TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『人生竹馬の共』

 

 

 床と屋根を柱で串刺しにしたような奇妙な建物が並ぶ、ディノゾーアの街。その大通りを、私は彼らの車に乗って進んでいく。

 

 ……ちなみに、人間だったらこういう場合はリムジンなのだが、ディノゾーアの場合は違う。

 

 アースが収まるぐらいの大きな篭を、二匹のディノゾーアが引いている……つまり、人力車ならぬ竜力車である。おなじ車に、ティガさんも乗っているので結構な重量になるはずだが、引いてるディノゾーア達はそれをものともせずに、時速60kmぐらいで疾走している。

 

 風防がないと一般人は喋る事もできないのではないか? まあ、私は平気だけど。

 

「……なんか、割とレトロなんですね」

 

「燃料が無い訳じゃないんですが、我々ディノゾーアは普段から元気を持て余してるとこがありまして……乗り物にのるより自分で走っていく方が早いと言いますか」

 

「そりゃそうだろうね」

 

 自分で走って時速60キロいけるんだったら車もバイクも要らんわな。逆に彼らが乗り物必要とするってどんなシチュエーションだよ、敷居が高すぎるわ。

 

 まあ、そういう意味だと人力車ってのは確かに、外来者にはうってつけだわな。地球の京都でも、昔は観光者向けに人力車が走ってたし。よそから来た人はびっくりするだろうけど間違いなく楽しいでしょ、これ。

 

 実際私も楽しい。うちの子達、高速で地上を走るタイプの子は少なかったから新鮮な感じだ。

 

「でも車に乗らない割に、道路は整備されてるんですね」

 

「そりゃあ、皆が好き勝手走り回ったら事故りますしね。あとどうせなら、綺麗に整理された道を走りたいじゃないですか」

 

「トラックレーンかよ」

 

 理由が斜め上だった。

 

 ミストルティンもなかなかびっくりしたがこれもこれでびっくりだ。人類もよくもまあ連合所帯でうまくやっているものである。

 

 しかしあれだな。こうやってみるとこの建物、なんか思い出すな。えーと、えーと……そうそう、スパイラルポテト。平和だった時代に屋台でみかけたあれに似てる気がする。なんかお腹空いてきたぞ。

 

 そうこうするうちに車はマザーツリーの根元に近づいてくる。思った以上に大きく成長している、これは地球にある本体より大きく育ってるんじゃないか?

 

 多分、この星の環境が理由だろう。ウィルス攻撃を中心にしたせいか、惑星ガロアの環境汚染そのものはさほどでもない(最も惑星上のウィルス除去は完了していないという意味では、依然として深刻な汚染状態にあるが)。これはウィルス攻撃が行われるまで侵略宇宙人側が大規模な揚陸を行えなかったのも大きいのだろう。

 

 残念ながら皆無ではなく、趨勢が傾いた後、いつものように汚染工場は建設されたようだ。が、それらは報復に燃える宇宙連合艦隊の皆さんが汚染物ごと消し飛ばしたらしい。しつこい汚れも、プラズマ粒子砲の艦砲射撃で消滅させられたら綺麗さっぱりである。

 

 その為、マザーツリーは環境維持などにリソースを使う事があまりなく、自己拡大に注力できたようだ。なんせ、数億人分のフレンドを急いで供給しなければならないのだ。とにかく生産元である自分自身の容積を増やさないと、とてもじゃないが間に合わない。

 

 そんな訳だから、この街はどうやらマザーツリーを中心に建物が広がっているらしい。とてつもなく規模の大きいロータリーみたいなものがマザーツリーを中心に広がり、四方に広がる根の間に建物と道路が伸びている。

 

 そしてその中に、ひときわ目立つ建物があった。

 

「あ、見えてきましたよ。マザーツリー記念病院です」

 

 そのまんまやんけ。

 

 辛うじてつっこみを喉の奥に押さえ込み、私はその建物を見上げた。

 

 ディノゾーアの建物にしては珍しく、壁のある白亜の建築物。ぱっと見、人類の病院とそう変わらないそれが、どうやら私達の目的地のようだ。

 

「こちらの記念病院では、主に新生児とフレンドの面倒を見ています。ちなみに、知性喪失した同胞は牧場で管理され、計画的にフレンドと引き合わされています。こちらは、また別の病院ですね」

 

「牧場なんだ……」

 

「恥ずかしながら、知性を失った我々はただの動物ですので……」

 

 まあそれを言ったら人間もそうだけどね……。

 

 そんな事を話している間に車は病院の前に止まり、私はティガさんに連れられて玄関の自動ドアを潜った。ディノゾーアに合わせて作られた扉は大きく、アースも余裕で通る事が出来る。

 

 そして潜り抜けた途端、ぐわっ、と気温が一気にあがった。

 

 夏場に暖房を全開でいれてるみたいだ。

 

「うへえ」

 

「すいません、我々の幼体は体温調整が下手で……これぐらい暖かくしておかないと体調を崩す子が出てくるんです」

 

「そりゃあ体温調整が不得意だから幼体なんだろうけど……」

 

