TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『文字通りの一心同体ってわけね』

 

 

「まず、我々ディノゾーアですが……ビッグママの故郷である地球に発生した、恐竜、と呼ばれる生物にきわめて近い、ほぼ同じ存在であった、と言っても過言ではないでしょう。ビッグママは、恐竜についてどのぐらいご存じでいらっしゃいますか?」

 

「ええとまあ、人並みには」

 

 恐竜とは恐竜類に属する爬虫類の一群である。おおよそ2億4330万年前の三畳紀中期に出現したものが起源とされており、1984年にリチャード・オーウェンによって「偉大な化石トカゲ」を示すために恐竜という呼称が使われ始めた。かつては陸生脊椎動物の頂点に立ったが、白亜紀から新世代古第三紀間において発生した大量絶滅を乗り越えられず絶滅したとされている。

 

 その生態については謎が多いが、現存する爬虫類と違い恒温動物であったとか、色々違いがあった、とも考えられて居る様だ。

 

「……といった感じですかね」

 

「滅茶滅茶お詳しいのでは? もしかして古生物学を志した事が?」

 

「いやあ人並みですよ」

 

 これぐらいは基礎教養の範囲でしょ。……だよね?

 

「しかしそこまでお詳しいのなら話は早い。我々ディノゾーアは本来、その恐竜と殆ど変わらない生き物でした。ただ一点、ささいな違いが、私達を知的生命体、貴方達地球人類の言う所の霊長に押し上げたのです」

 

「ほほう?」

 

 まあ地球の恐竜も、環境変化で絶滅しなければ人間化していたという話もあるが……まあ、望み薄だろうな。

 

 彼らの進化は円熟期に入りつつあったといえる。あのまま環境に変化がなければ、きっと大きな変化もなく、現状維持が続いていたとみるべきである。

 

 そうなると、ディノゾーアの皆さんにあった違いとは何なのか。

 

 私は俄然気になった。

 

「興味深いね。一体何が違ったのですか? もったいぶらずに教えてくださいな」

 

「そうですな……我々には、共生する寄生虫がいたのです」

 

「寄生虫?」

 

 そりゃまた想定外の話が出てきたな。目をぱちくりさせていると、ティガさんは苦笑しながら、小さく指先を丸めてサイズを示して見せた。

 

 大分小さいな、それ。

 

「貴方達地球の生物でいうと、マダニに近い存在でしょうか。肉体に食いついて、半ば一体化しながら血液を摂取する。どこの星にも似たような生き物はいるのだと、初めて知った時はびっくりしました」

 

「あ、ああー。まあね」

 

 それについては同感。あ、それとダニの皆さんは残念ながら絶滅しておりませんっ。不衛生な人類の集落とかにくっついて生き延びちゃったからね……今現在も悩みの種です。

 

「ただ地球のマダニと違うのは、赤血球を食べて血漿を戻す……という事をしない事です。代わりに、彼らは有用な化学物質を私達に提供してくれました。彼ら自身は麻痺毒のつもりなのでしょうが、それらは免疫系を強化したり、神経系を刺激する事で活性化を促したり。なので変な話ですが、我々にとって彼らはさして危険なものではありませんでした。むしろ、知性を持たない頃の我々自ら、自分達の体に寄生させていた痕跡があります」

 

「ほほー」

 

 地球のマダニが害悪なのは、吸った血から赤血球だけよりわけて食べて残りを宿主に戻す事だ。早い話が、糞尿を宿主に注入しているようなものである。様々な動物を渡り歩くマダニの体内にはその過程で感染した病原菌やら何やらが大量に存在しており、汚染された血液を体内に戻された結果、宿主がその病気に感染してしまう。さらに自分達の寄生を悟らせない為の毒が、宿主に悪影響を齎し、最悪ショック死などを引き起こす事もある。滅茶苦茶迷惑である。

 

