TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『めんどうなやつら』

 

 ごぅ、と全身から憎悪の炎が噴き出す。

 

 絶望と憎悪、青黒き恩讐の炎が金属を一瞬で溶かし、沸騰させ、私の周囲は瞬く間に泡立つ金属の沼と化す。

 

 青く光る視線で、怨敵を見つめる。怯む事無く見返してくるその隣で、人間が慌てている。彼らは、やつらの事を知らないのか?

 

 だいたい何故、こいつらがここに。

 

 その愚かさ故に、後継者は一人を除いて全て滅び去った筈。

 

 いや……そんな事はどうでもいい!!

 

 まさか、貴様らに直接報復する機が、巡ってこようとは!!

 

「貴様らが生きていたとはな……! エルダーにこの宇宙を任されながら、思い上がりと勘違いで全てを台無しにした愚者どもが! 人類をだまくらかして潜り込んだのか? 私が貴様らの事を、知らないと思ったか!!!」

 

「だからこうなるって言ったんだぁ! ひええ、合金が水飴みたいに……ちょ、ちょちょ、葛葉さん、落ち着いて……!!!」

 

「下がれ人間!!! 我が憎悪の炎は、憎まぬ者を焼きはしないが……流石に、唯で済むとは保証できぬ!!」

 

 事実、漏れ出した数万分の一の熱量でこのありさまだ。脆くやわらかいタンパク質の塊なんぞ、この炎に触れればひとたまりもない。

 

 私が殺したいのは怨敵だけ。無関係の人間は巻き込みたくない。

 

 下がれ!!

 

「おお……なんという、恒星のうねりすら凌駕する怒りと憎しみ……我がかつての双葉の罪は、宇宙の奈落よりも尚暗いのか……」

 

「言ってる場合か!? ちょ、どうするのこれ、船が燃えちゃう!? あちちち!?」

 

 余裕のつもりか、まっすぐこっちを見つめて呑気に感想なんぞ口にする後継者に対し、熱に耐えきれなくなったのか走って逃げていく船のスタッフ。

 

 これで何も構う事はない。

 

 貴様らに滅ぼされた那由他の民の怒りを!

 

 貴様らに使い潰された子らの悲しみを!!

 

 今こそ、知るがいい!!

 

「死ね………!?」

 

『クピルピィ!!』

 

 だが、その直前。

 

 燃え盛る青の炎の前に、割り込んでくる影があった。

 

 フレンド。

 

 脚の長い小鳥のような姿が、私の炎の前に立ちはだかっている。あわてて私は炎をひっこめた。

 

「さ、下がれ! 危ないじゃないか!」

 

『クピピ! クピルピ! ピピィ!』

 

「……え? コイツのフレンド、君が? 違うって、え?」

 

 フレンドの必死の訴えに、私は思わず視線を往復させた。変わらずすまし顔でこちらを見ている後継者らしき者と目を合わせる。

 

「えっと……?」

 

 困惑する私に、宇宙人は無言のまま、ゆっくりとしゃがみ込んだ。

 

 両膝を地につけ、深く背を折り、頭を下げる。

 

 DOGEZA。

 

「この度は……かつての同胞が迷惑をかけた。深く謝罪する」

 

「…………はい?」

 

 困惑する私の足元で、ぼこっと泡立った金属床が、冷えて固まってキュゥーと音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

「まじでごめんなさいでした……!!!!」

 

 私は全力で地に這いつくばって謝罪した。

 

 土下座である。

 

 あの後。とりあえず炎をおさめた私は、走ってきた警備兵たちに囲まれたまま別室に案内された。

 

 連れていかれたのは独房ではなく、来賓室。私は、そこで美鶴さんから改めて説明を受けた。

 

 彼らは、後継者ではない。

 

 12の宇宙連合に所属する知的生命体の一つ、かねてから熱心に私との面談を希望していた種族の代表だと。

 

 まあつまり、盛大な勘違いである。

 

 私は勘違いで、罪の無い宇宙人をキャンプファイヤーしようとしていた訳である。ついでに私がファイヤーした区画は使い物にならなくなったので封鎖されたという話である。

 

 ろくでもない!!