 うひぃ。これは普通の人間には辛いぞ。

 

 というか私でもちょっと辛い。

 

 ひぃー、と舌を出していると、アースがひょい、と翼を私の上にかぶさるように差し出してきた。途端、空気がひんやりとしてくる。

 

『ぴるるぅ』

 

「ありがとアース……」

 

 さっすが。大気中のエネルギー総量の調整なんぞお茶の子さいさいなのね。

 

 落ち着いたところで病院を見ると、受付や待合に居る人が揃ってこっちを見ている。

 

 目を丸くしている彼らに愛想笑いと共に手を振ると、一斉に皆が頭を下げてきた。

 

「ちょ、い、いいって、そんなの」

 

「そう言われましても……」

 

「し、しし、失礼しました! 葛葉様ですね! 私、当病院の院長のポワレと申します! お待たせしてもうしわけない!」

 

 と、そこでどたどたと白衣を着たディノゾーアが奥から走ってくる。眼鏡をかけたでっぷりとした体格の先生は、私の前で息を切らせながら頭を下げた。

 

 隣でティガさんが腰に手を当てて少しばかり声を硬くする。

 

「遅い。何をやっている、連絡は入れていたはずだが」

 

「す、すいません~」

 

「まあまあ」

 

 そういう堅苦しいの私は苦手だし。それに見たところ、私の事を嘗めてるとかそういうのじゃなさそうだし。

 

「お取込み中でした?」

 

「え、ええと、はい。新生児誕生の対応をしておりまして……そのせいで連絡が……」

 

 そういう事なら仕方ない。ほら、ティガさんもそんなに怒らない怒らない。

 

「ビッグママがそうおっしゃるなら……。とりあえず、それより用件は把握しているのだろうな? ビッグママは見学を希望されている。新生児病棟に案内しろ」

 

「は、はいっ。どうぞこちらに~」

 

 平身低頭の院長さんに連れられて、私達は病院の奥に向かった。

 

 案内されたのは、カプセルみたいなものがずらり、と並んでいる部屋。橙色の半透明な卵型カプセルは、私の背丈より大きい。その中にはクッションみたいなものが敷き詰められていて、その上でもちゃもちゃと、小さな二つの影がじゃれあっている。

 

「ちちち……」

 

『ぴるるる』

 

 一つは、生まれたての赤ちゃん恐竜、といった感じの赤子。もう一つは、細いナマコかゴカイ、といった形状でもちもちぷにぷにした感触の生き物。

 

 ディノゾーアとフレンドの赤子。

 

 まだ目も開かないディノゾーアの赤ちゃんが、手探りでフレンドを抱き寄せると、ぎゅーと抱きしめたり、歯も生えていない口であむあむあまがみしたり、かと思ったら蹴っ飛ばしたり。フレンドはされるがままにしながらも、尻尾の先端を絡み合わせたりして、赤ちゃんとじゃれあっているようだった。

 

 これは……。

 

「流石に赤子のうちは寄生に耐えられないので、生後1年ぐらいまではこうしてフレンドと一緒に育成します。時期が来るとフレンドから融合を行うので、融合したら外に出して、両親の元に返します。いかんせん、成体と比べて幼体が貧弱すぎるので、細心の注意を払っているのです。フレンドは、これ、と決めたパートナーが落命すると、後を追う性質がありますからね」

 

「成程……」

 

 説明に頷き返しながらも、私はちょっと複雑な気分になった。

 

 多分、彼らは元々多産多死の生態なのだ。卵を産む生き物の多くがそうであるように、子供の何割かの犠牲を許容する生態。それそのものは、決して否定していいものではない。生存戦略においては多々ある事だ。

 

 しかし、フレンドが彼らと共存するようになって、そのやり方は変化した。従来であれば見捨てていたような命にも、フレンドは寄り添い、文字通り命を共にする。多くの子供を見捨てる事は、多くのフレンドを見捨てる事。それをよしとせず、全ての子供を拾い上げようとするのは、果たして本当に美談なのか?

 

 私としては、全ての子供に幸せが、祝福があってほしいと思う。

 

 だがそれは、彼らディノゾーアが何万年と紡いできた命の在り方を、一方的に変えてしまう理由になるのか?

 

 私には、わからない。

 

 カプセルの中では、赤子とフレンドが、何の心配もないようにじゃれあっている。赤子が遠慮なくフレンドのもちもちした皮を咥えてひっぱって、ナマコみたいな我が子がじたばたしているのが見えた。

 

「……ママ様。あちらをご覧ください」

 

「? 院長?」

 

 不意に呼びかけられて、私は彼に示される方に目を向けた。

 

 そちらでは、あきらかに若いとみられるディノゾーアのカップルが、保護カプセルを幸せそうに見て回っているのが見えた。カプセルの中の赤子が、覗き込む彼らに気が付いたのか、壁面に張り付いて尻尾を振っている。

 

