TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
宇宙の果てで、戦いは続いている。
終わることなく。
終わらせることなく。
「グレイ02、搭乗準備完了した。フレンド神経接続確認。オールグリーン」
『ぴーぴぴー!』
『了解しました、グレイ02。発進コースに移動してください』
攻撃空母の中、出撃準備を整えたグレイ02の愛機、対艦攻撃機“カリバーン”がアームによってカタパルトに移動する。
漆黒の流線形の機体には、その名の由来となった剣状の超大型質量弾頭が三つ、搭載されている。
がこん、と音を立てて機体がカタパルトに固定され、小さく機が揺れた。
『カタパルトに固定完了。いつでも出撃どうぞ、ユーハブコントロール』
「アイハブコントロール。エンジン出力臨界。カタパルト出力良好。グレイ02,出る」
『ぴっぴぃ!』
音もなく、静かに機体が加速する。敵に感知されないために、照明を落とされたカタパルト内は視界がゼロ。ただシートに押し付けられる加速度だけが、今機が高速で移動している事を証明している。
暗黒が、急に開ける。
目に飛び込んでくるのは輝かんばかりの星空の海。暗黒の宇宙とは程遠いきらびやかな大銀河の光を目に、グレイ02は目を細めた。
即座に視野が調整されて適量になる。見通しが良くなった光の中で、グレイ02は軽く機体をバンクさせた。
彼から見て左舷方向では、今まさに宇宙連合軍と侵略宇宙人艦隊が対艦戦を行っている。
僅か数万キロの距離を挟んで、互いに質量弾と光学兵器を撃ちあっている両者。
レールガンが紫電をほとばしらせ、ミサイルが光の尾を引いて飛び、レーザーが光の矢を放つ。この距離では互いの攻撃はほぼ必中ではあるが、同時にお互い決定打に欠けていた。
何せ、元は同じ技術体系だ。人類のそれの基礎はリバースエンジニアリングされた宇宙人艦隊のそれであるし、宇宙人側はもう何百万年と基本的に技術が更新されていない。
ただ敢えて言うなら宇宙連合の方がやや有利か? こちらは、フレンドの特殊能力の解析、あるいは宇宙連合に参加した宇宙人のテクノロジーを流用し、装甲強度や防御フィールドが大幅に強化されている。特に、フレンドの一部が持つ特殊な防御スクリーンを機械的に再現したそれは、敵の攻撃のほとんどを装甲に触れる事なくはじき返している。一方、侵略宇宙人の艦隊は宇宙連合艦隊の攻撃を防ぎきれず、装甲のあちこちに被弾していたが、巨体とその装甲厚でダメージといえるほどには至っていない。
お互い、通常兵器で撃破するには巨大すぎるのだ。
かといって、プラネットデストラクターのような兵器を焦って使えば、推進力や火器に回せるエネルギーが激減する。高出力兵器を使うために足が止まれば、死角に回り込まれて一網打尽だ。
宇宙連合側にはフレンド白兵部隊を送り込む、という手はずもあるが、敵が元気では揚陸艦がたどり着く前に撃墜される恐れもある。どのみち今取れる手ではない。
ゆえに互いに、不毛とわかっていて小石を投げあっている。
そしてその砲火の間を飛び交う、無数の蛍火。互いの艦載機が、砲撃の下でドッグファイトを繰り広げているのだ。艦載機の持つ火力など、艦砲に比べればノミのようなものだが、それでも肉薄され推進機関などにダメージを与えられれば大きな痛手になる可能性もあるし、美味い事艦橋に攻撃できれば敵艦を行動不能に追い込めるかもしれない。そういう訳で、戦場においてはほぼオマケではあるものの、出せるなら出しておいた方がいい、というのが艦載機という存在であった。
しかし、その常識は今日変わる。
戦場を迂回するように加速しながら、グレイ02は敵艦の陣形を確認した。
基本に忠実な楔形艦隊。旗艦の位置もわかりやすい。標的はあれだ。
「いくぞ、プライム。俺たちで戦場の常識を変えてやれ」
『ぴっぴぃ!』
機と一体化した相棒の声に、操縦桿を深く倒す。
カタパルトからの出撃に加え、高性能スラスターを高効率で燃焼させつづけた結果、機は有人機としては限界近い速度まで加速している。大きく弧を描くようにしながら、グレイ02は敵艦直上からまっすぐ機を突っ込ませた。