 

 マジでごめんなさい!!

 

 そもそも、私が会談中にこんにちはした時に一度顔を合わせてるしね! 意識朦朧してたから認識してなかったけど! ぐはあ!

 

「いきなりぶち殺そうとしてすいません……」

 

「構わぬ。恒星の輝きは、見る者の網膜を焼く。それは自然の摂理だ」

 

「ええと……」

 

 一応許しては貰えたみたいだが。奇妙な言い回しに確信が持てずに、私は傍らに立つ話が通じそうな人に目を合わせた。

 

 美鶴さんと、総司令である。総司令は胸を押さえて凄く具合が悪そうだ。

 

 私の視線を受けて、にっこりと美鶴さんが笑う。

 

「気にしてない、との事です。あと、◆●★▼さん、貴方の言い回しは葛葉さんには困難なので、私達の方で話をします。いいですね?」

 

「しかし……」

 

「い・い・で・す・ね?」

 

 有無を言わせぬ笑顔、というのはこういうのを言うのだろうか。しぶしぶ、異星人は押し黙った。

 

「ええと、まず、どこから説明したものでしょうか。とりあえずですね、確かにこの種族は、後継者と関係があります。とはいっても、ずっとずっと昔の事です」

 

 御存じだとは思いますが、と前置きしてから、美鶴さんはエルダーと後継者について語りだした。

 

 エルダーとは、そもそもこの宇宙をかつて支配していたという、偉大な知性体である。考えうる限り完璧であった彼らは、だからだろうか、多くの知性体を人為的に作り出した。後の後継者と呼ばれる者達も、そうしてエルダーに人為的に生み出された存在だ。エルダーの生み出した生命体は多岐にわたるが、その中でも彼らは最も賢く、最も長命で、最も汎用性が高い種族だった。

 

 やがてエルダーは進化の果てに、この世界に存在できなくなった。上位存在というべきものへの進化を果たした彼らは、この宇宙から去り、その後を自ら生み出した一種族に託した。それが後継者である。

 

 そしてエルダーの技術を引き継ぎ、この宇宙を後継者は何十億年にもわたって支配した。

 

 最初は、彼らも他の種族と仲良くやっていた。エルダーに倣い、温和で、共生を心掛け、多彩な社会を実現していたという。

 

 しかしいつしか、彼らは他の種族を見下すようになっていった。

 

 何故なら、後継者から見ればどの種族も同胞だとは思えなかったのだ。

 

 彼らは皆、寿命は短く瞬く間に死に絶え、知性の差から会話も難しく、そして生きていける環境が限られている。数パーセントの温度の、気温の、大気の変化に適応できず、安定した環境でなければ生きていけない儚い者達。

 

 自分達には容易い事が、彼らには難しい。

 

 配慮は区別となり、区別は差別となり、差別は侮蔑へと容易く転じた。

 

 やがて後継者は、宇宙における知的生命体は自分達だけであると思い上がるようになり、それ以外の撲滅を試みた。

 

 その為に用いられたのは神獣兵ことフレンドシップ。自分達以外を獣と見捨てた彼ら後継者には、もはや友など不要だったのである。

 

 この後の事は、語るまでもない。

 

 神獣兵によって宇宙の生物の多くが駆逐され、一方で、後継者も何らかの不備で子孫を残せず滅び去った。後には、ただ無人の星々だけが残され……そこに、神を名乗る一人の男が帰還する事になる。

 

「とまあ、これがおおざっぱなこの宇宙の推移ですね。あ、トップシークレットなので、迂闊に外で喋らないでくださいね」

 

「う、うむ。気を付ける。で、こいつら結局何なの?」

 

「彼らはですね。その、エルダーから宇宙を任されたあと、数億年ぐらいで後継者から分離した、早い話が自然原理主義者なんです」

 

 はい??

