TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『油断したやつから死ぬ、戦場の鉄則だ』

 

 思ったよりも普通である。

 

 それが、メカポコ・スタンが、葛葉零士ことビッグママに抱いた感想であった。

 

 勿論、侮った、という意味合いではない事は祖霊の名誉に誓う。偉大なるルシフェンルの子であり月に叫ぶルシカラの腕に抱かれしマヌラの指先、マコラの天輪を受け継ぎし者であるカルファシーラの子孫たるメカポコ氏族の勇者スタンの名において、そのような事はあり得ない。

 

 普通、というのは、ビッグママが何に喜び、何に悲しみ、何を憎むか、という点についてである。

 

 彼女の喜怒哀楽は、ア・ラクチャ・ルゥとそう変わるものではない。隣人の些細な幸福に笑みを浮かべ、不幸なすれ違いを嘆き、理由なき暴力に怒る。朝露が葉に煌めく森の中で、ふとすれ違い挨拶を交わす見知らぬ隣人のような気やすさと共感が、彼女からは感じられた。

 

 確かに、人間とア・ラクチャ・ルゥはその価値観において通じるものがある。煌めく物を愛し、深い毛皮の奥に執着を持つ(人間は毛がなく、自ら編んだ毛の無い皮を毛皮として被るのは奇っ怪ではあるし、残された頭部の毛に対する執着はある種異常なものがあると感じているが)。言葉が通じぬだけで、魚の煌めく鱗を追い、空飛ぶ翼の影に目を細めるのは何も変わらない。

 

 そういう意味で、成程、ビッグママは確かに、人間であると言える。

 

 生物学的には、とてもそうとは言い難いが。

 

「あぎゃぎゃ、ぎゃるるぅ(そういう訳で、宇宙連合入りは早かったものの、実際に首を並べるまでは、大きな時間がかかったのです)」

 

「そうかー。まあいきなり重工業とはいかないもんねえー。しかし財団そういう所にも出資していたのか……」

 

「ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゅあん。がぁ。(財団の方々には大変お世話になりました。彼ら程誠実で、職務に熱心な働き人を我々は見た事がない。あまりにも滅私奉公すぎて怖いほどです)」

 

 宇宙連合入りするまでにあった話をかいつまんで話すと、ビッグママは何か思い出すような苦笑いを浮かべて見せた。人は顔に毛皮が無い分、表情が分かりやすい。これでお互いに何の繋がりもない生き物であるというのが、逆に信じられないほどだ。

 

 宇宙連合に所属している生命体は多数いるが、中には本当に意思疎通できているのかちょっと怪しいような奴ら……シリコニアンやメタリアンもいる。それを考えると、ア・ラクチャ・ルゥの窮地に現れたのが人間達であった事は僥倖以外の何物でもない。

 

 しかし。

 

 それはこうして顔を合わせているからこそだ。

 

 ここに向かう際中。人間の雌に案内されてやってきた扉を前にした時に、スタンの胸を占めていたのは圧倒的な畏怖と恐怖だった。

 

 扉の向こう、板一枚を隔てて、そこに何か、途方もない者が存在しているのは、彼にもはっきりと理解できた。まるで部屋に、部屋より大きな獣がぎゅうぎゅうに押し込まれているような、あるいは石より鉄より重い何かがゴトン、と置かれているような、あの空間そのものが歪むような圧迫感は言語に尽くしがたい。

 

 話をしてみれば、まあ、思った以上に話しやすくてびっくりしたが。

 

 ……ただ。

 

 その事そのものが、恐るべきことでもあるというのは、理解できる。

 

 ア・ラクチャ・ルゥは、別にビッグママを女神のように敬っている訳ではない。本来彼らが敬うべきは、天使の如く救いの手を差し伸べた人類であって、その人類の恩人であっても、直接ア・ラクチャ・ルゥを救ってくれた訳ではないビッグママに、過剰な感謝を向ける理由はない。

 

 フレンド達という友人を与えてくれたことには感謝しているが、それはそれ、これはこれだ。ア・ラクチャ・ルゥは自ら戦う戦士を尊重し、その戦士が切り分けて振舞う肉の重さを忘れない。

 

 しかし、例え肉を振舞わなくとも、強き戦士への敬意は忘れぬ。

 

 それは支払った代償の重さでもあるからだ。強き者は、それに見合う代償を支払っている。血を流し、骨を折り、毛皮を剥がした分だけ、戦士は強くなる。

 

 そういう意味で、このビッグママほど、重き代償を支払った戦士はいないだろう。

 

