TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
とりあえずやりたい事、やるべき事は決まった。
そうとなればまずは手続きである。私だって反省した、一種族の命運を左右するような事は必ずお役所に伺いを立てるべきなのである。今はもう無い無い尽くしの根無し草ではないのであるし。
幸い、宇宙船に連絡を取ると美鶴さんは快く了承してくれた。まあ、ミストルティンの時みたいに惑星環境をぐーちょきぱーで書き換えます、みたいな大げさな話ではないから、影響も小さいというのもあるだろう。ただ「ええ、わかってますよ。何かやらかすとはわかっていました」的な含みのある笑みはちょっとこう、怖かったけど。ごめんなさいねー。
まあとにかく、許可を取ったら、アースの背中にのってこの星に根付いたマザーツリーの天辺に向かう。
「お、見えてきた見えてきた」
『ぴぴるぴぃ』
私達が近づくと、マザーツリーの枝葉がイソギンチャクみたいに動いて、着地スペースを作ってくれる。その中央にあるのはちょうどいい広さの窪み……王冠である。私がそこに着地すると、しゅるしゅると伸びてきた枝葉……マザーツリーの神経系が手足に絡みつき、融合する。
そもそも、この体はマザーツリーから分離して出来た物、つまりは元々は同じものなのである。何もおかしなはなしではない。
「接続良好。ほんじゃ、ちょっと潜りますかー」
意識を繋いで、マザーツリーの詳細な設定を書き換える。
基本的にマザーツリーは周囲の環境に受動的に従うようにできている。環境が汚染されていたらそれを修復し、周辺の知的生命体に多大なストレスを感知したらフレンドを産出する。この星の場合は、知性消滅の危機を前にディノゾーア達が極限レベルのストレスに晒されていたのでフレンド生産に特化していた訳である。
そこに、ちょっと新しい項目を付け足す。脳波動周りの出力強化……基本的に機能はあっても使われる事の無いそれを、意図的に大幅出力向上させる。
演算リソースも、私が普段使ってる領域の一部を譲渡する。これで、このマザーツリーは惑星上において脳波動を用いた通信ネットワークのハブになるはず。動作確認すると、惑星上に存在する、2億近いフレンドとのネットワーク接続が確認できた。これでしばらくすれば、自動的にクラウドネットワーク的な処理領域が誕生するはずである。
意識とは、走る事によって成立する。閉じた意識の中、夢の中に微睡んでいたフレンド達。だけどこれからは、その生き方は大きく変わる事になるはずだ。
「これでよしっと」
全ての作業を完了し、融合を解く。アースに乗って地上に戻ると、待ち受けていたティガさんと院長がそわそわとしていた。
「おお、お帰りなさいビッグママ。それで、ええと、どうなりました?」
「ん。作業は問題なく終わったよ」
「そうですか。それはよかった。それで、一体フレンドはどうなるのです……?」
頻りに自分の後頭部を気にしているティガさん。もしかして、融合していたフレンドが突然分離して動き出すとか思っているのだろうか。
「いや、根本的にフレンドの有り様を変えるのは難しい。将来的に、貴方達ディノゾーアに強い脳波動の適正が生まれれば分離も可能だろうけど、現状ではそのレベルは期待できない。私みたいに、生物かどうか怪しいレベルで肉体改造しないと、脳波動ネットワークに生身で参入するのは難しいんだ。自我が無限の量子空間に希釈される危険性があるからね」
「は、はぁ……え、無限の量子空間? 自我が希釈される?? え??」
「だから今回やったのは、フレンド達がマザーツリーを経由して脳波動を用いた量子ネットワークを利用できるようにした。これで彼らの意識はクラウド上で自由を得て活性化する。その影響は直ぐに何か起きる、という訳ではないけど……そうだな。夢に、もしかしたら見る事があるかもしれないね」
指を立てて空を示すと、ティガさん達は要領を得ない様子で首を傾げた。
「夢……ですか?」
「うん。ディノゾーアも睡眠中は脳活動が低下するみたいだし、そうなればフレンド達の負担も軽減する。そうしたら、貴方達が彼らの心に触れる事が出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。急激な変化ではないけど、今後生まれてくる世代の中には、もしかすると心の声みたいな形でフレンドの声が聞こえてくる子が現れるかもね」
