TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
大きな鉄の箱……じゅんしせんっていうらしい……に拾ってもらった僕とミー助。
ここの人たちは皆、僕達にとってもやさしかった。
僕達の為に部屋を一つ用意してくれて、綺麗な服も用意してくれた。破れてもいないし変な匂いもしない、まっしろなお洋服なんて僕は初めて見た。
ミー助も、シャンプーっていう石鹸で奇麗にしてくれて、温風の出るドライヤーという道具で乾かしてくれた。もともとふわふわだったミー助の毛皮が、もっともーーーーっとふわふわになったのはビックリした。なんかもう、感触がないくらい。毛の形の空気を纏ってるみたいだった。
あんまりにもふわふわになりすぎて、当のミー助がうまく動けなくなってたのはちょっと笑ったけど。だって、短い手足が毛の中に埋まって床に届かないんだもの。
しかたないから転がって移動すると、床のゴミとかくっついちゃって「せっかく綺麗にしたのに!」って怖いお姉ちゃんに怒られてしまった。
だからそれからずっと僕はミー助をカバンに入れて背負って歩いている。
『みみぃ、みぃ!』
「ん? あ、そっか。そろそろご飯の時間かな。教えてくれてありがとう」
『みゅふ!』
カバンを背負って船べりから海を眺めていると、お昼の時間をミー助が教えてくれた。そろそろお腹もすいてきた所だったので、食堂に向かう。
カンカンカン、と階段を下りていると、ちょうどお昼のチャイムが鳴りはじめた。もう少しするとおじさん達が一斉に食堂にやってくるから、少し早めに行動できると嬉しい。
広い食堂に一番乗りする。これがすぐに一杯になるんだよなあ。
「おばさん、今日のご飯はなんですか?」
「カレーライスだよぉ。ちょっとまっててね」
「わぁい!」
両手を上げて喜ぶと、おばさんはにっこりと微笑んだ。
ここでは、嬉しい事、悲しい事、びっくりした事を周りに伝えてもいい、むしろ伝えて、と言われている。最初は慣れなかったけど、最近はスムーズに表現できるようになった。
これも練習につきあってくれたミー助のおかげだね!
「はい、どうぞ」
「ありがとう!!」
お盆を受け取る。と、同時に、入口のほうがさわがしくなってきた。
おじさん達がやってくるのを見て、僕は出来るだけ隅っこの席に座ってお昼ご飯を食べる事にした。お盆の上には、僕とミー助、二人分のカレーライスがのっかっている。
「はい、ミー助」
『みゅふぅ!』
カバンから膝の上に降ろしたミー助が、ふるふるふるっ、と毛皮を震わせると、あーん、と口を開いた。
僕はくすりと笑って、スプーンでカレーを口元に運ぶ。
この食器? っていうのも、だいぶ使い方になれてきた。最初はグーで握ったら、持ち方が違うよ、っておじさんに窘められちゃったのを思い出す。
つまむように持つのは指がちょっと難しいけど、確かにこっちの方が使いやすくて食べやすい。何事も練習あるのみだね。
「ふふ、ミー助、美味しい?」
『みふみふ、みふみふ! みふぅっ!』
「そっかそっかー」
はむはむ、と口元を汚しながらカレーをぱくつくミー助。綺麗な毛皮が汚れてるがお構いなしだ。あとでちょっと拭いておこう。
やがて綺麗に自分の分を食べたミー助は、僕のお腹に抱き着いて丸くなる。それを確認してから、僕も自分の分のカレーに手を付ける。
ちょっとだけルーをかき混ぜて、ご飯と一緒に口の中に。
最初にちょっとだけ辛さを感じて、そこから美味しいが口いっぱいに広がる。辛いのも食べられるって、ここにきて初めてしったなあ。
というか、茶色い食べ物にびっくりしたんだよね最初。
泥かと思ったもの。びっくりした僕を、おじさん達がキッチンに連れて行って、作っている過程を見せてくれた。
たくさんの野菜やお肉? を鍋で煮た、灰色っぽい色のスープに、からーいカレールーっていうのを溶かしてカレーが出来上がる一部始終を見せてもらったから今は大丈夫だけど、ほんとに最初は口に運ぶのが怖くて仕方なかった。
カレーに限らず、ここで見るものは何もかもが初めてだ。口の中で弾けて攻撃してくる飲み物とか、硬いのに口の中でゆっくり溶けていく食べ物とか、冷たくて甘いものとか……島では聞いたことも考えた事もない食べ物がたくさん。
食べ物に限らず、道具だって不思議ばかり。動く絵の映る板とか、ひとりでに動き回る機械だとか。
