TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
銀色の実と、銀色の種。
その二つをありったけ収穫した僕らは、再び旅の続きに戻った。
とはいえ、あまり不安や心配はない。
なんせ、銀色の種には食べ物だけでなく、飲み物も入っていたからだ。振ればちゃぷちゃぷするので判別可能だし、周囲が塩辛い海水ばかりでもこれさえあれば、飢える心配も渇く心配もない。少なくとも雨水を貯めて飲んでいた島での生活よりも、よっぽど余裕があるとも言える。
というか、ミー助のふわふわの毛皮の中での生活は正直、今までで一番快適だ。
その事でミー助に何か負担をかけていないかどうかだけが心配事だったが、幸いにしてミー助も膨らんでいる事や海の上に浮かんでいるのはそう辛い事ではないらしくて、問いかけた僕の顔をべろべろ嘗め回してご機嫌な様子だった。
ほんのり爽やかな香りがするミー助の涎塗れにされて、僕はちょっと苦笑い。
何はともかく、東に向かう旅はそうして順調だったのだが……全部が全部、そう上手くいくわけでもなかった。
ごごごご、と遠くから巨大な獣が唸るような音がする。
天地がひっきりなしに上下し、激しい揺れがミー助の中にいる僕まで襲う。積み上げた銀の種や銀の実が毛皮の中でわやくちゃになった。
「ミー助、大丈夫?!」
『みふみふぅ……』
返事も心なしか元気がない。
毛皮の間からちょっとだけ顔を出した僕は、たちまち吹き付ける風と飛び散る塩水の洗礼を受けて、慌てて顔を引っ込めた。
「うわっぷぅ! ああくそ、ついてない、こんな時に嵐だなんて!」
『みぃふ……』
情けない声を上げるミー助。しおしおの顔が目に浮かぶようだ。
これでも今朝までは、平穏そのものだったのだ。青い海に青い空、黄色い太陽と平和極まりない光景が、忽ちのうちに黒い雲に覆われたかと思うと波が高くなった。慌ててミー助の中に隠れたら、いつの間にか大嵐の真っただ中に放り出されていたのだ。
幸い、大波にさらわれてもミー助は沈むことはない……というか、沈んでも浮かぶみたいだから溺れる心配はないけど、浮かぶ事しか出来ないミー助では大嵐になされるがままである。というか毛皮の中にいる僕は大丈夫なだけで、直接波をあびせられ風に吹かれているミー助はもっと大変だろう。
僕はせめてもの気休めに、必死にミー助に声をかけた。
「ミー助、頑張れ! 頑張れ!」
『みる! みるるふふふ! みゅうー!』
「よぉし、お前は強い子だ! 嵐なんかに負けるな! 頑張れ!」
僕の掛け声に、力強い返事が返ってくる。よぉし、その調子だ!
なんておもっていたら……。
「え? うわあああ!?」
『みぃるううー!?』
ぐぐぐぐ、と体が浮かび上がるような感覚。直後、まるで高い所から落とされるような感じと共に、一気にミー助の体ごと沈んでいくような気配。
何事?! さっきまでと全然違う。
っていうかこれもしかして、規格外の高波かなんかにさらわれた!? それで、海の底に沈んでいってる!? あ、いや、でもミー助は浮くから、そのうち……わあ!?
『み(がぼごぼ)みふ(げぼごぼ)みるるふ!?』
「み、ミー助ぇ!?」
ミー助のごぼごぼ音混じりの鳴き声。だけど僕もミー助を心配する所ではなく、激しく振り回される中で必死に毛皮にしがみつくのがやっとだ。
何か、大きな腕で掴まれてぐるぐる振り回されているような感覚。ただの大波じゃない、この螺旋を描くような回転運動……。
嘘、これ、もしかして……渦潮!?
渦潮に巻き込まれてる!?
島の上から海を見ていた時、時折沖合に出来ていた、底なしのすり鉢状の流れを思い返す。あんなのに巻き込まれたら、そのまま海底に一直線だ。いくらミー助が浮くといってもそんなの、浮かんでこれない! このままだとミー助が溺れちゃう!
だ、誰か。
誰か、ミー助を助けて……っ!
『ピルゥ』
「え、あれ?」
不意に、身体を振り回す勢いがなくなる。突如として穏やかになった流れに、すぅーーーっと体が浮かび上がっていく気配。しゅぽん、と僅かな浮遊感の後に、静かに体が上下する、波の揺れが伝わってくる。
これは……ええと?