 だがディノゾーアの星にいたマダニっぽい生き物は大分、立場をわきまえていたようだ。宿主を弱らせないように汚染した血液は排出して戻さず、麻痺毒もたまたまとはいえそこまで悪影響もない。それどころか薬効成分がある……恐らくは地球のマダニや蚊のように口吻に直結した毒腺ではなく、ハチの毒針のようなものだったのだろう。今はもう跡形もないため調べる事はできないが、原住民にはハチかなんかの毒針を医療に利用する、という話も過去聞いた事があるし、似たようなものかもしれない。

 

「そうこうするうちに我々と彼らの関係は密接なものとなり、いつしか我々と彼らの肉体は融合を始めました。あまりにも極端に分化が進んだ種において、雄と雌のうちどちらかが生殖に特化した生体器官そのものになり果てる例がありますが、それに近いと言えます。生物学的には何の関係もない二つの種が、そこまで密接なかかわりを持つのは宇宙でも珍しいようですが……」

 

 つまりチョウチンアンコウの雄とか、ミノムシの雌みたいなもんか。

 

 あ、なんとなく話の想像がついてきたぞ。

 

「そうこうするうちに、寄生虫達は私達の脊髄と結合するようになりました。衣食住どころか生命活動の全てを宿主である我々ディノゾーアに与えられるようになった彼らは、どんどん巨大化していきやがてその神経系を大きく発達させはじめました。それは結合した我々ディノゾーアにも大きな影響を持つようになり……やがて彼らは、我々の第二の脳、とでも呼べる器官へと変貌を遂げたのです。これは、彼ら寄生虫とディノゾーアが結びつきを持って、およそ一億年で成し遂げられた変化だと考えられています」

 

 ちなみに私達の本来の脳は今でもこのぐらいです、とティガさんは握りこぶしを作って見せた。ちいさっ。

 

「じゃ、じゃあ、その寄生虫っていうのは、物理的に貴方達の脳機能を拡大する生体インプラントみたいなものになったって事ですか?」

 

「そうです。彼らからすれば、私達からより多くの栄養を得るために、消費カロリーの大きい神経系を発達させただけだったのかもしれませんが……それによって、結果的に脳機能を発達させた私達は、“知性”を得ました。あとは、地球人類と同じような経緯です。裸の体に毛皮を纏う様になり、集団で洞窟で暮らすようになり、枝に石を括りつけて槍にして大きな獲物を狩るようになり……そうして、長い年月の果てに我らは社会を構築し、文明を得る事ができました」

 

「ほへえー……」

 

 おもしろ。人類と似たような発達経緯をした事も踏まえて、その理由が寄生虫との共存だったってのが面白い。なるほどなあ。意思をもった寄生虫と共存する物語、ってのは結構あるが、知性を持たない存在にそういった高度な脳神経をもった寄生虫が寄生したらどうなるか、というのは考えた事がなかったな。

 

「寄生虫の方と意識が混じって困ったりはしなかったのですか?」

 

「それが彼ら、脳をどれだけ発達しても、自分の自我はついぞ持たなかったようです。まあ、虫と我々では意識の構造が違うのでしょうし、仕方なかったのかもしれませんね。彼らはあくまで、種の繁栄の為に、そういった形状と能力を手に入れただけだったのでしょう。……いや、もしかしたら、語る事もできたのかもしれませんが……今となっては……」

 

 ティガさんは物憂げに顔を伏せて首を振る。

 

 理由は想像がつく。

 

 彼らもまた、侵略宇宙人の攻撃に晒されていた……それが答えだ。

 

「では、やはり」

 

「はい。……侵略宇宙人の攻撃に対し、当初、我々はそれなり以上に抵抗が出来ていました。科学力でこそ負けていましたが、身体能力では遥かに我々が上。ギリギリ、星間航行とはいかなくとも宇宙に出るだけの力はあった為、衛星軌道上からの戦略爆撃を阻止しつつ、降下してくる敵陸戦部隊を迎撃する形でなんとか我々は奴らの暴虐を食い止める事ができていました。しかし、我々の生態を把握した奴らは、我々ではなくその同胞を狙い撃ちにしました。……寄生虫に対してのみ致死性を持つウィルスを、惑星に散布したのです」

