TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い 作:SIS
それは、かなり古い記録映像だった。
色褪せ、ノイズ混じりのそれは極めて不鮮明ではあったが、それでも辛うじて何が写されているかは判別できる。
宇宙人戦争開戦当初の映像記録。人類軍が保管していたそれを、代々記録媒体を差し替えながら統合政府が維持していたものだ。
『くっそ、なんだこいつは!?』
『弾が効かない! 火力支援を……ぐわあ!?』
『ジャック! くそぉ!!』
激しく揺れる映像の中では、今現代からすればレトロあるいはクラシック、原始的と言ってもいいような軍服とヘルメット姿の兵士達が、極めて初歩的な火薬式アサルトライフルで何者かと交戦している。ひっくり返った戦闘車輛をバリケードにして抵抗を続ける兵士達。
その一人が、遮蔽物ごと赤い閃光に撃ち抜かれる。常軌を逸した熱量によってその体は一瞬で灰になり、遮蔽物はぐずぐずに融けて崩れる。その向こうに、彼らが交戦していた敵の姿がちらり、と見えた。
地味な色合いの焦げ茶色の、重装甲のパワードスーツ。三本の腕のうち二本でレーザーライフルを保持する彼らは、幅広の高威力な光線で抵抗する人類の兵士を屠り去っていく。
画面の中で、その銃口が撮影者にも向けられる。直後、画面は閃光に満たされ、そして暗転した。
映像はそこまで。
再生を止めた、真っ黒な画面。それを、“彼”……再生されたアシミレーターの一人は、与えられた独房でじっと見つめていた。
ずっと。
「まさか、彼らが神獣兵と似たような存在だったとは……」
「全く吃驚だね」
宇宙船の展望室。
超VIPだけが滞在を許される、全面が天然のプラネタリウムのその部屋で、私は楽しく美鶴さん達とお茶を楽しんでいた。
とぽとぽ……とティーポッドから琥珀色の液体がカップに注がれると、ふわあ、とさっぱりとしながらも香しい香りが部屋いっぱいに広がる。このキレのある香りはダージリンに似ているけど、どうだろう。地球の紅茶の名産地なんて根こそぎ平らになっちゃったから、別の星かな?
「ふふ、仰る通りです。これは植民惑星で再生された茶葉ですね。幸い、茶の類は戦後、放棄されていた家屋などから現物が回収できたので、DNA解析で近い物は再生できたのです。もっとも、環境等が変化してしまったので味は違うようですが……私達は本物のダージリンを知りませんからね」
「そのあたり、どうかな、ビッグママ。貴方は当時の味を知っているんだろう?」
「んな事いわれても、一般市民が本物なんか飲んだ事ねーし。だいたいティーバッグだよ。あ、アース、熱いから気を付けてね」
大きなカップでぐびぐび飲み干すアースは正直、味が分かっているようには見えないけど。いやでも案外、繊細な味覚をお持ち、という可能性もある。この子割とおこちゃまメニューが好きで味覚が子供っぽいところがあるからなあ。それはつまり味蕾が若いという事でもあるはず。
まあ、どう味わうかは人それぞれよね。
とりあえず私は現状、美味しい事しかわからん!
くどくない渋みを堪能しつつ、付け合わせのお茶菓子に手を伸ばす。今日は銀シャリ麦を使ったフィナンシェかな。銀シャリ麦の御菓子はさりげなくギンギラギンに輝いているので一目で分かる。
「ううーん、サクサク。それでいてしっとり~」
「なんだかんだで銀シャリ麦を原材料にした御菓子や料理、あちこちで流行っているみたいですよ。レシピを考えるトオルさんは大変なようですが」
「ああ、それで最近顔を見ないのか……」
最後に見たのはいつだったっけ。なんかちょっとやつれてたのが気になっていたが、そんな事になってたのか。それでいて隣にいたカフェオレちゃんはいつになくムチムチになっていたが……あれは試食しまくってるんだろうなあ……。
フレンドでも食べ過ぎたら肥満になったりするんだろうか。ちょっと心配。
それはそうとほんと美味しいなこのフィナンシェ。バターでしっとりしながらもこの軽い食感がたまらない。いくらでも食べられそうだ。
「ちなみにこのフィナンシェも、企業からの献品ですよ。是非貴方にって」
「おぉー……なるほど。美味しかったと伝えないとな」
「……できれば、纏めてお願いしますよ。一個ずつやったらキリがないし、何か変な付加価値がつくと困るので」
え、そう?