何より一番びっくりしたのは、ミー助と同じような生き物が船にはたくさんいたのだ。
フレンド、っていうらしい。ずっとずっと昔に、人間の友達として神様が遣わした、とても神聖な生き物なんだって。
そしてミー助もそのフレンドらしい。フレンドの卵はたくさんあって、人が仲良くなりたい、って願うと生まれてくるんだそうだ。
ミー助の卵も、何かの拍子で海に落ちた卵が島にたまたま流れ着いたものらしい。もしかすると、ずっと島の周りを漂っていたのかもしれない。
そう考えると、なんだろう。
僕とミー助は出会うべきしてであったというか、とても幸運な出会いだったっていうか。とにかく、ミー助に出会えたのは素晴らしい事だったって気がする。
そしてミー助と出会った事で、僕は島の外に出られた。外に居るのが悪魔なんかじゃなくて、優しくて親切な人たちだって知る事ができた。
島のみんなも、あんな風に外を嫌ってないで、出てみればいいのにね……。
「お、坊主。今日も早いな」
「おじさん!」
と、そこにお盆をもって、最初に僕にお菓子をくれたおじさんがやってきた。その隣にはおじさんのフレンドがくっついている。三つ目の、口が横に開く不思議な子は、ヒレでてちてち床を歩いて、僕にぺこりと挨拶をした。
「今日は何してたんだい?」
「えっとね、えっとね、海を見てた! 空を、大きな鉄の翼が、びゅーんと飛んで行ったよ」
「ははは、それは飛行機っていうんだよ。フェニックス航空かな。今の地球では欠かせない移動手段だからな、一日中、何度も飛んでるだろう?」
どうやら、おじさんからすると珍しいものでもないらしい。
あんなのが頻繁に空を飛んでるんだ、すごいな!
「すっごく早かったよ! 時々見る銀色の鳥さんと、どっちが早いかなあ」
「ははは、そりゃあ超音速巡行ができるフェニックスの方が…………ちょいまて、今、なんて?」
不意におじさんが変な顔をする。口元をぐんにゃりとゆがめて、なんだろう。怒ってはいないけど、困惑している?
「銀色の……鳥?」
「うん。僕がね、島にいたころから時々みるんだ。ミー助と一緒に海を漂ってるときにも何度か見たよ。あの鳥さんを見た後はね、必ずいいことがあるんだ! ミー助の卵が流れ着いたり、美味しいごはんが見つかったり、嵐が消えたり! きっと幸せの銀色の鳥なんだ!」
「お……おぅ。えっと……もしかして、それって、こんなの……?」
困惑しながら、おじさんが光る板を操作している。そこに表示されているのは、銀色の翼を持った鳥さんの姿。
「あ、これだ! おじさん、知ってるの!? 僕こんな近くで見た事ないよ」
「い、いや、知ってるも何も……え? マジ??」
なんだかすごく困惑するおじさん。どうしたんだろう?
「……何か、見えるといけないの?」
「いや!? そんな事はないぞ!? そ、そうだな、幸せの鳥、というのは間違ってないな、うん。その鳥の見えてる範囲で、不幸な事は起きようがないというか、消し飛ばされるというか……いや、まて、嵐が急に消えた原因って……ちょ、ちょっとおじさん急用ができたから、これで!!」
急に立ち上がって、おじさんがどこかに走っていく。「大変だぁー!? 神獣筆頭様が地球に来てるぅー!」なんて食堂を飛び出すおじさんの言葉に、ガタタッ、とほかのおじさん達も顔色をかえて立ち上がる。皆がどたばたと出て行って、食堂の人が半分ぐらいになった。
「……ど、どうしたんだろ、ねえミー助?」
『ミフフフフフ(ガタガタブルブル)』
「ちょ、どうしたの!? 寒いの?!」
何故か小刻みに震えるミー助を抱きしめて撫でさする。嵐の話題をするといつもへんな感じになるんだよね、やっぱりおぼれかけたのが怖い思い出なんだろうか。
『フシュフシュ』
そして対面では、おじさんのフレンドが残されたカレーを口のなかに流し込んでた。食べ方がワイルド……。
その晩。
僕は不意に目が覚めて、ベッドから身を起こした。
「んぅ……みーすけ……?」
『Zzzz』
同じベッドの中で爆睡しているミー助。ちょっと首をかしげて、僕はミー助を抱きかかえたまま、部屋を出た。
外は真っ暗。でも窓から月の光が差し込んで、ほんのり廊下を照らしている。波は静かで、ざざーん、ざざーんと小さな響きが延々と続いていた。
呼ばれている。
そんな気がする。