早い話がもう一人のボクみたいな立ち位置である。
とはいえ心の中身というのは難しい。私だって、我が子の心の内は覗く事が出来ないのだ。脳とか精神とか、そういうのとは別に自我というのは他者と自分を区別する最後の障壁であって、そう簡単に壁を取り払う事はできないし、してはいけない。
「ま。これから先に期待、という事かな」
「さようですか。……ふふふ、それはそれで、ちょっと楽しみですね」
「まあ、もっとこう分かりやすく大きな変化が欲しい、っていうなら、マザーツリーをあと三本ぐらい植えれば、フレンドの意識を空間に投影したりとか、拡張現実みたいな感じで現実の書き換えとかできなくもないけど……やめてくれ? ああうん、消費エネルギーが凄いから私もできればそこまでするのはちょっとね……」
普段ぼーぼー燃やしてる青い炎みたいなもんである。とはいえ、恒常的に現実の書き換えをするのはちょっと大変だし、ディノゾーアにだけそんなにリソースを割くのは平等ではない。
まあ、今後を見てまた、どうするか考えよう。今日はとりあえず、まずは小手調べ。私だって学習するのだ、いきなり大変な事をしてはいけない。
説明を終えて、私は空を見上げる。
一見すると何も変わらない惑星ガロアの青い空。でもそこに、私にしか見えない魂の光がしきりに飛び交っている。煌めく流星のような、フレンド達の心の交流。
『ぴぴぃ!』
『みるみるっ』
「……ふふ。きっと、楽しい事がまってると思うよ」
さて。
とりあえず、ディノゾーアという種族との面談はこれで終わった。
思わぬちょっかいもする事になったが、その結果はまた後日。今すぐどうにかなる訳ではない、という事で、露骨に美鶴さんが胸を撫でおろしていたのはちょっと眉をひそめたが、まあ過去のやらかしを考えると強くは言えない。
あれを例外だったのだと言えるように今後も大人しくしていこう。
そんなこんなで宇宙船に帰るべく、戻りの便が出発するのを待っていると、何やらティガさんが慌ただしく私の元にやってきた。
ちょっと困ったような顔。何かトラブルかな。
「ビッグママ、申し訳ありません。実は少し、予定にない頼み事ができまして……」
『ぴるるる?』
「ん? いいよ、別に。何かトラブル?」
アースの口の中を歯磨きしていた私は、タオルを仕舞いこんで向き直った。アースが「えー、もうちょっとお願いー」と顔を押し付けてくるのを片手であしらう。
「その、長老が是非、お会いしたいと……」
「長老?」
「ええ、はい。まだ寄生体が生き残っているディノゾーアの一人です。普段は眠りについているのですが、先ほど目覚めた際、ビッグママが来ていると知るとどうしても、是非に、と。そう時間は取らせないといっているのですが……」
ほへえ。確か、従来のディノゾーアはもう10人も生きていないんだったな。彼らは皆、ウィルスの影響で死に逝く寄生体の延命のために特殊な薬液に浸かっていて、疑似的な仮死状態で過ごしていると聞く。時々目覚めて、ディノゾーアの文化を今生きる者達に伝えているという話だったか。
もしかすると次に来た時には皆、フレンドに代替わりしているかもしれない。話せるなら話しておくべきか。
「うん、わかった、いいよ。長老さんとやらと会おう」
「ありがとうございます」
そうして急遽決まった長老との面談。
私が案内されたのは、マザーツリーとは反対側の街の地下。ティガさんを入口で待たせて、アースと二人、薄暗い階段を降りていく。
辿り着いた先は、ディノゾーアらしくないひんやりとした地下室。機械で満ちた空間の中に、巨大な水槽が置かれている。
その中に、一人のディノゾーアがぷかぷかと浮いていた。
『……ようこそ、いらっしゃいました。ビッグママ……このような身なりで、失礼します……』
「いえいえ、とんでもない。今日は長老様にお目にかかる事ができて光栄です」
ぺこり、と頭を下げる。
水槽の中で長老は口元に酸素マスクをして、全身に点滴か何かのケーブルをつながれていた。四肢は痩せ細り、肌色は白くなっている。その後頭部に、膨らんだマダニのような、青白い物体がくっついているのがみえる。
そうか、あれが本来の……。しかしこのディノゾーア、長老というには、まだ若い。ティガさんと同年代に見える。恐らく、終戦時にはまだ若い個体……。
