TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
僕とミー助・出会い編
遠い昔の事だ。
僕達のご先祖様は、悪い奴らにこの島に閉じ込められたのだという。
それからずっと、僕達はこの狭い島の中で苦しみながら、いつか外に出る事を夢見て生き延びてきたんだって。
……本当に?
「食糧が来たぞー!」
空をバタバタと飛ぶ、回る羽の鉄の箱。それがきっちり定刻通りにやってきたのを見て、誰かが声を上げた。
鉄の箱はいつもの定位置に辿り着くと、どすん、とコンテナを落として飛び去っていく。広場の中央に投下されたコンテナに、大人達が我さきに群がった。
その間に、僕も紛れてコンテナに近づく。小さな体を生かして、コンテナの中身を奪い合う大人達の間に紛れて、彼らが取り落とした小さな包みを拾い集める。
「あっ、クソガキ、何してやがる!」
「それは私のよ!」
目敏く僕に気が付いた大人が声を上げた。
ここらが潮時か。手に一杯の包みを抱えてその場を逃げ出す。何人かの大人が僕を追いかけようとしたけど、まだたくさん残っているコンテナとの間で視線をさまよわせて足を止めた。結局、コンテナの方に戻っていく大人達を尻目に、僕は家に戻った。
僕の家は、崩れかけた建物の中だ。屋根が崩れて空が丸見えになっている建物の中に、両親と兄弟達がいる。
「ただいまー。今日はたくさん取れたよ……っ」
戻ってくるなり、僕を歓迎したのは兄さんの蹴りだった。ふっ飛ばされて取り落とした包みを、皆が奪い合うように拾い集める。
いてててて、と身を起こす僕の頭に、丸めた包み紙が投げつけられた。
「これだけかよ、さぼってんじゃないだろうな」
「どうせ陰で自分だけ食べたんだろ、ふざけやがって」
拳を鳴らしながら父さんが向かってくるのを見て、慌ててその場を逃げ出した。父さんは玄関から僕の方を睨みつけていたけど、まだ食料があるからか、引き返して家に戻っていった。たちまち、家の中から喧騒と怒鳴り声が聞こえる。
どうせ明日になったら兄さん辺りが僕を探してうろつくんだろうけど、とりあえず今日はもう怒られる事はないだろう。
僕は小さくため息をついて、海岸の隠れ家に向かった。
垂直に切り立ったような鉄の崖。潮風で朽ち始めているその壁面を慎重に降りていくと、壁の中腹に大きな穴が空いていて、そこから中に入れるようになっている。
中に入ると、ソファや机があって、僕はようやく人心地つけた。
「はあ……」
毎度の事だが、大変だ。食料配給にいくのは一番小さな子供、というのが我が家のルールだが、もう僕には弟が居ないのでずっと僕の仕事になっている。仮に、もし弟がいたとしても、あまり任せたくはない仕事だが。
安心すると、お腹が空いてきた。
僕は部屋の隅、食べ物を貯め込んでいる箱を開いた。
「へへ……」
中に入っているのは、銀色に輝く草の実だ。
島の人達が「悪魔の草」と呼んで毛嫌いしていて、見つかりしだい毟ってしまうこれ。実は食べると滅茶苦茶美味しいしお腹も膨れると知ったのは、一年ぐらい前の事だ。この隠れ家の周辺に時折生えていて、収穫したのをこうして蓄えている。おかげで、空から運ばれてくるご飯を全部家族に取られても飢え死にしないで済んでいる。まあ、おかげで家族にはどこかで勝手に食べてると思われてるみたいだけど……。
「うまうま」
銀色のツブツブを、直接草から毟るようにして食べる。表面はカリッと、中はぷちぷちしているこれはなかなかに食べ飽きない。栄養もあるみたいで、島をうろついてる子供と比べても僕は多分顔色がいい。
どうしてこれを皆食べないんだろう。子供がこれを食べようとすると、大人達は殴って怒る。その大人達も、自分達の親にそうされたから、っていうけど、じゃあ一番最初の大人は、どうしてこれを嫌ったのだろう? 知っている人は誰も居ない。
不思議な事に、大人達が毟った所にはこれはもう生えてこないんだけど、僕が毟った所には何度も生えてくる。まるで、食べてくれる人を選んで生えてくるみたいだ。それも段々、量が増えてる。おかげで飢えとは無縁な生活だ。
これじゃ悪魔の草っていうより、天使の草だよね。見た目も綺麗だし。
ご飯を食べながら、大穴から外を眺める。
どこまでも続く大海原……だけど、時折、それ以外のシルエットが見える事がある。大海原を行く鉄の箱だったり、空を飛ぶ銀色の筒だったり。少し前は、銀色の小鳥が宙を飛んでいるのを見た。あれはなんだったんだろうな。
外の世界には悪魔が住んでいる、と大人達は言うけれど、僕はそうは思わない。こんな狭い島の中で人生を終えるぐらいなら、外に出て知らない世界を見てみたい……そう思うようになったのは、割と最近の事だけど。
「……ん?」
不意に、押し寄せる波の音に、変な音が混じっている事に僕は気が付いた。
かたん、かたん。波の音に重なって、何かが崖にぶつかっている音。
不思議に思って顔を出すと、部屋の穴から少し下、波打ち際でぷかぷか浮いてる丸い物が目に入った。
……卵??