「あちらのカプセル、6つ。全て、彼らの子供です。従来であれば、6つの卵があれば2、3つは孵る事が出来ませんでした。卵の殻を割る過程で力尽きる、無事に孵化しても体温調整に失敗して急死する、本当によくある事です。しかしそれが分かっていても、可愛い子供の死はとても悲しいもの。哀しい、そう分かっていても、それは「そういうもの」として流されてきました。死ぬのは仕方ない事、そう思われて放置されてきたのです。我々ディノゾーアの歴史は、常に暗い死の影と共にありました。しかし、今は違う。従来のディノゾーアであれば、あの若い夫婦がああも屈託なく、幸せそうに笑う事はなかったでしょう」

 

「……それは……」

 

「変わらなくてもいい事もあれば、変わらなければならない事もあります。フレンドの存在は、決して我々の有り様をゆがめた訳ではありませんよ。彼らが生まれたばかりの赤子と共にある事で、急変を見逃して対処が遅れる事も減りましたし、そもそも急変する赤子も激減しました。フレンドの存在は、私達に幼き命とどう向き合うべきか、それを今一度考え直す機会をくれたのです」

 

 眼鏡のディノゾーアは、そういって穏やかに笑う。

 

 私はなんだか心の底を見透かされた気がして、ちょっと気恥ずかしくなって顔を伏せた。

 

「……それなら、よかったです」

 

「ええ。本当に。それで、見たいものは見られましたか? ビッグママ」

 

「それはもう」

 

 私は再度、保護カプセルの中で眠る一組の赤子に目を向ける。

 

 ぎゅう、とフレンドを抱きしめてすやすやお眠のあかちゃんと、そんな赤ちゃんの頭を優しく撫でているフレンド。そこには将来、パーツとして消費する、消費される、といった関係は欠片も見えない。

 

 ただ、仲のよい兄弟がいて……それがきっと、全ての真実だ。

 

「だいたい状況は分かりました。うちの子達は、なかなか幸せものです」

 

 私は小さく笑って、そっと保護カプセルの皮膜を撫でた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「夢を見ている?」

 

「ええ。一番近い例えが、そうなりますかね」

 

 病院の一角に設けられた待合室。高温も遠ざかり、ちょっと控えめの室温に保たれた部屋のソファで、私は床にねっころがるアースの頭を撫でながら頷いた。

 

「ディノゾーアと融合したフレンドは、ある種のスリープモードに入っています。でもそれは自我が失われた、という訳ではなくて……彼らは彼らで、貴方達の事をずっと見ていますよ」

 

「し、しかし、私達からはそのような感じは……」

 

 私の言葉に、困惑したようにティガさんが自分自身の後頭部に触れる。

 

「そもそも、フレンド達の自我が制限されている、というのも大きな勘違いです。赤ちゃんと一緒に居るのを見たでしょう? あれで、人格がない、という方がおかしな話です。彼らはちゃんと赤ちゃんと兄弟として育ち、互いに愛情をもっていますよ。そして、成長した状態で融合した貴方達にも、勿論」

 

「そうなのですか……?」

 

「確かに、戦後に生まれたまだ若い世代は、また違った感覚があるようですが……」

 

 目をぱちくりさせるティガさんとポワレさん。やっぱりこの二人は、寄生虫を失った世代か。

 

「子供達は、そもそも貴方達と一緒に生活しているつもりですよ? 言ったでしょう、夢を見ていると。彼らの認識では、当然のように自分達は友達の横にいて、一緒に笑ったり遊んだりしている感覚なのでしょう。現実がどうであれ、彼らはそう認識している。だから、貴方達をずっと助けている……」

 

 そう、フレンド達は犠牲になっているつもりなんて全くない。

 

 確かにフレンド達はディノゾーアの脳機能を代用している。だが例え返事がなくとも、返事ができなくとも、彼らは常にディノゾーアと共に暮らしている。

 

 ある意味背後霊とか守護霊とか、そういう表現が近いのかもしれない。

 

 日本人ならこのあたりの感覚、すんなり理解できるんじゃないかな?

 

 しかし、ティガさん達はしっくりこないようだった。

 

「それは……それでよし、とするには一方的すぎるのでは? 我々は、彼らに何も返せてはいないですし……」

 

「彼らがそれで満足しているとしても、こちらとしては申し訳ないというか……」

 

「そうでしょうか? 貴方達は普段から、私の子供たちの事を、とても大事に思ってくれています。その気持ちに嘘偽りはないでしょう?」

 

 病院を見て回っている間に、私は一般市民のディノゾーアを見た。彼らは後頭部にくっついているフレンドを、布で飾ったり、クッションみたいなもので包んだりしていた。フレンドの耐久性をしっていれば、それは自分の脳機能を守るためだけのものではないはずだ。恐らくそれは感謝の気持ちの現れに他ならない。

 

 自分達を助けてくれる親愛なる友人に、心ばかりのお礼をしたい。

 

 その気持ちは、私にも確かに感じられた。何も返せてはいないとはいうが、フレンド達だって、そういった彼らの真心に返事を出来ていない、というのは一緒なのだ。

 

「まあでも、仰りたい事はわかります。なので一つ、私が手をうちましょう」

 

 そういって私は、ぴん、と人差し指を立てた。

 

 

 

◆◆

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