TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

130 / 145
僕とミー助・名づけ篇

 

 

 大きな鉄の箱……じゅんしせんっていうらしい……に拾ってもらった僕とミー助。

 

 ここの人たちは皆、僕達にとってもやさしかった。

 

 僕達の為に部屋を一つ用意してくれて、綺麗な服も用意してくれた。破れてもいないし変な匂いもしない、まっしろなお洋服なんて僕は初めて見た。

 

 ミー助も、シャンプーっていう石鹸で奇麗にしてくれて、温風の出るドライヤーという道具で乾かしてくれた。もともとふわふわだったミー助の毛皮が、もっともーーーーっとふわふわになったのはビックリした。なんかもう、感触がないくらい。毛の形の空気を纏ってるみたいだった。

 

 あんまりにもふわふわになりすぎて、当のミー助がうまく動けなくなってたのはちょっと笑ったけど。だって、短い手足が毛の中に埋まって床に届かないんだもの。

 

 しかたないから転がって移動すると、床のゴミとかくっついちゃって「せっかく綺麗にしたのに!」って怖いお姉ちゃんに怒られてしまった。

 

 だからそれからずっと僕はミー助をカバンに入れて背負って歩いている。

 

『みみぃ、みぃ!』

 

「ん? あ、そっか。そろそろご飯の時間かな。教えてくれてありがとう」

 

『みゅふ!』

 

 カバンを背負って船べりから海を眺めていると、お昼の時間をミー助が教えてくれた。そろそろお腹もすいてきた所だったので、食堂に向かう。

 

 カンカンカン、と階段を下りていると、ちょうどお昼のチャイムが鳴りはじめた。もう少しするとおじさん達が一斉に食堂にやってくるから、少し早めに行動できると嬉しい。

 

 広い食堂に一番乗りする。これがすぐに一杯になるんだよなあ。

 

「おばさん、今日のご飯はなんですか?」

 

「カレーライスだよぉ。ちょっとまっててね」

 

「わぁい!」

 

 両手を上げて喜ぶと、おばさんはにっこりと微笑んだ。

 

 ここでは、嬉しい事、悲しい事、びっくりした事を周りに伝えてもいい、むしろ伝えて、と言われている。最初は慣れなかったけど、最近はスムーズに表現できるようになった。

 

 これも練習につきあってくれたミー助のおかげだね!

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう!!」

 

 お盆を受け取る。と、同時に、入口のほうがさわがしくなってきた。

 

 おじさん達がやってくるのを見て、僕は出来るだけ隅っこの席に座ってお昼ご飯を食べる事にした。お盆の上には、僕とミー助、二人分のカレーライスがのっかっている。

 

「はい、ミー助」

 

『みゅふぅ!』

 

 カバンから膝の上に降ろしたミー助が、ふるふるふるっ、と毛皮を震わせると、あーん、と口を開いた。

 

 僕はくすりと笑って、スプーンでカレーを口元に運ぶ。

 

 この食器? っていうのも、だいぶ使い方になれてきた。最初はグーで握ったら、持ち方が違うよ、っておじさんに窘められちゃったのを思い出す。

 

 つまむように持つのは指がちょっと難しいけど、確かにこっちの方が使いやすくて食べやすい。何事も練習あるのみだね。

 

「ふふ、ミー助、美味しい?」

 

『みふみふ、みふみふ! みふぅっ!』

 

「そっかそっかー」

 

 はむはむ、と口元を汚しながらカレーをぱくつくミー助。綺麗な毛皮が汚れてるがお構いなしだ。あとでちょっと拭いておこう。

 

 やがて綺麗に自分の分を食べたミー助は、僕のお腹に抱き着いて丸くなる。それを確認してから、僕も自分の分のカレーに手を付ける。

 

 ちょっとだけルーをかき混ぜて、ご飯と一緒に口の中に。

 

 最初にちょっとだけ辛さを感じて、そこから美味しいが口いっぱいに広がる。辛いのも食べられるって、ここにきて初めてしったなあ。

 

 というか、茶色い食べ物にびっくりしたんだよね最初。

 

