TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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僕とミー助・日常編

 

 

 

 

 ミー助と出会ってから、僕の毎日は変わった。

 

 それまでは、特に楽しみもなく、家族の機嫌を伺うばかりの毎日だった。だけど、今は毎日が楽しい。

 

 今日も僕は、受け取った配給を家族の元にもっていった足でミー助の元に向かった。

 

「ミー助? 戻ったよ」

 

 いそいそと崖を下って隠し部屋に飛び込む。いつもと同じ伽藍とした空き部屋には、動く者の気配はない。

 

「あれ、ミー助? おーい」

 

 声をかけても返事はない。

 

 おかしいな、どこにいっちゃったんだろう。

 

 僕は部屋を見渡し、押し入れや机の下を覗き込んでみるがそれらしき姿は見当たらない。

 

「どうしよ……」

 

 部屋で困っていると、お腹がきゅー、と鳴った。

 

 仕方ない。ミー助は心配だけどまずは腹ごしらえだ。

 

 僕は食糧箱に向かうと、かぱっと蓋を勢いよく開けた。

 

 すると。

 

「うわっ?!」

 

『みふふふふ!』

 

 飛び出してくる白い塊。

 

 それに押し倒されるように尻もちをつく僕。そのお腹の上に、ふかふかで温かい存在がのしかかってくる。

 

 真っ白で信じられないほどふわふわ、ふかふかの毛皮。いつもにこにこ笑みを浮かべているような大きな口に、銀色に輝くクリクリとした瞳。手足は短く、鼠というには平べったく、蜥蜴というにはスマートさが足りない。チンチクリンで寸詰まりのもちもち体形の不思議な生物。

 

 みぃみぃ鳴くからミー助。

 

 そう名付けた通りに、その子はみぃみぃ鳴きながら僕の顔を嘗め回した。

 

「ちょっと、くすぐったいよ!」

 

『みぃ~~』

 

 ほんのり生暖かい舌がぺろぺろ僕の顔を嘗め回す。舌の表面は割と乾いていて、べとべとはしない。柔らかで幅広の手で撫でまわされているようだ。

 

 ミー助は、あの日、僕が見つけた卵から生まれた赤ちゃんだ。

 

 あの時は本当にびっくりした。そして当然、生まれたばかりの赤ちゃんを放置する訳にもいかず、かといって頼れる人もおらず、結局、僕は一人でコイツの面倒を見た。

 

 タイミングが良かった。ちょうど配給を持って帰った直後というのもあり、家族は二日ぐらい僕が居なくても気にしない。その間つきっきりで面倒を見たのだけど、数日でミー助は爆速で大きくなり、すぐに一人で歩き回れるようになった。その代償として、僕のため込んでいた銀色の実はほとんどこいつのお腹に納まっちゃったけど。

 

 それから一月ぐらい、僕はこうして暇があればミー助の元にやってきて面倒を見ている。ミー助もこの部屋から悪戯に出歩いたりせずに、大人しく僕が戻ってくるのを待っているけど、寂しいのは寂しいのか、こうして時折しょうもない悪戯をしてくるのだ。

 

「まったく、お前はー。ワシワシワシワシ!」

 

『みっみっみっみっみぃ』

 

 ふわふわの体を持ち上げて、両手でくしゃくしゃに撫でまわす。ミー助はけらけら笑いながらなされるがままだ。ぶわわ、と毛が逆立って、ますますふわふわの毛玉になったミー助を、僕は部屋の中で転がした。

 

「そーれ、ころころころー」

 

『みみみみみみっ♪』

 

 そんでもって、二回り位大きくなったそれを球のように転がす。ミー助も乗り気で丸くなって大回転。ぼふんぼふんする不思議な感触のミー助を部屋三週ぐらい転がして、ようやくこいつは満足したようだった。

 

『みぃふふふ! みぃ~』

 

「あー、よしよし」

 

 脚からよじ登ってきて胸に抱き着いてくる。ふかふか暖かいミー助の背中を撫でてやりながら、僕は部屋の隅にある壊れたソファに腰かけた。はみ出たスプリングに気をつけながらソファに腰かけ、絵本を手に取る。

 

 一週間前に流れ着いた、外の本だ。最近はこれを読みながら、文字の勉強をしている。

 

「ええっと、昨日の続き、っと。何々……『きてぃ は きょうも、ふわふわ、です。おんなのこ の かた? に かぶさって お……そ、とに で、かけ……に? いき、ました』」

 

『みぃみぃ、みるるぅ』

 

 ちょっと詰まりながらも読み上げて確認すると、ミー助が「よくできました!」と褒めてくれる。頭を撫でてくるふわふわの毛玉に、僕は素直にえへへ、と喜んだ。こいつ相手に隠し事したり意地を張ってもしょうがないしね!

