TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い   作:SIS

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『真鍮色の浦島太郎』

 

 

 人払いをした格納庫の中で、真鍮色の物体と向かい合う。

 

 指をワキワキさせる私を、遠巻きにしたスタッフや美鶴さんが見守っている。アースは興味が無いようで、皆の横で寝っ転がってしっぽをぴくぴくさせていた。

 

「よーし、やるぞ」

 

 謎の装置の量子コンピューター部分に触れて、私は小さく念じた。

 

 ぼわわ、と青い炎が燃え上がり、私達を包み込む。

 

 この炎の内側は、いうなれば異次元だ。そこでは物質も空間も区別なく、時間の流れさえも一定ではない。その世界では電気信号も、生命の意思も、大きな違いはない。

 

 炎の中で、量子コンピューターと私の意識は同じレベルの存在として混ざり合う。そしてそうなれば、一つの宇宙を占める脳波動ネットワークを支配する私の方が処理能力において圧倒的に優位だ。対象の量子コンピューターの全てを制圧し、解析し、掌握する。

 

 ふふふ。私にその手の知識はないが、あらゆる方向からあらゆる可能性を総当たりして突破できぬセキュリティなど存在しない。現実世界でやったら何万時間かかるかわからんが、この世界では一瞬だ。

 

「これか」

 

 起動コードらしきものを確認。炎の中で、私はそっとそれに触れた。

 

『■■■■■■■』

 

「動いた!!」

 

 ぷしゅぅうう、と音を立てて稼働を開始する機械に、スタッフが声を上げる。

 

 私は炎を収めながら、機械から距離をとって行く末を見守った。

 

「すごい、ほんとにこんな事ができたんですね!」

 

「ふふん、当たり前だろう。私はマザーツリーの制御システムとして、地球を復興させて初期のフレンドの制御システムを構築したんだぞ? この程度の事はお茶の子さいさいだ。大体、普段の青い炎だって、演算にものを言わせた現実空間の書き換えだ。ただの炎と違って、あれはあくまで現実を侵食するだけだから、燃えたように見えるのは私が組成を書き換えた結果だからな」

 

「いやそんな事言われても現実の書き換えとか人類にはまだ早すぎるんで……ワープとかだって原理を完全解明した訳じゃなくて残されたデータから逆算してやってますし……やっぱ、人間にできる事は限界があるっすね……」

 

 渋い顔で呻くスタッフだが、それはしょうがないだろう。

 

 人間は英知を積み重ねてここまで来たが、その高さにもある種の限界がある。

 

 先人の積み上げた英知を学び、そこから新しい技術を……というのが理想だが、その積み上げてきた英知を学ぶだけで、人生のかなりの時間を使ってしまうわけだ。

 

 全ての人間が全てを学ぶ、何てことは出来はしない。だから、得意分野、興味のある分野に分業して、専門で学んでいくわけだが……残念ながら、あるハードルを越えるのに必要なのが、全く別の知識、という事も往々にしてあるものだ。

 

 だからある程度の段階を越えてから、人類の技術発展は急速に鈍化したのだが……なあに、それもまた知性のたどる道だ。

 

 人はきっといつか、その先に届くはず。

 

 これまではしょーもない理由で足をひっぱりあったり、その熱意を間違ったとこに使っていただけだ。

 

 宇宙連合を形成するにあたった人類は、きっとその宿痾を乗り越えて先に進むだろう。

 

「よしよし」

 

「……なんで急に撫でられてるんです、私?」

 

「ビッグママのナデナデです、末代まで自慢できますよ?」

 

 おっといけない。いい年のお兄さんを子ども扱いするのは流石にアウトだな。

 

「それで、これ結局なんなんです?」

 

「ああ……これはクローンプラントだな」

 

「クローンプラント? ……え、ちょま!? 急いで憲兵部隊に連絡を……!」

 

 慌てて連絡を取ろうとするスタッフを笑ってとめる。

 

 たぶん、センチネルかアイドールの兵士製造設備だと思ったのだろうが、流石にそれだったら迂闊に動かしたりしない。これはもっと別の物を生み出すものだ。

 

「落ち着け。敵が出てくるなら動かしたりなんかしない。少なくとも、ここから出てくるのは侵略宇宙人じゃない」

 

「え、そうなんすか?」

 

「ああ。プログラムを見る限りは、何らかの有益な生体ツール、という事になっていた。もしかするとフレンドの大本になったフレンドシップみたいな、エルダーの残した生体ユニットなのかもしれない」

 

 私の説明に、一同はちょっと落ち着いたようだ。

 

 そわそわしながら、ガコン、ブシューと動いているクローン製造装置を見上げている。

 

 しかしなんかやたらとレトロな動きをするユニットだな。歯車がぐるぐるまわったり、シリンダーが上下したり、蒸気を噴出するのがクローン製造に必要なのか?