 泥かと思ったもの。びっくりした僕を、おじさん達がキッチンに連れて行って、作っている過程を見せてくれた。

 

 たくさんの野菜やお肉? を鍋で煮た、灰色っぽい色のスープに、からーいカレールーっていうのを溶かしてカレーが出来上がる一部始終を見せてもらったから今は大丈夫だけど、ほんとに最初は口に運ぶのが怖くて仕方なかった。

 

 カレーに限らず、ここで見るものは何もかもが初めてだ。口の中で弾けて攻撃してくる飲み物とか、硬いのに口の中でゆっくり溶けていく食べ物とか、冷たくて甘いものとか……島では聞いたことも考えた事もない食べ物がたくさん。

 

 食べ物に限らず、道具だって不思議ばかり。動く絵の映る板とか、ひとりでに動き回る機械だとか。

 

 何より一番びっくりしたのは、ミー助と同じような生き物が船にはたくさんいたのだ。

 

 フレンド、っていうらしい。ずっとずっと昔に、人間の友達として神様が遣わした、とても神聖な生き物なんだって。

 

 そしてミー助もそのフレンドらしい。フレンドの卵はたくさんあって、人が仲良くなりたい、って願うと生まれてくるんだそうだ。

 

 ミー助の卵も、何かの拍子で海に落ちた卵が島にたまたま流れ着いたものらしい。もしかすると、ずっと島の周りを漂っていたのかもしれない。

 

 そう考えると、なんだろう。

 

 僕とミー助は出会うべきしてであったというか、とても幸運な出会いだったっていうか。とにかく、ミー助に出会えたのは素晴らしい事だったって気がする。

 

 そしてミー助と出会った事で、僕は島の外に出られた。外に居るのが悪魔なんかじゃなくて、優しくて親切な人たちだって知る事ができた。

 

 島のみんなも、あんな風に外を嫌ってないで、出てみればいいのにね……。

 

「お、坊主。今日も早いな」

 

「おじさん!」

 

 と、そこにお盆をもって、最初に僕にお菓子をくれたおじさんがやってきた。その隣にはおじさんのフレンドがくっついている。三つ目の、口が横に開く不思議な子は、ヒレでてちてち床を歩いて、僕にぺこりと挨拶をした。

 

「今日は何してたんだい?」

 

「えっとね、えっとね、海を見てた! 空を、大きな鉄の翼が、びゅーんと飛んで行ったよ」

 

「ははは、それは飛行機っていうんだよ。フェニックス航空かな。今の地球では欠かせない移動手段だからな、一日中、何度も飛んでるだろう?」

 

 どうやら、おじさんからすると珍しいものでもないらしい。

 

 あんなのが頻繁に空を飛んでるんだ、すごいな!

 

「すっごく早かったよ! 時々見る銀色の鳥さんと、どっちが早いかなあ」

 

「ははは、そりゃあ超音速巡行ができるフェニックスの方が…………ちょいまて、今、なんて?」

 

 不意におじさんが変な顔をする。口元をぐんにゃりとゆがめて、なんだろう。怒ってはいないけど、困惑している?

 

「銀色の……鳥?」

 

「うん。僕がね、島にいたころから時々みるんだ。ミー助と一緒に海を漂ってるときにも何度か見たよ。あの鳥さんを見た後はね、必ずいいことがあるんだ! ミー助の卵が流れ着いたり、美味しいごはんが見つかったり、嵐が消えたり! きっと幸せの銀色の鳥なんだ!」

 

「お……おぅ。えっと……もしかして、それって、こんなの……?」

 

 困惑しながら、おじさんが光る板を操作している。そこに表示されているのは、銀色の翼を持った鳥さんの姿。

 

「あ、これだ! おじさん、知ってるの!? 僕こんな近くで見た事ないよ」

 

「い、いや、知ってるも何も……え? マジ??」

 

 なんだかすごく困惑するおじさん。どうしたんだろう?