「だれ……?」
目をこすりながら、船の甲板にでる。
広い広いお舟の甲板。普段は休みのおじさんがスポーツをしてたり、フレンド達が遊んでいるその広場。
そこに先客がいた。
「…………?」
月光の光を浴びて、白いワンピースの女の子がこちらに背を向けて、空を見ている。
知らない子だ。この船にあんな子がいたのかな。誰かの家族だろうか。
僕はびっくりさせないように、小さな声であいさつをした。
「こんばんわ」
「……ああ、こんばんは」
少女が振り返る。黒い髪がふわりと揺れて……なんだろう、きらり、と蒼く輝いた気がした。
白いワンピースの少女は僕の前まで歩いてくると、腕を後ろ手に組んで小さく頭を下げた。
「今日はよい夜だね」
「う、うん。でも夜更かしはよくないよ。おじさん達がそういってた」
「ふふ、そうだね。だからちょっとだけ、おしゃべりに付き合ってくれないかな。そしたら、私もよく眠れるから」
なんだろう、女の子の声を聞いていると頭がふわふわする。
ぼんやりしていると、腕の中のミー助がじたばたと暴れ始めた。
目が覚めたみたい。相棒は、短い手足を伸ばして、必死に女の子にしがみつこうとする。
『みー、みふー! みふふ!』
「あ、こら、ミー助、ダメだよ迷惑かけちゃ」
「ふふふ、いいよ。私は気にしないから、おいで」
え、いいの? 困惑しつつもミー助を差し出すと、女の子は優しく相棒を抱きかかえた。
なんかすごいしっくりくる感じで腕に抱き、小さく揺らしながら頭を撫でてる。
「~~~♪」
「わあ……」
そして爆速でミー助がおねむになった。これはもう絶対に目が覚めないぞ、という感じで瞼を閉じて爆睡中である。
「すごいね、慣れてるの?」
「そうだね……小さい子の面倒は、特にね」
「そっかあ……じゃあ、君のフレンドは幸せだね!」
素直な感想を言うと、女の子はビックリしたように目を丸くした。その瞳の奥が、夜空のように青く輝いている気がして、僕は思わず息を呑んだ。
吸い込まれそうな、青い瞳。綺麗だな。
「……どうして、そう思うの?」
「だって、優しく抱きしめられるのって、幸せな気持ちになるもの。好きー、って気持ちで、胸がいっぱいになる。僕もね、ミー助に抱きしめられるとね、胸がきゅーーっとする。君はとっても抱きしめるのが上手だったから、きっとすごく幸せな気分になると思うよ。ミー助だって、そんなに幸せそうにねむってるの、僕は初めて見たよ。うらやましいな、ちょっとくやしい」
「……そっか……そっかあ」
女の子は何かをかみしめるように頷き、そっとミー助を返してくれた。ふわふわぬくぬくで静かに胸を上下させる相棒を抱きかかえる。
「そっか、君のフレンドは部屋で寝てるのかな? 爆睡して起きないとか」
「……そう思う?」
「思うよー」
だってミー助がこのありさまだし。たぶん、バスケットボールにしても目覚めないぞコレ。
「そうか……幸せか。でも、目が覚めてしまったら、それもどこかにいってしまうと思わないかい」
「? よくわからない。幸せって、無くなるの?」
「……き、君はそうは思わないのか?」
うん。だって辛い事と幸せな事って別の事だもの。
「明日、僕の苦手な食べ物がでてきてうげー、ってなっても、今日カレーが美味しかったー、って事実はなくならないもの。それはそれ、これはこれだよ」
「そうか……ああ、そうだよな。幸せだったって事を私が覚えてる限り、それはなくなったりしないものな……。過去は、消えないけど、無くなりもしない……」
顔を押さえて、なんだか女の子は嬉しそうだ。
変な事をいう子だなあ。
「すまない、君と話しに来たのに、色々助けられちゃったな。お礼がしたい、何か望みはあるか?」
「望み? うーーん、いきなり言われても……」
「ちょっとぐらい無茶ぶりでもいいぞ。私なら多少の事はかなえてあげられる」
悩んでいるとそんな事を女の子が言う。ええー? 本当?
「君だって小さな子供じゃないか。そんな大したことができるの? 例えばさ、自販機のジュースを買い占めるとか。おじさん達だって出来ないよ」
「いや楽勝だが。なんならこの船にある全ての自販機の中身と食堂のメニューを買い占めるとか楽勝だぞ」
「君は……もしかして神様なの……?!」
女の子はとんでもない人だった。
え、もしかして僕、とんでもなく失礼な事をしてる!?