 

「……奴らのやりそうなことだ」

 

「はい。それにより、寄生虫を失ったディノゾーアは、ただの野生動物同様の存在。連携も文明も失い、右往左往するだけの私達を、侵略宇宙人は容易く殺して回りました。それにより、当初12億いた我々ディノゾーアは、宇宙連合の救援が届いた時には僅か3億まで減少してしまいました。そのうち、知性を保っていたのは僅か数万人だったといいます」

 

 想像を絶する被害に言葉を失う。いや地球も割といい勝負だったが、あれは最後のディスペア災害による被害が桁違いに多かった。ディノゾーアは普通に侵略宇宙人によってそこまで減らされたのだから、惑星上で行われた殺戮はすさまじいものだったろう。

 

 よくぞ、そこから復興したものだ。

 

「辛うじて宇宙連合の皆さまのおかげで救われたものの、すでに寄生虫にはウィルスが蔓延し、全てのディノゾーアが知性を失うのは時間の問題。新しい寄生体の確保も出来ず、我々は唯、自我と文明、種族の消滅に怯え震えるしかありませんでした……」

 

「それは……」

 

 それは。実に、想像するだけで恐ろしい末路だったろう。

 

 考えてみよう。頭がぱーになる病気が流行り、自分も感染して。数週間後には、何かを考える事もできないただの猿になります、貴方は自分の名前すらわからなくなり、道端で排泄をし、生肉を齧るようになります。そう宣告されて、正気でいられる人間がどれだけいるだろうか?

 

 マザーツリーに同化した事があるからわかる。意識が消失する死の闇と、忘却の白い霧は、結局主観的には大きな差はないのだ。

 

「ですが。そうはなりませんでした。それは全て、フレンドのおかげでございます」

 

「え?」

 

 なんでそこでうちの子が出てくるの?

 

 きょとんとしていると、ティガさんは席を立ち、私の前で床に膝をついて座り込んだ。

 

 正座。

 

 さらに彼は腰に差していた剣を鞘ごと外すと、私に向かって差し出すように床に置いた。

 

 まるで今から切腹します、という態度である。

 

 困惑する私に、彼は真剣そのものの表情で続きを語った。

 

「フレンド達は、我々の窮状を見て取ったのでしょう。卵から生まれた彼らは、皆一様に寄生獣の形態をとりました。そして、知性を失ったディノゾーアと融合し、我々に知性を貸し出してくれたのです。ですがそれは、フレンド達の自由と引き換えであるという事は、重々承知……!」

 

「ちょ、ティガさん、頭を……」

 

「これが恥ずべき行いだとわかっております! ですが、ビッグママ! フレンドなしでは、我々ディノゾーアは生きていけませぬ! 腹を切れと言われれば切ります、首を切れと言われれば切ります! 私の命程度で贖えるとは思ってはおりませぬ、ですがどうか、他のディノゾーアは、どうか見逃してはいただけないでしょうか! なにとぞ、なにとぞ……!!」

 

 慌てる私の目の前で、床に額をぐりぐり押し付けて土下座し、許しを嘆願するティガさん。

 

 その後頭部では、ぶよぶよっとした肉塊がふるふると揺れている。

 

 ……フレンド。

 

 そう、ディノゾーア達は、ああして寄生したフレンド達が、絶滅した寄生虫の代わりにその脳機能を提供する事で、辛うじて知的生命体としての活動を、文明を、尊厳を維持できている種族だったのだ。

 

「どうか、どうか……! ビッグママ、我らが種族に、お慈悲を……!」

 

「あー、えー……」

 

『ピリルルル……』

 

 ……ええと。

 

 アース、どうしよう、これ。

 

 私は困惑して、可愛い我が子と顔を見合わせた。

 

 

 

 

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