 こうして対面してみてもわかる。一見朗らかで何という事のないように振舞うその陰に纏わりつく、暗く重々しい闇の香り。一族郎党を殺され、自らも生死の境をさまよい、復讐を誓った戦士の影とて、ここまでどす黒くはない。

 

 何度も何度も、深き愛を捧げ、それを失ってきた者の、昏い影。

 

 そんなものを背負いながらも、他人の言葉に耳を傾け、道理を通し、平和を愛する事が出来るというのは、もはやそれだけである種の異常ですらある。

 

 その点においては、傍らに佇む銀竜よりも、やはりビッグママこそが恐るべき者であると、メカポコ・スタンは強く思った。

 

「ぎるるる……」

 

 喉が渇き、一言断って、スタンはコップに手を伸ばす。くぴくぴと水を煽る間、会話がしばし停止する。

 

 さて。

 

 次はどのような話がよいか……そのような事を考えてコップを置いたスタンは、こちらをじぃっと見つめるビッグママの視線にふと、既視感を覚えた。

 

 これは……なるほど。

 

 苦笑しながら、スタンはビッグママに提案をした。

 

「ぎゃるる、あぎゃ(もしかして、撫でてみたい、とかですか?)」

 

「?! い、いや、よその大使さんにそんな失礼なことは……」

 

 図星だったのか、びくっ、と肩を震わせて視線を逸らすビッグママ。

 

 しかし、その視線は横目でちらちらとスタンの毛皮を眺めまわしているのは言うまでもない。

 

 別に、悪い気はしない。毛皮はア・ラクチャ・ルゥにとっての誇りである。人間は……なんかあんまり身体的特徴を誇る事がないのであまり理解しがたいようだが、毛皮を褒められ、撫でたい、と言われるのはア・ラクチャ・ルゥにとっては名誉のようなものだ。

 

 どうやら人間は、進化の過程で毛を失って久しい生き物。かつて自分も持っていたものへの、郷愁のような感情もあるのだろう(と、ア・ラクチャ・ルゥは思っている)。

 

「ぎゃああ、ぎゃあ。ぐぅ(お気になさらず。むしろばっちこいです。今朝も、時間をかけて我がフレンドに手伝ってもらい、ブラッシングしてきた所なのです)」

 

『みゅっふ!』

 

 両腕を広げて、歓迎の意を示す。全く持って、問題はない。大体、スタンの知る人間は顔を合わせるとまず彼の毛皮をワシワシしてくる。ビッグママだけが例外という訳にもいかない。

 

「まじで!? いいの?? そ、それじゃあ……」

 

「ま、まあ、やりすぎない程度でお願いしますね……」

 

「わぁい!」

 

 ちら、と目くばせした先で、人間の雌が苦笑する。許可を受けたと判断して、ビッグママが嬉しそうにこちらに歩み寄ってくる。

 

 その、指先。

 

 こちらに向けて伸ばされる指が、ゆらり、と奇妙な弧を描いた。その動きの滑らかさ、堂の入った構えに、チリ、とスタンの本能が警戒を示したが、しかし、気が付いた時には全てが手遅れだった。

 

 まるで意識の間隙をぬったように、いつの間にかビッグママの指先がスタンを捕らえている。まるで手練れの暗殺者が、そうと知られぬままに標的の頸動脈をかっきる直前のような、淀みなく躊躇いなく、そして決断的な確信をもった指先が、スタンの毛皮に潜り込む。

 

「ぎゅ……?!」

 

「よぉーしよしよしよしよしよしよしよし!!!」

 

 直後。

 

 甘やかな電撃が、スタンの脳の奥で激しくスパークした。

 

「ここかぁ? ここがええんか? わしわしわし!」

 

「あ、あぉおおんんっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※これ以降の描写は、メカポコ・スタン氏の尊厳を守るために省略させていただきます。

 

 しばらく、ボートが湖を渡る牧歌的な映像をお楽しみください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、満足満足。なんて抱き心地のよい毛皮だろう、ちょっと本気を出してしまった……。ふ……っ、また世界を歪めてしまったな……」

 

「あ、あの……スタンさん、ヤバ気な痙攣してるんですけど……」

 

「(びくんびくんびくんびくん)」

 

 同胞達よ。

 

 最後に伝えておく……ビッグママ、おそるべし。がくっ。

 

 

 

 なお、ア・ラクチャ・ルゥでも指折りの戦士であるメカポコ・スタンが、ビッグママに指先一つでダウンさせられたという噂は瞬く間に氏族の間で広まり、以降、ビッグママを見る彼らの目は畏怖と敬意に満ちていたという。

 

 どっとはらい。




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