TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
無事、島を脱出した僕とミー助。
しかし、ここからが大変だというのは子供の僕にもわかる。
何せ、周囲は見渡す限りの大海原、他の島の陰も見えはしない。どこまでも続く水平線に、僕は途方に暮れていた。
「とりあえず……ここからどうしよっか」
『みふるるる、みぃ。みみみー!』
「いや、流石に適当に漂ってたら僕らが先に餓死しちゃうよ……」
本当だったら、十分な量の銀色の実を蓄えて旅に出るつもりだったのだ。思わぬ形の旅立ちで、あらゆる物が不足している。
何の目印もない中で、一体どこにいけばいいのだろう。空に昇り始めた太陽を前に、僕はぼんやりと考えた。
あ、そういえば。
変な夢を見たような気が……。
「ミー助。東、ってどっちかわかる?」
『みるるる? みぃひ!』
「……流石に、わかんないか。って、わたた」
不意にミー助が回るように動きだして、慌てて毛皮の奥に首を引っ込める。僕を毛皮の中に包んだまま、ボールのように転がって移動を始めるミー助。
どこにいくつもりだよぅ!?
なんだかとっても不安だが、今はミー助に任せる他はない。どのみち、彼が助けてくれなかったらあのまま溺れ死んでいたのだ。
「頼むぞミー助……」
『みぃるるふふ!』
まかせてー! みたいに無邪気な声が返ってきたが、僕は果てしなく心配だった。
それからしばらく、ぐるぐる僕はミー助の毛皮の中でいっしょに回っていた。
ゆっくりといえど、これだけぐるぐる転がされると目が回ってくる。
おまけになんだかお腹も空いてきた。
そういえば、いつものように配給を運んだあとでご飯にするつもりだったから、朝から何にも食べてない……。
どうしよう。海水ってしょっぱいよな。
「お腹空いたな……ととと」
不意に、ミー助の回転が止まる。勢いあまって毛皮の中でぼいんぼいん跳ねる僕。なんとか落ち着いて毛皮を弄ると、外の日差しが差し込んできた。
「ミー助、どうした? お前もお腹が空いたのか?」
『みみるるるむむ。みぃー』
「? どうした、外を見ろって……?」
毛皮からひょこん、と顔を出す。外に広がっていたのは、相変わらずの一面の大海原……ではなく。
「……わあ! すごい! 銀の実の海だ!」
『みゅるるぅ!』
そこに広がっていたのは、波に揺れる銀色の実、その大密集地帯だった。どういう訳か分からないけど、この辺りの海面一面が、銀色の草で覆われている。
これ海藻だったの?!
「海の下、どうなってんだろ……まあいいか! むしろ、むしろ! ご飯だー!」
『みゅふふふ!』
手を伸ばして、届く範囲の銀色をむしりとって口に運ぶ。途端、口の中で弾けるぷちぷち、カリカリとした触感。いつも食べていた奴は素朴な甘みで飽きが来ない味だったけど、これはちょっとほんのり塩味が効いていて少し風味が違う。
生えてる場所で味が違うのかな?
ミー助も膨らんだまま、手あたり次第に千切って口に運ぼうとする。が。
『み………みみみみみ……』
「あっ」
手が届かなくてじたばた。そっか、膨らんでるから口に届かないのね……。
僕は毛皮の上をよじ登って、ミー助の口に銀の実を差し出した。
「はい、あーん。お食べ」
『みふふふるぅ! みふみふ! みぃ~~~』
「ふふふ、そんなに慌てなくても、まだまだたくさんあるからね」
ぱくぱく食べるミー助に、手にした銀草を放り込む。懐かしいな、こいつが小さな時も腕にかかえて、こうやって食べさせてあげたっけ。
『みふぅ~~……』
「満足? よかった」
手にしていた実を全部食べつくして、ミー助はご満悦の様子。僕も嬉しいけど、自分の分が無くなっちゃった。また取らないと。
毛皮を降りて、海に手を伸ばす。……ん?
「あれ? なんか違うのが混じってる……」
さっきは気が付かなかったけど、揺れる銀の穂の間に、なんだか形が違うものが浮いている。ちょっと気になった僕はそれを拾い上げてみた。
「……??? 卵……いや、種?」
それは僕の手に納まらないサイズの楕円形をしていた。ボールにちょっと似ている……卵かと思ったけど、よくみたらはしっこからは蔦が伸びていて、銀草の根元に消えている。似た植物の仲間なのかな? それにしては随分と大きいけど。
「? 中に液体が入ってる? それになんだろ、ほんのりあったかい」
振ると、特有の手応えがする。首を傾げながら僕は手の中で回転させながら不思議な種を観察する。あ、よくみたら蔦が繋がってる先のヘタが取れそうだ。
僕がぎゅっとひっぱると、すぽん、と軽い音を立ててヘタが抜けた。
「え?」
途端に漂う、お腹を刺激するよい香り。すんすん、と鼻で嗅いでみると、取れたヘタの下から漂っているみたいだ。なんだろう、嗅いだことのない匂いだけど、決して嫌じゃない。なんだか食欲を誘う臭い……。
「ごくり」
僕は種を傾けて、中の液体を口に含んだ。
「……!!」
舌の上に広がるのは、ちょうどいい暖かさの、なんだろう。しょっぱさと甘さと知らない味でいっぱいだ。知らない味だけど、一つだけ分かる事がある。
……美味しい!!
