TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
「ご帰還の準備が整いました。またお会いできる日を、我らディノゾーア一同、楽しみにしております」
惑星ガロアでの一連の御仕事を終え、私は宇宙船に戻るシャトルの中、ぼーっと窓を見つめていた。とはいっても大気圏離脱に伴い、窓にはシャッターが下りて何も見えやしないが……。
『ピルルゥ、ピル』
「ん。なんでもないよ、アース」
『ピリル?』
先ほどから、しきりに頭をすりよせてくる我が子の頭をよしよしと撫でる。ヨーグとの会話の様子はこの子には聞こえていなかったはずなのだが、まあ何か察したのだろう。心配そうにしているアースに、何も心配はいらないよ、と言い聞かせる。
「ちょっとアンニュイになっちゃっただけだよ。アースが気にするような事は何もないから。ね?」
『ピルル……?』
「もう。そんなに信用ないかな?」
ナチュラリストの一件では心配をかけたが、あれ以外でポカはしていない……はずだ。美鶴さん達にはくそ迷惑をかけっぱなしだが、優先順位は間違えていない。多分。
「そういうお前こそ、私に黙って何かしてないか? なんかさ、最近リソースの辻褄が合わないんだよ。どっかですんごいエネルギー消費してない?」
『ピリルル?』
「……おい。冗談だったんだがマジで何かあるのか? まて、ちょっとこっち向きなさい。アース」
渾身の「僕知らないよ?」とぶりっ子ポーズを取るアースに、逆に不安が一気に高まる。
なんだかんだでこの子も元中枢だ、フレンド関係のリソース優先権は私の次に高い。それを悪用してなんか変な事してないだろうな? いや変な事といっても、具体的にどんな事と言われてもちょっと思いつかないが……。
ああ、いや。まさかこっそりディスペア軍団再編成して宇宙人鏖ツアーとかやってないだろうな?? お前達敵味方の認証がちょっと怪しい所があるんだから、宇宙連合の人達とか、将来仲良くなれそうな人とか巻き込みかねないから硬く禁止したよね? おいこら、こっち見ろ。
本当にやってないなら、その「この曇りなき眼が信じられないの、ママ?」みたいな仕草やめなさい。お前、目がないでしょ。ほらちょっとこっち来なさい。
『ピッピリルゥ~』
「あ、ちょ」
さっきまでのかまちょ仕草はどこへやら、「そうだった、僕用事を思い出した~」と言わんばかりに席を離れて遠ざかるアース。それに対し、私はベルトをしっかり締めているのでその場に取り残される。
「……まあいいか」
このシャトルは事実上私の専用機で、他に乗客どころか座席もないのでアースが迷惑をかけることもないし。むしろ私がベルトを外すと多分モニタリングしてる機長あたりが「何かありましたか?」と気を揉むだろう。
なんだかんだで、アースは私にべったりで、視線が切れるような所にいく事もないし。疑惑については、まあまた今度、時間をかけて精査しよう。
いや消費エネルギー的にほぼ確定なんだが。流石に誤差で済む量ではない。
一体何が狙いなのやら。
とはいえ、私の意思を完全に無視している、という事もないはず。それにここまで黙っているというのは、まあ、ある意味ではアースの自意識がそれだけ自立してきた、という事でもある。私に言われたから、私が望んでいるから、ではなく、アース自身の考えで何かをしているのなら、それは親として喜ぶべき事ではある。
でもお前らほんとに敵味方識別あやふやなんだから無茶はやめろよマジで。ディスペア時代、システム的には味方識別のはずの侵略宇宙人に嬉々として襲い掛かってたのを知らないと思うな。
「全く……もうちょっと細かい事考えて欲しいんだが……」
頬杖をついて窓に視線を向けると、ちょうどシャッターが下りて遠ざかるガロアの惑星地表が見える所だった。地球とちがって赤みがかった星の姿をぼんやりと目に焼き付ける。
その向こうに、ディノゾーアと、ヨーグ達の姿を見る。
「…………」
私の判断は本当に正しかったのか。ヨーグ達の事を、やはり伝えるべきではなかったのか。
その迷いと後悔は今も胸にある。でもそれは、ずっと私が抱えていくべきものだ。
ヨーグ達は、ゴールにたどり着けなかった私達の、もしも。私がヨーグ達と同じ立場であれば、きっと同じことを願うだろう。
ううん。子に健やかであって欲しいと思う全ての親が、きっと同じことを願うだろう。
だから私が願う事は、唯一つ。
「ディノゾーア達に、祝福よあれ」
それだけでいいのだ。
それだけでないといけない。
私は遠ざかる赤い星から目を逸らし、シャトルの向かう宇宙船に目を向けた。
戻ったらまた、次の異種族との面談が待っている。人気者は大変だ。気持ちを切り替えて頑張らないと。
「ん……?」
そこでふと、私は宇宙船の隣に、見慣れぬ船が接舷しているのに気が付いた。
輸送船……? だが、船の物資は万全なはずだ。このタイミングで、補給物資を積み込む、なんてことがあるか?