 

 なんか製作者の趣味が入ってる気がする。エルダーってのは技術力だけじゃなくてお茶目にも理解があったんだな。

 

 一度、話をしてみたかった。さぞ愉快な連中だったのだろう。少なくとも量子コンピューターのその先までいった連中が歯車はねえだろ。

 

「となると、もしかして神獣兵……じゃなかった、フレンドが人類の味方になった事で、それに関係した設備を放棄したのですかね、リスク管理で」

 

「そのあたりは記録が全部消されてたからわからなかったが、アイツらがそんな理性的なリスクマネジメントできるか? もっと頭悪い理由の気がするぞ」

 

「ふーむ……じゃあ、今うごかしてるのは、もしかしてクローン本人に話を聞こう、という事です? 一言いってほしかったですが、まあ結論は一緒ですか」

 

 あ、そうそう。美鶴さん、私が言いたかったのはそれそれ。

 

 機械にくっついてるデータベースの中身は空になってたが、どうも促成クローンとして基本的な知識は本能レベルで刻まれてるはずだからな。

 

 よくわからんなら直接本人に聞くに限る。

 

「おっ、出てくるぞ」

 

「わくわく」

 

「どんなのが出てくるんでしょうね」

 

 チーン、という音と共に機械の動作が停止する。ぷしゅうーーーと冷却らしき動作の後に、正面についてる扉が開く。

 

 中からは、もうもう、と白い煙が噴き出してきて、その中には黒いシルエットが浮かび上がっている。

 

 ぬ、と伸びてきた“三本の腕”が入口に手をかけると、その巨体をぬっと外へと運び出した。

 

「な」

 

「え」

 

「あ」

 

 驚愕する私達を前に、裸で姿を現したそれは、一礼すると私達に名乗りを上げた。

 

「……お初にお目にかかる。私は、“アシミレイター”形式番号X24Rs2A……要請に応じ、ただいま製造された」

 

 煙の中から現れたのは、人体模型のように筋肉をむき出しにした肉体に、ラッピングのように透明な皮膜を覆いかぶせた人造人間。三本の腕を持ち、四つの目をもった彼は、人格が透けて見える真面目そうな顔で堅苦しい名乗りを上げた。その背中からは、第三の腕が伸び、両腕と併せて三角形のラインを構築している。

 

 知っている。

 

 かつてみた時は、鎧をまとっていたが、私はこいつをしっている。

 

「ふ……ふぉーすえいりあん!?」

 

 無言で美鶴さんが緊急スイッチを叩き潰し、真っ赤な警報が艦内に鳴り響く。たちまちにぎやかになる格納庫の中で、アースだけが一匹、退屈そうにあくびをしたまま寝っ転がっていた。

 

『ぴりりぅ』

 

 

 

 

 

 すったもんだの大騒ぎになった格納庫だが、騒ぎはすぐに鎮静化した。

 

 理由は、騒ぎの原因となった侵略宇宙人が、ビックリするぐらいおとなしかったからである。

 

 いや、ほぼ完全に無抵抗、なされるがままといってもいい。

 

 今現在は一応、手錠をした上で捕虜収容施設に放り込んでいるが、果たしてそれも必要な処置だったのか怪しい所である。

 

「まさかフォースエイリアンが出てくるなんてね……」

 

「びっくりしました。何が問題ないですか」

 

「ごめんて」

 

 美鶴さんに両手を合わせて頭を下げる。いやでも、私もあれが出てくるなんて知らなかったんだって。

 

「だって調べた限りでは、アイツラだとは思わなかったし。だってほら、言ったろ? 生体ツールだって。てっきり、大昔の火星人みたいなのが出てくると思ってたんだよ……」

 

「うーん……侵略宇宙人はもともとは“後継者”に制圧された惑星の住人という話でしたが……今はああやってクローン製造してる、という事でしょうか?」

 

「それに近い話はあったが、どうもなんか雰囲気が違わないか? びっくりするぐらい無抵抗だったようだが……」

 

 艦長も交えて頭をひねる。

 

 どうにも何かを勘違いしている、何かを間違えたような気がしてならない。

 

 なんだ?

 

 何を我々ははき違えてる?