「!!!!!」
夢中になって中身を飲み干す。気が付けばすっかり空になってしまった種を、僕は軽く振ってみた。
「中が空洞になって……美味しい汁が入ってる……?」
すごい、銀草の中にはこんなのがあるんだ。やっぱり天使の実じゃないか、これ?
もっと他にないかな。首を巡らせて探すと、すぐ近くにもう一つ隠れていたのを見つける。
蔦を引っ張って手繰り寄せると、今度のそれは縦に切れ目が入っていた。もしかして、ここから開く?
「よっと……」
めりめりめり、と種を二つに割る。途端、凄くいい匂いと蒸気がむわっと立ち込めた。
あまりにいい匂いだったからだろう、満腹でうとうとしていたミー助が反応して声を上げる。
『みみ! みみみみ??』
「なにこれ、すごい……! なんなの、これ」
中に入っていたものに目を奪われる。
種の中はくり抜かれて空洞になっていて、その隙間に別のものが入っていた。つぶつぶの白いツヤツヤとした種の上に、茶色くてサクサクしたものが、黄色いもやもやと一緒にのっている。茶色い汁みたいなのもかかっていて、サクサクしたものが少しだけしんなりしていた。
思わず手で触れると、思ったよりも熱くて「あちち」と僕は手を引いた。これは素手で食べると危なさそうだ。
ちょっと困っていると、剥いだ方の種の皮に目が行く。繊維質なそれを手で引き千切ると、ちょうどヘラのような形の木片ができた。至れり尽くせりだ、これなら火傷せずに食べられそう。
「い、いただきます……!」
恐る恐る中身をすくいあげる。白いツブツブと、茶色い塊、黄色いもやもやを纏めて口の中へ。
あつあつのそれを、ガブリ、と噛みしめる。
すると……。
「~~~~~!!」
白いツブツブは、食べなれた銀の実に似ているけど、もっと柔らかくて優しい味、でも粒は立っていて……それと、茶色い塊は中に何か入ってる? 表面のサクサクと、かかったあまじょっぱい茶色い汁でしっとりした部分とが入り混じって、中身のくにくにしたのは噛みしめるとじゅわあ……と美味しさが染み出してくる。それらを、ほんのり甘い黄色いもやもやが包み込んで、口の中で混ざり合いながら広がって……なにこれ。
美味しい!
美味しすぎる!!
この世界にこんなにおいしい食べ物があったなんて!!
「はふはふっ! はふはふあふっ!!」
僕は夢中でそれを貪った。気が付けば種の中身は空になっていて、確かな満足感がお腹に満ちた。
幸せな気持ちで、ミー助の毛皮の上に横たわる。
「はふぅ……満足……」
手足を伸ばして、青い空を見上げる。こんなに満たされた気持ちは初めてだ。お腹一杯食べられて、横になってても誰も怒らない。ミー助の毛皮の上で、ゆらゆらと波に揺れる。
今この時ばかりは、先の不安も、逃げ出してきた後ろめたさも感じない。ただただ、大切な相手と世界に二人きり、誰にも咎められる事もなく。
不意に、僕は理解できた気がした。
そうか。
幸せって、こういう事を言うのか。
「ミー助、ミー助。僕は、お前に出会えて幸せだよ」
『みるっ!! みふみふっ!』
「お前もそうなのか? だったら僕は嬉しいなあ……」
そのまま僕達はしばらくの間、静かに揺れる銀の海原で穏やかな時間を過ごした。
見上げる先、青空の彼方を、一匹の鳥が飛んでいくのが見える。
銀色に輝く、不思議な鳥。
前にも見た事がある。島の隠れ家の窓から、はるか遠くの宙を飛んでいた。その後に僕は、ミー助と出会った。……もしかして、幸せの鳥、という奴なのだろうか?
幸せの銀の鳥。
それは空を横切って、どこまでも飛んでいく。
どこまでも、どこまでも……。
僕は、その軌跡を見えなくなるまで見送ったのだった。
◆◆
【蛇足】
〇銀ドンブリの種
詳細:ママが復活後、気合を入れて生み出した銀シャリ麦の改良版。アメフトボールぐらいのサイズと形状をしていて、表面は艶やかな銀色。中には無駄に高度なバイオテクノロジーで生み出された食糧が入っている。ラインナップは今の所、コンソメスープ、ハンバーグ、カツ丼、シチュー。救難食でもあるため、飢餓状態の人間が食べても体調を崩さない、吐き戻さない、という特性が与えられている(胃痙攣を押さえる成分や、腸内で有害な細菌類の増殖だけを抑止する選択的抗生物質とでも呼ぶべき成分が含まれている。控えめにいって神の食べ物)。今後もメニューは増やしていく予定。ママ的にはこれを全宇宙に広めたい模様だが、トオル君からストップが入った(無限増殖し、文字通り無から生えてくる料理とか食文化が消滅しかねない)為、地球の一部で限定的に試験運用中である。
ママはしょんぼりした。
ちなみにこれの存在を聞いて一番驚嘆したのはナチュラリストだったりする。試作品を食した彼らの視線は恐怖に近い畏敬に満ちていたらしい(美鶴談)。
◆◆