途端、猛烈な対空砲火が飛んでくる。雨あられと飛んでくる防御兵装の雨は、人間の知覚では対応不可能だ。機のセンサーと、何より相棒の感覚にすべてをゆだねて、ただタイミングだけを伺う。
標的への攻撃距離、あと10%。
5%。
0%。
「……射出!」
ガコン、と質量弾頭が発射される。
発射された質量弾頭は、ハイレーザー推進装置を機動。これまでと桁違いの速度で加速した大剣は、数秒で光速の40%にまで加速。
全長20kmを誇る巨大艦に、質量のある光が降り注いだ。
その結果を見届けることなく、グレイ02は機首を上げ、敵艦隊の間をすり抜けるように離脱。
十分な距離を取ったところで、ようやく彼は戦果を確認した。
「……やったな、相棒!!」
『ぴっぴるぴぃ!』
遠ざかる背後、敵の巨大艦が四つのパーツにへし折れて分解しながら、炎に包まれているのが見えた。爆炎の中に浮かび上がるシルエットが、他の艦を巻き込みながら崩壊していく。
その黒い影が紫色の紫電を帯びたのを確認し、グレイ02は慌てて機を反転させた。
ベクトルコントロール最大出力。
装甲のもっとも分厚い機首下方を正面へ。
シールド最大出力。
「相棒、耐えろよ!」
『ぴぴぃ!』
直後。
動力炉が暴走した敵艦が大爆発を起こした。
超新星爆発を思わせる大爆発が生じ、艦隊そのものを飲み込んで膨れ上がる。そのエネルギーの余波が、まだ1000キロも離れていないグレイ02の機を猛烈に揺さぶった。
機体がガラガラと揺れ、アラートが操縦席に鳴り響く。シートベルトをした上でも放り出されそうな衝撃に、グレイ02は必死に操縦桿にしがみついた。
『ぴ、ぴぃーー! ぴぴぃー!』
「だ、大丈夫だ、相棒」
相棒が怖がって泣き叫んでいる。グレイ02はなだめるべく、操縦桿を優しく撫でまわした。機と一体化している相棒に、手の感触が伝わるように。
「大丈夫だ、大丈夫。心配することはない、しばしの辛抱だ」
『ぴ……ぴぃ……』
「ようし、良い子だ」
そうこうするうちに、衝撃はすぎさって機は安定してくる。
アラートで真っ赤なコンソールをこんこん、と軽くたたいて、グレイ02は操縦桿を倒した。
推進器は半分止まっているが、残った推進力だけでも空母に帰投する事は可能だろう。
「ふぅ。なんとかなった。予想以上の大戦果だったが、おかげでやばい事になってしまった。ま、今後の反省点だと思おう」
『ぴぴるぴー』
「まあ、何はともあれ、敵艦は撃滅した。これでこの宙域も……なんだ?」
不意に、センサーが警告を発する。
『警告、警告。空間の歪を検知。大質量が転移してきます。危険、危険。即座にこの宙域を退避してください』
「まさか……」
身を乗り出すように宇宙を見渡す。
煌めく星の輝きの中で、先ほどおきた大爆発の残滓が、ホワイトホールのように渦を巻いている。星一つ飲み込むほどのエネルギーのるつぼ……しかしそれすらも上回る、大規模な空間の歪みが宇宙に生じている。
星の海を引き裂くようにして虚空が裂ける。その内部から、凍てついた艦影がいくつも出現し、グレイ02は息を呑んだ。
「敵の増援……!?」
『ぴぴぴぃ~~~』
それも、何十隻という大艦隊。さきほどまで小競り合いをしていた数隻ばかりの艦隊など話にもならない。
間違いない、あれが敵の本体だ。
まずい。この宙域に派遣されている宇宙連合の総戦力をはるかに上回っている。このままでは皆殺しだ。
『ぴぴるぴぃ~~~』
「絶望してる場合か! くっ、早く艦隊に合流しないと……」
とにかく単艦では何もできない。急いでこの場を離脱し空母へと帰投しようとするが、スラスターが半分になった今では思うように動けない。
そうこうするうちに動き出した敵艦隊は、味方艦隊へと砲撃を始めている。圧倒的な火力にさらされて容易くシールドが破れ、装甲がはぎとられていくのがありありと見えた。
さらに、よたよた飛んでいるグレイ02を良い獲物だと見たのか、敵艦から艦載機が向かってきている。このままでは袋叩きだ。
「くっそぉ! こんな所で死んでたまるか!」
『ぴぃぃい~~~』
「泣きたい気持ちはわかるけど頑張れ! なんとかこの場を離脱するんだ!」
そして、宇宙連合の皆が、勝ち目のない闘いに臨もうとした、その時である。