まあ別にいいけど……。御菓子の一つや二つで大げさだなあ(後日私は数百トンを越える“献品”の山に真面目に糖尿病に恐怖する事になるのだがそれはまた別の話である)。
『ピリルッ! ピリルッ!』
「ん? ああ、はいはい。あーんして」
『ピリリ~(むっしゃむっしゃ)』
美味しい? そう、よかった。送ってくれた人にはお礼を言わないとねえ~。
「意外とフレンドに好評らしいですよ、銀シャリ麦の御菓子。まあ彼らは人間に合わせて食べなかっただけで、もともと銀シャリ麦大好きだったらしいですからね」
「ふふふふ、そうだろうそうだろう。そうと決まったら、また新しいバリエーションを考えなくてはな……」
「まだあきらめてなかったんですかい……」
なんだい艦長、その反応。別にいいでしょ、ライフワークみたいなもんなんだから。いやあ、実はちょっとこう、良い感じに閃いたのがあってねえ。実現できないか今、色んな資料を読んで計算中なんだ。かつての料理の再現となると、トオル君が見つけてきてくれた資料が超役に立つんだよ。あれがないとどうなってたことやら、ふふふ。*1
フィナンシェをたらふく食べて、あまーいおくちを紅茶でさっぱり。
美味しいお茶会を堪能した所で、話は最初に戻る。
「それはともかく。道理でフォースエイリアンが他の連中と毛色が違う訳だよ。だってアイツら、話が通じたもんねえ」
「正直言うと、その話も半信半疑だったんですけどね。いくら記録にあるとはいえ……」
カップ片手に苦笑する美鶴さん。いやまあ、あの三馬鹿侵略宇宙人とやりあってるとそう思うよね。あ、でも、フォースエイリアンって侵略の初期状態では割と口挟んでくるんじゃないっけ?
「それなんですが、実の所、フォースエイリアンとの遭遇率は高くないんです。艦隊戦だと同型艦を使ってるので区別がつきませんし、いやまあ、動きがよい船だと思ったらフォースが操艦していた、という話はあるようですが」
「今の所、宇宙連合が侵略初期段階で介入できたケースは残念ながらレアでしてね。ア・ラクチャ・ルゥが一番早く介入できたのですが、この時ぐらいでしょうか。このケースにおいてはフォースエイリアンは殿を務め、侵略宇宙人の本隊を脱出させた後、我々の軍に対し徹底抗戦、一人残らず玉砕したようです。その際も、こちらと会話を試みる様子はなかったと聞いています」
なるほど。大体の場合はフォースエイリアンの介入が終わった後に交戦になり、連中は自分達のルールを守って救出や救援にも赴かず、そのまま黙って去る感じなのか。
……事情を知らないと薄情に見える行動だが……今となってはその行動の裏にありありと不満と不本意さを感じるな……。
地球のケースは明らかなイレギュラーだったが、だからこそ彼らがそのルールを逸脱した動きを取れた、という事なのかもしれない。詳しい事は当の本人達に聞いていないと分からない以上、永遠の謎だが。
「彼の話だと、アシミレイターは起動した存在に対し絶対服従なんでしたっけ」
「うむ。故に、今現在はビッグママに対し絶対服従……と。どこまで信じられたものか分からないが、そう考えるといくばくかの辻褄は合う」
私達が発見したクローンプラント。そこから誕生したアシミレイターは、しかし自分がフォースエイリアンである事への自覚がなかった。ただ、何も知らないとかではなく、自分がアシミレイターという存在であり、エルダーによってこの宇宙に齎された置き土産であり、古くは後継者と他の知性体の間に立ち融和を促す存在であったなど、彼ら自身の起源についてはいくらでも語ってくれた。
それが示す真実は一つ。
侵略宇宙人どもの神とやら。奴がエルダーから引き継いだ権限をもってアシミレイターを起動し、彼らが絶対服従である事を利用して己の戦力として用いていた、という事だ。
もっとも、その指摘に関して一番頑なに否定したのは、当のアシミレイター本人ではあるが。
「……ちょっとかわいそうでしたね」
「うむ。被創造物が己の製造理由……アイデンティティに反する行いを強いられる。我々には想像しがたいが、恐ろしい事である事には違いあるまい」