 

「……何か、見えるといけないの?」

 

「いや!? そんな事はないぞ!? そ、そうだな、幸せの鳥、というのは間違ってないな、うん。その鳥の見えてる範囲で、不幸な事は起きようがないというか、消し飛ばされるというか……いや、まて、嵐が急に消えた原因って……ちょ、ちょっとおじさん急用ができたから、これで!!」

 

 急に立ち上がって、おじさんがどこかに走っていく。「大変だぁー!? 神獣筆頭様が地球に来てるぅー!」なんて食堂を飛び出すおじさんの言葉に、ガタタッ、とほかのおじさん達も顔色をかえて立ち上がる。皆がどたばたと出て行って、食堂の人が半分ぐらいになった。

 

「……ど、どうしたんだろ、ねえミー助?」

 

『ミフフフフフ(ガタガタブルブル)』

 

「ちょ、どうしたの!? 寒いの?!」

 

 何故か小刻みに震えるミー助を抱きしめて撫でさする。嵐の話題をするといつもへんな感じになるんだよね、やっぱりおぼれかけたのが怖い思い出なんだろうか。

 

『フシュフシュ』

 

 そして対面では、おじさんのフレンドが残されたカレーを口のなかに流し込んでた。食べ方がワイルド……。

 

 

 

 

 

 その晩。

 

 僕は不意に目が覚めて、ベッドから身を起こした。

 

「んぅ……みーすけ……?」

 

『Zzzz』

 

 同じベッドの中で爆睡しているミー助。ちょっと首をかしげて、僕はミー助を抱きかかえたまま、部屋を出た。

 

 外は真っ暗。でも窓から月の光が差し込んで、ほんのり廊下を照らしている。波は静かで、ざざーん、ざざーんと小さな響きが延々と続いていた。

 

 呼ばれている。

 

 そんな気がする。

 

「だれ……?」

 

 目をこすりながら、船の甲板にでる。

 

 広い広いお舟の甲板。普段は休みのおじさんがスポーツをしてたり、フレンド達が遊んでいるその広場。

 

 そこに先客がいた。

 

「…………?」

 

 月光の光を浴びて、白いワンピースの女の子がこちらに背を向けて、空を見ている。

 

 知らない子だ。この船にあんな子がいたのかな。誰かの家族だろうか。

 

 僕はびっくりさせないように、小さな声であいさつをした。

 

「こんばんわ」

 

「……ああ、こんばんは」

 

 少女が振り返る。黒い髪がふわりと揺れて……なんだろう、きらり、と蒼く輝いた気がした。

 

 白いワンピースの少女は僕の前まで歩いてくると、腕を後ろ手に組んで小さく頭を下げた。

 

「今日はよい夜だね」

 

「う、うん。でも夜更かしはよくないよ。おじさん達がそういってた」

 

「ふふ、そうだね。だからちょっとだけ、おしゃべりに付き合ってくれないかな。そしたら、私もよく眠れるから」

 

 なんだろう、女の子の声を聞いていると頭がふわふわする。

 

 ぼんやりしていると、腕の中のミー助がじたばたと暴れ始めた。

 

 目が覚めたみたい。相棒は、短い手足を伸ばして、必死に女の子にしがみつこうとする。

 

『みー、みふー! みふふ!』

 

「あ、こら、ミー助、ダメだよ迷惑かけちゃ」

 

「ふふふ、いいよ。私は気にしないから、おいで」

 

 え、いいの? 困惑しつつもミー助を差し出すと、女の子は優しく相棒を抱きかかえた。

 

 なんかすごいしっくりくる感じで腕に抱き、小さく揺らしながら頭を撫でてる。

 

「~~~♪」

 

「わあ……」

 

 そして爆速でミー助がおねむになった。これはもう絶対に目が覚めないぞ、という感じで瞼を閉じて爆睡中である。

 

「すごいね、慣れてるの?」

 

「そうだね……小さい子の面倒は、特にね」

 

「そっかあ……じゃあ、君のフレンドは幸せだね!」

 

 素直な感想を言うと、女の子はビックリしたように目を丸くした。その瞳の奥が、夜空のように青く輝いている気がして、僕は思わず息を呑んだ。

 

 吸い込まれそうな、青い瞳。綺麗だな。

 

「……どうして、そう思うの?」

 