 

「……とりあえず、話をしてみるのはどうだろうか。少なくとも捕縛される際におとなしかったし、会話はできそうだ。もともとそのつもりだったし……」

 

「む……それは、そうだな。お願いしてもよろしいか、ビッグママ?」

 

「もち。あれを製造したのは私だからな」

 

 まあそれに、アースがさっきからずっと全く何の興味も持っていないし、それはつまり敵ではないという事だ。

 

 もしあれが本当に人類およびに宇宙連合に敵意を持つ存在だったら、私が止めてもアースが殲滅している。

 

「ふぅ……しかし、フォースエイリアンか。実感はないが、話すのは200年ぶりか」

 

 最後に会話したときの事を思い出す。

 

 あの時も侵略宇宙人らしくない、話の通じる連中だと思ったが……。

 

 はてさて、どうなる事やら。

 

「ほんじゃ、話してくる。監視頼むよ」

 

「了解しました」

 

 一応、護衛に伴われて独房に向かう。

 

 私の左右を固めているのは、完全装備の人類兵士だ。かつてと違い、SFパワードスーツみたいなので身を固め、戦車砲みたいな口径のライフルを携えている。話によれば、これなら100人もいれば宇宙人の前線基地を落とせるらしいが、逆にいうとこれでも100人もいるのだ。なかなか、根本的な技術力の差は埋めがたいらしい。

 

 それでも、大規模なバックアップなどが必要だった当時よりは大幅に戦力が強化されているという事なのだが……。

 

 ま、宇宙人一人には過剰なぐらいの戦力なのは間違いないだろう。

 

「じゃ、話してくるからアースは外で待っててね」

 

「アース様はこちらに。のぞき窓から内部を確認できます」

 

『ピリルルル』

 

 兵士に案内されておとなしくついていくアース。あの様子を見るに、まじで危険性はないんだろうな。

 

 じっとこちらを見つめる瞳の無い視線を感じながら、私はのそのそと独房に入ると、彼と目を合わせた。

 

「やっほ。話しに来たよ」

 

「……お待ちしておりました。どうやら、何か手違いがあったと見えます」

 

 私が声をかけると、部屋の奥でベッドに腰掛けていたエイリアンがすっくと身を起こす。

 

 人類の配慮か、今の彼は頭貫衣のような簡易的な衣服を身にまとい、顔にマスクのようなものを取り付けられていた。見方を変えると13日のホラー映画の殺人鬼の姿に見えなくもないが、まあ内臓や筋肉丸見えスケスケマッチョマンよりは親しみが持てる。

 

 兵士が直立不動で立ち尽くす横で、私はちょこんと椅子に腰かける。長い話になるかもしれないな。

 

「では、まずは自己紹介から。私は、葛葉零士。人によってはビッグママ、とか、ノワールクイーンとか呼ばれる事もあるね」

 

「ご紹介に与り感謝する。私は、アシミレイター。エルダーが作り出した異文明折衝用の生体交渉ユニットです」

 

 アシミレイター……アシミレーションをするもの、という事か。確か、相互理解を促進するための組織づくりを、アシミレーションというのだったな。

 

 つまりこいつらは、やはりフレンドの元となったフレンドシップと同じ、エルダーが残した融和用のツール。フレンドが互いの先入観や隔意を穏やかに緩めるのなら、こっちはもっと直接的に文化の融和を促進するという訳か。うちの子達も、もふもふきゅいきゅい可愛らしいけど、文化をどうこうというのは苦手だからなあ。

 

 だとしたらわからない。

 

 それがなんで、武器を持って宇宙人の先兵に?

 

「色々と聞きたい事はあるんだけど……なんかやたら日本語堪能だね。どこで学んだの?」

 

「む。これは日本語、というのですか。いえ、どうやら最後に制御システムが接触した高次元知性体の意識ベースを模写したのですが……もしかして貴方が?」

 

「……あ、ああー。そういう事か……多分そう」

 

 あちゃー、これは想定外。

 

 深淵を覗き込む時はまた深淵ものぞき返しているのだ、という奴か。敵意とか隔意とか攻撃がなかったから気にしてなかったけど、あの炎で融合して制御システムを解体したという事は、あっちからも私の方をある程度覗き放題だったという事だもんな。というか、日本語ベースで思考したログがあっちの記録領域にもがっつり残ってるだろうし、そこから逆算したのか。いや、だってまさか、ただのプログラムがこっちを逆解析してくるとか思いもしなかったんだよ。

 

 すごいなエルダーのシステム。想定していたよりも数段レベルが高いぞ。ほぼ間違いなく、最低限でも私と同じ領域で思考ができていたという事になる。

 

 マジで上位存在の上澄みだったんだな……あと数億年ぐらいこの宇宙に残っててほしかったなあ。

 

 しかし、なんだ。

 

 さっきからその……こいつ、なんか妙じゃない?

 

「それで、その。申し訳ない、一つ質問したいのだが……」

 

「ん? 何々、気兼ねなく聞いて」

 

「それでは遠慮なく……それで、だな」

 

 

 

 

 

「フォースエイリアンとは、何の事だ?」

 

 

 

 

 

 記憶喪失って、クローンにも適用されんのね。初めて知ったわ。

 

 

 

 

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