 

 自然原理主義者?

 

「人間風に言い換えると、過激なエコロジストって感じですかね。ただし誰にも迷惑をかけない」

 

「?????」

 

「えーとですね、つまり彼らは物質文明を、電気とか便利なものを全部捨てて、布を体に巻いて石器を手に獲物を狩り、鍬で畑を耕し焚火で食材を煮込む、そんな原始生活にあえて回帰した人達の子孫なんです。なので、宇宙連合では彼らはナチュラリスト、と呼ばれています」

 

 …………?

 

 ええと、つまり、環境保全団体(ガチ)という事? 電気もガスも捨てて、まっぱに毛皮巻いて野生生活を? 宇宙に進出どころか恒星間文明を築き上げた社会で、あえて?

 

 それは別の意味で狂人の集まりなのではないか?

 

 私が胡乱な視線を向けると、宇宙人はそれをどう受け取ったのか、目を伏せたまましたり顔で頷いて見せた。

 

「(こくり)」

 

「……なんで? なんでそんな事を?」

 

「容易かった故」

 

 私の疑問に返ってくるのも短く理解しがたい言葉だけ。

 

 しゃべるなって言われたのを律儀に守っているようである。

 

 しかし、容易かった? 何が?

 

「えーと、まあナチュラリストの皆さん、やっぱり言ってしまえば宇宙で一番優れた種族であられますので、その気になれば明日からでも文明的な生活を行えるぐらいのスペックがあるんです。実際、毛皮と石器の生活から、秒でこうして宇宙連合での活動に適応してらっしゃいますし。そんな彼らにとって、文明は維持するものではない、という事ですね。その気になればいつでも戻れる、だから拘泥する必要はない、と」

 

「天から降る雫が、地に跳ねる音は正しく響く」

 

 美鶴さんの説明を、ナチュラリスト当人が頷いて補足する。相変わらず何いってんのか分からんが。

 

「それがなんで宇宙連合に?」

 

「その、彼らは後継者とも、神の一派とも関わらず、母星と定めた星で野生生活送ってたんですけど、そこに連合の船が墜落しまして。そこを、侵略宇宙人に攻撃された所を見て、助けてくれたんです。その後、経緯を互いに明らかにした上で、是非に、と。フレンドも懐きましたし……」

 

「ふむぅ」

 

 となると、やっぱり完全に私の仇からは外れる訳か。冤罪ですね、ごめんなさい。

 

 しかし、なんかこう、よくわからん言い回しをする人達だなあ。素直にそういってくれればいいのに。

 

「とりあえず、わからんが分かったけど……こいつらの言い回しはなんなん?」

 

「ええとその……彼ら独特のセンスというか、ユーモアというか……」

 

 なんか凄く困ってる美鶴さん。なんぞ?

 

 首を傾げていると、私を止めに入った鳥みたいなフレンドがおずおずと前にでて、ピィピィ鳴いて説明してくれた。

 

『ピピピルピ』

 

「えーと……さっきのは、言葉通り万年を生きるナチュラリストからすると、人間の寿命なんて空から降った雨が地面に落ちる間にすぎるようなものであって? 言葉は、その雫が地面を打つ音のようなもの、という例え……?」

 

 え、何。

 

 人間くそ馬鹿にしてんの???

 

 私が眉をひそめると、焦ったようにフレンドがピィピィ窘めてくる。

 

 悪気はない? こういってはなんだけど、センスが悪い?

 

 元々後継者になるような連中だったから、無意識に人間でいう傲慢な所がある? 本人達的には、精いっぱい短命種(自分達水準)の儚さを表現したつもり??