 

 僕の言葉の先生はミー助だ。何故か文字が読めるコイツのおかげで、半分ぐらいはわからなかった文字が読めるようになってきた。

 

 いや、最初はさ、熱心にコイツが絵本読んでたから、読み上げてあげようと思ったんだよ。でも考えてみたら文字なんてよく知らなかったからさ……。そしたら、ミー助がおでこをくっつけてきて。そしたらなんだろう、なんとなく、文字の読み方が伝わってきたんだ。

 

 不思議な生き物だよなあ。

 

 一緒に居ると心も体も温かくなれる。絵本に出てくる毛布のキティみたいだ。

 

「あーあ、お前を父ちゃん達に紹介出来て一緒に暮らせたらなあ。でも絶対無理だろうなあ、悪魔だの化け物だの言ってお前を虐めるに決まってるもん」

 

『みるる?』

 

「わっかんないよなあ。分からない物、知らない物はそれでいいじゃん。どうして、分からない物は悪い事、みたいに言うんだろうな」

 

 想像する。

 

 もし家族がコイツを受け入れてくれたら、皆で寒い夜はくっついて眠るのだ。ふわふわで温かいミー助を中心に団子になって布団を被れば、きっと皆暖かい。

 

 だけど現実はそうならない。寒い夜は布団の奪い合いで、いつも僕はそこから蹴りだされて部屋の片隅で震えている。誰だって、自分が幸せでいたいというのは分かるけど、自分だけがそうである事にこだわらなくてもいいんじゃないか。それともこれは僕が弱いからそう思うんだろうか?

 

 わからないなあ。

 

 ぼんやりとミー助を抱きかかえていると、伸びてきた舌がべろり、と僕の頬を舐めあげた。

 

 つづけて、くりくり、と頭を押し付けてくる。赤ちゃんの時から変わらない甘える仕草。

 

「なんだ、お前、僕を慰めてくれてるのか? よしよし」

 

『みぃみぃ』

 

 暖かいなあ。暖かいと、なんだかそれだけで幸せだ。

 

 僕はそのまま、ミー助を抱きしめたまま、気が付けば寝入っていた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 そして、不思議な夢を見た。

 

 銀色の竜にまたがった女の子が、海の向こうを指さしている。

 

 どこまでも続く大海原の向こう。

 

 そこに行けば、幸せになれるのだろうか?

 

 女の子は微笑んで小さく頷いた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 その日も、僕は配給の戦利品を手に家路を急いでいた。

 

 今日はいつもよりちょっとだけ多い。代わりに少し痛い目も見たが、これだけあれば家族も喧嘩せずに仲良く分け合ってくれるかもしれない。

 

「いちち……」

 

 触って確認すると、右目の周りが腫れている。やっぱ大人同士が奪い合っている中に潜り込むのはちょっと無謀だったか。今回は上手くいったけど、次からはもう少しやり方を考えよう。

 

「でもこれだけあれば、皆だって……」

 

 るんるん気分で道を急ぐ。

 

 だけどそんな僕を出迎えたのは、がらんとした誰も居ない家だった。

 

「あ、あれ。お兄ちゃん? 父さん? どこにいるの?」

 

 声をかけてみて回るが、誰の姿もない。

 

 配給を部屋に置いて外に出ている。

 

 大人数の足跡が、海岸に向かって伸びていた。

 

 ……嫌な予感がした。

 

 走ってミー助の元に向かう。

 

「ミー助……!」

 

 予感は、崖に辿り着くと同時に確信に変わった。

 

 岸辺に繋がれたロープが下に伸びている。いつも僕は、戻った後、あれを丸めて岩陰に隠しているのに。

 

 慌てて下に降りて、僕は隠れ家に飛び込んだ。

 

「ミー助!」

 

 部屋は散々な有様だった。机や棚、家具という家具がひっくり返されて、そこら中に中身がぶちまけられている。床に銀色の実がばら撒かれて、ぐしゃぐしゃに踏み砕かれていた。

 

 そこら中足跡だらけの中、僕は必至にミー助の名前を呼んで探し回った。

 

「ミー助! ミー助、どこにいるの!? ミー助!!」

 

 返事はない。

 

 僕は虚脱感のあまり、その場に膝から崩れ落ちた。

 

「みー……すけ……」

 

 目に涙が浮かぶ。

 

 あの子が、何をしたの? どうして、こんなひどい事をするの? どうして、どうして……。

 

 どうして、僕の幸せを、奪うの?

 

 頭の中が疑問符で一杯になって、黒い感情がにょっきり芽を出す、その直前。

 

『………み……』

 

 小さな、小さな声がした。

 

 はっとなって、声の出所を探す。

 

「ミー助!?」

 

『み……』

 

 間違いない。あの子の声だ。

 

 僕は必至に耳を澄ませて、その出所を見つけ出した。

 

「……壊れた、ソファ?」

 

 破れて、中のスプリングと綿が飛び出しているソファ。

 

 いや、まて。

 

 中身の綿、あんなに真っ白だったか? 気のせいか、ソファも妙に膨らんでいる。

 

「もしかして……」

 

 むんず、と綿を掴んでぐい、と引っ張る。すると。

 

『みみぃ!』

 

「ミー助!」

 

 しゅぽん、と引っこ抜かれた白い綿が、ぷはあ、といった感じで声を上げた。

 

 僕はふるふる、と首を振る白い獣を全力で抱きしめる。

 

「お前ー! 心配させやがってー!」

 

『みぃみぃ!』

 

 ぎゅぅ、と力を籠めると、あちらも僕を抱き返してくる。

 

 多分、知らない人達が部屋に入り込んできたので、あわてて隠れたのだろう。その時、わかりやすい棚や机の下じゃなくて、ソファの中身に紛れる、というのはよく考えたものだ。ただ、乱暴に部屋を荒らされる過程でソファがひっくり返された際に、自分で出られなくなったのはおまぬけだが。

 

 何にせよ、無事でよかった!

 

「お前が無事でよかったよ、ミー助……」

 

『むるみみぃ』

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ。そこに隠れてやがったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 はっとして振り返る。

 

 外に通じる壁の大穴。そこから、二番目の兄さんが逆さになって覗き込んでいる。

 

 その口元に、ねちゃりとした笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

 

◆◆

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