そう。波にゆれて崖に何度もぶつかっているのは、見た事もないほど大きな大きな卵だった。真っ白な殻が、水飛沫を受けて濡れている。
急いでロープと鞄を用意して、僕は下に降りて卵を拾い上げた。抱えるとずしりと重いそれを鞄に閉まって、ロープを手繰り寄せて上に戻る。
「でっかい卵。なんの卵だろう?」
鞄からごろん、と大きな卵を床に転がす。
食べれるのかな? とんとん、と殻を叩いて、僕はそっと耳を寄せてみた。
顔を押し当てた卵は、ほんのり暖かい。もしかして生きているのだろうか。耳を澄ませると、どくん、どくん、と心音のようなものが、卵の中から聞こえてきた。
……生きてる!!
それも、中に何か、赤ちゃんがいる!
「わあ……」
ボロ布で卵を拭くと、僕はそれを抱きかかえたまま部屋の隅に座り込んだ。引き寄せた毛布で、卵ごと自分を包む。
抱きしめると、確かにとくん、とくん、と脈動が体に伝わってくる。
「すごい、生きてる卵だ。何の卵だろう、鳥? トカゲ? 魚じゃあないよなあ、もしかして、恐竜? どれぐらいで生まれてくるんだろう」
それにしても、この卵。抱きしめていると、暖かい。
じんわり温まる僕の体。なんだか、眠気がやってきた。
そのまま僕は、卵を抱きしめたままうとうとしてしまって、いつしか眠りについていた。
どくん。
どくん。
……かり、かりかり。
◆◆
なんだか、腕の中で何かがもぞもぞしている。
自分以外の何かが動く気配に、僕は目を覚ました。
「あれ……寝ちゃってた」
目を擦りながら外を見ると、ちょっとだけ日が傾いてる。眠っちゃったのは数時間ぐらいか。
ぼんやりしていると、腕の中で再び何かが動く。眠気は忽ち吹き飛んで、僕は慌てて毛布を捲った。
「た、卵……卵が、動いてる!?」
腕の中に抱きしめて眠っていた卵。
それが今や、細かく震えながら音を立てている。
中から聞こえるカリカリ、という音。やがてぴしり、と卵の殻に亀裂が入り、僕は卵を抱え上げて右往左往した。
「ど、どうしようどうしよう……!?」
慌てている間にも、少しずつヒビが広がっていく。僕は最終的に、卵をしっかりと抱きしめたまま毛布の上に戻った。
「と、とにかく。様子を見よう……!」
卵が冷えないように体全体で抱きしめながら、再び毛布をかぶる。
そうする間にも、少しずつ砕けていく卵の殻。休憩をはさみながら、中に居る何かが、外へ出ようと必死に頑張っている。
「頑張れ、頑張れ……!」
他に出来る事も思いつかなくて、ただひたすら声援を送る。まるでそれに励まされたかのように、休憩していた何かが勢いよく殻を砕き始めた。
そして、僕は見た。
割れた卵の殻の中で必至に蠢く、か弱く頼りなく、それでも必死に生きようとしている“命”を。
『……みっ、みぃ。……みみぃ……』
「生まれた……!!」
卵の殻から頭を出して、小さく鳴く赤ちゃん。濡れた産毛に包まれたその子を、僕は優しく抱え上げて顔を寄せた。
「がんばったね……えらい、えらいぞ……!」
『み、み、みぃ……。みみぃ……っ。みぃ!』
まだ開かない目を、ぐりぐりと押し付けてくる小さな子供。ほんのり温かいその体が冷えないように、僕は毛布で包んで、ぎゅっ、と優しく抱きしめる。
僕とミー助は、こうして出会ったのだった。
◆◆