 

 はぁ……。

 

 困惑しながらナチュラリストのおっさんに視線を向けると、彼は居心地悪そうに顔を背けた。自覚はあるのか。直せよ、なら。

 

「あれ、でも私には割と綺麗な例えで喋ってなかったか」

 

『ピピルピ』

 

 はあ。エルダーに近しい上位存在になった相手となると流石に言葉を選ぶ? じゃあ普段から選べよボケナスどもが。そういう所が傲慢だっつってんの。

 

 まあでもそれを考えると、さっきの土下座は、彼らなりの最大の誠意って事か。わざわざ、雨音に例えるぐらい儚く無為な連中の、言葉と文化にのっとってまで示した謝意。

 

 傲慢突き抜けたプライドの塊が、それでもそれを曲げて頭を下げた。

 

 ふむ。焼き殺しかけたのとは別に、ちょっと申し訳ない気持ちになる。言動はあれだが、ナチュラリストなりに凄く過去の事は気にしているという事か。

 

 余裕そうに見えたのは覚悟完了してたからだったのね。焼き殺されても構わないって言う。

 

 ……むぅ。こまった。そういう奴、ちょっと好きだぞ、私。

 

「まあいいや、分かった。とりあえず」

 

「ご理解いただけましたか!!」

 

 美鶴さんが笑顔を浮かべ、その隣で総司令がふぅ、と胸を撫でおろした。なんだなんだ、私が納得せずに暴れ出すとでも思ってたのか、失敬な。

 

 ……いや。割と暴れ出す一歩手前だったな……。

 

 反省。

 

「まあ、うん。色々と悪かった。とりあえず、今後はなかよ……『ピィィエエエ!!』ぐべぇ!?」

 

「く、葛葉さーん!?」

 

 突如として、猛烈な横Gに襲われて私の視界は横に吹き飛んだ。全てが残像と化し、視界がブラックアウトする。

 

 遠くなる意識の中で、頬をぺろぺろ撫でまわす粘膜の感触だけが妙に確かだった。

 

 

 

「お、おわあ……」

 

「……なるほど。目を覚ましたら母親がベッドに居なかったから、大慌てで短距離ワープで飛んできたという訳ですか……」

 

「虹色の門は選ばれし者には日の光と同じではあるが、しかし霧雨の滴ではない」

 

『クピィ』

 

 ぐったりとしている葛葉を、抱きかかえてぺろぺろ嘗め回すアースの姿に、人間と宇宙人とフレンド揃ってドン引きである。禿げそうな勢いで母親を嘗め回す様子からは、よっぽど吃驚して心配したのが伺えるが。

 

 いやまあそのまえに常人だったら即死間違いなしの勢いで飛びつかれていたが、多分大丈夫だろう(そもそも潰れる脳みそも内臓も無い)。

 

「あ、あの、アースさん? とりあえずその辺にしておいた方が……」

 

『ピリリリィッ!』

 

 涎でべしょべしょになっている葛葉を見かねて美鶴が声をかけるも、返ってきたのは警戒気味の鳴き声。

 

 これ以上ちょっかいを出すと暴れ出しそうである。目覚めた葛葉が多分不機嫌になるだろうなあ、と思いつつ、しかしこれ以上美鶴に出来る事はなさそうだった。

 

 本当はもう少し、宇宙連合の話をせっかくだからしておきたかったのだが……。

 

 しぶしぶ手を引っ込める彼女を、総司令が胸を変わらず撫でさすりながら、諦めたように窘めた。

 

「ま、まあ、一番話を切り出しにくかったナチュラリストとの顔合わせが無事に終わったんだし、これでよしとしよう。な? 船が吹っ飛ばなくてよかったじゃないか」

 

「どっちにしろドック入りですけどね……艦のど真ん中が融解しちゃったんで……」

 

「頑強な岩も、脆く砕けやすい石の塊にすぎぬ……」

 

 どっとはらい。

 

 

 

◆◆

 

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