんでもデジタル化が進んでるせいで、身元不明幼女である私の立場じゃ調べ事もままならん。昔みたいに本屋で立ち読み放題、って訳にもいかない世の中、世知辛い。ニュース見てても知ってて当たり前、って感じで説明ないし。

 

 知らんうちに人類全体が何かに洗脳されてんのかとすら思ったが、少なくともそういう精神干渉は一切感じられないんだよね。あくまで自発的に崇めてる感じ。

 

 なんなのさ本当、これ。

 

 とはいえ、最近はあまり気にならなくなってきている。ここ150年ぐらいの間になんかすげー事した女の子なんだろう、きっと。

 

 しかし宇宙規模で信仰されてるのは凄い。私なんかとはくらべものにならない人格者なんだろうな。そういう人が後の世に生まれてきた事を考えると、頑張った甲斐があるというもんだ。

 

 むふ。

 

『ボ、ボロロロ……』

 

「え? 私がどうした、クロボウズちゃん? あの石像と、私が似てる? はははは、冗談にも程があるって、このチンチクリンと、あのゲキマブアルティメット美少女が同じ生命体カテゴリな訳ないじゃん、過ぎた持ち上げは相手を傷つけるだけだよ、はははは」

 

『ボ、ボロロン……』

 

 なんか困った様子で引き下がっていくクロボウズちゃん。最近ずっとあんな感じだ。周りに合わせて私が母様とやらに手を合わせてる時もずっとなんかおろおろしてるし、どうしたんだろうな。

 

 そんな事を考えつつも、手は止めない。

 

 ウィンナーと目玉焼きを焼き上げ、トーストはカリカリに。コーヒーマシンで真っ黒なコーヒーを抽出し、カップに注ぐ。

 

 と、そこで朝食の匂いに誘われたのか、小金井さんが二階から降りてくる。

 

 私はエプロンを外して彼を出迎えた。

 

「おはようございます、小金井さん。朝ごはん出来てますよ」

 

「お、おぅ。いつも悪いな」

 

「いいえ、とんでもない。居候させてもらっている身ですから、これぐらいは」

 

 椅子を引いて小金井さんの席を用意し、皿を並べて朝食に。

 

 クロボウズちゃんも席に座り、目の前の朝食をまじまじ見つめている。何度も手を合わせて大げさに感謝する彼に苦笑しつつ、アースの前にも皿を並べる。

 

「はい、頂きます」

 

「頂きます」

 

『ボロローン』

 

 皆で朝食を食べる。

 

 その様子も三者三様。普通に食べる私と小金井さんに対して、クロボウズちゃんは何やら一口する度に感じいるようにもぐもぐ、よく咀嚼して食べている。アースは一口でぺろりして、すでに私の足に絡んでじゃれている。

 

 足を振ってじゃれてくるアースの相手をしつつ、トーストを口に運ぶ。

 

 と、そこでピンポン、と呼び鈴がなった。

 

「なんだ? 朝っぱらから……あ、お嬢ちゃんは座ってな、ワシが出てくる」

 

「はーい」

 

 まあ、ここは家主の出番だな。そもそも私は居候だ。

 

 大人しくパンをはもはもと齧っていると、強化された耳に玄関でのやり取りが聞こえてくる。

 

 

 

「はいはい、なんです……えっ?」

 

「失礼します、小金井さんで間違いないですね? 私達は地球統合政府直轄エージェントです。身分証明はこちらに。この家で小さな女の子を預かっていますね?」

 

「え、ええ、は、はい……その? 政府の方が、何故?」

 

 

 

「……アース」

 

『ピロロロ』

 

 どうやらその時が来たらしい。

 

 我が子を呼んで撤収準備。机の上に短く「お世話になりました」と手紙を書き残す。

 

 そんでもっておろおろしているクロボウズちゃんに手を振って別れの挨拶。

 

 ……ふ。いいさ。私はいつだって追われる身、こうなる事は予想出来ていた。アウトローに安息の地はないのさ。

 

 ていうか普通に考えてぇ! 私みたいな爆弾、政府が放置してくれる訳ないもんねえ!!

 

 考えてみてよ、うちの子にかかれば宇宙人の基地の一つや二つ簡単に落とせる訳でぇ! 銃刀法違反とかそういう原則的に放置はできないというかぁ……びびって謝りにいけてないけど、お空でやらかした事もあってぇ……。

 

 そ、そもそも、私みたいなびっくり人間、捕まったらどんな目にあわされるか。解体、標本、研究サンプル!! 被害妄想じゃなくて実績ありきだし!

 

 お決まりのコースがいくらでも想像できる、せっかく生き延びたのにそんなのは嫌だぁ! だけど今の平和な世界をぶち壊したくもない訳で……。

 

「……お邪魔しました! ごごご、ごめんなさぁーーーい!!」

 

「こ、この脳波動数値……ま、まて、待ってください!! せめてお話を……」

 

「ちょ、人のうちに土足で……」

 

 こ、今後はおとなしくしますのでどうかご勘弁を~~~!

 

 自由への脱走!! アースお願い、行き先はどこでもいいから!! え、本当にどこでもいいのかって? いいから!

 

 急いで、超次元ゲートオープン!! 座標……とにかく人間の生きていられる所、印象に残ってるどこか! できるだけ遠くに!

 

 え、えくそだーーす!!

 

 

 

◆◆

 

 

 

「ク、クイーンの反応途絶! 超高出力の次元干渉波を確認、超次元ゲートを開いたものと考えられます! し、信じられない、惑星の重力圏内で、この一瞬でゲートを開いて周囲に何の影響も無し!? い、一体どれだけのエネルギーリソースと演算リソースを持っているの?!」

 

「分かっていた事だが規格外にも程があるな……。行方は? 彼女はどこに?」

 

「ち、地球上に他の反応はありません? 宇宙? だ、だけど彼女は地球上でしか活動していないはず、行く先のあてなんて…………あっ」

 

「おい。その何か凄く不味い事に思い当たったみたいなのやめろ。怖いじゃないか。それで、どこだ、心当たり……テレビ中継? 全チャンネルで放送してるって……ここ……え゛っ????」

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 そして、人々は見た。

 

 中継越しに全ての人々が視る前、12の種族が集まる円卓の上空に、突如開いた青く輝く光の窓。そこから降り注ぐ光の中、後光を纏って降臨する、銀の翼に抱かれた少女の姿を。

 

 その、想像をはるかに超越した神秘的な光景を前に、人々はただ手を合わせて頭を下げ、芸術家達は己の才能への絶望から筆を彫刻刀をへし折り、政治家たちは消化器官や神経中枢の有る場所を手で押さえてその場で蹲った。

 

 それはまさに、億の言葉よりも雄弁に、ある真実を示していた。

 

 

 

 母。

 

 帰還せり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尚。当人の認識。

 

「?????????????」

 

(↑アルカイックスマイルのまま失神しかけている)

 

『ピリロロロ……(だってどこでもいいから遠くにって……)』

 

 どっとはらい。

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