「そうだね……」
その推察を、アシミレイターに告げた時の彼の動揺……とても演技とは思い難い。
理屈ではありうる、と納得しながらも、彼は震える声でそれを感情的に否定した。仮面の向こうの目を酷く泳がせて、「理論上は……ですが、そんな……いや……」と取り乱す様子は、傍から見ても痛々しかった。
本人の強い要請で、残っている当時の記録映像を見せているが、果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。
「しかし、私の覚えにあるアシミレイターはもうちょっと強かだったが。あんな風に露骨に動揺するような脆さは見えなかったぞ」
「稼働時間の問題かも。第17近衛軍、でしたか。軍というくらいですから、普段からある程度の数で纏まって動いていたでしょうし、生産からそれなりの時間が経過しているなら、どれだけ不本意でも割り切れてしまうものなのかもしれません。道具は、己の使い方に文句を言えませんから」
「……彼の知性テストの結果は?」
納得しないものを感じながら問いかけると、美鶴さんは首を小さく横に振った。
「残念ながら。ビッグママの解答データを用いてアップデートされた知性テストでも、現状彼は知性体とはみなされません。あくまで、そのように振舞う事が出来る、有機ロボットにすぎない……それが宇宙連合本部の解答です」
「そうか……」
知性テストの結果が絶対ではないが、しかし私はなんとなくそうなるだろうな、と思っていた。
命は、知性は、自ら道を見つける事が出来る。
だけどそれが出来ない存在は、どれだけ不本意であっても、ただ言われた事に従うしかない。道を見失えば……ただ、そこに佇むだけなのだ。
永遠に。
「ちょっと心配になってきた。彼と話をしても大丈夫だろうか?」
「ええ、勿論。どうぞ、お望みのままに」
「おいっすー。取り調べの時間だぞぅ」
『ピッピルピー』
お盆を手に独房をアースと二人訪れる。突然の来訪者にもアシミレイターは嫌な顔一つせず、ベッドからすぐに立ち上がって私を出迎えてくれた。
「これは、葛葉様。よくぞいらっしゃいました」
「よう。アポなしで悪いな。何か不便してないか? 困った事があればなんでもいいなさい、多少は無理が通る立場だからな、私」
『ピリルルル!』
僕も手伝うよ! と翼を広げてアピールするアース。なんだかお前、アシミレイターには好感度高いな。同郷だからシンパシー感じるとか?
しかし、私達二人の気軽なスキンシップに、しかしアシミレイターはちょっと元気が無さそうに首を振った。
「いえ、皆さん、私によくしてくれています。そう、本当に……不可解なほどに……」
「?」
「……申し訳ありません、葛葉様。一つ、尋ねさせてください」
「どうして。どうして、貴方は私を破壊しないのですか。どうして……廃棄処分になさらないのです?」
それは、本当の意味での感情を持たないアシミレイターからすれば、血を吐くような懇願だったに違いない。
「んむ」
私はちらり、と壁に備わったモニターに目を向ける。今は何も映されていないモニターだが、彼が何を見ていたかは想像に難くない。
さて、どうしたものか。
納得させるのは大変そうだが……何、私だって頑固者の相手は慣れている。
こういう時は時間をかけてゆっくりと、だ。
「まあ待て。その話をする前に、食事をしよう。ほれ」
「……? これは……なんです?」
私が差し出したお盆を受け取り、首を傾げるアシミレイター。そんな彼に、私はふふん、と達成感に胸を張った。
「カツ丼だ! 取り調べときたらこれに限る! あ、んでもってこれ、私の手作りだからな。有難く食えよ」
自信を込めて言い放つと、遠くでなんだかガタガタッと凄い音が聞こえてきた。*2なんだ? どっかでフレンドがずっこけたか?
『ピリルル?』
「ああ、もちろん、お前のもあるぞ。決まってるじゃないか」
『ピゥー!』
アースの分の丼も差し出す。なんだかやたらと満足気だったのがちょっと気になるけど、まあいいか。
「よし、まずは食べよう。話はそれからだ」