「なんだ……?」
「美鶴さん、戻りました」
「ああ、はい。お帰りなさい、ビッグママ。報告は受けていますよ。今回もお疲れ様でした」
船に戻ると、まっさきに美鶴さんが出迎えてくれた。
彼女に先導されてターミナルから居住区に向かう。その間手持無沙汰なので、私は単純に思った事を聞いてみた。
「そういえば何か船が来てたけど」
「ああ、あれですか。実は、外縁艦隊が侵略宇宙人絡みの拾い物をしたそうで、それを調べて欲しいとこっちに送ってきたのですよね」
「……は?」
思わぬ言葉に、指先がちり、と炎を放つ。
はっとしてすぐに炎を消して、ポケットに手を突っ込んで誤魔化し笑いで美鶴さんを見上げる。
危ない危ない。
「な、なんでもないよ? えへへ……」
「いや、貴女の前で迂闊な事を話した私も悪いんですけど……何かありました? いつもそんなに沸点低くないですよね?」
訝し気に美鶴さんが私に探るような視線を向けてくる。
うっ、流石に鋭い。それと私がちょっとおもらし火するぐらいじゃもう動じたりしないかー、普段から迷惑をかけすぎたか……反省……。
『ピリルルル?』
「は、反省してるったら反省してるんだい。をほんっ、本当になんでもないよー。ディノゾーアの皆さんも、侵略宇宙人には迷惑したっていうから、その話を聞いたせいかな? えへへ……」
「……まあ、それもそうですか。ディノゾーアの皆さんの被害、なかなか大きかったですし……」
よかった、一応納得してくれたみたい。
よ、よし、さらに畳みかけて話を逸らしてしまおう!
「だ、だけど、その運び込まれたっていう物体、興味あるなー。安全のために、私も調べるのに立ち会ったほうがよくない? いざって時は焼き尽くせばいいし」
「そんな明日の朝ごはんの相談みたいに……いや貴女からすれば、その程度の問題なんでしょうけど……。まあ、確かに一理あります。侵略宇宙人絡みの案件は、警戒しすぎるぐらいでちょうどいいですしね」
許可を取ってみますね、と立ち止まって美鶴さんがどこかに連絡を始める。
はてさて。連中の落とし物かあ。何が入ってるんだろうね。
汚染物質とかのエンガチョじゃなければいいんだけど。
そんでもって、許可はすぐに通り、私は船の貨物スペースに案内された。
爆発物を想定して厳重な警戒の中、運び込まれた物体を確認する。
「なんじゃこりゃ?」
「なんでしょうねえ……」
そこにあったのは、真鍮色の円筒形。配管らしきものがいくつか露出していて、ハッチみたいなものとかがいくつもある。ぱっと見、宇宙船のエレベーターか何かに見えなくもないが、同時に何かの蒸留設備のように見えなくもない。
少なくとも人類のテクノロジーには該当するようなものは思いつかないな。見た目だけの話だけど。
そんな謎物質に、複数の防護服が取り付いて色々調べている。
私は足場を蹴って、無重力に漂っている物体に近づいてみた。
「あ、ビッグママ。お疲れ様です」
「おつかれー。それで、何か分かった?」
「多少は。どうも、何かの培養装置のようなのですが……逆にビッグママは見覚えありませんか? 地球で暴れてた時代、我々も知らない基地や設備を強襲しては消し飛ばしていたと聞いてますが」
えっ、あれそういう事になってるの?