顔を青くしてミー助を盾にするみたいに掲げていると、女の子がきょとん、として、続けて爆笑し始めた。え、何。怖い。
「……ぶっ! ぶははははは! ひーー、ひひーー、そ、そうだな、はははは、子供からみたらそうなるかもな! あははははは、ひぃー、おかしっ!」
「そ、そんなに笑わないでよぉ……」
「ふふふ、悪い悪い。まあそんな訳だから、深い事考えずに望みを言ってごらん。お空の向こうを旅したい、とかでもいいぞ」
指を立てて促してくる女の子。んー。と。
本当に。本当に、どんな願いでも叶うなら……僕が望むのは。
「……本当に? 本当に何でもいいんだよね?」
「まあ、無理なものはあるが。言うだけいってみなさい、ほら」
「じゃあ……島の人たちに、外は楽しい場所だよ、って伝える事は、できる?」
僕の言葉に、女の子は心底困惑したように目を見開いた。
「…………は?」
「だ、ダメ?」
「ダメじゃないが……いいのか? 君だって、ここで暮らすようになって、自分がどういう扱いをされていたのか、理解出来てきただろう?」
女の子は眉をひそめて、ふきげんそうに問いかけてきた。
う、うん。それは、なんとなくわかる。
「ここでの扱いが“当たり前”なんだ。君が島で受けていたのは、嫌がらせ……いや、もっとひどい事だ。君は、その事を恨む正当な権利がある」
「それは、そうなんだけどさ……。だからって、やり返したい訳じゃないんだ」
ぎゅ、っとミー助を抱きしめる。
そうだ、僕はミー助に出会えて幸せになれた。
それは逆に言えばそれまで幸せじゃなかったという事だ。
だけどそれは、あの島では当たり前の事なんだ。
「あそこには、幸せがないんだ。誰も彼も、幸せを知らないまま生きている。それがあそこの当たり前で……きっと、それが一番よくない事なんだ」
「……ふむ」
「みんながみんな、ミー助みたいなのと仲良くはできないと思うよ。だけど、きっと、他にも本当は、幸せになりたい奴はいる。ただ、何が幸せかわからないままで……そのまま死んでいくなんて、きっと、悲しいと思うんだ」
僕の気持ちが、ただしく伝わるかは自信がない。それでも、言葉を選んで、女の子に訴える。
「お願い。僕の願いをかなえてくれるなら……島の人たちに、島の中では手に入らない物を、教えてあげてほしい」
「……わかった。君の願いを叶えよう」
女の子は神妙にうなずき、不意に僕に体を寄せてきた。
ぎゅっ、と手が背中に回される。
女の子に抱きしめられているのだと、遅れて僕は理解した。
「あ……」
「君は、良い子だ」
耳元で、ため息のように女の子がつぶやく。とくとく、という心音と、暖かな体温が伝わってきて、僕はなんだか、不思議な気持ちになった。
心が安らぐような。これまでの苦しみが、風船のように浮かんでいくというか。心が、ふわふわとして、でもしっとりとして。
なんだろう。
知らない。僕は、これを知らなかった。今まで。
「よかった。私は、私のこれまでを誇りに思える。君に出会えて、本当によかった……」
「あ、あの……」
「任せたまえ。とはいっても結局人だよりだが……まあ、なんとかしてみよう」
女の子が体を離す。
それをちょっともったいなく思いながらも、彼女の真摯な視線に、僕はこくん、と頷いた。
「よろしく、お願いします」
「うむ。……ふふ、話が長くなってしまったな。夜風は体に響く……早く部屋に戻って、ベッドに入りなさい」
「わ、わかった。おやすみ……あ、そうだ」
船の中に戻ろうとして、ふと僕は大事な事を忘れていた事に思い当たった。
「な、名前! 君の名前は?」
「……零士だ。そういう君の名前は?」
「……ぼ、ぼく。島では4番って呼ばれてて……でもこれ、名前じゃないんだよね……」
そう、僕には人に教えるような名前がない。名前があるのが普通の事だと、ここにきて初めてしった。ちょっと恥ずかしい。
顔を赤くしてミー助の毛皮に隠していると、女の子がくすり、と笑う気配があった。
「じゃあ、君は今日からジュンイチと名乗れ。純粋のジュンに、一番のイチだ。あとで、大人に書き方を教えてもらいなさい」
「え、いいの? 僕に名前、くれるの?」
「ああ。私からのでよければ」
僕は顔をぶんぶんと横に振る。胸がバクバクしていて、足が床からはなれそうだ。
「う、ううん! そんな事ない! 僕はジュンイチ……ジュンイチ!! 僕はジュンイチだ! ありがとう、レイジ! 名前を、ありがとう!」
「ふふ。そんなに喜ばれると逆に困ってしまうな。……ほら、部屋に戻りなさい。よい夢を」
「うん! ありがと!!」
そして僕は手を振り、背を向け、そしてまた振り返って手を振る。何度も何度も手を振り返す僕に、レイジはにこにこ笑いながら、手をずっと振りかえしてくれた。
興奮したまま部屋に戻り、ベッドに戻ると、不意にすぅっと眠気が襲ってくる。
そのまま僕は、幸せな気持ちで夢の世界に旅立ったのだった。
翌日。
おじさん達にその話をしたら、机ごとひっくり返ってしまった。
びっくりした。
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