毛皮から、いそいそと顔を出す。
そこに広がっていたのは……。
「あれ、嵐は……?」
夜のように真っ黒だった嵐の雲。それは今や跡形もなく、頭上にお天道様が光っている。波は荒れているけど、先ほどまでの大津波ではなく、風もちょっと強いだけで人を吹き飛ばすほどではない。
唐突に現れた嵐は、やはり唐突に消え去ってしまっていた。
「……って、それどころじゃない! ミー助、大丈夫?!」
『みるるふにゃあ……』
毛皮をよじ登って顔の部分まで移動すると、毛皮に埋まった目がぐるぐる回って口はだらしなく半開きだった。一応、無事らしい事が確認できて安堵する。
「よかった……ほら、ミー助、起きて。しっかりしろ、ほら」
『……み? みるにゃあ(ぶしゅー)』
頬をぺちぺちすると、どうやら意識を取り戻したらしいミー助。口をすぼめると、飲んでいた海水がぷしゅー、と吹きあがって白い噴水になった。
その水飛沫に、大きな虹が浮かび上がる。
僕はしばらくきょとん、とその様を眺めていたけど、急に浮き上がってきた衝動にお腹を抱えて笑い転げた。
「はは……あはははは! なんだそれ、ミー助! ミー助の噴水! あはははは!」
『みふふふ……(ぶしゅー』
そのまま僕はしばらく笑い転げて、たっぷり水を飲んでいたらしいミー助はその後も潮吹きしながら、虹を空に描いたのであった。
宙の向こうで、銀色の小さな鳥が、ぱたぱたと羽ばたいてどこかへ飛び去っていくのが見えた。
◆◆
さて、嵐はなんとかやりすごしたけど、残念な話が一つある。
「…………どこから来たっけ、僕ら」
『みるふふ……』
そう。
嵐の海にしっちゃかめっちゃかにされている内に、僕ら、どこから来てどこに向かっていたのか、さっぱりわからなくなってしまったのである。
「どうしよう……」
『みふぅ……』
途方にくれる僕ら。
なんせだだっぴろい海の上、目印になるようなものは何もない。食料にはまだ余裕があるけど、いつまでも彷徨っている訳にはいかない。
「ミー助……もし、どうしても駄目だって時には、僕を置いてでもお前は生き延びるんだぞ……」
『みぃふ! みぃみぃ!!』
「そんなの嫌々、って言われても、この状況は……。最悪の結果も考えないと……おや?」
別れたくない、最後まで一緒に居る! と喚くミー助を宥めつつ周囲を見渡していると、ふと気が付いた。
……なんか、海の上に三角形の何かがにょっきり出ている。
あんなのさっきまであったっけ?
じっと見ていると、それはとぷん、と波の下に沈んだ。
「なんだ……?」
『! みふみふ!!』
「え?」
ミー助の警告に振り返るが、遅かった。
一体いつの間に近づいたのか。ミー助を取り囲むように、いくつもの三角形のヒレが海面に出て、ぐるぐる回っている。
色も形も様々だが、それらは同じ目的の元に統一した動きを見せているように見えた。
「ま、まさか……」
ミー助に読みきかせた絵本の話を思い出す。
海の怪物、ジョーンズ。
灰色の体と大きな口を持った海の生き物で、海を泳いでいる人間は疎か、船だって襲って沈めてしまうというとんでもない怪物だ。銃弾も効かず、最後には爆弾を食べさせて倒したそうだけど、ジョーンズはその一匹では終わらず、何十匹もの似たような怪物が次から次に顕れたのだという。それらはZ級と呼ばれて恐れられ、中には嵐に乗って空を飛んだり、陸に上がってきたり、頭が二つあったり、実体の無いお化けだったりもしたらしい……!
嵐。
まさか、さっきの嵐はジョーンズが引き起こしたっていうのか!?
じゃあ、この一杯居るのは、ジョーンズの……群れ!?
「はわわわわ……ジ、ジョーンズだ!? 海の怪物! ほんとにいたんだ!?」
『みふふふ!?』
「だ、大丈夫だ、ミー助! お前だけは、僕が絶対に守ってやるからな!」
ぐるぐる取り囲む背びれ達に啖呵を切る。
途端、ぴたっと背びれ達が動きを止める。
息を呑んだ次の瞬間、一斉に水中に消える背びれ達。
く、来る!
「来るならこい! ミー助には指一本触れさせない!」
『み、みぃい~~(感動で涙目』
覚悟を決めて、連中が出てくるのを待つ。静かな水面……だが僕はその下で、何かが蠢いているのを感じ取った。
そして。
一斉に複数の異形が、水飛沫を上げて飛び掛かってきた。
う、うわあああ、……あ?
『みゃっほーい!!』
『ふしゅるしゃあ!』
『きゅいきゅい!』
中途半端なファイティングポーズのまま固まる僕の目の前で、ミー助の毛皮でバウンドしてはしゃぐ複数の生き物。
それらは、背中に三角形のヒレを持ち……それ以外は、何一つとして被る所のない、変な生き物達だった。
あるものは、円形の体からヒレを生やし、下からは無数のヒゲみたいな足が生えている。あるものは、ピンク色の肌で手足が四つ、平べったい尻尾と三角形のヒレがある。あるものは、三角のヒレが背中だけでなく胸にも二枚生えていて、口が横に開いて目玉が三つあった。
見た事のないすっとんきょうな生き物達。
だけど、そのいずれにも攻撃的な意思はなく。毛皮の上で無邪気にはしゃいでいる様子を見て、僕はなんとなく、ミー助に似ているな、という感想を抱いた。
「……ミー助。知り合い?」
『みるふふふ!』
……え? 兄弟??
◆◆