「だって、優しく抱きしめられるのって、幸せな気持ちになるもの。好きー、って気持ちで、胸がいっぱいになる。僕もね、ミー助に抱きしめられるとね、胸がきゅーーっとする。君はとっても抱きしめるのが上手だったから、きっとすごく幸せな気分になると思うよ。ミー助だって、そんなに幸せそうにねむってるの、僕は初めて見たよ。うらやましいな、ちょっとくやしい」

 

「……そっか……そっかあ」

 

 女の子は何かをかみしめるように頷き、そっとミー助を返してくれた。ふわふわぬくぬくで静かに胸を上下させる相棒を抱きかかえる。

 

「そっか、君のフレンドは部屋で寝てるのかな? 爆睡して起きないとか」

 

「……そう思う?」

 

「思うよー」

 

 だってミー助がこのありさまだし。たぶん、バスケットボールにしても目覚めないぞコレ。

 

「そうか……幸せか。でも、目が覚めてしまったら、それもどこかにいってしまうと思わないかい」

 

「? よくわからない。幸せって、無くなるの?」

 

「……き、君はそうは思わないのか?」

 

 うん。だって辛い事と幸せな事って別の事だもの。

 

「明日、僕の苦手な食べ物がでてきてうげー、ってなっても、今日カレーが美味しかったー、って事実はなくならないもの。それはそれ、これはこれだよ」

 

「そうか……ああ、そうだよな。幸せだったって事を私が覚えてる限り、それはなくなったりしないものな……。過去は、消えないけど、無くなりもしない……」

 

 顔を押さえて、なんだか女の子は嬉しそうだ。

 

 変な事をいう子だなあ。

 

「すまない、君と話しに来たのに、色々助けられちゃったな。お礼がしたい、何か望みはあるか?」

 

「望み? うーーん、いきなり言われても……」

 

「ちょっとぐらい無茶ぶりでもいいぞ。私なら多少の事はかなえてあげられる」

 

 悩んでいるとそんな事を女の子が言う。ええー? 本当?

 

「君だって小さな子供じゃないか。そんな大したことができるの? 例えばさ、自販機のジュースを買い占めるとか。おじさん達だって出来ないよ」

 

「いや楽勝だが。なんならこの船にある全ての自販機の中身と食堂のメニューを買い占めるとか楽勝だぞ」

 

「君は……もしかして神様なの……?!」

 

 女の子はとんでもない人だった。

 

 え、もしかして僕、とんでもなく失礼な事をしてる!?

 

 顔を青くしてミー助を盾にするみたいに掲げていると、女の子がきょとん、として、続けて爆笑し始めた。え、何。怖い。

 

「……ぶっ! ぶははははは! ひーー、ひひーー、そ、そうだな、はははは、子供からみたらそうなるかもな! あははははは、ひぃー、おかしっ!」

 

「そ、そんなに笑わないでよぉ……」

 

「ふふふ、悪い悪い。まあそんな訳だから、深い事考えずに望みを言ってごらん。お空の向こうを旅したい、とかでもいいぞ」

 

 指を立てて促してくる女の子。んー。と。

 

 本当に。本当に、どんな願いでも叶うなら……僕が望むのは。

 

「……本当に? 本当に何でもいいんだよね?」

 

「まあ、無理なものはあるが。言うだけいってみなさい、ほら」

 

「じゃあ……島の人たちに、外は楽しい場所だよ、って伝える事は、できる?」

 

 僕の言葉に、女の子は心底困惑したように目を見開いた。

 

「…………は?」

 

「だ、ダメ?」

 

「ダメじゃないが……いいのか? 君だって、ここで暮らすようになって、自分がどういう扱いをされていたのか、理解出来てきただろう?」

 

 女の子は眉をひそめて、ふきげんそうに問いかけてきた。

 

 う、うん。それは、なんとなくわかる。

 

「ここでの扱いが“当たり前”なんだ。君が島で受けていたのは、嫌がらせ……いや、もっとひどい事だ。君は、その事を恨む正当な権利がある」

 

「それは、そうなんだけどさ……。だからって、やり返したい訳じゃないんだ」

 