私はその背景を考えて、苦い顔になった。
『……どうやら、ご説明するまでもないようですな。ふふ、私のような若造が長老と名乗り、文化を継承するなど烏滸がましい話ですな。とはいえ、まあ、形だけのものです。我らの文化は、多少は変わってしまったものの、概ね、今の世代に引き継がれている……。言うなれば、私はただの見届け人なのです』
「……その。もしかして、ずっとその中に?」
『はい。この薬液はウィルスの影響を遅らせるものの、治癒できる訳ではありません……。ここから出れば、我が同胞は忽ち死に絶え、私は知性を失いただの動物になってしまうでしょう。自我の喪失という死を恐れるばかりに皆に迷惑をかける、困った老人というだけです……』
ジョークなのか自虐的なのか、正直返事に困るコメントである。
流石に生き死にがかかってる相手になんていえばいいのか分からなくて、私は口をもごもごさせた。こういう手合いが一番苦手だ、殴って燃やしてそれで済む話じゃないからなあ。
『ははは、すいません。老人の戯言と聞き流してくださいませ』
「ああ、いえ……。それで、今回は私に、何のお話が?」
『お願いが……あるのです。貴女は、ビッグママは、脳波動を用いて言葉を話せぬ存在とも意思疎通できると聞きました。ア・ラクチャ・ルゥとも円滑に意思疎通が出来たとも……それは真でしょうか?』
それは、まあ。
ある程度までなら、という制限がつくが、事実ではある。
昔の私は我が子達と本当の意味で意思疎通ができず、あの子達が何を思い、何を喋っていたのか理解できなかった。それでも、気持ちは、心は通じていた、そう疑ってはいないが。
だが今の私は違う。肉体をもってはいるものの本質は情報生命体に近い存在である今の私は、例え相手が脳波動を用いない生命体であっても、かなりの精度でその感情の動きを察知する事が出来る。勿論、あくまで相手に心があった場合にのみ、の話だが。
ましてやここにはフレンドの最上位個体であるアースも居る。難しい話ではない。
『でしたら……お願いがあります。我らが同胞……この寄生体に、心があるのか、我らの事をどう考えているのか、貴方に見て頂きたいのです』
「……成程。そういう事ですか」
『はい。我らディノゾーアは、一億年以上の間、彼らと共にありました。なのに、我らは結局、彼らの事を何も知らない。知る事のないまま、彼らはこの世界から消え去ろうとしている。……先日、一人の寄生体がこの世を去りました。残っているのは9人、それもあと何年持つかわかりません。あんまりではありませんか。ずっとずっと、助けられてきた、助けてくれた相手の事を、何もわからないまま、我々はのうのうと生き残ろうとしている……あんまりだ、あんまりにも恥知らずに過ぎる……! どうか……お願いします、ビッグママ。私は、私達は……彼らの事を知りたいのです。それが、手遅れであっても……どうか……!』
ごぽ、と水槽の中で気泡が浮かぶ。
長老の頼みを聞いて、私は小さく目を閉じた。
……わかるよ。
その気持ち、心の痛み、少しだけでも、私には分かる。
私も知りたかった。あの子達が本当は何を思い、何を願って死んでいったかを。
それはもう、時の彼方に消え去ってしまった事だけれど……。
「……アース、お願い」
『ピルルル』
のしのし、と私の背後に回り込んだアースが翼を広げる。最上位フレンドであるアースの知性受容センサーに私の意識を接続し、長老の寄生体に照準を合わせる。
だがそれだけでは駄目だ。もっと高次元、高精度で意識を溶け合わせる必要がある。
「炎よ」
私自身の顕現である青黒い炎で、空間を満たす。この炎の中では、物質も概念も等しく融け合い、その境界線をなくす。物理的には何一つ変化の無い炎の中で、私の意識と寄生体の存在が混ざり合い、融け合い、一つになっていく。
「答えて、ディノゾーアの友よ。私の呼び声が、聞こえるか……?」
広がるのは、光なき暗黒の終焉、その向こう側。ブラックホールよりも尚暗い、無限に積み重なる静寂の底。
その量子の井戸の最果てで、チカリ、と小さな光が瞬くのを、私は確かに見届けた。
《…………お初に、お目にかかる。この宇宙を抱く、深き慈愛の主よ……》
《……我らは……ヨーグ。……知性体、ヨーグである……》