『あ、あー。テステス。こちら、葛葉宇宙タクシー艦。えー、宇宙連合の皆様、ちょーっと、お邪魔しまーす』
そんな、緊張感のないアナウンスが、無線を通して響き渡った。
直後、戦場に一隻の宇宙船がワープアウトしてくる。
銀色に輝く、鋭角的なシルエットを持った宇宙戦艦。
間違いなく宇宙連合最新鋭の戦艦だ。しかし、たった一隻で何ができるというのか。そもそも今の放送はなんだ。
困惑するグレイ02とは裏腹に、さっきまでお通夜ムードで泣きわめいていた相棒が希望に満ちた声を上げた。
『ぴぃ~~~~!』
「え? ママ? え、ママって……」
困惑するグレイ02の視界の中で、巨大戦艦が動いた。艦首に備わった巨大なアンテナのような装備を展開し、ゆっくりと敵艦に向きを変える。
それを見て、焦ったように宇宙人艦隊が火砲を新手に集中させた。
単艦など蒸発させる圧倒的火力。
しかしそれらは、命中することなく戦艦の前に展開された“青い炎”によって焼き尽くされた。
ビームもミサイルもレールガンも、その炎を抜ける事なく消失する。
真空の宇宙で燃え上がるその炎に、グレイ02は危機も忘れて輝きに魅入られた。
そういえば、聞いたことがある。
ビッグママは、炎の形で超能力を操るのだと。
『というわけでー。……死ね、塵も残さず燃え尽きろこの害悪宇宙人どもが』
可愛らしい声が一転、憎悪に満ちた呪いの言葉を発すると同時に、炎が敵艦めがけて投射された。
あとはもう、燎原の火が如し。
真空の宇宙空間に燃え上がる炎が、巨大な宇宙戦艦を焼き焦がし、まるで飴のように溶かして捻じ曲げる。
10を超える艦が、ぐずぐずに崩れながら、炎の中で燃え尽きていく。
その周りに飛び交う艦載機はそれこそ炎に飛び込む蛾のようだ。グレイ02に向かっていた敵艦載機も、炎の余波でぐしゃぐしゃに溶けながら宇宙の闇に散っていく。
それはどことなく、焼きすぎたマシュマロをグレイ02に想起させた。
『ははははははははは!! 燃えろ! 燃えてしまえ宇宙の塵どもが! 我が子達の苦しみ、その数万分の一でも味わって地獄に落ちるがいい! ははははは! はははははははははーーー!!』
「ひ、ひぇえ……」
『ぴぴるぴ……』
恐れとも畏れともつかない感嘆が零れる。
通信の向こうではひきつったような笑い声が響いていたが、艦隊の撃滅を確認したのか、すんっ、と調子が元に戻った。
『をほん。という訳で、失礼しました。ちょいとゴミを見かけたので処理させていただきました♪』
可愛らしく言っているが、それをどう受け止めろというのだろう。グレイ02は頭痛を覚えた。
「てか……宇宙、タクシー?」
『それでは失礼しますねー。あ、ちなみに今現在、宇宙連合所属の各種族の植民惑星をめぐっていますので、皆様も里帰りの時はぜひ、葛葉タクシーをご利用ください。それではー』
最後に宣伝を残して、現れた時と同じぐらい唐突に、宇宙戦艦は姿を消した。
残された宇宙連合の人々は、助かった事に喜びつつも同じぐらい困惑しつつも、とりあえず、消えていった宇宙船の居た方に手を合わせて祈った。
葛葉宇宙タクシー。
スローガンは、「皆様に安全で快適、格安の宇宙の旅を」。
怪しげな業者みたいなスローガンだが、実際、敵宇宙艦隊に遭遇しても一瞬で焼き尽くして壊滅させるので評判である。
ちなみに炎は、艦首に搭載された脳波動増幅装置によるものである。本来は、ミストルティン達やX99のような優れた脳波動を持ち合わせた存在がそれを利用して長距離通信を行うための装備だが、葛葉が使うと殺意と憎悪の投射装置になってしまった。物理法則を超越した憎悪の炎をぶち込まれると敵は死ぬ。
もっとも敵艦隊どころか宇宙連合からしてみても、『神罰』としか言いようがない光景をあっちこっちで繰り広げるこの存在には頭を悩ませているが、一体誰が文句を言えるのか。
ちなみに葛葉本人は大赤字上等、むしろ財団のお金を減らしたいためにやっているのだが、このタクシーの行動が敵艦の撃退やら安定した流通路の形成やらにつながり、葛葉個人への寄付金がさらに集まる事になるという未来を、彼女はまだ知らない。
『ピルルゥ』
「あ、アース。だって、だってぇ……」