 ぎゅ、っとミー助を抱きしめる。

 

 そうだ、僕はミー助に出会えて幸せになれた。

 

 それは逆に言えばそれまで幸せじゃなかったという事だ。

 

 だけどそれは、あの島では当たり前の事なんだ。

 

「あそこには、幸せがないんだ。誰も彼も、幸せを知らないまま生きている。それがあそこの当たり前で……きっと、それが一番よくない事なんだ」

 

「……ふむ」

 

「みんながみんな、ミー助みたいなのと仲良くはできないと思うよ。だけど、きっと、他にも本当は、幸せになりたい奴はいる。ただ、何が幸せかわからないままで……そのまま死んでいくなんて、きっと、悲しいと思うんだ」

 

 僕の気持ちが、ただしく伝わるかは自信がない。それでも、言葉を選んで、女の子に訴える。

 

「お願い。僕の願いをかなえてくれるなら……島の人たちに、島の中では手に入らない物を、教えてあげてほしい」

 

「……わかった。君の願いを叶えよう」

 

 女の子は神妙にうなずき、不意に僕に体を寄せてきた。

 

 ぎゅっ、と手が背中に回される。

 

 女の子に抱きしめられているのだと、遅れて僕は理解した。

 

「あ……」

 

「君は、良い子だ」

 

 耳元で、ため息のように女の子がつぶやく。とくとく、という心音と、暖かな体温が伝わってきて、僕はなんだか、不思議な気持ちになった。

 

 心が安らぐような。これまでの苦しみが、風船のように浮かんでいくというか。心が、ふわふわとして、でもしっとりとして。

 

 なんだろう。

 

 知らない。僕は、これを知らなかった。今まで。

 

「よかった。私は、私のこれまでを誇りに思える。君に出会えて、本当によかった……」

 

「あ、あの……」

 

「任せたまえ。とはいっても結局人だよりだが……まあ、なんとかしてみよう」

 

 女の子が体を離す。

 

 それをちょっともったいなく思いながらも、彼女の真摯な視線に、僕はこくん、と頷いた。

 

「よろしく、お願いします」

 

「うむ。……ふふ、話が長くなってしまったな。夜風は体に響く……早く部屋に戻って、ベッドに入りなさい」

 

「わ、わかった。おやすみ……あ、そうだ」

 

 船の中に戻ろうとして、ふと僕は大事な事を忘れていた事に思い当たった。

 

「な、名前! 君の名前は?」

 

「……零士だ。そういう君の名前は?」

 

「……ぼ、ぼく。島では4番って呼ばれてて……でもこれ、名前じゃないんだよね……」

 

 そう、僕には人に教えるような名前がない。名前があるのが普通の事だと、ここにきて初めてしった。ちょっと恥ずかしい。

 

 顔を赤くしてミー助の毛皮に隠していると、女の子がくすり、と笑う気配があった。

 

「じゃあ、君は今日からジュンイチと名乗れ。純粋のジュンに、一番のイチだ。あとで、大人に書き方を教えてもらいなさい」

 

「え、いいの? 僕に名前、くれるの?」

 

「ああ。私からのでよければ」

 

 僕は顔をぶんぶんと横に振る。胸がバクバクしていて、足が床からはなれそうだ。

 

「う、ううん! そんな事ない! 僕はジュンイチ……ジュンイチ!! 僕はジュンイチだ! ありがとう、レイジ! 名前を、ありがとう!」

 

「ふふ。そんなに喜ばれると逆に困ってしまうな。……ほら、部屋に戻りなさい。よい夢を」

 

「うん! ありがと!!」

 

 そして僕は手を振り、背を向け、そしてまた振り返って手を振る。何度も何度も手を振り返す僕に、レイジはにこにこ笑いながら、手をずっと振りかえしてくれた。

 

 興奮したまま部屋に戻り、ベッドに戻ると、不意にすぅっと眠気が襲ってくる。

 

 そのまま僕は、幸せな気持ちで夢の世界に旅立ったのだった。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 おじさん達にその話をしたら、机ごとひっくり返ってしまった。

 

 びっくりした。

 

 

 

◆◆

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。