消し飛ばしてなんか……あ、いや、結構吹っ飛んでたな。
シルルと一緒に計器弄ってたら動力炉自爆させたり、ルーディの電撃が燃料タンクを誘爆させたり、ガルドで地盤ごと地底に沈めたり……ああうん。否定できないな……。
『ピリルルル……』
「や、やめろ、そんな目で見るな、目なんてないけど……。うーん、ちょっと待ってなー……?」
記憶を手繰りながら物体と照合するが、うーん。ちょいと見覚えはないぞ。
大体連中の設備って無駄に配管とか多くてわけわからんが、これは割とすっきりしてる。工学的により洗練されてるというか。
ほんとに連中の落とし物なのか? 滅ぼされたどっかの文明の置き土産じゃない?
「その可能性もありますが、各所の注意書きとかが連中の文字なんですよね……ほら、ここに書いてあるでっかい記号。これは連中の言語で17って意味なんですよ」
「へえー……」
それは知らなんだ。私は連中の文化とか技術とか興味ないからねえ。見つけ次第燃やしてこの宇宙から消し去ってしまえ派である。
焚書と言われるかもしれないが、あんな邪悪なクソカスどもの情報残したってしょうがないじゃない? 存在自体が悪性情報だよ、あいつら。一刻も早くこの宇宙から存在ごと消し去らないと。
「班長ー! ちょっとこっち来てください―」
「おう、どうしたー?」
と、そこで進展があったようだ。腕を振る防護服の人に呼ばれて、二人して向かう。
何やら配管の隙間に潜り込んでいたその人は、端末を機械に繋いで調べていたようだ。
「どうやら制御基板みたいなのを見つけました。ただ、セキュリティが無茶苦茶厳しくて。こんな端末じゃ突破できません、船のメインシステムの処理能力を借りれませんか?」
「いや駄目だろ、ウィルスとか逆ハッキングを受ける恐れがある。オフラインじゃないと許可できない、端末の数をそろえてどうにかならないか?」
「悔しいですが、量子コンピューターの性能はアイツラの方が上です。いやこの場合、制御プログラムの完成度の問題なんですかね。数をそろえてもちょっと……」
ふむ。どうやら突破口を見つけたが、単純にスペック不足で突破できないらしい。
どうにかならないか、と口論している二人だが、ちょいちょい。ここに居るのが誰だか忘れてないかね?
「あのー……」
「ん、ビッグママ、どうなさいました?」
「機械の事なんで、ここはお任せください」
んむぅー。君達、忘れてない?
ここに人類の全計算リソースを足したよりも高い演算リソースを持っている存在がいるんだけど?
宇宙戦艦のメインシステムより早く暗算? できるんですけど?
「む。ここは私に任せて欲しいな」
「えっ?」
こちらの申し出に、防護服のスタッフ二人が顔を見合わせる。
再び振り返った彼らの顔に浮かんでいるのは苦笑いだった。
「あの……焼却処分するのはもうちょっと調べてからにしてくれませんかね……?」
「繊細な部品の可能性があるんで、溶かして穴を開けるのはちょっと……」
「流石に二隻目を沈められるのはちょっと……」
美鶴さんまで!
君達!!
私を何だと思っているのかね!?!
『ピッピリルゥ……』